37.勇者、臨時バイトの村長のフォローをする【後編】
お世話になってます!
えるるが風邪を引いてしまい、職員に穴が開いてしまった。
その代わりに、臨時で、村長キリコが、うちを手伝ってくれることになった。
話はその数時間後。夕方。16時。
仕事を終えた冒険者たちが、今日も、うちの宿屋に飲みにやってくる。
「あー疲れた~」「今日もナナさんのところでナナさん成分を補充しに行こうぜ」「さんせー」「一日一回ナナさんみないと、俺体調悪くってさ~」
がやがや、と男冒険者たちがやってくる。
そして入り口で、彼らは固まった。
「「「「…………」」」」
冒険者たちは、俺の隣にいる人を見て、硬直していた。
「…………」
「キリコあいさつ」
「え、ええ……」
すると隣に立っていたキリコが、冒険者たちに言う。
「い、いらっしゃい……ませ」
ぎこちない笑みを浮かべて、キリコが言う。ややあって、冒険者たちが、
「「「…………め、」」」
「め?」
「「「めっちゃ美人やないかああああああああああああい!!!!」」」
うおぉおおおおおおお!!! と男どもが叫ぶ。
「やべえ、村長さんめっちゃ美人!」「普段見えてないうなじがベリーそーきゅーと!」「しかもミニスカ! ミニスカをはいてらっしゃるーーーーー!!」
キリコはここで働くことになった。けど普段着ではいけないと、ルーシーと母さんが、キリコに制服を着せたのだ。
すなわち、ミニスカ浴衣を。
「恥辱……。圧倒的恥辱……」
キリコは顔を真っ赤にして、スカートを手で押さえる。体のラインが細い彼女は、浴衣がよく似合っていた。
そして太ももは、意外にむちっとしており、白くつやつやとしている。
長い黒髪は高いところでポニーテールにしており、真っ白なうなじがのぞいていた。
「村長さん! よく似合ってるっすよ!」
「ああ、めっちゃエロい!」
「美人でエロい!」
ぐっ! と男どもが親指を立てる。
「…………」
「き、キリコ。こいつらに悪気はないから。そんなふうににらむなって」
「にらんでないわ」
しかしぎろり、と相手を射殺すばかりににらんでいる。しかし……。
「ああ! いい!」「グッド!」「クールビューティな感じがまたいい!」「もっとにらんでください!!!」
と男どもがメロメロになって言う。まあキリコは美人だ。すごんでいてもその美が崩れることはない。
「キリコ。抑えて。接客」
「……あなたたち、どうするの? うちを利用するのかしら?」
怒りを抑えながら、キリコが冒険者たちに尋ねる。
「ああ!」「もちろん!」「今日は村長さんに接客してもらえるなんて、ついてるぜ!」
「「「それな!!」」」
冒険者たちが、喜々として、ビアガーデンを利用していく。
その一方で……。
「き、キリコ村長っ?」「ほんとだ、キリコさんだ」「キリコさんがお店で接客やってるぞ!!」
遠巻きに見ていた、村人たちが、キリコを見て言う。
「……くっ!」
「キリコ。たぶん彼らはネガティブな意味で言ってないから」
「………………」
キッ……! とキリコが、遠巻きに見ていた村人たちを見て言う。
「あなたたちは、どうするの? 来るの? 来ないの?」
びくぅ……! と村人たちが硬直させる。
「い、いきます!」「キリコさんの浴衣姿……めっちゃいい!」「おい間近で見に行こうぜ」
そんなふうに、ここへ来たことのなかった村人たちも、キリコに惹かれてやってきてくれた。
「サンキュー。キリコ」
「…………どうも」
一通り客寄せした後、今度はキリコが注文を取りに行く。
まずは冒険者たち。
「い、いらっしゃいませ……」
すると男どもが、「きたぁ!」「村長さーん!」「こんばんわー!」
と子供のように無邪気に笑って言う。
「の、飲み物のご注文はいかがしますか?」
ひきつった顔になりながらも、キリコが注文をとる。
「おれ生。みんなも?」「「「生ー!」」」
と返事をする。
それに対して、キリコがきょとんと首をかしげる。
「生……とは?」
「ああ、それは生ビールのことだ」
俺が言うと、キリコが納得したようにうなずく。
「では少々お待ちください」
「「「はーい! キリコちゃーん!」」」
と返事する冒険者たち。
「キリコ……ちゃん?」
きゅ……っと眉間に皺を寄せるキリコ。
「……あなたたちにちゃん付けされる覚えは、ないのだけれど」
普段の険しさを発揮して、キリコが冒険者たちをにらみつける。だが……。
「「「やべえええええ!!!」」」
と男どもが叫ぶ。悲鳴じゃ……ない。歓声だった。
「ミニスカ浴衣姿でののしられるの……いいな!」
「ああ。クール系美人なキリコちゃんが、ファンシーな格好でにらんでくれる!」
「そのギャップがいい!」
「「「いい!」」」
「あ、アホしかいないのかしらここ……」
とあきれるキリコ。
「そうだ。基本的にそんな感じだよ」
「そ、そうなのね……」
キリコが何もしてないというのに、男どものキリコに対する好感度は上がっていく。
「キリコ。気にしたら負けだ。酒を注ぎにいくぞ」
「……そうね」
俺はキリコを連れて、サーバーの前へ行く。樽を改造して作った、ビールサーバーというやつらしい。
「ここのコックを開くと中身が出るんだ。最初はジョッキを傾けて……」
と俺は使い方をレクチャーする。最初の方はつききりで教え、慣れてきたらひとりでやらす……という方針だ。
キリコはマジメだ。俺が何かを教えると、メモを必ずとるのである。まあさっきメモをチラッと見たら、冒険者=基本的に阿呆と書いてあった。
ジョッキにビールを注いで、お盆にのせて、キリコがさっきのテーブルへともどる。
「きたぁあああああ!」
「ミニスカ! ふともも! むっちむちー!」
「ばっきゃろう! エッチな目でみるんじゃねえ!」
「バカとはなんだてめえもスケベなめで見てるんじゃネエか!」
ととっくみあいのケンカを始める。
「と、止めた方が良いの……?」
困惑するキリコに、俺は首を振るう。
「気にすんな。テーブルにジョッキを置けば良い」
俺の指示を聞いて、キリコがジョッキを置いていく。すべてのジョッキがおき終わると、ぴた……っと男たちがケンカをやめる。
「そんじゃてめえら、今日もお疲れさん。かんぱい!」「「「かんぱーい!」」」
杯をつきあわせ、冒険者たちがビールを飲む。笑顔でごくごくと飲んでいる。
その姿を見て、キリコは目を丸くする。
「さっきまでこの人たち、言い争ってなかった?」
「ああ、あれはじゃれてるようなもんだ。本気で切れてないよ」
「そう……」
キリコは彼らを見て、ふっ……と微笑む。
「カラッとした人たちなのね」
感心したような、見直したというか、そんな感じのニュアンスで、キリコがつぶやく。
「キリコちゃーん! おっかわりー!」「あ! おれもおかわりちょうだい!」
とさっそく冒険者たちが、ビールを飲み干して、キリコに注文する。
ちゃんづけを怒るのか……と思ったが、
「わかりました」
と言って、キリコは空いたジョッキを片付けて、新しい物を持ってくる。
「怒らないのか?」
「そう言う人たちなんでしょ」
どうやら存外早く、仕事を覚えてくれそうだった。
☆
最初は手間取った物の、キリコはあっという間に仕事を覚えた。
「フィオナさん。たこ焼きがなくなったわ。補充を」
「任せろ」
「ルーシーさん。あっちの人たち会計をしたいそうよ」
「了解ですキリコさん」
「キリコ。これ持って行ってくれ」
「ええ、わかった、ユート君」
かように、はなまる亭のメンバーたちとも、うまく連携をしてくれている。
問題はと言うと……。
「キリコちゃ~ん」
ぱたぱた、と走って、母さんがキリコに近づく。
「……なんでしょう?」
キリコがさっきまでと違い、あきらかに拒絶のオーラをだしながら言う。
「あついでしょ~? はいこれ飲み物~。水分補給しないとだめよ~」
母さんの手には、給水ボトル(ルーシーが作った)が握られていた。砂糖とレモン、そして体力が回復する植物を、【万能水薬】で作った俺特製の飲み物である。
「……結構」
キリコはふいっ、とそっぽ向いて、母さんからボトルを受け取らないで通り過ぎる。
……他のメンバーたちとは、うまくやれてる。だがどうしても、母さんとは、わだかまりがあるようだ。
「そんなこと言わないで~」
ぱたた、と母さんがキリコのもとへいく。そしてその口に、
「ていやー」
と給水ボトルをツッコんだ。
「!?」
キリコが目を白黒させる。
「はい飲んで飲んで~」
母さんがボトルを押しつぶし、キリコに水分をとらせる。ややあって、キリコが口を離す。
「あ、あなたね……」
「熱中症は、こわいよ~」
にこにこーっと母さんが笑って言う。
「…………」
毒気を抜かれて、キリコがはぁ……とため息をつく。
「……どうも」
キリコはそう言うと、仕事へもどる。
「母さん」
俺は母さんに近づく。
「ん? なーに~?」
「母さんは……すごいな」
自分が嫌われてるにもかかわらず、こうして従業員の体調を気配りできるのだから。
「? ありがとー」
よくわかってないのだろうが、母さんはニコニコと笑った。
「ママものどかわいちゃった~。水分補給~」
そう言って、母さんがボトルを飲む。さっきキリコが飲んだボトルに、口をつけていた。
「「「!!!!!」」」
それを見た、冒険者パーティ【若き暴牛】のメンバーたち。
「ぐ、ぐあああああああ!!」
暴牛のリーダーが、いきなり苦しそうに叫んで、その場に倒れた。
「あらあら~。どうしたの~?」
ぱたぱた、と母さんがリーダーの元へ行く。
「な、ナナさん……どうやら俺は……熱中症のようだ!」
とか、なんとか言う。
「あら~。大変~」
「……ああ。す、すぐに水分を……。そのボトルを……俺にください……」
「わかったわ~」
と母さんが口つけたボトルを、リーダーに手渡そうとしたそのときだ。
「てめふざけんな!」「ナナさんと間接キスしたいだけだろ!」「ばっかおめえ黙ってろ!」
リーダーが他のメンツと言い争いをする。
「ナナさん! ああ……! 俺も何だかめまいがするぞ!」
「俺も俺も! 熱中症だぐわあああああ!」
「俺もだめだ……水分を。ナナさんが飲んだそのボトルで水分を補給したいいいい!」
男どもがいっせいに叫び、水分をもらおうとしている。
というか、母さんと間接キスしようとしていた。あ、アホすぎる……。
「アラアラ大変~」
男どもの欲丸出しの演技に、本気で心配してるようだった。
「すぐに水を持ってこないと~。ボトルこれだけじゃ足りないわ~」
と持ってこようとした、そのときだった。
「……お客様がた。どうぞ」
そう言って、客の口に、瓶ビールをツッコんでいく。
「ぶっ!」「ぶべっ!」「ぐっ!」「ぐおっ!」
「これで水分補給なさってください」
そう言い放つのは、誰であろう、村長のキリコだった。
「き、キリコちゃーん……」
「うちの店主を困らせないでください」
と、キリコが毅然と言う。
「この人も他に仕事があるんです。あなたがたばかりに付き合ってられないのは、あなたがたもわかるでしょう?」
きっぱりとキリコが言う。冒険者たちは「「「はーい! わかってまーす!」」」
と素直に返事した。
「ナナさんごめん! もうなおったから!」
「俺もバッチリ治ったぜ!」
「ナナさんとそしてキリコちゃんのおかげでばっちりだ!」
「迷惑かけてごめんよー!」
と暴牛たちが、母さんに謝る。
「良かった~。みんなが復活して、ママ嬉しい~♪」
母さんが、太陽のように、明るい笑みを浮かべる。
「「「はう……!!!」」」
と暴牛の連中が、いっせいに心臓を抑える。
「ナナさんのスマイル……プライスレス!」
「いやでもキリコちゃんの冷たい態度もいいよな」
「あー! おまえナナさんにいってやろ! いーってやろー!」
「これでライバルひとり脱落だな!」
とまた暴牛たちがケンカし出す。
「仲良しさんね~」
「「「はーい! ぼくら仲良しっでーす!」」」
と母さんが暴動を収める。このひと無自覚に騒動の種をまいて、自分で刈り取っていくよな。ルーシーが言っていた地産地消ってやつか……。
さて。
はからずも母さんをかばったような態度を見せたキリコ。その場からす……っといなくなろうとした、そのときだ。
「キリコちゃ~ん」
母さんがキリコに近づく。
「さっきはありがと~。みんながこれで脱水症にならずに、すんだわ~」
と母さんは、あくまでも、彼ら冒険者たちのことを案じてるようだった。
「……どこまで鈍感なの、あなたは?」
やれやれ、とあきれたように、キリコが首を振る。たぶん彼女は、さっき冒険者たちが、母さんの気を引きたいために演技していた。そのことを気付いたのだろう。
「?」
「……まあいいわ。べつにあなたを助けたつもりはない。さっきの……おかえしよ。水分補給の」
言って、キリコはそっぽ向いてその場を離れようとする。
「まって~」
母さんがキリコの両手をつかむ。にっこりと笑って、言う。
「ありがとね~」
「……ど。どうも」
にこーっと笑う母さん。手をふりほどこうとするキリコ。
その姿を見て……。
「……いいなあ」「……百合ってヤツか」「ああ、百合ってヤツだ!」
と暴牛の連中が、また阿呆なことを言っていた。
「キリコちゃんにナナさんか……いいな!」
「おっとりナナさんの無自覚攻め。キリコちゃんは普段はつんつんしてるけど、ナナさんの前だけでは甘くなる的な?」
「「「ナイスかっぷりんぐ!」」」
とまあ、またバカなことを言う連中。しかし村長と母さんとが仲良くしてるのを見て、冒険者も、そして村人たちも、互いにあった緊張感? のようなものが薄れてるような気がした。
現に……。
「わかる……。村長ナナさんのカップリング、いいよな」
と暴牛の話を聞いて、村の若者がからんでくる。
「! おめえさんもそう思うか!」
「ええ。百合は文化です。いいものです」
「よしこい! 話し合おう! じっくりと!」
暴牛にさそわれ、村の若者がそのテーブルに着く。
「攻めはナナさんだよな」
「ええ。あなたわかってますね」
がしっ! と腕を組み合う村人と冒険者。
……まあ、当初の予定とは違ったけど、しかしちゃんと交流を持ててるみたいだ。
少しずつ、こうして両者とも仲を深めていってもらいたいと、俺は思ったのだった。
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頑張って書いたので、手にとっていただけると嬉しいです!
ではまた!




