リリー 0日目(5)
落ち着かない。
右側から向けられる強い視線を避けるべく、こころなしか椅子の左端へ浅く腰かけたリリーは収穫物を置いた流れで淹れてきた茶を卓上に並べた。
客をもてなすための応接間などない、というより知らないのでひとまず座れるところへと普段ジンと昼食をとる部屋へ自分に用があるという二人を通したのだが、当然そこには二人分の椅子しかない。初めは客を座らせて自分は立つと申し出たものの押しきられる形でリリーと背の高い男の客が机越しに向かい合って席に着き、女性は男のコートを下敷きにしてリリーの右手側、少し離れた床に座り込んでいる。彼女がこちらを穴が開く勢いで見つめてくる理由はわからない。
「これを預かってきた」
王都に所属する兵士だと名乗った男は小綺麗な白い封筒と手のひら大の小包を取り出した。
王都、ということはヘムト関連か、と思いつつ伸ばした手は続けられた言葉に動きを止める。
「葬儀の案内と形見分けだ」
雲かなにかになってしまったような靄がかった頭のまま対面を終えたようで、思考と呼べるものが戻ってきたのは自宅に着いてからだった。何故かダイニングで温かいカップを握りしめて座っている。
眼前、机に置かれた渡された物を視界に入れる。
男が話した内容は頭の中に情報として積み重ねられていた。正式な葬儀は既に済んでいるが遠方の縁の人物を呼び追加の儀式を行うこと、王都を発つ前にリリー宛にヘムトがこの包を用意していたこと、参列を希望する場合は護衛をすること、時間がないため出立は明後日までにということ。
リリーは手の中のカップをしばらく弄んだ後、ふと部屋中を見回した。