ぼくはきょうもつんつんする
ぼくはスルスルと枝を登っては空に近づいた。
いつも木登りして遊んでるんだ。
空をみたぼくは近くの枝でひと休みする。
枝には緑の葉っぱにぼくの尻尾みたいなフワフワしたのがついていた。
フワフワしたのが、ぼくの尻尾に引っかかる。
これにさわると、つーんとした匂いがする。
そしたら虫がプーンッて寄ってくるから嫌い。
ちょっとふてくされて他の木に移動した。
ここはぼくだけの森。
ぼく以外いない森。
でも好きなだけ遊んでいられる森。
おかあさん達とはぐれちゃってから独りでここにいる。
さみしくなんかないけど、遊ぶのもあきちゃったな。
でもぼくは今日もひとりで遊ぶんだ。
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今日もぼくはスルスルと枝を登っては空に近づいた。
青い空に白い雲。
今日はおひさまがギラギラ光って、すごく暑くなりそう。
いつもの木はフワフワしたのがなくなって、なんか変なのが丸くついてた。
なんだろな、これ。
つんつんしてみると緑のトゲトゲはぼくを刺した。
「いたいっ!」
びっくりして離れたけど、トゲトゲはチクンとして痛かった。
匂いの次はいたいやつなの?
やだなー 近づかないでいよう。
ちょっとふてくされて他の木に移動した。
ここはぼくだけの森。
でもトゲトゲが増えた森。
ぼくは今日もいつも通り遊ぶんだ。
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今日もぼくはスルスルと枝を登っては空に近づいた。
青空にすこしうすくなってきた雲。
まだおひさまはキラキラしてるけどそんなに暑くない。
ぼくは最近、この木によく登る。
前みたトゲトゲはもっと強くおっきくなってきた。
もっともっとトゲトゲが増えてさわれる場所がなかった。
それにぼくの色に近づいてきたトゲトゲ。
「トゲトゲの赤ちゃん、生まれるのかなぁ」
ぼくはひとりトゲトゲのそばにいた。
触ると怒るから、そばでじっと見ているだけ。
でもちょっとだけならいいよね?とつんつんしてまた怒られる。
まだ早いんだって。
ぼくとトゲトゲの赤ちゃんのいる森。
「はやく生まれてこないかなぁ。いっしょに遊ぼうよ」
なにも答えないトゲトゲの赤ちゃんにぼくは毎日声をかけて過ごしたんだ。
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今日、ぼくはスルスルと枝を登っては空に近づいた。
少しうすくなった青空に薄くたなびく雲。
前より風も少し強くなってきたけど涼しい。
トゲトゲの赤ちゃんが顔を出してきたんだ。
まだ小さくてぼくみたいには動けないけど、トゲトゲの中でじっとしてる。
今日もつんつんしてみたけど、赤ちゃんはまだ動かなかった。
「もうちょっとだよね。早く生まれてきてね」
ぼくは今日もトゲトゲの赤ちゃんと一緒にいた。
ちょっとだけ顔を出してくれたのが嬉しかったんだ。
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今日は風が強かったけどぼくは負けじと枝を登っては空に近づいた。
暗くなった雲がたくさん空にいた。
ぼくはいつもの場所にいくと、トゲトゲの赤ちゃんが少なくなってた。
前見たより大きく顔を出してきた赤ちゃんたちはひとりいなくなってた。
なにかに襲われちゃったのかも。
たまに大きな鳥がぼくを苛めるから赤ちゃんも苛められちゃったのかもしれない。
「ぼくが守るから。頑張ってね!」
ぼくはそれからトゲトゲの赤ちゃんのそばで過ごした。
赤ちゃんが生まれたら、ぼくお兄ちゃんになるんだ!
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今ぼくは枝にいるトゲトゲの赤ちゃんのそばに近づいた。
茶色くなったトゲトゲに包まれたぼくみたいに茶色い赤ちゃん。
前よりも顔を出してきて、もうそろそろ生まれるみたい。
そろそろかなぁ、とぼくがつんつんした時トゲトゲが動いた。
トゲトゲのあいたすきまから身を乗り出してる赤ちゃんが危ない。
「あぶないよ!」
あわてて手を伸ばしたけどトゲトゲは下に落ちた。
ぼくは急いで木の下におりていったけど赤ちゃんは生まれ落ちていた。
赤ちゃんを捕まえてトゲトゲの中に戻したけど動かない。
まだ早かったのかな。
それからぼくは赤ちゃんが動き出すまで木の下で過ごした。
木の下はいろんな危険があるから一生懸命守ろうって思ったんだ。
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今ぼくは木の下でトゲトゲの赤ちゃんのそばいる。
木から落ちちゃったトゲトゲはだんだんカサカサになった。
茶色い赤ちゃんは今日も動かない。
「落ちちゃったからかな、しんじゃったかな」
トゲトゲの赤ちゃんをつんつんしながら今日もじっとそばにいると何かがそばにきた。
「ねぇ、ここのエサもらってもいい?」
振り返ると、ぼくとそっくりな子がいた。
「この赤ちゃんじゃなければ。
ぼくの、『もきゅ』の友達なの」
ぼくはトゲトゲの赤ちゃんをだっこして言った。
「赤ちゃん?それはクリでしょ」
そっくりな子は首をかしげて言う。
「クリ?」
「うん、それはクリっていうの。木から落ちたら食べれるんだよ、あ、ほらコレコレ」
僕が首をかしげているとそっくりな子は近くに落ちてたトゲトゲの赤ちゃんを持ってきた。
そして両手でもって器用にバリバリと茶色いのをむきだした。
そして中からシワシワした茶色いのが出てくると2つにわって1つをぼくに渡してくる。
「はい、食べてみて。いまだけのごちそうなのよ」
ぼくが受け取ると、両手で大事そうにもって美味しそうにほお張っていた。
それをみてぼくも真似して食べた。
いままで食べていたものよりおっきくて、甘くて美味しかった。
夢中になって食べているとぼくとそっくりな子は言った。
「ねぇ、クリを知らないって、もきゅのお母さん教えてくれなかったの?」
「うん。ぼくが気づいたらお母さんとはぐれちゃったから」
「そうなんだ…、私、『くるる』って言うんだけど私もはぐれちゃってね」
もぐもぐと食べながら喋っていると、ぼくとそっくりな子、くるるが食べるのを止めて言った。
「ひとり?」
「うん、ぼくひとり」
ぼくはカリカリと美味しい実を口にしながら答えた。
「私もひとりなの。ねぇ、もきゅと一緒にいてもいいかしら」
「ぼくと一緒にいてくれるのっ?」
喜んでうっかり食べかけのクリを落としてしまいそうになったのを見て、くるるが笑った。
ぼくも笑った、嬉しくて涙がこぼれるほどに。
でもきっとこれはトゲトゲの赤ちゃんの殻を触っちゃったから。
でも痛いってことは夢じゃないんだよね。
ぼくはトゲトゲをつんつんして新しい赤ちゃんを取り出すと、くるるに渡した。
これからは、くるると一緒。もうひとりじゃないんだ。
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ぼくたちはスルスルと枝を登っては空に近づいた。
くるるとふたり、いつも木登りして遊んでるんだ。
空をみたぼくたちは近くの枝でひと休みする。
枝についていた緑の葉っぱは紅くなって、だんだん地面を紅く染めている。
トゲトゲの赤ちゃんも、少しずつ木の下に落ちていった。
すると、くるるがうれしそうに拾ってきてぼくたちの家に集めていった。
これから寒くなるんだって。
大事に貯めておこうねって言ってクリ以外にも小さな実をたくさん集めた。
ぼくたちは土の中にふたりで過ごせる場所に移動した。
ここはぼくたちだけの家。
くるると過ごす大切な家。
これから暖かくなるまで眠るための家。
しばらく眠るけどさみしくなんかない。
ふたりで丸くなって過ごすんだ。
ぼくたちは長い冬を乗り越えてまたふたりで遊ぶんだ。
目が覚めたらくるるをつんつんするのを夢みて。