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「まあ、長々と語ってしまったが、要は儂が外に出るために手を貸せということじゃ」


 ということらしかった。まあ、その土地の守り神とも呼ぶべき存在が好き勝手することは許されないということなのだろう。その点、自分の信者を助けるという名目があれば外に出られることもできるという訳だ。


「しかし、僕が賽銭箱に全財産を投げ入れる必要はなかったのでは?おかげで僕は貧乏無職になってしまったじゃないですか。言っておきますが、僕は放浪の旅をこれ以上続けるつもりはありませんからね」


「まあまあ、そうカッカするな。何の見返りもなしに神様の力をお主も借りられるとは思っとらんじゃろ?人生を変えるにはちと安いが、要は形が重要なのじゃ。神様に頼みごとをして見返りも用意するというその姿勢がな」


「安いと簡単に切り捨ててくれますけどね。あのお金は僕の八年間の全てなんですよ?そりゃあ僕だってお金なんてあやふやなものを人生の全てとは言いたくないですけれど、しかし僕は追放された身ですし、お金以外に僕の八年間を証明してくれる存在はないも同然なんですから」


「ううむ。そう言われると申し訳ない気になるな。しかしまあ、それも時間が忘れてくれるじゃろう。たいていの問題は時間が解決してくれるものじゃ」


「それは、説得感がありますね。年の功には敵いません」


「そうじゃろ?だからお主は儂と共に新たな人生を歩めばよいのだ。そして新たな友人を見つければよい。お主の言葉を借りるならお主の存在を証明してくれる存在を見つければ良い。本来ならばその役目は儂が担うべきなんじゃろうが、何せ実態がないものでな。それに儂の声はお主以外には聞こえん」


「それは何とも世知辛い話ですね」


「そうじゃ、世知辛い話なのじゃ。という訳でお主よ、これからどうする。放浪の旅を続けたくはないとは言ったが、さて、今現在お主は金なし職なしじゃ。住所はあるがの」


「何が言いたいんです?」


「お主はこれからどうするつもりかと聞いておるのじゃ。まさかこの地に骨をうずめる気はなかろうの?儂のこれまでの頑張りを無下にするつもりはなかろうの?」


「それよりまずは、僕を助けてくれるんですよね?見返りと言いましたけど、神様こそ僕のような敬虔な信者に見返りを用意するべきじゃないんでしょうか?」


「ううむ。それももっともの事じゃ。ではしばし目を閉じておけ」


「こうですか?」


「うむ。それで結構じゃ」


 そう聞こえるや否や、僕の体が何物かに触れられるような感触を僕は感じだ。詳しく言えば頭の中をくすぐられるような不思議な感覚だ。何かがいじくられるというよりかは、何か新しいものをつけたされているような、バージョンアップされているような感触を僕は感じた。


「バージョンアップとは面白い言葉を知っておるの。しかしまあそれは的を射ている。どれ、早速未来とやらを見てみぃ」


 どうやら、バージョンアップはものの数秒で終わったようだ。

 僕は、その声を聴いて未来視の能力、いや未来の計算を始める。


「!?」


「どうじゃ、面白いじゃろう?」


 ――確かに面白い。

 僕はこれまで未来視の時に感じた、倦怠感と言うか脳の疲労というやつを全く感じなかった。徹夜明け、丸一日爆睡した後のような、全知全能感を僕は感じた。


「これは、どういう?」


「まあ、そうじゃな。お主にも分かるように説明すると、この世の摂理というやつをお主の脳内に刻んでやったのじゃ。お主がこれまで独学で、感覚的に捉えていたこの世の摂理を、正確には変数を与えてやったのじゃ。つまり、今お主がした未来視は儂の手によって最適化された故の結果という訳じゃ」


「……あまり言っていることは分かりませんが、しかしなるほど。最適化されたというのは存分に感じますね。今まで全財産をなげうったことを後悔していましたが、しかしこれではいささか安すぎる買い物という気もしますがね」


「まあ、儂にとってはそこまで釣り合いが取れておらん訳でもないからの。別に構わん」


「そう言うもんですかね。……まあ、そういうもんなんでしょうけど。神様なんですから」


「ああ、そういうもんじゃ。それとお主の中に儂の存在領域を少し作ったからよろしく頼むぞ?最適化された分を越えてはおらんから大丈夫じゃとは思うが」


「はあ、また何とも超常的な話をしますね」


「まあ、存在が存在じゃしな。超常的そのものじゃし」


「それもそうですね」


 それを加味してもお釣りが来るぐらいである。さっきは人一人が命を投げうって得るほどの大金ではないという表現をしたけれども、しかし人一人が一生を暮らせる程度の金額を僕は持っていた。

 まあ、王宮勤めを五年間したわけだから、国家の最前線で働いていたわけだから当たり前っちゃ当たり前の話ではあるけれど、しかしそれでも安い買い物だった。


 八年間を犠牲に向こう一生が変わるほどの幸運を掴めたのだから、何も言うことはない。


「儂に言わせれれば、それも必然なんじゃがの。それよりお主の口から幸運という言葉が出てきたのが驚きなぐらいじゃ」


 どちらにしても、無理もないことだろう。全てを予測する力を持つものからしたら偶然はあり得ないし、しかし自分の未来を予測することが出来ない僕からしては幸運そのものである。


「しかし、僕はまだ自分の未来を計算は出来ないんですけど、これはミスですか?」


「いいや、ミスではない」


「では?」


「単にそれだと面白くはないからじゃ。お主もそうじゃないのか?自分の未来が分かるほど興醒めなこともないじゃろう?自分の未来を知ってそれを変えるために奮闘するのは、テンプレではあるが、しかしお主の能力はその全てを計算の内に入れておるからの。世界線は無数に分かれているとは言うが、しかしお主からしたら世界線は一つしかない訳じゃしな」


「有難い、神様からの思し召しという訳ですか。まあその気遣いは素直にありがたくはありますけどね。僕だって自分の晩年の姿を見たいとは思いませんから」


 この世の摂理を他人よりも知っていると豪語した僕ではあるけれど、しかし自分の未来を見たいと思うほど、僕はこの世界に退屈してはいない。

 仮に、僕がそんな人間ならこの八年間は存在しないだろう。この閉ざされた空間の中で大人しく八年間を過ごしただろう。


「……まあ、本当はそうじゃないんじゃがな……」


「何か、言いましたか?」


「いいや、何も。単なる独り言じゃ」


「なら、いいんですけど。なんか重大な一言を言ったような気がして……」


「それは杞憂というやつじゃな。そんなどうでもよいことより、お主はこれからのことを考えるべきじゃ。未来は視えないんじゃから大人しく、普通の人間らしくもがくんじゃな。因みに儂は助言はせんからそのつもりで。この里に留まるというなら猛烈に反対はするがの」


「それは、天地がひっくり返ってもありませんから安心してください」


「それは結構」


 ――さて。とは言うものの僕の将来には何のビジョンもない。この里から出ることは確定してはいるものの、僕はさて、どこに行けば良いのやら。

 言わば、燃え尽き症候群の一種になっている僕はこれからどうすればいいのだろうか。


 まあ、そんなことは後でいいか。今は、この二週間の疲れを癒すべきなのだ。文字通り徹夜続きの二週間の疲れを僕は取らなければならない。


 さて、二週間の徹夜後の睡眠はどれほどスッキリするのだろうか。今から興奮が止まらない。

さて、これからどうなるんでしょうね。私も分かりません。

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