エピローグ
女王アリを撃破した俺たち。
その日、村では祝杯が挙げられていた。
冒険者パーティ黄昏の竜の奮闘のおかげもあって、地下のメンバー達は全員無傷。
地上部隊も、キリコの治癒魔法があったおかげで誰も死ななかった。
ダンジョンボスを倒したことで、莫大な財宝が手に入った。
それを、今回は冒険者と村との間で折半することになった。
ほんとだったら全部冒険者のものになるだろうけども。
俺が村出身であったこと、そして、村の連中も討伐に参加してくれたこともあって、そういう取り決めとなったのだ。
「一件落着……か」
「そうだな」
ディアブロ姿の俺とフィオナが、笑っている村人、冒険者達を見てつぶやく。
「村の問題も解決したな。今回のことで」
フィオナが言う問題とは、この村の住人がよそ者に対して冷たいというもの。
それも今回外部と協力したことで、閑話されたように思える。
結局、人は社会的な生き物なのだ。
生きていく以上、他者と繋がりをもたざるをえない。
「ユート。これからどうする?」
「どうもこうもないさ。俺はこれからも、この村で、母さんを手伝いながら生きてくよ」
と、そのときだ。
「ゆーくん♡」
「……!」
振り返ると、母さんが居た。
微笑んで立っている。
……今、俺のことゆーくんって……。
ディアブロの正体は隠してるのに……。
「いいのよ、ゆーくん。深くは聞きません。でも……あなたはゆーくんなのよね」
母さんが、全てを察したような顔になってる。
どのタイミングで……? いや、どうやって……。
「ユート。観念しろ。貴様の母なのだ。長く一緒に居れば気づく」
「……そりゃそうか」
母さんは俺を責める感じでも無かった。
ただいつも通りニコニコしてる。
「それで……その……母さん……その、なに?」
「ああ、いいのよっていったのは、ずっとここにいなくてもいいのよって意味」
母さんがちょいちょい、と手招きする。
そこへ、村長のキリコがやってきた。
「村の人をね、雇うことにしたの。ルーシーちゃんとキリコちゃんと決めてね」
商人のルーシーからアドバイスを受けていたのか。
「ほら、人手不足でいそがしくて、ゆーくん倒れちゃったでしょ。そのときからずっと考えてたの。人増やそうって」
「……で、ちょうど仕事のない若者をナナミさんのところで働かせたらどうかと」
キリコは……母さんを毛嫌いしていたはずだ。
父さんを取られたって思っていたから。
でも……ふたりが協力するという。
溝は、解消されたって、そういうことか。
なんか、俺の知らないところで、全部解決していたな。
俺、いらなかったのかも……。
「そんなことはないぞユート。おまえがいたから、この良い流れは生まれたのだ」
フィオナが微笑んで、俺の手を握って励ましてくれる。
「貴様がこの世界に来て、その後を追ってきて、良かったって思ってる。すべては貴様の行動がきっかけなのだ」
俺は目を閉じて思い出す。
一周目の世界で魔王を倒した。世界は平和になった。
でも母さんは死んでいた。
マジックアイテムを使って2周目の世界に来た。
そこから色々あった。
色々あって、今……みんな笑っている。
この幸せが、俺の2周目での行動が招いた結果なのだとしたら……。
嬉しい限りだ。うん。
「いろいろ聞きたいことはるけど~。しばらくはフィオナちゃんとゆっくり旅行でもしてきたら~?」
「……ふたりは恋人なのでしょう?」
ま、まあ……。
そういや、たしかにフィオナと恋人らしいことしたことなかったな。
こっちきてずっと働きづめだったし。
「じゃあ……旅行でも、してみるか」
「ああ!」
どうやらフィオナも、ずっとそうしたかったみたいだ。
反省しなきゃ。
今まで俺は、目の前のことで手一杯で、周りを見る余裕が無かった。
でも今は、違う。
母さんが過労死することもない。
魔王が世界を滅ぼすこともない。
村人達は外の人間と共存する道を歩み出した。
……もう、勇者は、必要ない。
これから元勇者、ユート・ハルマートとして、この世界で恋人と、そして大事な人たちと歩いて行こう。
勇者の冒険は終わった。
これからは、新しい物語。
元勇者の、本当の2周目人生が、リスタートするのだった。
《おわり》
これにて完結です。
読了、ありがとうございました!




