遊んでいい場所
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「あーそーぼ!!」
「なにして、遊ぶ?」
「じゃあね、この、白いとこだけ踏んで、あっちに渡ろう!」
「いいよ!早く着いた方が勝ちね!」
「黒いとこ踏んだら死刑ね!」
「黒いとこ踏んだら死刑だね!!」
長い長い横断歩道、白い白いところだけ、踏んで踏んで、向こう側に渡ったよ。
「僕の勝ち!」
「ちぇー!もう一回!」
「じゃあ、今度は、あっちの歩道のブロック、あっちで遊ぼう!」
「いいよ!じゃあ、赤いブロックだけ踏んで…向こうの信号まで行こう!」
「赤以外踏んだら、死刑ね!」
「白いとこと黄色いとこ踏んだら死刑だね!」
長い長い歩行者専用道路、カラフルなブロックの赤い赤いところだけ、踏んで踏んで、信号まで行こう。
「よっ…はッ…!!!」
「うわ、赤いブロックなくなった…!!!」
「へへーん、僕の勝ちだな!!」
「くそー、こうなったらジャンプだ!!」
勢いをつけて、足元の赤いブロックから、遠くの赤いブロックへ。
ぴょんと飛んだけど?
「ああー!そこ白いブロック!!はい負け―!」
「ああー!もうちょっとだったのに!!」
「じゃあ、死刑だね!」
「…残念。」
男の子は、ふわりと消えたよ。
「あーあー、これで、何人目?」
さあ、何人目かな?
「僕はいつまで、死刑ごっこをやったらいいのかな?」
遊びたい子が、いなくなるまで?
「僕は、遊びたくないんだけどな。」
ほんとうに?
「もう、飽きちゃったんだ。」
そうなの?
「夢中になれる時間は、終わっちゃったんだ。」
夢中になってて、車が来てるの、気が付けなかったんだよね。
「遊ばなければ、良かった。」
そっか。
「でも、僕がここにいるから…。」
君が向こうで遊んで、ここに来たから?
「ここに来る子は、いなくなったと思う。」
道路で危ない遊びをしたい子どもを、守ってるんだもんね。
「守れてるかな?」
ここに誰も来てないのは、守れてる証拠だと思うよ。
「ここに来る子は、死刑になったら消えちゃうもんね。」
遊びたい気持ちだけここに連れてきているから、満足したら消えちゃうんだよ。
「僕と遊んで、満足してくれてるのかな。」
満足したから、向こうでは危ない遊びをしていないんだよ。
「そっか、じゃあ、いいかな。」
向こうでも、先生が教えてるはずなんだけどね。
「道路で遊んじゃいけませんって?」
君も、聞いたでしょう?
「聞いたけど…守れなかった。」
だから、反省しているんでしょ?
「いっぱい、反省、したよ?」
そっか。
「僕は、いつまで、反省したらいい?」
どうだろう、もうそろそろ、良いかな?
「もうそろそろ、良いかなあ…。」
じゃあ、あの横断歩道を、渡ってごらん。
「白いところしか、踏んじゃ、駄目かな?」
そんなルールは、ないよ。
「じゃあ、遊ばないで、安全に、渡るね。」
長い長い横断歩道、白いところも、黒いところも、踏んで踏んで、向こう側に渡ったよ。
無事に向こう側に渡れた男の子は、ふわりと消えたよ。
良かったね、ようやく、渡れたね。
次に生まれてくるときは、ちゃんと安全に、横断歩道を、渡るんだよ?
町の中には、遊びたくなる場所があふれているよ。
遊んじゃいけない場所で遊んだら、遊ばなきゃいけない場所に連れて行かれちゃうかもよ。
遊びたい気持ちを我慢している子の、遊びたい気持ちと遊び続けることになっちゃうよ。
道路はとっても、魅力的。
でも、遊んじゃ、駄目だよね。
危ないんだもん、我慢、我慢。
でもね、我慢するだけだと、不満がたまっちゃうんだ。
だから、道路には、遊びたい気持ちを吸い取ってくれる、この場所があるんだよ。
我慢できる子と、我慢できなかった子が、一緒に遊んでいるこの場所は。
我慢できる子供のために、あるのかな?
我慢できなかった子供のために、あるのかな?
私、子供が大好きなんだ。
私、子供をちゃんと、向こう側に渡したいんだ。
元気に登校する子供も。
泣きながらとぼとぼ歩く子供も。
ぼんやり歩く子供も。
猛スピードで走る子供も。
横断歩道で遊ぶ子供も。
歩行者専用道路で遊ぶ子供も。
境界ブロックで遊ぶ子供も。
信号を守る子供も。
信号を守れなかった子供も。
無事に向こう側に渡れた子供も。
向こう側に渡れなかった子供も。
寂しそうに、道路に片隅でいじけていた子供がいたから。
しばらく一緒に遊んでみたんだ。
子供たちの、溢れる遊びたい気持ちを引き連れて。
ずいぶん戸惑っていたけれど。
向こう側に渡れなくて泣いていた子供が、やっと、笑ってくれたんだ。
よかった。
ずっと私の上で、泣いていたから。
とても、かわいそうだなって、思っていたんだ。
もう、この場所には、かわいそうな子供は、いなくなったよ?
ようやく、かわいそうな子供は、向こう側に渡って行ったよ?
もう、この場所には、遊んでくれる子供はいないから。
この場所に来るのは、遊んじゃいけない場所で遊びたいと思う、我慢する心だけだね。
私がここに連れてくるのは、子供たちが我慢した気持ちだけ。
もう、この場所に、かわいそうな子供がこないことを、祈っているよ?
もう、この場所に、子供が来たら、駄目なんだよ?
だから私は、今日も。
歩道を渡る子供たちから、遊びたい気持ちを引き抜いて。
道路を歩く子供たちから、遊びたい気持ちを引き抜いて。
「あーそーぼー!」
「いーいーよー!」
「白いとこだけ踏んで向こう側に行ったら勝ち!」
「ブロックの上から落ちたら死刑ね!!」
「押したらだめだよ!」
「ジャンプ、ジャンプ!!」
「勢いつけたら飛べるよ!!」
「ああー失敗!!!」
男の子が、ふわりと消えたのを見送って。
女の子がふわりと消えたのを見届けて。
男の子がふわりと消えたのを見守って。
女の子がふわりと消えたのを見つめて。
私は、今日もここに誰も来なかったことに安心して…。
信号を、点滅、させた。