リリー 0日目(4)
日の当たらない建物の間では芋を育てている。収穫したほかの野菜や花を脇の廊下に置いてこの主食となる芋類を採っていく。重くてかさばるので最後にしているのだが、毎度採れすぎてしまうためジンや子供たちにも運んでもらいついでに持って帰ってもらっている。元々費用を浮かすためジンが種芋を貰ってきて植えたものだが成長があまりに速い。
「中庭がツタだらけね」
両手いっぱいに芋を抱えて立ち上がると背後からカツンと硬い床を踏む音がした。
「教会長いいところに。上の方持ってくれませんか? さすがに前が見えないと危ないかなと思いまして」
バランスを崩さないよう慎重に近づこうと足を進める前に何かに軽く押されたリリーは、面食らって逆に一、二歩下がってしまった。こんなところに何かあっただろうか。目を白黒させていると静かに芋がどかされ視界が開けていく。
「…どなた様でしょうか」
「そういう貴女は修道女リリーで合っているか?」
神官の着る服とはまるで違う紺色のぴっしりとした高価そうな上衣に銀のボタン。金髪に空色の目。なによりきらきらしい威圧感がする見知らぬ男は当然ながらジンではなかった。把握している村人の中にもこんな人間に心当たりはない。
「そうですが、教会長はあちらにいらっしゃいますよ」
稀にジンを訪ねて彼の元いたという大きな街から客がくることがあるので、今回もその関係だろうと空いた左手で指し示すも男は芋を奪い続けながら首を振る。
「貴女に用がある。ところでこの芋はどこに運べばいい」
「こちらもお持ちしますね! さあ参りましょう!」
さらに先ほど放置した花の塊を両手に抱えた華奢な女性が男の背から顔を覗かせ、促されるのに半ば追い立てられてリリーは残りの野菜を手に二人を案内することになった。