表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/72

34.勇者、仲間たちをビアガーデンへ連れて行く【中編】

お世話になってます!



 俺はダンジョンでのクエストを終えて、冒険者パーティ【黄昏の竜】の仲間とともに、宿屋へと帰ってきた。


「ん? なんだ……? この良いにおいは?」


 宿屋の外。玄関近くにて。リーダーのナハティガルが立ち止まり言う。


「ン? なんか……香ばしいにおいするじゃあねえか……?」


 大柄な魔術師ヒルドラが、すんすんと鼻を鳴らす。


「……しょれに、なにやら良い音が」

「「音?」」


 小柄な野伏レンジャーのアサノが、耳をそばだてる。


 微かにじゅぅう…………と、何かが焼ける音がするではないか。


「なんかしらねーがよぉ。めっちゃ腹が減るぜ……!」

「どうやら建物の裏のようだね」


 ナハティガルを先頭に、【黄昏の竜】のメンバーたちが、宿の裏へと回る。


 宿屋【はなまる亭】の建物は、本館と別館がある。その間にある裏庭。


 そこには……。


「な、なんだぁこりゃあよぉ……?」


 テーブルとイスとが、大量に並んでいるではないか。


 机もイスも、どちらも白い、軽そうなものを使っている。


 そして奥には、テントがあって、鉄板が置かれている。そこでうちの料理長・フィオナが、焼きそばを焼いていた。


「いらっしゃいませ」


 そう言ってで迎えたのは、宿屋のメンバー・ハーフエルフのルーシーだ。


 水色髪の少女は、普段は商人風の格好をしているのだが……。


「きみはディアブロのマネージャーであるルーシー君じゃないか。ここで何を?」


「ワタシはこの【ビアガーデン】を開催するに当たり、アドバイザーとして、この宿に雇われているのですよ」


 と言うことになっている。


「ビアガーデンだぁ……? そいつぁいったい全体なんだってんだ?」


 ヒルドラの言葉に、ルーシーが「説明します」と言う。


「簡単に言えば外で食べるレストランです。お客様たちはテーブルに腰掛けてもらい、そこで料理やお飲み物を楽しんでもらうのです」


「ふむ……野外での食事か。確かにキャンプ飯みたいで楽しそうだな」


「……しょうれしゅね。開放感あって、食事が進みしょうれしゅ」


 うんうん、とうなずくメンバーたち。


「そしてこのビアガーデンでは、普段の食堂とは異なるサービスを提供させてもらっています」


「ほう? どんなサービスなのかな?」


 ルーシーはうなずいて言う。


「まず食堂……ビアガーデンは16時からスタートして、19時には閉まります」


「おいおいなんだよそりゃ。閉まるのはやすぎねーかよぉ?」


 不満げにヒルドラが言う。まあ普段はもうちょっと遅くまで、食堂は開いているからな。


「ええ、その代わりですが、16時から19時の間、食べ放題・飲み放題となっております」


 ルーシーの説明に、黄昏の竜たちが「「「はぁ……?」」」と首をかしげる。


「食べ放題とはどういうなんだい?」

「言葉通りです。あちらをごらんください」


 ルーシーが指さす。奥のテントでは、フィオナが焼きそばを焼いている。その隣にはテーブルが置いてあり、大皿と、その上に料理が並んでいる。


「こちら3時間で、あれら料理全て、制限無く食べられるのです」


「ウソだろ……?」と瞠目するヒルドラに、

「ウソではありません。最初に料金をいただきますが、それ以降は何を食べても、何を飲んでも追加で料金は取りません。それが食べ飲み放題という意味です」


 ルーシーが一息つく。


「それは儲かるのかい? 宿側がすごく損をするのではないか……?」


 不安げにナハティガルが言う。


「そんなことはお気になさらず」


 ふっ……とルーシーが淡く微笑む。


「冒険でお疲れの皆様に、少しでも安らぎを与えられたら……そう言う一心で始めた新サービスですから」


「そうか……。どうする、みんな?」


 ナハティガルがそう言うと、


「おれぁ、賛成だぜ!」

「……せっしゃも」

「俺も」


 俺たちが賛同すると、リーダーであるナハティガルがルーシーを見やる。


「それでは4人、食べ飲み放題で」

「わかりました。では今から19時まで、食べ飲み放題コースでひとり46ゴールドとなります」


 46ゴールドとは、異世界の金額になおすと4600円くらいだ。


 ナハティガルが代表して、ルーシーにお金を払う。


「こんなに安いのに、3時間も飲み食いしまくっていいのか?」


 俺がルーシーに言うと、


「ええ。大丈夫です。信じてください」


 ……と、ルーシーが営業スマイルを浮かべて言う。確か彼女は、これでもちゃんと採算が取れるようになっている、と言っていた。


 どんな魔法を使うのか知らないが、彼女が大丈夫だというのなら、大丈夫なのだろう。


 俺は彼女を信頼している。彼女は俺たちの頼れる仲間なのだ。なら俺はその彼女が最善だと思った策に、信じて乗るまでである。


「わかった」


 ルーシーが嬉しそうに笑うと、「それでは席に案内します」と言って、俺たちを連れて行く。


 通されたのはビアガーデンの入り口近くのテーブルだ。他のテーブルも、結構埋まっている。


「それではこちらをつけてください」


 ルーシーがそう言って、何か色のついた【ヒモ】のようなものを手渡してくる。


「これは?」

「食べ飲み放題コースのお客様とわかりやすくするための目印のような物です。こちらをつけてから、席をお立ちください」


 俺たちは【ヒモ】を手に巻く。ミサンガ、とでも言うのか。簡素なヒモでできたアクセサリーだった。


「ではただいまから19時まで、お好きなように食べて飲んでください」


「食べ物の場所はわかったが、飲み物はどうなってるんだ?」


 俺が言うと、ルーシーが言う。


「初めのうちは勝手がわからない方もいますので、うちの店員が呼べば飲み物を持ってきます。メニューはこちらに」


 そう言って、メニューが書かれた紙を手渡してくる。


「とりあえずじゃあビールを頼もうかな」


 ナハティガルが言うと、俺たち全員がうなずく。


「わかりました。では少々お待ちください」


 そう言って、ルーシーが引っ込んでいく。

「しかし3時間も飲み放題食べ放題とはぁよぉ……。思い切ったサービスだよなぁ。や、おれらはいいけどよぉ」


 ナハティガルが「いや」と首を振るう。


「違うよヒルドラ。ルーシーくんは16時から19時までの三時間と言った。三時間飲み放題食べ放題ではないよ」


「あぁん? 同じ意味だろうがよぉ?」


「いや、意味合いがちょっと異なるよ。……なるほど、よく考えてある。さすがディアブロのマネージャーだけあるね」


 ふふっ、とナハティガルが嬉しそうに笑う。別に俺のマネージャーだからは関係ない。すごいのはルーシーだからな。


 そんなふうに話していると、その矢先。


「はぁ~い、ビールおまたせですよ~♪」


 ふわふわポワポワとした声が、隣のテーブルから聞こえてきた。


 そっちを見やると、そこには……。


「「「「浴衣姿のナナさん来たーーーーーーーーーー!!!!」」」」


 冒険者パーティ【若き暴牛】の男4人組がいて、叫んでいた。


 暴牛たちのテーブルに、母さんがビールのジョッキを運んできたのである。


 母さんは、涼しげな白い生地の浴衣を着ていた。朝顔の印字がされており、そして目を引くのはスカート部分。


 浴衣というと、くるぶしまですっぽりと覆われているイメージだ。


 だが母さんは、今、ミニスカートをはいている。


 上半身が浴衣。下半身ミニスカートという、変則的な衣装である。


「う、うなじがまぶしい!」「ばっきゃろう! 太ももがすげえだろうが!」「阿呆かてめえら! ナナさんの魅力はおっぱいにきまってるだろうが!」


 と暴牛たちが母さんの格好について言及していた。


「ビールおまたせ~♪ たっくさん飲んでね~」

「「「はーい!!!」」


 くるんっ、と母さんが向きを変えて、奥へとトトトと歩いて行く。


「はぁ……うなじ素敵だ……」

「いつも見えないナナさんの白いうなじがまぶしいぜ!」

「確かに言われてみると……確かに確かにだな!」

「「「だな!」」」


 そんなやりとりを暴牛たちがしていた。


 母さんがジョッキを持って、今度は俺たちのテーブルへとやってくる。


「は~い、ナハティガルちゃんたちのぶん、お待たせ~♪」


 どんっ、と俺たちのテーブルに、4つのジョッキが置かれる。


 きんきんに冷えており、表面には水滴がついていた。


「なんだぁ……? ジョッキが凍ってねえかこれ……?」


 ヒルドラがジョッキを見やる。よく見ると確かに、結露というより、ジョッキ表面が凍っているのがわかる。


「ルーシーちゃんが考えてくれたの~。こうした方が冷たくっておいしいかな~って」

「いわれてみっと……確かにな!」


 ジョッキを持つ。手から冷気が伝わってきて、実に涼しげだ。


「じゃあごゆっくり~」


 そう言って、母さんがまた駆け足で奥へ引っ込んでいく。ビアガーデンは、初日だというのにだいぶ混んでいる。


 目新しい物に引かれた冒険者が……大半だった。まあ、それはそうか。最初から村人がたくさん来るわけがない。


「それじゃあ諸君。まずは乾杯といこうか」


 ナハティガルがジョッキを持つ。冷たいそれを持ち上げて、


「「「「乾杯!」」」」

長くなったので前中後編に分けました。後編は土曜日(今日)にあげます。


また書籍版、Amazonその他で予約開始してます!よろしければぜひ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ