リリー 1日目(1)
東側の小窓から朝日が差し込み、起きだした小鳥たちが喧しく音を立てたあたりで朝になっていることに気が付いた。明るい、眩しい。正式に勤めだしてからは規則正しい生活をしていたため久方ぶりの徹夜明けの痛みに顔を顰める。
一睡もできなかった。年甲斐もなく泣き、思い出したように顔を上げれば思い出の品々が目に入りまた顔を伏せ泣く、というのを延々と繰り返し一晩を過ごしてしまった。当然目元は腫れぼったいし座りっぱなしだったので全身がちがちである。鏡を見なくても酷い顔なのが分かる。このままでは仕事に差し支える。
「仕事」
行くべきだろうか、とそんな考えが頭をよぎった。行くべきなんだろうか。
リリーの仕事は神とその眷属である精霊に仕えることだ。仕え、祈りや浄化を行う。しかしその神や精霊に守られているはずの勇者は死んだ。それなのに、勤め続ける理由がどこにあるのか。
身なりを整えようと立ち上がったまま動けなくなった。理由が一つも見当たらない。教会に通うようになったのはヘムトのためになるかもという動機からだったのだ。それが何の役にも立たず、ヘムトはもう帰ってこない、となると何のために。
思考が悪い方へ急降下している一方でそんな建設的ではない考え方は無駄だと理解できていた。そんなことを考えてもどうにもならない。8年、8年も一人でいたのだ。悪い思考に呑まれたことなど両手の指では数えきれないほどある。当然、立ち直り方もわかっている。
それでもぐらぐらと落ち着かない目をいっそのことときつく閉じ、その場で跪いた。
「精霊よ、力をお貸しください」
祈る意味を見出せなくとも、それしかしてこなかった。ほとんど自棄だとしても意味がなくても結局リリーにできることはそれしかないのだと思い知らされるようだった。