リリー 0日目(3)
「『聖女さまは五つの大きな神殿をつくりました。精霊さまはこの大神殿に贈り物を贈られました。海の神殿には守るものを、空の神殿には探すものを、平原の神殿には』」
「ジン、ここ読めない」
「え? えー『教会奉仕者の治外法権制度』? かな」
「ジン! 今日のとこ終わった!」
「おーすごいねぇ」
午後の儀式の後は村の子供に読み書きを教えるのがジンの日課だ。小さな木造テラスに直に座り込んだジンと集う数人の子供たちが庭からよく見える。ああいうのを懐かれているというのだろう。
教会の南側には庭が広がっている。南側には、というより元々の村には不釣り合いなほど立派な建物を改築して建てたのが今の教会のため全体に大きな空き地を持つのだ。そのうちの日の当たる場所でリリーは植物を育てている。
「精霊よ、恵をお与えください」
祈りとともにそっと両手を添えるとほんの少し葉が明るさを増す。教会に出入りし始めて随分たつが祈りの力が強くなった気配はない。祈りも浄化も「なんとなく」がつく程度しかできないのはやはり原動力となるのが信心深さだとうことか。
ふう、と息をついて腰を下ろす。修道女としては半人前だが庭作業は板についてきた。なかなかの収穫量なのでは、と満足気に本日の成果を籠にまとめる。