リリー 1日目(2)
「そういうことなので、しばらく留守にします」
どうにか朝と呼べる時間の内に最低限の身なりを整えたリリーは、いつも通り寝ていたジンをたたき起こした。
「………事情は分かったけどその前にちょっと乱暴すぎやしないか…」
いつも通り過ぎて頭にきたのでいらついたままベッドから引きずり下ろしたためジンは床だらりと伸びながら口を開いた。
「あんたこそ呑気に寝てんじゃないわよ」
「予想してた以上の罵倒でお兄ちゃん泣いちゃう」
「勝手に泣いててください。そしてそのまま干からびてしまってください」
泣いちゃうとか言いながらも全く泣きそうにない様子でずるずると上体を起こす。まだ何割かは起きてませんといった緩慢な動きで立ち上がると徐にリリーの顔面を掴んだ。
「う~ん」
むぎゅみゅぐむにむにびよーんぺた。
頬や額と顔全体を揉み解しているのか弄っているのか、一通り終えると両手で目元を覆う。リリーは無気力にされるがまま棒立ちになっていた。家を出るときに腫れやら隈やらを試行錯誤して誤魔化したのにばれていたらしい。じんわりと手のひらの熱が広がっていく。
「ちゃんと寝ないとだめだよ、成長期なんだから」
「…もうとっくに成長期なんて終わってますよ」
そうだっけと嘯くと手を放す。触れていた温かさが引き幾分楽になった瞼をあげると、目に映った表情にはありありと、それはもうはっきりと「心配です」と書かれていて思わず苦笑いする。全くいつまで子供だと思っているのだろうか。この人の中ではリリーは未だ出会ったばかりの少女の姿のままに違いない。
「大丈夫ですよ、成長期どころか子供たちにはおばさんと言われる年です。身内の不幸も初めてじゃありません。教会長の方こそしゃきっとしてください!」
おかえしとばかりに両手でジンの頬を勢いよくはさむ。景気よくぱんと音が鳴ってついでに小さい悲鳴があがった。
「いててて…まあ、うん、はい…」
納得いかないと赤くなった頬をさすりながら眉を下げるジンを見て軽くため息をついた。ちょっと、すごく頼りなさげだがこれでも教会長、一人になったとしてもそれなりにうまくやるのだろう。
「では、私は支度がありますので失礼します」
「ああそっか、よし! 任せて! リリー君がお休みしてる間は俺が教会をしっかり切り盛りします!」
「畑はだめにしてもいいですけどその時は教会長が飢えるだけなのでご心配なく」
「ちょっと待って。道具とかの場所だけもっかい教えてわんもあ」