追放からの成り上がりテンプレ
某割烹で、これを書けば鉄板だと言っていたので本当かどうか試してみることにしました。
但し、文章力のなさはご愛嬌です。
「明日からの探索には、もう来なくていいから!」
「えっ!?」
その日の迷宮攻略を終えて街に戻るなり、目の前の勇者にそう告げられてしまった。
「ずっと考えていたんだ。俺の、勇者パーティに相応しい回復役のことを……」
「待ってくれ。俺に何か落ち度があったって言うのか!?君が負ったどんな傷や状態異常でも回復してきたじゃないか!」
「そうだな。だが、お前の回復は……くっ……」
「なんだよ!ハッキリ言ってくれ!!」
「……いんだ」
「はぁ?」
俺には勇者の言葉が全く理解できなかった。
「どこが不満なんだよ!ちゃんと回復出来ているだろ!」
「確かに神官でもないのに怪我や状態異常の回復は完璧だ……」
「だったら!」
「だが、お前に治療してもらう度に、俺は大事なモノを失ってるんだ……」
それだけ言って勇者の男は俯いてしまった。何故だ!ダメならダメでもいいから俺は勇者にちゃんと説明をして欲しかった。納得のいく理由が欲しかった!それだけなのに、目の前の勇者は顔を下に向けたまま黙ってしまった。
そんな俺たちの間に割り込んで来たのは残りのパーティメンバーの2人だ。
「ちょっと!私の勇者様が、パーティに貴方は相応しくないって言ってるんだから、黙って出ていけばいいのよ!」
グラマラスでハッピネスなとびきりの美女、ボディラインがそのまま見える黒いレザースーツを身に纏いショートカットの黒髪でボーイッシュな雰囲気も持ちながら時折みせる妖艶な微笑みで冒険者ギルドの男どもを何人も虜にしている斥候役の彼女が、勇者を隠すように俺の前に立って強気に言った。
「そうよ!(キッ!!) ああっ、なんておいたわしい。こんなに心を傷つかれて……」
俺を睨みつけながらも勇者を甲斐甲斐しく介抱し始めたのは、小柄ながらもざっくりと開いた胸元や背中が特徴のドレスアーマーを華麗に着こなしている魔法使いのピンクブロンドの美少女だ。ドレスアーマーは彼女のメリハリの効いたバディをチラリズムというスパイスで極上に味付けし、それでいて何故か清楚な雰囲気すら漂わせる。顔はほとんど無表情で人形のようというか深窓の令嬢のようだが、勇者に褒められるときだけは少しだけ頬を紅く染めて潤んだ瞳になる。いかにも西洋人風という出立ちなのも、いっそう令嬢っぽい雰囲気を高めている。
わかっていたさ。こいつらは勇者に惚れてるんだってことは!だけど、俺はお前らの関係の邪魔をするつもりはないし、夜の野営だってお前らがしっぽりとやりたがってるのを知ってるから一人で引き受けてきた。そのおかげで、この遠征の数日間、俺は一睡もしてない。だが、そんな過酷な状況でも自前の回復手段で俺はスッキリ万全だ!ビバ回復!!だが、勇者の男は俯いたままで、いかにも辛そうだ。
「もしかして、どこか痛いのか?そんなに辛いなら回復するから言ってくれれば……」
「や、やめてくれ!もういいんだ!!」
「悪いけど私も貴方の回復は受けたくないわ!」
「私も絶対に嫌ですわ!!」
3対1で執拗に反対される。一体、何が不服なんだ?
「あら?こちらにいらしたのね?」
そこへ金髪を見事に編み込んだ神々しいまでの美少女が、これまたとびきり美人のメイドさん達を引き連れて乱入してきた。
勇者の男はその美少女を視認すると直ぐに姿勢を正して美少女に向き合った。顔色は土気色のままだったが……
「姫様。こんなところにまでお越しくださらなくても…」
「いいえ。明日から私も勇者様のパーティに入れて頂くのです。出来るだけ勇者様の生活に合わせますわ♡ あら。お顔色が悪いみたいですわね。はい、上級回復魔法」
姫様と呼ばれた美少女が勇者に事前に詠唱を終えていた回復魔法をかけると、少しだけ勇者の顔色が良くなったようだ。
「こちらが新しくパーティメンバーに入っていただくこの国の第5王姫・アンテノール様だ。このとおり回復魔法が無詠唱で使える程の回復のエキスパートだ!」
おおう。本物の姫様だった。だが、肝心の回復魔法の効きが悪いように思う。
「だけど、俺が使う初級回復魔法より明らかに効果が弱いようだが?」
「何ですって!それは聞き捨てなりませんね!!」
その俺の反論に噛みついたのはその王女様当人だ。
「私は医療神メディール様の御加護を頂いているのです!その私よりも回復術が優れている冒険者なんて、高位の神官でもなければ、ありえないですわ!!」
「だけど、事実だよ?」
俺の軽口に挑発されてメイドさん達が苛立ったようだ。
「ふ、不敬な!」
「姫様が厳しい修行の末に身につけられた魔法を愚弄するなんて!」
「姫様!その男の言葉に耳を傾けてはなりません!どうせ出鱈目です!」
メイドさん達が姫さんを視界から隠してしまった。その後ろでは姫さまが可愛らしく地団駄をふんでいる。しかし、次の瞬間には姫様は目を大きく見開いて俺に向かって宣言する!
「よろしいですわ!そこまで言うなら回復魔法の腕前を見せて頂きましょう!」
「だけど、そんな都合よく治療が必要な怪我人なんて居ないだろ?」
しかし、それこそがフラグだったかのように、街の反対側から悲鳴があがりだした。
「キャーーーーーっ」「スタンビートだ!家の中に入れ!」「やばい、逃げろーーーーっ!!」
街のメインストリートから中心部に向かって何頭もの牛型魔物が隊列をつくって土煙をあげているのが見えた。街の人々は我先にと建物の中に入っていった。一方で、勇者パーティの3人と姫様のお付きのメイド達は、突進してくる牛型魔物を次々と切り捨てたり、薙ぎ払ったり、魔法で丸焼きや氷漬けにしていった。俺はと言えば、勇者とその仲間達と肩を並べて闘えるメイド達に唖然としてしまった。
ものの10分もしないうちに魔物は全滅し、その場に残されたのは牛型魔物の成れの果ての魔石と数人の怪我人だけだ。それまでメイドさんにガードしてもらっていた姫様が、俺に挑戦的な目配せをしてから道に倒れている怪我人の方へと走り出した。なので、俺も姫さんの後を追いかける。直ぐに倒れた冒険者が見つかると姫さんは回復呪文を唱え始めた。
「上級回復魔法」
「うっ……おおっ、傷が……凄い速さで癒えていく!」
牛型魔物の角で腹部を刺された男が、姫さんの魔法で血の気を取り戻したようだ。周囲の軽症者はポーション等で自力で回復しているのを確認した俺は、重症者を探して治療することにした。そして、四肢があさっての方を向いていて顔は青白く、完全に虫の息になってしまっている一人の冒険者を見つけた。俺が助けようと彼に近づくと後ろから姫さんが俺を呼び止める。
「ちょっと!その方は残念ですが、もう無理ですわ!」
「諦めるのはまだ早いさ!」
俺は利き手の人差し指に魔力を集中し、倒れたままの冒険者のズボンをおろして、怪我人のアレに一気に指を突っ込んだ!
「中級回復」
俺が詠唱省略で回復魔法を唱えると、冒険者の身体がみるみる元通りになっていく。
「そんな……たかが中級でこんな……ありえませんわ……しかも、なんて破廉恥な!」
「回復魔法も坐薬と同じように粘膜から行使すれば、効果が倍増するんだよ。知らなかったのか?」
「知っていても普通は出来ませんわ!」
「命より重いものなんてこの世界にないんだ。たかだか指を突っ込んだぐらいでガタガタいうなよ!ちなみに俺はそっちの気はないからな。普通に女が好きだし、怪我人なら男女問わず平等に指を突っ込む主義だ!」
「……」
次の日、いつも通りに宿を後にしていつもの集合場所である冒険者ギルドに行ってみると、そこに勇者パーティと姫様御一行の姿はなかった。代わりに昨日治療した冒険者達が熱い視線で俺を見つめてくる。その冒険者達は知る人ぞ知るA級冒険者パーティで、俺はそいつらと仲間になり、すぐにS級となって世界を救う事になるのだが……どうしてこうなった!?
ちなみに勇者達は……
「姫さまにこんな宿に泊らせるなんて……」
「姫さま、あちらに姫様に相応しい宿が……」
「では、そちらに参りましょう」
メイド達に連れられて姫様はずんずんと街で1番の高級宿に入っていった。1人残ったメイドさんと勇者も話をしながら姫様を追いかける。
「はー、姫様はすげぇな。こんな宿に泊まれるのか…」
「何を言っているのですか!?姫様は貴方のパーティの一員なのですから、貴方達や私達も一緒の宿です」
「そりゃ、うれしいな。こんな宿生まれて初めてだぜ」
「そうですか。ですが、宿泊代や食事代はパーティ費からお願いしますね」
「えっ?なんでだよ。王族って金持ってるんだろ?」
「先日、貴方に誘われて決定したばかりの姫様が冒険に予算など組まれていませんよ。王族のお金の原資は税金なのですから。誘った責任はちゃんと果たして頂かないと!」
「だったら、姫さんだけで良いだろ。なんでメイドまで……」
「姫様が身の回りの事をお一人で出来るのであれば最低限の護衛だけで良かったかもしれませんが、今はまだ無理ですわ」
「そ、そんなあ……」
こうして勇者パーティは姫様が原因で借金地獄に陥るのであった。
このくだらない小話を最後まで読んで頂きありがとうございました。