出発と村長
準備を整えて、俺は宿屋を出る。
今の外見は、大人……つまり、一周目のときと同じ、勇者ユートの見た目をしている。
俺は冒険者やるとき、外見を詐称している。さすがにこの子供の体で、ダンジョンには潜れないからな(母さんが許さない)。
宿を出て出口に向かっていると……。
「あ……キリコ、村長」
「…………」
この村の村長、キリコが立っていた。
まだ若いのに村長を任されてる人物だ。
俺を見ると、頬を染めながら言う。
「こ、こんにちは……その、ディアブロさん」
ディアブロ。それは、俺が冒険者するときの偽名だ。
キリコが照れてるのは理由がある。
俺の大人の外見が、父さん……イサミと似ているからだ。
キリコはどうやら父さんに惚れていたらしい。
「どこへ、行かれるの?」
「これから鋼鉄アリのボス攻略にいってくる」
「そう……」
キリコは何か言いたげだった。
でも、最終的に首を振る。
「気をつけて」
「ありがとう。それじゃ」
俺がキリコの横を通り過ぎようとする。そこへ……。
ぎゅっ、と、彼女が俺の手をつかんでいた。
「あ、あの……ね。ディアブロ……さん」
「?」
「……ボスが攻略されたら、もうこないのですよね?」
「まあ……」
ボスがいなくなれば、ダンジョンも消滅する。ディアブロがとどまる理由もなくなる。
「……私。私は、その……」
彼女は何を言いたいのだろう。ふるふる、と首を振った後言う。
「……ごめんなさい。やっぱりなんでもないわ。気をつけて」
彼女は微笑んで、手を振って言う。
「ああ、行ってきます」
こうして俺は仲間達とともに、ダンジョン攻略へと向かうのだった。
「……この冒険が終わったら、ディアブロさん。私……あなたに言いたいことがあるの……」
キリコの声はあまりに小さくて、俺の耳は届かなかった。