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解決への糸口

 川中は鍛え上げられたプロレスラーのような、そのやたら大きい体を震わせる。


「……油島先生! あんたってやつは!」


「違う! これは断じて違う! な? 長野」


「はいご主人様」


「違うー! 高柳、違うって言ってくれ!」


「違います。ご主人様」


「違うー!」


 と一通り茶番を繰り広げると、川中は真面目な顔になる。


「ま、冗談はこれくらいにして。そちらの和風美少女に弓で襲われて、そちらの真面目そうな娘にナイフで襲われたと。そこの窓はエアガンかな?」


「ご名答です。長野、ナイフはどこで憶えた」


「エスクリマ。近所で教えてる」


 フィリピンの武術だ。

 もともとは古武術で剣や槍、ナイフや徒手、さらには棒術まである総合武術である。

 その中でもモダンと呼ばれる流派は、現代の戦闘に合わせてナイフなどの技術を進化させている。

 近年のハリウッド・アクション映画によく取り入れられている。

 そんなものを習うとはミリタリーマニアにしても気合が入っていると言えるだろう。


「最近はなんでも教えてるな。窓はエアガンか?」


 もし自作のアルコール銃だっりしたら取り上げないといけない。


「少し改造した」


「提出しろ。お前あとで反省文な。俺を狙ったの、原因はアプリか?」


「うん。10億円で」


「お前くらい頭が良ければ10億円なんて払われないのわかっているだろ?」


「完全匿名仮想通貨払い。ダークウェブでマイナーコインに両替して日本の取引所で円に換金する。さっちゃんも解放されて大勝利……」


 思ったより悪質だった。


「川中さん隠蔽お願いします」


「堂々と隠蔽の指示ですか」


「屋上の人質事件に改造銃騒ぎまであったら犯人も警戒しちゃって今後の捜査できないでしょ! ……って、行かないと!」


「おっと、そうだった。行きますよ」


 二人は校舎へ急ぐ。

 まるでB組なんとか先生の世界に迷い込んでしまったみたいだ。

 本当に茶番ばかりが起こる。

 まるで豚之介になにかをさせたいような。


「あ、そうか……」


「どうしました? 油島先生」


「どうして私を襲撃したんでしょうね?」


「そりゃ、人質騒ぎで警備が手薄になったから……油島先生を護衛してた巡回警官も人質騒ぎの対応に手を取られてますし」


「それな! つまり私を襲ったのは偶然じゃない。それなのに襲撃したのは柔道部と女子生徒。普通、ここまでやったんだったら総攻撃しませんか? それこそ体育会全部で私をボコボコにするとか。こんな緩いやり方をしてるってことは、私がヤクザを壊滅させたことを知らないのでは?」


「なるほど……でもそうするとなにが目的なんでしょうね?」


「おそらく個人的な恨みじゃないかと。恨まれるようなおぼえは……おう!」


「油島先生! 半藤先生が危ない!」


「急ぎますよ! 二人ともそこで待っていろ!」


 二人は、女子と柔道部員を部室に残し、必死になって沙樹のもとへ走る。

 階下では生徒たちが集まっていた。

 女子たちがキャーキャーと大騒ぎし、スマートフォンで動画を撮影している。

 やっていいことと悪いことの区別はついていないのだろう。

 若さとは愚かさである。豚之介もそれを叱る余裕はない。


「油島先生、行きますよ!」


 川中がわざと声を張り上げた。

 豚之介にとって優先すべきは沙樹だ。

 大騒ぎする生徒たちをかき分け、本館に入り屋上を目指す。

 元アスリートとゴリラ系男子といえど二人はおっさん。

 汗があふれ、息が切れ、アゴが上がってくる。

 それでも二人は四階まで上がり屋上に出る。


「沙樹先生!」


 屋上に出ると沙樹や他の教師たち、さらに警察までがいた。

 男子生徒が言葉にならない奇声を上げている。


「油島先生、二年の新島くんが人質を……って、川中さんまで。汗びっしょりでどうしたんですか?」


「ふう、ふう、ふぁあああああ」


 豚之介も川中も息が切れる。

 沙樹はまだ無事だった。

 それだけで二人は安堵した。


「ふう、ふう……この騒ぎの中、襲撃を受けたんです。それで沙樹さんが心配で心配で……げふッ」


「もうね、二人で走ってきたんですよ。はあはあはあ……」


「な、なんだかすいません」


「それで、今はどういう状態なんですか?」


「とりあえず、ご両親に説得してもらうことになって……」


「ちょっと待って! 今なんて!?」


 川中が心底驚いた顔で沙樹に詰め寄る。


「いえ、ですから新島くんの親御さんに説得を」


 川中の顔に血管が浮かび鬼のような顔になる。

 川中は教師たちをかき分けて前に出ると、ダッフルコートを着た男の腕をつかんで後ろに引っ張ってくる。


「な、なんですか!」


 男が抗議するが、川中は問答無用で拳を握り男の横っ面に鉄拳を入れた。


「ぎゃッ!」


「ちょっと川中さん! 何をするんですか!」


 沙樹があわてて川中を止める。だが川中は男の胸倉をつかみ今度は平手でもう一発。びちゃっと湿った音がすると川中は低い声で言った。


「おい、誰が親を呼んで来いと言った?」


「えっと、それは……ええっと……なんで呼んだんだ?」


「沙樹先生、やはり洗脳されてましたよ」


 警官は正気に戻ったらしく、ぼうっとしていた。


「おい、君、人質事件で犯人の親を呼ぶのは逆上させる危険があるって知っているよな?」


 川中は低い声でうなるように言った。

 普段ふざけた男だが、どうやら本性は鬼軍曹らしい。


「あ、はい。そんな、でも誰が……止めなきゃ……」


 警官はまだフラフラとしていた。

 なお、それが催眠が解けたせいか、今のパンチが原因かはわからない。


「君は他の連中を叩いて起こしなさい。油島先生、どうしましょうかね?」


 さらっと「同僚を殴れ」という鬼畜な命令を出し、川中は豚之介に聞く。

 豚之介はジト目で川中を見る。

 わざわざ「どうしましょうかね?」なんて聞いているのだ。「油島、お前出ろ」と言っているに等しい。

 だが鬼のようなことを言った自覚があるのかないのか、川中は涼しい顔をしていた。


「危なくなったら助けてくださいよ」


「了解です。真っ先に逃げます。ああ、半藤先生のことはまかせてください。必ず幸せにしますから」


「あとで拳で語り合いましょう。マジでぶん殴りますから」


「嫌だったら死なないことですね」


 お互いに軽口を叩く。

 この事件のおかげで川中という男の事がわかったような気がした。

 事件が終われば、本当の意味で友人になれそうな気がする。

 豚之介は今度は沙樹の方を向く。


「沙樹さん、愛してます」


「あの、豚之介さん。あの……それ死亡フラグ」


 それはわかっている。

 でも豚之介は死亡フラグを立てねばならなかった。

 なぜなら沙樹に生徒二人の奴隷問題を知られてから許してもらうために。

 今の豚之介は愛の戦士だった。

 そう、やらかしを許してもらうために戦うのだ。

 豚之介は教員や警官を押しのけ前に出る。


「新島くん。その子を放してあげなさい!」


 年甲斐もなく格好をつけた声で豚之介は叫ぶ。


「来たか。油島ぁッ!」


 新島がナイフを振り回す。

 長野とは違いただ振り回しているだけ、本当にド素人だった。

 さすがにカリの使い手である長野のあとだとアホらしくなってくる。


「その娘を離してあげなさい」


「うるせえ! てめえをぶっ殺して10億もらうんだよ!」


 豚之介はそのまま手を上げ新島に近づいていく。


「はいはい。10億、10億、相手してあげるから人質解放してね。一応言っておくけど、営利目的の殺人は高確率で30歳越えても出られないからね、刑務所」


「うるせえ!」


 新島はナイフを振るう。

 豚之介はそれをよけながら考えていた。

 なぜ、どいつもこいつもアプリの配信者を信じているのだろうか?

 ……洗脳だから。いや違う。

 深層心理的に信じてしまう要因があるのだ。

 そもそもなぜ豚之介を殺さねばならない?

 沙樹の恋人という立場への嫉妬?


 違う。

 そこに10億円の価値はあるだろうか?

 10億円をかけられるだけの合理的根拠があるはずだ。


「そうか……そうだったのか……」


 豚之介はつぶやいた。


「なにがだ! この豚野郎!」


 答えもせず豚之介は指を弾いた。


「【動くな】……もう力を隠す必要がないってことですよ。川中さん。真相がわかりました」


「そして……君……」


 豚之介は人質に取られていた女子の目の前にしゃがみ込む。


「【真実を話せ】」


 豚之介は指を弾くと命令した。

 女子の手にはナイフが握られていた。

体調崩して投稿できずにすみません。

はい、あと数話で終わります。

なんか無駄を削っていったら10万字に到達しなかった件。……はて?

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