木になったライオン
緑の森の真ん中の、 小さな木の切り株がある広場は、 森の動物たちの遊び場でした。
ある日、 ウサギとリスと小鳥が広場で遊んでいると、 見知らぬ動物がやって来ました。
「キミはだあれ? 」
ウサギが聞きました。
「ボクはライオンだよ」
「どこから来たの? 」
リスが聞きました。
「とおいとおい草原から」
「ふ〜ん…… それじゃ、 一緒に遊ぶ? 」
小鳥が聞きました。
「うん、 いいよ。 ボク、 ひとりぼっちだったんだ」
ライオンとみんなはすぐに仲良くなり、 毎日森の広場で遊ぶようになりました。
たくさん遊んでお腹がすくと、 小鳥とリスが取ってきた木の実や花の蜜、 ウサギが摘んできた草や木の根っこを分け合って食べました。
そして、 お腹がいっぱいになると、 またかくれんぼやダンスをし、 歌をうたって過ごしました。
いくつも季節が過ぎて、 そのうちにウサギもリスも小鳥も大きくなりました。
ライオンも大人になって、 ウサギやリスや小鳥よりも、 もっともっと大きくなりました。
立派なたてがみが生え、 鋭い大きな牙を持ち、 声は太く低く、 森中に轟きます。
ある日、 ライオンが言いました。
「ボク、 お腹がすいてしょうがないんだ」
木の実を食べても、 花の蜜を吸っても、 草をかじっても、 ライオンのお腹は満たされません。
実際に、 ライオンのお腹はいつもグーグー鳴りっぱなしです。
ウサギとリスと小鳥が、 必死になって食べ物を集めてきました。
森中を走り回り、 何往復もして、 山ほどの食べ物を持ち寄りました。
だけど、 どれだけ食べても、 やっぱりすぐにお腹がすいてしまうのです。
ライオンは、 日に日に元気が無くなっていきました。
そしてどんどん痩せ細り、 弱っていきました。
「ライオンくん、 一緒にダンスをしないかい? 」
ウサギが聞きました。
「楽しそうだね。 だけどもう足が動かないんだ」
「ライオンくん、 一緒にかくれんぼをしようよ」
リスが聞きました。
「楽しそうだね。 だけどもう目が開かないんだ」
「ライオンくん、 一緒に歌をうたわない? 」
小鳥が聞きました。
「楽しそうだね。 だけどもう、 大きな声が出ないんだ」
ウサギとリスと小鳥は、 森の奥に住む物知りフクロウの元へ、 相談に行きました。
フクロウはうっすらと両目を開けて言いました。
「ライオンは肉を食べる生き物じゃ。 木の実や蜜や草を食べるだけでは生きていけん」
「「「 なんだって?! 肉を食べる生き物だって! 」」」
ウサギもリスも小鳥も大変おどろきました。
「そうじゃ。 ウサギやリスや小鳥のように弱い生き物を捕らえて食べるのがライオンなのじゃ。 同じ世界で生きていくことは出来んのじゃ」
そう言って、 フクロウは黙って目を閉じました。
ウサギとリスと小鳥は、 一生懸命考えました。
どうすればライオンを助けられるのか、 長い時間、 うんとうんと考えました。
ライオンは、 いつもみんなで遊んだ森の広場の真ん中で、 切り株にもたれて休んでいました。
ウサギが来て言いました。
「ライオンさん、 どうか私を食べて下さい」
ライオンは、 首を横に振って言いました。
「ありがとう、 ウサギさん。 でもボクは、 キミを食べるなんて出来ないよ。 キミはボクにダンスを教えてくれた、 大切な友達だから」
リスが来て言いました。
「ライオンさん、 どうか私を食べて下さい」
ライオンは、 また首を横に振りました。
「ありがとう、 リスさん。 でもボクは、 キミを食べるなんて出来ないよ。 キミはボクにかくれんぼを教えてくれた、 大切な友達だから」
小鳥が飛んできて言いました。
「ライオンさん、 どうか私を食べて下さい」
ライオンは、 今度も弱々しく首を振りました。
「ありがとう、 小鳥さん。 でもボクは、 キミを食べるなんて出来ないよ。 キミはボクに歌を教えてくれた、 大切な友達だから」
ライオンはニッコリ笑うと、 切り株の根元に横たわり、 ゆっくりと目を閉じました。
そしてそのまま、 二度と動くことはありませんでした。
ウサギとリスと小鳥は、 とても悲しみました。
何日も何日も泣き続けました。
たくさん、 たくさん泣いたあと、 木の葉でライオンの体を覆い、 花を飾ってお墓を作りました。
そして、 また泣きながら、 お墓のそばで眠りました。
次の日の朝、 ウサギとリスと小鳥が目を覚ますと、 ライオンのお墓も、 木の切り株も無くなっていました。
そして代わりに、 一本の大きな木が生えていました。
広場の真ん中に立ったその木は、 太い幹から立派な枝がのび、 沢山の木の実が成っていました。
小鳥が木の枝に止まって歌い始めました。
ウサギは小鳥の歌声に合わせて、 ピョンピョンと木のまわりを跳びはねて踊りだしました。
リスは木の穴に入ったり顔を出したりして遊んでいます。
木はそよ風に揺られて、 楽しそうに葉を揺らしました。
おわり