第42話 心の叫び
ザバーン! ザバーン! 砂浜に波が押し寄せる音が響く
「ぅ・・・う・・・ん・・・」リエナは目を覚ます
「我は・・・確か・・・」
手を見るとゼオンの左手を握っていた
「そうだ! ゼオン!」
背中を見ると氷柱は無くなっていた恐らく海の中で溶けたらしい
だが、血を流して酷い状態だった
もう片方の手を握っていた少年も目を覚ます
「う・・・ん・・・ゼオン・・・さん・・・」
「はっ! ゼオンさん!」
「お前はゴーレムで助けようしてくれた者だな 感謝するお前の行動が我を突き動かしたのだ」
リエナは礼を言う
「いいえ それよりもどこか手当て出来るところを!」
「そうだな とりあえず ゼオンを運ぼう」
リエナはゼオンの腕を肩に回し ユウマは腰を支えるようにする
砂浜を抜けると一軒の小屋を見つける
中には誰もいない ちょうどいいので使わせてもらおう
ゼオンを横に寝かせる 顔を見るが意識を失っている状態だった
2人は予備の回復薬を持っていて それぞれ飲ませるが重症のためすぐには目を覚まさなかった
追っ手が来ていないか周りを見てくると言ってリエナは小屋から出る
「ゼオンさん・・・」
背中の傷口から血は流れていなかった 回復薬が効いたのかもしれない
リエナの下に向かう途中の会話を思い出す
ゼオン「聖騎士団の連中はなにかおかしい!
それを率いている団長が知らない訳がない!
急ぐぞ!なんかいやな予感がする!」
その予感は的中したヴァイスハルトは皇帝を殺そうとしていた
ゼオンさんが駆けつけ 庇った
落ちるゼオンさんを助けようとしたが、ゴーレムは斬られたあのまま乗っていたら殺されていた
とっさにゼオンさんの方に逃げる感覚で飛び降りた
ゼオンを助けたくて飛び出した訳ではなく 生きたいという想いで飛び出したことを理解し
「僕は最低だ・・・ゼオンさんを理由にして・・・」
涙を流し ゼオンに謝り続けた
一方 リエナは追っ手が来ていないことを確認し終えるとヴァイスハルトの言葉を思い出していた
「好きな男の正体も知らぬ 皇帝には退場してもらおう」
その言葉だけでなんとなく理解してしまう・・・
嘘だ! そんなはずがない! 拳をぎゅっと握りしめる
さらにリエナは皇帝であるにも関わらず、家臣の裏切りに罠に気づかず、好きな殿方に守られ、その殿方の正体が自分の討つべき魔族かもしれない真実から心が砕けそうになる
3日後 それは確信に変わってしまう
傷口の治りが早いことに 人間なら致命傷な傷が3日で治りつつある 普通ではない回復速度を見て ゼオンは人間族ではないと分かってしまう
ゼオンは帝国の敵 『魔族』であるということが・・・
4日目 ゼオンはゆっくりと目を覚ます
「くっ・・・い、痛ぇ!」背中の傷の痛みと左脇腹の火傷の痛みはまだあった
「ああ 良かった 生きてて良かったです」ユウマは安心した様子で見ている
俺は確か リエナを庇って 氷柱で刺されたんだった
少しずつ思い出す
「ユウマここは?・・・それにリエナは?」
質問をすると
「起きたか」とリエナが小屋の玄関に立っていた
すごく真剣な表情で「話がある ユウマはここで待っていてくれ」
リエナのあとを追うと 流され着いた砂浜の場所にリエナは立っていた
振り向きゼオンを見つめると 剣を抜き 構える
「ずっと・・・騙していたんだな・・・嘘をついていたんだな」
リエナの言葉にすぐに理解する
「我は・・・我は・・・エイルラント帝国 皇帝だ・・・ 魔族撃滅を掲げる我らは・・・苦しめられてきた魔族を討つために・・・訓練してきたのだ」震えた声を出す
「うん」ゼオンは一言だけ言う
「我は・・・我は・・・今 ここでお前を討たねばならない 皇帝として・・・」
「そうだよな」ゼオンは納得していた
「くっ・・・ぅ・・・うう・・・・」
リエナは真剣な表情から涙を浮かべ表情が崩れていった
「なんで殺さればいけないんだ!!・・・お前を!
なんで好きな男を討たねばならないんだ!!」
それはリエナ本心の叫びだった
「なんで・・・我の前に現れたんだ・・・お前がいなければこんな想いはしなくて済んだんだ!!
こんな胸が引き裂かれそうな気持ちにさせるんだ!!
全部・・・全部お前のせいだ! お前の・・・」
泣きながら叫ぶ
初めて会った頃を思い出す
組み手をして勝手に自分の理想の男にしようと始まった稽古の日々
皆を集め 模擬戦用の剣を使ったのに初めて敗けた日
舞踏会で息ピッタリの踊りをした夜
デミナスの隊長と奪い合いをした日
全部がゼオンとの思い出 好きだからこそ蘇る記憶
「う・・・うう・・・」涙があふれてこぼれ落ちる
「我は・・・どうしたら・・・いいか・・・わからない」
「皇帝として・・・討たねばならない
けど 好きなんだ・・・お前が・・・ゼオンが・・・好きなんだ我は・・・」泣きながら告白をするリエナ
ゆっくりとゼオンに近づくリエナ
剣を地面に置き ゼオンを抱きしめる
「我は・・・どうすればいい?」
ゼオンは手をリエナの背中に回して抱きしめる
「ありがとう こんな俺を好きだと言ってくれて
とっても嬉しいよ・・・
でも 騙していたのは 嘘をついていたのは本当だよ
人間族と偽っていたのも事実だよ・・・
だから処罰はいくらでも受けるよ」
優しく話しかける
リエナの肩に手を乗せて少し離れ 顔と顔を向き合う
「けれど、その前に俺はやらなきゃいけないことがある
それが終わってから罰を受けるよ」
リエナも泣き止み ゼオンの言いたいことを理解する
「そうだったな 帝都に戻る必要があるな!
我を暗殺しようとしたのだ 何か起こすに違いない!」
いつものリエナに戻る
「えへへへ」
「んふふふ」
お互いに笑顔になる
ゼオンは離れようとするがぎゅっとリエナが抱きしめる
「あの~そろそろ」ゼオンは聞いてみるが
「駄目だ!もっと抱きしめていろ! 皇帝命令だ!」
「分かりました では」
ぎゅっとゼオンも抱きしめる
心の中でリエナは「お前の罰は一生 我と添い遂げることだ」と叫ぶ
2人が抱きしめ合っているを小屋の窓から見つめるユウマ
小さいメモ帳でカキカキと何か書く
それはいずれ自分が書く勇者冒険譚 最新版にこのエピソードを載せるためだった・・・




