39.勇者、村長を正式にスカウトする
お世話になってます!
母さんが風邪を引き、キリコがウチを手伝ってくれることになってから、2日後。
母さんの風邪は長引いてしまい、復帰までに日数が必要だったのだ。
その間、キリコはウチを手伝ってくれた。ありがたい。
さて。母さん復帰一日目の夕方。ビアガーデンにて。
「みんな~、心配かけてごめんね~」
「「「ナナさーーーーん!」」」
冒険者の面々が、母さんの復帰を大いに喜んでいた。
「ナナさんごめん! お見舞いいけなくって! ほんとうはいきたかったのに!」
「馬鹿野郎! 俺たちの間で紳士協定を結んだだろうが!」
「そうだ! 風邪をもらったら、ナナさんが申し訳なく思っちゃうからって、みんなでお見舞いいかないって決めただろうが!」
冒険者たちはみないい奴らばかりだ。身を案じて、お見舞いに行きたくても、こうして相手のことを思いやり我慢してくれる。
「ううん~。いいのよ~。その気持ちだけで、ママとってもうれしいわ~♪」
母さんが最高のスマイルを浮かべる。
「「「はうぅ……!!!」」」
冒険者たちが、心臓を押さえる。
「なんという……殺人的スマイル!」
「犯罪級だぁ……!」
「ナナさん! おれ……おれもう我慢できない! おれ自分の心に嘘をつけねえ……!」
最後のやつが、周りの人たちに「抜け駆けすんな!」「抜け駆けえぬじーだっつっただろうが!」とボコられていた。
ここで特筆すべきなのは、ボコっている人間が、冒険者だけじゃないということだ。
村人も混じっていた。村人たちにも、この若くて優しい、巨乳の未亡人オーナーは大変人気なのだ。
息子として、母が人気なのは鼻が高いが、しかしちょっといやな気分になる。独占欲というか、わからないが。
「みんな仲良しさんね~」
「「「もっちろん! 僕たちちょーなっかよしさんでーす!」」」
とぼこっていた冒険者と村人の若者たちが、肩を組んでいう。
「……あなた何をしてるの?」
「あ~♪ キリコちゃん♪」
私服姿のキリコが、母さんのそばにやってくる。
「こんばんわ~♪」
「……ええ、こんばんは」
ふぁさ……っとキリコが長い黒髪を手ですいていう。
「風邪の間、手伝ってくれてありがと~♪」
「違うわ。あなたのために手伝ったわけじゃないの。勘違いしないでくれないかしら?」
ふん、とキリコがそっぽ向く。母さんはニコニコしながら、キリコの手を握って笑う。キリコはやりにくそうに顔をしかめていた。
その現場を見て……冒険者たちはというと。
「……尊い」「……尊ぇ」「美女たちの百合……尊すぎる……」
と涙を流して、拝んでいた。何やってるんだこいつら……。
「やっぱナナさん攻め。キリコちゃん受けだよな」
「いや待ってください。最近逆もありかなと思い始めました」
村人と冒険者の若者が、そんなアホな会話を繰り広げる。
「ばかやろう青年。それは邪道だろうが」「そうだぜ。まだまだ若いなおまえさん」
と否定する冒険者たち。
「考えてください。つまりですね、普段クールな村長が欲望を抑えきれなくなってナナミさんの体に溺れるわけです。ナナミさんはその包容力をいかして、すべてを受け入れるのです。どうですか?」
村人の青年がそう言うと、冒険者たちは固まる。
「……ありか?」「ありよりのありだろ」「むしろそっちの方が……」
と馬鹿なことを言い出す。
「……あなたたち、なにふざけたことをいってるのかしら?」
それを聞いたキリコが、極寒の表情で、彼らをにらみつける。
「俺たちふざけてないです!」
「真剣にふたりのカップリングを考えてました! なあ青年!」
「ええ、僕らは大真面目です」
うんうん、とうなずきあう冒険者と村人青年。
「…………」
「キリコちゃん、お顔こわいわ~。スマイル~スマイル~♪ ねー♪」
と笑う母さん。キリコがはぁ、とため息をついた。
「まあ、どうでもいいわ。あなたたちで好きになさい」
キリコはそう言って、その場を離れようとする。
「どこいくのキリコちゃん?」
「今日もお酌してくれよ!」
冒険者たちが、キリコを引き留める。彼女は振り向いて、首を振る。
「私はこの女……オーナーが復帰するまでの臨時バイトよ。彼女が復帰したのだから、もう手伝う必要はないでしょう?」
しかし……。
「「「えぇーーー!!」」」
と客たちが絶望しきったような表情で、不満の声を張り上げる。
「そんな!」
「もうキリコちゃん手伝いに来てくれないの!?」
「キリコちゃんもったいないよ! あんなに給仕姿にあってたのに!」
と客たちが口々に言う。どうやら冒険者の間でも、キリコのファンが増えてきているようだった。
「に、似合うに合わないは関係ないわ。とにかく私はもう今日からは手伝わない……」
といおうとしたそのときだ。
「「「そんなぁ………………」」」
と村人、そして冒険者たちも、がっかりとした表情を浮かべる。
「ショックだ……」「ナナさんとキリコちゃんの二大美女を見るの楽しみに生きてるのに……」
「ナナさんとキリコちゃんの百合が見れなくなるなんて……生きがいがなくなるよぉ……」
はぁ~…………と重くため息をつく客たち。
「そ、そこまで落ち込む必要ないでしょう……?」
「「「はぁ~…………」」」
露骨に落ち込む客たち。それを見て、俺はキリコに言う。
「キリコ」
「なにかしら、ユート君?」
俺はキリコのそばへ行く。彼女を見上げる。この体、子供だから、どうしても慎重さが生まれれてしまうんだよな。
「もう少し、うちを手伝ってくれないか?」
俺の言葉に、キリコが「それは……」と言いかけた、そのときだ。
「「「そいつぁいい! それは最高だ!」」」
と客たちが晴れやかな表情になる。
「もう少し続けてくれよキリコちゃん!」
「ナナさんにキリコちゃん。二大美女をつまみに酒が飲める。それが毎日の楽しみなんだよ!」
「つらい肉体労働者の俺たちの、最後のオアシスがここなんだよ……!」
と嘆願する冒険者たち。
「村長! 僕たちからもお願いします!」
「村長がここで働いてくれてるおかげで、ほかの村の連中もここを利用しやすくなってるんです!」
「村のためと思ってぜひ!」
利用している村人たちからも、お願いされるキリコ。
「キリコ。みんなもこう言ってるし、俺もキリコが手伝ってくると、従業員……母さんたちの負担が減って助かると思うんだ」
村長がここで働いてくれてるおかげで、すべてがうまく回る。宿側は人数を確保できて助かる。
村側は村長という代表者がここにいるおかげで、交流の場であるここに顔を出しやすくなっている。
「…………」
「キリコ。頼む」
「キリコちゃん、お願い~」
俺も、そして母さんもキリコに頭を下げる。正直人数は最低限で回している。
前回のようにひとりでも、風邪を引くと回らなくなるのだ。だからホールだけでも手伝ってくれる人間がいてくれると助かる。
それにキリコの仕事っぷりも申し分ない。言われたことはすべて正確にこなすしな。
さて。
俺たちの言葉と、周りからの熱意に押されたのか。
キリコは逡巡の後、
「……夕方の、ビアガーデン、だけなら」
と手伝いの継続を、了承してくれた。
「「「やったー!!!!」」」
と客と、そして母さんが、諸手を挙げて子供のように喜ぶ。
「ありがと~。ママうれしい~♪」
母さんがキリコを、正面からハグする。キリコは「や、やめなさい」といって逃げようとする。
「きたぞこれ!」
「おい誰か!【記録の水晶】もってないか! 映像記録するやつ!」
「ばかやろう! そんなレアアイテムもってねえよ!」
「記憶に! 記憶にこの姿を焼き付けるんだおまえら!」
と客たちが、母さんたちの姿を熱心に見やる。
「あななたちも見てないでこの女をなんとかしなさい!」
「「「いやです! むしろもっとやってください!」」」
「この阿呆どもがー!」
キリコが珍しく声を荒げる。客たちはびびるどころか、きれいだ、怒ってる顔も美しい……と好意的に捉えている。
客の中の村人たちも、村長と母さんのやりとりを笑ってみていた。その様子を遠巻きに見ていた村人たちも、興味を引かれて、次々やってくる。
……かくしてキリコが本格的に手伝ってくれるようになり、村人がよりいっそう、やってきてくれるようになったのだった。
書籍版、12月15日発売です!
まもなく発売日となりました。
僕を含めて、たくさんのひとたちが頑張っていい本に仕上がったと思いますので、手にとっていただけると嬉しいです!
ではまた!




