表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/72

36.女騎士、黄昏の竜たちと食事する【後編】

お世話になってます!




 フィオナたちが食堂に来て30分後。


「いやぁ食った食ったぁ……」

「……満腹れしゅ」


 はふん、と魔術師ヒルドラ野伏アサノが、満足そうに吐息をつく。


 今日の分の食材は、客に出してほとんど無かった。余り物ではあったが、それでも作れてなおかつ美味しい物を知恵と経験を振り絞り、メニューを考えたのだ。


 もてなすつもりで出した料理を、客はちゃんと満足してくれた。それが嬉しかった。


「いやしかしフィオナ君。いつも思うが、君の料理の腕は最高だね」


 この【黄昏の竜】のリーダーである、金髪剣士ナハティガルが、にこやかに言う。


「…………」

「ふふふ~♪ フィオナちゃん良かったね~♪」


 隣に座るのは、店主のナナミだ。ニコニコしながらフィオナを見やる。


「ナハティガルちゃん、フィオナちゃんとっても喜んでるわ~」

「な、ナナさん……。私は別に……」


 しかし料理人として褒められて、嬉しい気持ちなのは事実だ。


「しかしよぉ、あんたこれだけ料理が上手で、美人なんだ。さぞモテるんじゃあねえか、なあ?」


 ヒルドラがニヤニヤしながら、フィオナに聞いてくる。女子はこの手の話題が好きなのだ。


「そんなことはない。私は生まれてこのかた、一度たりともモテたことはない。その必要も無い」


 たったひとりの男性ひとを、ずっと思っていたのだから。それでよかった。


「「「ほっほー」」」


 ナナミ、ヒルドラ、そしてナハティガルが、キラキラと好奇の目を向けてくる。


「聞きました~?」

「ああ、聞いたな」

「こいつぁ……におうな。恋する乙女のにおいだよなぁ……!」


 にっこーと、楽しそうに笑う。しまったおもちゃにされる。そう思って、フィオナは逃げようとした。


「まあまあ座ろうじゃないか、フィオナ君」


 がしっ、とナハティガルが肩をつかんでくる。逆側からヒルドラが、同じく肩に腕を回してくる。


「ナナさん、お酒ってねえのかよぉ?」

「がってんだヒルドラちゃ~ん。持ってきたよ~」


 てーん、とナナミが手にワインボトルを持ってやってきた。


「まあまあ飲みなよぉ。そんでゲロっちまおうぜ」


 にんまりと笑いながら、ドボドボとワインを注ぐヒルドラ。


「……そ、ソフィはどうしてる。やつを呼ぼう。ヤツの方もまた恋をしているらしいぞ」

「残念ながらソフィくんはおねむの時間だ」


 どうやら就寝してるらしい。ええい早すぎる! 子供か! ……子供だったなと思い直すフィオナ。


「しかしよぉフィオナ姉さんよぉ」


 にやり、とヒルドラが意地悪そうに笑う。

「そこまで嫌がるっつーことはよぉ、いるんだろ、惚れてる男が」

「しかも近くにいると私は思っている。しきりに周りを気にしてるところが特にな」


 無駄に勘の良い女たちだ。


「……み、みなのもの、フィオナしゃんが困ってるでごじゃる。やめるのれしゅ」


 小柄なアサノが、止めに入ってくれた良かった仲間がいた。


「おめぇもなんだかんだで興味あんだろよぉ?」

「……せ、せっしゃはべちゅに」


「あーん? なら飯食い終わったんだからさっさと自分の部屋に戻れや。なぁ?」

「…………」


 アサノはソワソワしながら、グラスを手に取る。そしてワインを注いで、フィオナの前に差し出した。おまえもか!


「フィオナちゃん~♪ ママ、気になるな~♪ きーにーなるなー」


 ニコニコーっと笑いながら、ナナミが首をかしげる。


「フィオナちゃんってとぉっても美人じゃない~? でもぜんぜん浮いた話とかなかったから~。ママ、俄然興味あるな~」


「ナナさん……」


 これは逃げられない雰囲気だ。


「逃がさねえぜ」と、目で語っていた。みんな。恋バナに食いつきすぎだろ!


「それでどうなんだい?」「どうなの~?」「教えてくれよぉ。ここだけの秘密にスッからよぉ」「…………」


 女子たちの爛々と輝く目に押され、結局フィオナは「……少しだけだぞ」と酒を飲む。


 酔ってないと語れない。


 

    ☆



 フィオナはとつとつと語った。


 もちろん相手がユートであることは、いっさい漏らさなかった。


 名前を伏せ、要所要所ボカしながら、そしてフィクションを交えて言う。


 自分には幼なじみがいたこと。彼を愛してること。彼は途中で実家を出て出稼ぎに行ったこと。


 たまらなくなり、彼についていったこと。彼を支え続けたこと。しかし彼とは結局結ばれなかった……と。


 と、勇者・魔王のことを伏せながら、そんなことを語ったのだ。


 結ばれなかったとしたのは、結ばれていたらこの場にいるわけないからだ。相方はどこに行ったのかと問い詰められても面倒だし、わかれたとするのがベストの回答だろう。


「ほぉー……」


 語り終えた後、女子たちが感嘆のため息をつく。


「ずっと彼を思い続けたのね~。純愛ね~」


 うんうん、と黄昏の竜たちがうなずく。


「フィオナ君は一途だなぁ」

「……素敵れしゅ」


 うっとりと、ナハティガルとアサノが言う。嬉しい。そんな風に褒められて言われ、嬉しい。


「しかしよぉ……フィオナ姉さん」


 ドボドボ、とナハティガルがワインを注いでくる。


「姉さん……って。貴様私より年上だろうが」

「ああん? ちげえよ。おれまだ19だぜ?」

「……ウソだろおい」


 信じられなかった。このがたいのいい魔術師が……まだ20にいってないだと!?


「百戦錬磨の女武闘家かと思っていた」

「あー、ひでえ……! おれはかよわい十代の魔術師だぜ」

「……どの口がゆーんれしゅか」


 ちなみにその他の年齢は、ナハティガルが20。アサノも20。ヒルドラが19ということだった。


「貴様その見た目で最年少なのか……」

「おうよ。まだぴっちぴちの十代だぜ」


 にかっと笑うヒルドラ。


「あら~? ということは~。フィオナちゃんがこの中だと、一番年上ってことになるのかしら~?」


 そう。ナナミはこの時点で23歳だ。


 フィオナは25。つまり、このメンバーの中では、一番年上と言うことになるのだ。


「そうなるとよぉ、これはナナさんも、フィオナ姉さんのことは姉さんって呼ばねえといけないんじゃあないか?」


 ヒルドラがからかうようにいう。


「確かに~♪ 確かに確かにだね、フィオナ姉さんちゃん~♪」


 とニコニコしながらナナミ。


「な、ナナさん酔ってないか……?」

「ん~~? 酔ってまぁす~♪」


 えへえへ、と楽しそうに笑うナナミ。よく見ると顔が真っ赤だった。


「そっか~。フィオナちゃんお姉ちゃんだ~。ママね~、一人っ子だったから、お姉ちゃんに憧れてたんだ~」


 うふふ~♪ と笑うナナミ。イスをずらして、その隣へとやってくる。


「おねーちゃーん♪」

「な、ナナさん……普通に呼んでくれ……」


 恩人にお姉ちゃんなんて言われたくなかった。


「上手く話をそらしてるようけどよぉ、フィオナ姉さん」


 ヒルドラもイスを近づけてくる。


「肝心なことまだ聞いてねえぞ?」

「か、肝心なこととは何だ?」

 

 にやっ、と意地の悪い顔になるヒルドラ。

「まだ肝心の、本命の彼の名前。それにどこのどいつだってのも教えてもらってねえぞ」


 ぼかした部分だったので、他のメンバーたちも気になっていたらしい。


「そ、それは……言えない」


 ユートの素性を明かすわけにはいかないのだ。彼はタダでさえ、この2周目世界においてはイレギュラーな存在だ。


 不用意な発言で正体がばれ、彼に迷惑をかけるわけには……と思ったそのときだ。


「ん? 何やってるんだ、みんな」

「ゆ、ユートっ」


 食堂の入り口に、10歳の少年が立っている。


 短い黒髪。活発そうな大きな目。フィオナの愛した、愛しい彼がそこにいた。


「き、貴様こそなにをやっているんだっ」

「え、いや……まあ人がいるから気になってさ」


 ユートは周りを見やる。彼は食材を取りに行っていたのだ。ただ事情を知らぬ人たちがいるとわかったので、言葉を選んだのだろう。


「そ、そうか。こ、子供はさっさと寝ろ。すぐ寝ろ。今すぐに出て行け」


 するとヒルドラが「おいマジかよぉ……」と瞠目する。


「よぉナナさん。みたかよぉ、フィオナ姉さんのあの顔」

「うふふ~♪ 見たわ~。恋する乙女の顔ね~♪」

「「きゃー♪」」


 楽しそうに、ナナミとヒルドラが黄色い声を上げる。


「おい坊主! ちょっと来い! こっち来い!」


 ヒルドラが面白がって、ユートを手招きする。やめてくれ! と暴れるが、ナハティガルとアサノに止められる。


「どうした?」

「坊主よぉ。聞け。このお姉さんが、おめえさんのこと好きだってよ!」


「ち、違うってば!」

「慌てて否定するところがマジっぽいぜ、なあナナさん!」

「まじっぽ~い♪ うふふ~♪」


 この人ら、酔っ払っているの良いことに、私をおもちゃにして遊ぶつもりだ!


 フィオナは緊急脱出を試みるが、ヒルドラとナナミにがっしりと捕まれる。


「息子君……ユート君と言ったかな。どうだい、こんなキレイなお姉さんから好きって言われて」

「な、ナハティガル貴様やめろー!」


 ジタバタとフィオナが暴れまくるが、ヒルドラの腕力に押さえつけられて、身動き一つできない。


「はぁ……お客さん、楽しく飲んでるところ申し訳ないが、うちの店員が困ってるんで、それくらいにしてやってください」


 とユートが助け船を出してくれる。ああ、そんなところも、また彼を好きなところ……。


「「「きゃー♪」」」


 と酔った女性陣が、また甲高い声を出して身じろぐ。


「みたかよおめぇら! マジだ。これはマジに恋する乙女の顔だぜぇ!」

「ち、違うって言ってるだろうがヒルドラぁ!」


「……フィオナしゃん。新しい恋、うまくいくといいれしゅね」

「アサノ貴様までー!」


「うふふ~♪ ママは嬉しいわ~♪」


 ナナミがニコニコしながら、頬に手を添えて言う。


「フィオナちゃんがみんなと仲良しさんだ~♪ うふふ~♪ うれし~♪ フィオナちゃんがお友達と仲良くしてて、ママ嬉しいわ~♪」

「な、ナナさん……」


 友達……だろうか。


「それにユートくんのお嫁さんになってくれるだなんて~♪」

「母さん。飲み過ぎだよ。ほら、寝ようね」


 ユートが見かねて、母を連れて出て行こうとする。苦労をかけるなユート! ありがとう!


 と心の中でフィオナが感謝する。


「なんだよぉ、帰っちまうのか~?」

「ああ。お客さんたちも明日も冒険なんだろ? なら早めに寝た方が良い」

「ちぇー……。ま、確かにそうだなぁ」


 ユートがきてくれたおかげで、これ以上

言及されることはなかった。ほんと、彼にはいつも助かっている。


 そんなふうに支えてくれる彼のことが、フィオナは好きだった。


 ありがとう、ユート。そして大好き……と思ったそのときだ。


「ちょおっとまったー!!」


 ばーん! と食堂のドアを開けて、誰かが入ってくる。


 赤い髪の、幼女だった。そこにいたのは、ソフィ。つまり20年前の自分だ。


「それはふぃー、聞き捨てならないんだよー!」


 ソフィはユートの側へ行き、だきーっと抱きつく。


「ゆーくんは、ふぃーのだもん!」


 すると「「「おおー!」」」となぜか歓声が上がる。


「モテるな坊主!」

「いやしかしフィオナ君、大変じゃないか」

「……恋のライバル、しゅつげんれしゅ」


「こ、この酔っ払いどもーー!!!」


 フィオナは声を荒げる。その間に、過去の自分が、皆の前でユートにぺたぺたとくっつく。


 そしてみんながいる前で、ソフィが堂々と言う。


「ゆーくんとふぃーはね、何度も一緒に寝た仲なの!」

「ベッドで! ベッドで寝ただけだろう!」


「お風呂だって一緒に入った中だもん!」

「子供同士だから!」


「お互いの裸をみたなかだもん-!」

「口を閉ざせ小娘ぇええええええええええええええええええ!!!!」


 フィオナは自分の部屋へ超特急で戻る。かつて使っていた長剣を取り出して、ソフィに斬りかかろうとする。


「ふぃ、フィオナ落ち着けって」


 ユートが自分の腰に抱きついて止めてくる。


「離せユート! 貴様こいつの肩を持つ気か! やっぱり若い女が良いのか!」

「いやそうじゃなくて……」


「わかくてピチピチの方がいいと思う人ー! てぇあげてっ!」

「ソフィ! 混乱を招かないでくれ!」


「若い方がいいのかー!」

「違うからフィオナ落ち着けって!」


 ……その後、事態を収拾するのに、30分くらいかかった。全員が酔いつぶれてしまったので、ユートとフィオナとで協力して、女性陣を部屋へと運んだ。


 一仕事終えて、ユートはフィオナに言う。


「大変だったな……」

「ああ、疲れた……」


 ふぅ、と吐息をつく。その後ユートは苦笑して、


「けど……おまえに友達ができて、俺は嬉しいよ」


 と、ナナミと同じことを、彼は言ってきた。


「友達……なのか? やつらは」

「友達だろ。楽しそうだったよ、おまえ」

「……そう、か」


 ユートに言われて、確かにそうかもな、と思うフィオナであった。

書籍版、12月15日に発売です!

Amazonその他で予約開始してます!また、電子書籍も予約開始したみたいです!


頑張って書いた作品なので、手にとっていただけると嬉しいです!


ではまた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ