表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/72

37.勇者、臨時バイトの村長のフォローをする【前編】

お世話になってます!



 ビアガーデンを開いて、1週間が経過したある日のこと。


 朝の食堂。朝食の席にて。


「あら~? えるるちゃんは~?」


 母さんがハテ、と首をかしげる。


「そう言えばえるるさんがいませんね」


 商人エルフのルーシーが、ふむとオトガイに指を立てる。俺はうなずいて同意した。

「妙だな。いつも真っ先に飯食いに来るのに」


 気になったので、俺はえるるの部屋まで向かう。今まで、従業員たち(ルーシーやえるる)は、宿の空いている部屋を使っていた。


 だが人の入りが多くなってきて、それじゃあまずいだろう。とルーシーが提案。俺は【創造の絨毯】を使って、職員たちの暮らす小屋(宿舎って言うらしい)を作った次第だ。


 俺はルーシーとともに宿舎へと向かう。えるるの部屋の前に到着。俺はドアをノックする。


「えるる? どうした?」

【ぶぇええ……ゆーどざぁあああん……】


 ドア越しにえるるの声が聞こえてきた。だがどうにも、ガラガラ声だ。


「まさか……?」


 俺たちはドアを開けて、えるるの部屋へと行く。そこには……えるるが、真っ赤な顔をして、ベッドに横たわっていた。


 ちょっぴりぽっちゃり体型の、美しいエルフ。ずびずび……と鼻を鳴らしていた。


「ぶぇええっくしゅ! はっくしゅ! ぶぇえええええくしゅーーーーー!!!」


 えるるが何度も、くしゃみをする。俺は慌ててえるるに近づく。


「大丈夫か? 風邪か?」

「うう……ぐず……ずびばぜぇん……」


 どうやらえるるが風邪を引いてしまったらしい。


「夏風邪ですか。しかし何が原因なのでしょうか?」

「え、えへへ……昨日ちょっと熱くって、窓開けてその上お腹出して寝てたら……てへへ」


「そりゃ風邪引くよ……」

「うう……ごめんなさい……。わたし体にお肉が無駄にたくさん蓄えてるから、熱がこもっちゃうんです……」


「しかたない。ゆっくり休んでるんだぞ」

「うう……ごめんねユートさん……ぐす……やさしい……」


 はくしゅん、はくしゅんっ! とくしゃみをするえるる。俺はあとで飯と薬を持ってくると言って、ルーシーとともに部屋を出る。


 裏庭の宿舎から、宿の本館へと戻る間、


「しかしちょっと困りましたね」


 ふぅむ、とルーシーがうなる。


「そうだな……ただでさえ結構いっぱいいっぱいだもんな」

「ええ。最小限の人数で回してます。えるるさんがいなくなると、ホールが回りません」


「新しく人を雇うか?」

「難しいでしょう。急すぎます。それに知らない人を使うのはちょっと抵抗がありますね」


 ううーん……と頭を悩ませる俺たち。


 裏口から本館へと入り、食堂へ戻ろうとしたそのときだった。


「ごめんください」


 と、玄関口に、誰かがやってきたのだ。こんな朝っぱらから客か……? と思ったら違った。


「キリコ」


 村長のキリコだった。長く艶のある髪の毛を手ですいている。


「おはようユート君」


 キリコは俺を見ると、ふっと微笑んであいさつする。後のルーシーを見て、すぐにもとの、険しい表情にもどった。


「どうしたんだ?」

「回覧板を持ってきたのよ」

「ありがとう」


 俺はキリコから回覧板を受け取る。キリコはジッ……と俺を見やる。


「どうした?」

「否定。それは私のセリフよ。どうしたの、難しい顔をして?」


 キリコがしゃがんで、じっ……とおれの顔をのぞき見る。表情に出ていただろうか?


「ちょっとトラブっててな」

「トラブル……?」

「うちの従業員が風邪引いちゃって……」


 と、俺はここで妙案を思いつく。そうだ、見ず知らずじゃない、ちゃんとしているひとなら、ここにいるじゃないか。


 俺はルーシーを振り返る。ルーシーは何かに気付いたような顔になる。察しがついたのだろう。ただちょっと苦い顔をしていた。それでもうなずいた。


「キリコ。お願いがあるんだ」

「何かしら? ユートくんのお願いなら、何でも聞くわ」


 キリコは何かと、俺を優遇してくれる。それはたぶん、イサミさん、つまり父さんの息子だからと言うひいきが入っているだろう。


 立場を悪用するようで、ちょっと気が引ける。けど俺はいう。


「うちを手伝って貰えない?」

「うち……この宿屋を、ということかしら?」


 俺はうなずく。キリコの眉間に、きゅっ……とシワが寄った。


「イサミさんをとった、あの女の宿を、私が手伝う……?」


 ぶつぶつ、とキリコが言う。独り言のつもりだったのだろうが、しかし俺は聞こえた。


 キリコは、父さんに気が合った。けど思いを告げる前に、父さんは母さんと結ばれた。キリコは、父さんを母さんがとった……と思っている。


 母さんにそんなつもりは毛頭ない。けどキリコは自分の考えに固執してしまっている。だから、ふたりの仲は平行線を描いているままだ。


 俺は、できればキリコも、母さんと和解して欲しいと思っている。村人と冒険者よそものたちだけじゃない。


 村長キリコと母さんも、みんな仲良くしてもらいたいと思っている。今回はそのきっかけにもなってくれるかも……と俺は思ったのだ。


「キリコ。頼む。ピンチなんだ」

「…………」


 キリコは迷っているようだ。うちを助ける義理はないだろう。それでも父さんの、思い人の宿がピンチであり、その息子から助力を求められている……。


「それに今、ビアガーデンを休むわけにはいかないんだ。せっかく村の人たちが、少しずつやってくるようになってきてる……良い流れができてるんだ。だから……」


 俺がまくし立てるようにいった、そのときだ。


「……わかった」


 ふぅ、と吐息をつく。


「……家を助けようとする、優しいあなたに免じて、今回だけ手伝ってあげる」


 キリコは立ち上がる。


「本当に良いんですか?」


 ルーシーが、キリコに尋ねる。


「……ええ。協力するわ」


 かくしてキリコが、うちの手伝いをしてくれることになったのだった。

書籍版、12月15日発売です!

Amazonその他で予約開始してます!手にとってくださると嬉しいです!


またアーススターの公式ページで、試し読みができます。

https://www.es-novel.jp

でチェックしていただけるとなお嬉しいです!


ではまた!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ