水際
ダンジョンボスの部屋にやってきた俺たちだったが、そこに待ち受けていたのは、敵の罠だった。
女王アリは部屋から脱出して既にいなかった。
襲い掛かるアリたちの群れ。
俺たち冒険者は互いに背中を預けて、密集した陣形で敵に対処する。
「くそ! 数が尋常じゃねえぞ!」
魔法使いヒルドラが叫ぶ。一体の強さは、ここまで来るときに相手していたアリと同じなので、ほぼワンパンで倒せはする。だが、数が多すぎる。
倒しても倒してもきりがない。
「ディアブロ!」
リーダーのナハティガルが俺の名前を呼ぶ。
「迷宮核を破壊してくれ!」
振り返った先、部屋の奥には大きなクリスタルが鎮座している。
あれを破壊すれば迷宮、そして迷宮にすまうモンスターは消滅する。
ボスは部屋から逃げたものの、コアだけはまだ部屋の中にあるのだ。
俺はうなずいて、その場をナハティガルたちに任せて、コアのもとへ。
「でやぁ!」
俺は聖なる剣でコアを一刀両断する……だが。
「やったでごじゃるか!?」
「いや、違う。これはダミーだ!」
「な!? だ、ダミー!?」
驚くナハティガルに俺は説明する。
「切ったときの手ごたえで分かった。これは、鋼鉄アリが用意したフェイク。ただの迷宮の鉱物をそれっぽく加工してあっただけだ」
ボスにこれだけの知性があるなんて。
罠にはめてきた時点で考えるべきだった!
いや、まて。コアがこの場にないとしたら、いったいどこに……?
別の場所に移動させたのか。
おそらくは知性のあるボス……女王アリの仕業だろう。くそ! なんてめんどうな!
「どうするディアヴロ!? 撤退か!」
ここで引けば、この大量のアリたちがボス部屋から出て行って、それは餌を求めて地上へと出ていく可能性が高い。
そうなる前に、手を打つ。
「ナハティガル。俺は女王を追う。たぶん、あいつが核を持ってる」
迷宮のどこかに隠した可能性もある。しかし大事な大事な心臓だ。一番強いう女王アリが持っている可能性のほうが高い。
「みんなはここから、この雑魚アリどもが外に出ないよう、踏ん張ってくれ」
彼女たちは一瞬怯えたものの、すぐに強くうなずいた。
「わかった!」「なるべく早くたのむぜ!」
俺は彼女らを残して、ボスアリが作った大きな穴のなかに、身を投げるのだった。




