表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート12月~

遊んでいい場所

作者: たかさば

カクヨムさんにも掲載しています

「あーそーぼ!!」

「なにして、遊ぶ?」


「じゃあね、この、白いとこだけ踏んで、あっちに渡ろう!」

「いいよ!早く着いた方が勝ちね!」


「黒いとこ踏んだら死刑ね!」

「黒いとこ踏んだら死刑だね!!」


長い長い横断歩道、白い白いところだけ、踏んで踏んで、向こう側に渡ったよ。


「僕の勝ち!」

「ちぇー!もう一回!」


「じゃあ、今度は、あっちの歩道のブロック、あっちで遊ぼう!」

「いいよ!じゃあ、赤いブロックだけ踏んで…向こうの信号まで行こう!」


「赤以外踏んだら、死刑ね!」

「白いとこと黄色いとこ踏んだら死刑だね!」


長い長い歩行者専用道路、カラフルなブロックの赤い赤いところだけ、踏んで踏んで、信号まで行こう。


「よっ…はッ…!!!」

「うわ、赤いブロックなくなった…!!!」


「へへーん、僕の勝ちだな!!」

「くそー、こうなったらジャンプだ!!」


勢いをつけて、足元の赤いブロックから、遠くの赤いブロックへ。

ぴょんと飛んだけど?


「ああー!そこ白いブロック!!はい負け―!」

「ああー!もうちょっとだったのに!!」


「じゃあ、死刑だね!」

「…残念。」


男の子は、ふわりと消えたよ。




「あーあー、これで、何人目?」


さあ、何人目かな?


「僕はいつまで、死刑ごっこをやったらいいのかな?」


遊びたい子が、いなくなるまで?


「僕は、遊びたくないんだけどな。」


ほんとうに?


「もう、飽きちゃったんだ。」


そうなの?


「夢中になれる時間は、終わっちゃったんだ。」


夢中になってて、車が来てるの、気が付けなかったんだよね。


「遊ばなければ、良かった。」


そっか。


「でも、僕がここにいるから…。」


君が()()()で遊んで、ここに来たから?


「ここに来る子は、いなくなったと思う。」


道路で危ない遊びをしたい子どもを、守ってるんだもんね。


「守れてるかな?」


ここに()()来てないのは、守れてる証拠だと思うよ。


「ここに来る子は、死刑になったら消えちゃうもんね。」


遊びたい気持ちだけここに連れてきているから、満足したら消えちゃうんだよ。


「僕と遊んで、満足してくれてるのかな。」


満足したから、()()()では危ない遊びをしていないんだよ。


「そっか、じゃあ、いいかな。」


()()()でも、先生が教えてるはずなんだけどね。


「道路で遊んじゃいけませんって?」


君も、聞いたでしょう?


「聞いたけど…守れなかった。」


だから、反省しているんでしょ?


「いっぱい、反省、したよ?」


そっか。


「僕は、いつまで、反省したらいい?」


どうだろう、もうそろそろ、良いかな?


「もうそろそろ、良いかなあ…。」


じゃあ、あの横断歩道を、渡ってごらん。


「白いところしか、踏んじゃ、駄目かな?」


そんなルールは、ないよ。


「じゃあ、遊ばないで、安全に、渡るね。」


長い長い横断歩道、白いところも、黒いところも、踏んで踏んで、向こう側に渡ったよ。


無事に向こう側に渡れた男の子は、ふわりと消えたよ。


良かったね、ようやく、渡れたね。


次に生まれてくるときは、ちゃんと安全に、横断歩道を、渡るんだよ?




町の中には、遊びたくなる場所があふれているよ。


遊んじゃいけない場所で遊んだら、遊ばなきゃいけない場所に連れて行かれちゃうかもよ。


遊びたい気持ちを我慢している子の、遊びたい気持ちと遊び続けることになっちゃうよ。


道路はとっても、魅力的。

でも、遊んじゃ、駄目だよね。

危ないんだもん、我慢、我慢。


でもね、我慢するだけだと、不満がたまっちゃうんだ。

だから、道路には、遊びたい気持ちを吸い取ってくれる、この場所があるんだよ。


我慢できる子と、我慢できなかった子が、一緒に遊んでいるこの場所は。


我慢できる子供のために、あるのかな?

我慢できなかった子供のために、あるのかな?



私、子供が大好きなんだ。


私、子供をちゃんと、向こう側に渡したいんだ。


元気に登校する子供も。

泣きながらとぼとぼ歩く子供も。

ぼんやり歩く子供も。

猛スピードで走る子供も。


横断歩道で遊ぶ子供も。

歩行者専用道路で遊ぶ子供も。

境界ブロックで遊ぶ子供も。


信号を守る子供も。

信号を守れなかった子供も。


無事に向こう側に渡れた子供も。

向こう側に渡れなかった子供も。


寂しそうに、道路に片隅でいじけていた子供がいたから。


しばらく一緒に遊んでみたんだ。


子供たちの、溢れる遊びたい気持ちを引き連れて。


ずいぶん戸惑っていたけれど。


向こう側に渡れなくて泣いていた子供が、やっと、笑ってくれたんだ。


よかった。


ずっと私の上で、泣いていたから。


とても、かわいそうだなって、思っていたんだ。


もう、この場所には、かわいそうな子供は、いなくなったよ?


ようやく、かわいそうな子供は、()()()()に渡って行ったよ?




もう、この場所には、遊んでくれる子供はいないから。


この場所に来るのは、遊んじゃいけない場所で遊びたいと思う、我慢する心だけだね。


私がここに連れてくるのは、子供たちが我慢した気持ちだけ。




もう、この場所に、かわいそうな子供がこないことを、祈っているよ?


もう、この場所に、子供が来たら、駄目なんだよ?



だから私は、今日も。


歩道を渡る子供たちから、遊びたい気持ちを引き抜いて。


道路を歩く子供たちから、遊びたい気持ちを引き抜いて。


「あーそーぼー!」

「いーいーよー!」


「白いとこだけ踏んで向こう側に行ったら勝ち!」

「ブロックの上から落ちたら死刑ね!!」


「押したらだめだよ!」

「ジャンプ、ジャンプ!!」


「勢いつけたら飛べるよ!!」

「ああー失敗!!!」


男の子が、ふわりと消えたのを見送って。

女の子がふわりと消えたのを見届けて。

男の子がふわりと消えたのを見守って。

女の子がふわりと消えたのを見つめて。


私は、今日もここに誰も来なかったことに安心して…。


信号を、点滅、させた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なるほど・・・。 横断歩道での事故で亡くなった子供達。他にも、遊んではいけない場所で遊んで亡くなった子供達の冥福を祈ります。 本作品は、ちょっと軽めのホラー要素が入ってますが、『横断歩道で遊…
[一言] ペナルティが重い……! 怖い遊びだ。 と思ったら、教訓的なやつでしたね。 遊んではいけないところがね、なんというか魅力的なんですよね。材木置き場とか、石材置き場とか……ね。むしろ、道路の…
[一言] なんっと……! 途中までホラーかと思ったのですが、なんっと良い話に……!(涙)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ