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お料理探偵、エミリカ!!  作者: コーノ・コーイチ
第一章 4皿目~それは思い出の唐揚げ~
21/55

~有終之美~



 時間は19時を回る。七月の初めということもあり、空はまだほんのりと明るい黄昏時であった。



 エミリカは料理部の作った小さな唐揚げとおにぎりの入ったプラスチック容器を大事に、冷めないように抱えながら運動場を小走りでうろつく。

 運動場の真ん中ではキャンプファイヤーが行われ、その周りを取り囲むように大勢の人がいた。この中で人ひとりを見つけるのは難しいこと明白。


 だけど、さっきのゴミ捨て場で見た彼の後ろ姿。今先程のことだ、忘れるはずもない。名前だってすぐに言える。宇野一弘、と。

 でも、向こうに自分の名前を教えていない、伝えていない。この文化祭が済めば、その時だけの関わりで終わりそうな気がして、エミリカは焦るように彼の後ろ姿を探す。


 しかし、どこにもいない・・・見当たらない・・・


 彼は、運動場にはいないのだろうか?


 エミリカは探し疲れ、一つの木にもたれかかる。その木の表面にはなにやら大きな手形のようなくぼみがあった。

 相撲部が文化祭の公開練習で木を相手にツッパリ練習をしたらしかった。


「この木はそれでも折れなかったのね・・・だけどウチの心は人一人探せないだけで折れそうよ」

 つい弱音を吐くエミリカ。そんな彼女に頭上から声がかかる。

「さっきから誰かを探しているようだな。どうしたんだ?」


 エミリカはハッとして上を見上げる。そこには太い木の枝に座る宇野の姿があった。


「う、宇野一弘!?あ、あなたを探していたのよっ!」

「なんだ、依頼か?」


 宇野は木から飛び降り、音もなく地に足をつける。その姿はさながら忍者のようであった。


「依頼なら要件を伺うが、報酬は?」


 宇野に問われ、エミリカはカラカラに乾いたノドで、必死に声をだす。


「えと、あの、り、料理に、興味ある?ウチ、料理部なんだけど!」


 この時、エミリカは軽くパニックであった。頭上から突如現れた宇野に、本来伝えたかった言葉を忘れてしまっていたのだ。

 当然、彼はエミリカの意図するところが分からない。


「え、は?料理?まあ、料理が出来れば・・・家計が助かるかもな・・・」

「か、家計!?家計が困っているの?」

「い、いや?それは・・・というか、それが言いたくて探していたのか?」

「え?い、いえ、違うの!そうじゃなくて!渡したいものがあって!」

「渡したいもの?」

「あの・・・これ・・・」


 エミリカは本来の用件を思い出し、そっと容器を差し出す。


 しかし、何故だろう?エミリカは自分に問う。何故か声が出し辛い。

 いつもの自分なら、自作した料理を誰かに受け渡すのはなんともない事であった。


 だが、今は不安でしょうがない。この唐揚げも作りたてではない。

 おにぎりも保温状態で置いていたお米で作っていたので、ふっくらやわらかというわけにはいかないし、急いで握ったので自信がない。


 エミリカは不安だった。彼はこれを食べて喜んでくれるだろうか?それとも、微妙な顔をするのだろうか?そもそも舌に合わなかったら?


 様々な期待と不安がエミリカの頭を飛び交う。次々とイヤな予想が重なる

 これがどういう気持ちか、彼女には分からなかった。

 そんな彼女の姿を、宇野は見つめる。そこで宇野は彼女に頷いて返す。


「ああ、さっきのお礼を渡しにきたのか。別にいいんだが」


 言って、手を伸ばす宇野、エミリカは容器を差し出したまま、じっと待つ。

 少し指先が触れ合い、そして、容器がその手から離れる。


 エミリカにさらなる不安が襲った。手が震えていたんじゃないか、汗が出て指が湿っていたんじゃないか・・・そんな様々な不安。


 しかし、そんな不安を払うように宇野は言う。


「大丈夫だ。唐揚げは好物だから嬉しい」


 宇野の言う『大丈夫』はエミリカの不安に対するものと齟齬が生じているが、それでもエミリカは心が幾分か安心するのが分かった。


 そして宇野は容器を開け、一つ唐揚げをつまんで口に入れ・・・


「んぐぅッ!」


 どこか、鈍器で殴られたような低い悲鳴を上げた。


「だ、だいじょうぶっ!?なんか変だった?喉につっかえた?」


 エミリカは慌てて近寄るが、宇野はそれを手で制す。


「い、いや。美味し・・・い。そ、それじゃあ、次の依頼があるからっ!」


 そう言い残し、宇野は全速力で黄昏の中へと去っていった。

 突然の脱兎のごとき猛ダッシュに、エミリカはその背中をただ見ているだけしかなかった。


 もしかして、あまり美味しくなかったのだろうか・・・


 確かに、出来たてではない唐揚げとおにぎりであった。

 冷めれば味は落ちるものである。

 きっとそうだ。とエミリカは後悔した。そこでさらに後悔が押し寄せる。


「そういえば名前を伝え忘れたわ・・・」


 エミリカは肩を落とし、トボトボと歩く。料理部のみんなのもとへ・・・





 こうしてエミリカの文化祭は終わりを遂げたのであった。





 それからの料理部というと、彼女達は目覚ましい成果を残していくのであった。


 数々のイベントやコンテストに参加し、数々の賞を獲得。地域のイベントにも引っ張りだこで、テレビにも出演したことがあった。


 そして彼女のガンバりから次の年、新入部員も3名入り、部員は既定の5人を保つことができたのである。もちろんそれは料理部のためでもあるが、彼女にはもう一つ、その努力に想いがあった。


 エミリカは強い想いを抱き、兎に角がんばった。


 料理をもっともっと上達して、もっともっと名を上げて、宇野一弘にエミリカの名前を認識してもらうために。



 彼に・・・宇野一弘に・・・心から美味しいと言わせるために。



 こうして、彼女はそのがんばりと、猪突猛進な味の探求心から、多くの人の好奇や畏怖の念を集め、いつからかこう呼ばれるようになった。




『破天荒生徒四天王、テイストプルシュアー、エミリカ!』と・・・




※ナスビやー!!

 今さらやけど、この破天荒生徒四天王ってなんなん?グッドマン。


『あぁ、これはだね、ある意味優秀な人に贈られる称号なんだ』


 そうなん?みんなのはなし聞いとるとなんや変人奇人の総称か

 思っとったで。


『ははは。まぁ、間違いではないかな?天才と変人は紙一重って言うからね』


 せやな。たまに想像できんことをしよる時あるわ(笑)


『そう。上手く関わればとても良い人材なんだけど、関わり方を誤れば

 転がり落ちるような、危ういところがある人たちだね』


 あぁ~、分かるわぁ~。結構見ててハラハラするところあるもん。


『まぁ、そういう称号が周りから認識されれば、自身にもある程度

 こういう称号が付けられているという認識ができ、自律、自制

 できる面を期待している部分があるよ』


 なるほどなぁ~。いうたら暴走せんようにするためのもんやっちゅう

 こっちゃな!!

 

 やって、エミリン!


『・・・なんだか、さっきから褒められてるようには思えないわね、宇野一弘』

「・・・変人というワードが2回も出てきたのだが・・・」



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