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34.勇者、仲間たちをビアガーデンへ連れて行く【前編】

お世話になってます!




 キリコのもとへ、営業許可をもらいに行った数日後。


 俺は大人姿・冒険者ディアブロとして、仲間たちとともに、村近くのダンジョンに潜っていた。


 村からほど近い、初級・中級向けダンジョン。俺たちは第3階層にて、【鋼鉄蟻】の卵の駆除作業をしている。


 俺たち冒険者パーティ。名前を【黄昏の竜】という。


「しっかしよぉ、こうも毎日卵つぶしてるのに、次から次へと沸いて出るとはなぁ」


 広い空間。そこには壁や床に、びっしりと大きめの【蟻の卵】が植え付けられている。


 これこそが、【鋼鉄蟻】の卵だ。人の子供ほどある大きな卵である。


「そぉら、【火球ファイアボール散雨スプレッド】!」


 魔術師・ヒルドラが魔法を使用する。杖の先から巨大な火の玉が出現。それは空中で爆発。燃える石のつぶてとなって、卵たちに超スピードで飛来。


 天井にくっついていた卵が燃えさかり、ぐずぐずになって落ちていく。


「……グロテスクれしゅ」


 その光景を見て、小柄な野伏レンジャー・アサノがつぶやく。


「よぉなんだお子ちゃま。この程度で吐き気を催したのかぁ? 大丈夫かぁ?」

「……おこちゃまゆーな。誰がおこちゃまか」 


 アサノがムカッとして、大柄なヒルドラの頭目がけて跳び蹴りを噛ます。


「それだけ元気なら大丈夫そぉだなぁ」


 ヒルドラは蹴りを余裕で避けて、ニカッと笑う。おおざっぱに見えて、この魔術師ヒルドラは気配りのできる女性なのだ。


「……ふん。いちおう、礼を言っておくれしゅ。その……ありがとうれしゅ」

「あ~? 聞こえなーい? え、なにアサノちゃん体もちっこいのに声もちっこいの~?」

「こんのっ!」


 アサノがまたヒルドラに蹴りを食らわす。だがそれを魔術師が余裕で避けた。


「……リーダー! この女にちゅーいをしてほしいれしゅ!」

「はっはっは、2人とも仲が良いなぁ」


 その姿を見て、泰然と笑うのは、剣士ナハティガルだ。


 流れるような金髪が特徴的な、女剣士である。この人が冒険者パーティ【黄昏の竜】のリーダーだ。


「ほらアサノ。ヒルドラが次の魔法を打つために精神集中しないといけない。いくらヒルドラが好きで好きでたまらないからと言って、邪魔をしちゃあいけないね」


「……だ、だれがこんな筋肉ダルマのこと」


 ぶつくさとアサノがつぶやいた、そのときだ。ぴくっ……! と彼女の耳が動いたのだ。


「……リーダー! ふ化れしゅ!」


 アサノの言葉に、俺たちは戦闘態勢になる。さっきまで微笑んでいたナハティガルも、真剣な表情になる。


「場所は?」


 俺がアサノに尋ねると、前方やや右を指さす。


「行ってくる」

「あ、おいディアブロ!」


 リーダーの制止を振り切り、俺は超スピードでアサノが指定した場所へ移動。


 卵が割れて、そこから子供と同じくらいの大きさの【あり】がいた。


「GIGI……! GIIGIIII……!!」


 そいつは、形は普通のアリと同じだ。だがサイズが人間の子供ほどの大きさがある。


 目が赤い複眼をしている。口元は鋭い刃が二つ。手足は鋭い刀のようだ。細く、そして切れ味抜群そうだ。


 体全体がネズミ色をしている。体表はキラキラと鈍く輝いていた。……地下空間で、光を発している。そこに俺は違和感と、きな臭さを感じた。


 さておき。


「っらぁああああああああ!!!!」


 俺は腰にいた勇者の聖剣を抜き、上段に構え、アリを一刀両断しようとする。その直後だ。


 がぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!!


「なっ……!? 弾かれただと!?」


 物理攻撃力が9000を超える、化け物級の攻撃力を持つ俺。その一撃を、このモンスターは耐えるどころか、はじき返したのだ。


「ディアブロ! そいつは【完全反射パーフェクト・リフレクション】スキルを持ってる!」


 後からナハティガルがやってくる。


「完全反射……そうか。こいつらスキル持ちのレアモンスターか」


完全反射パーフェクト・リフレクション】。文字通り、攻撃を完全にはじき返す魔法だ。


 それは物理・魔法問わず、外敵からの攻撃を完璧にはじき返すという、恐るべきスキルである。


 魔王討伐の道中、他にもこのスキルを使う魔物に出くわしたことがあった。厄介なスキルではあるが、弱点がないわけではない。


「ディアブロ! そいつの弱点は」


 ナハティガルが何かを言おうとしたその矢先。


 俺はもう一度、鋼鉄蟻を目がけて、上段から一撃を食らわす。


 がぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!


 聖剣がはじき飛ばされそうになる、その直後。俺は体を一回転させて、もう一撃、アリの体に剣をぶち込む。


「GIII…………………………」


 スパッ、と鋼鉄蟻が、まるでバターのように、真横に両断された。


「ふぅ……」

「「「…………」」」


 一仕事終えた俺のことを、【黄昏の竜】のメンバーたちが、ぽかーんとして見やる。


「早すぎて動きが見えなかったぜ……」

「……気付いてたら終わってたれしゅ……」


「……ディアブロ。きみ……いったい何をしたんだい?」


 瞠目しながら、ナハティガルが尋ねる。


「なにって、剣で攻撃を食らわせたんだが」


「いやそれはおかしい」

「そうだぜ。だってこのアリ公は、【完全反射】スキルを持ってるんだろ?」

「……それなのに、ろーして、攻撃を食らわせられたんれしゅ?」


 俺は仲間たちを見ながら説明する。


「この【完全反射】ってスキルは、文字通り全ての攻撃を反射するんだ。けど1つの攻撃に対して、ひとつだけしか反射できないんだ」


「「「?」」」


「たとえば上段からの攻撃に対しては、その上段からの攻撃だけをはじき返すことしかできない」


 だから、その上段からの攻撃を【反射】してる最中に、別の方向から攻撃を食らわせられれば、それを反射することはできないわけだ。


「で、でもそれは……アリが上段攻撃を完全に反射してる最中に、もう一撃食らわせるってことだろ?」


「ああ。相手が反射し終わるまでのほんの刹那の間に、攻撃をもう一撃くらわせるんだ」


 俺が説明すると、はぁ……っと感嘆のため息をつく。


「すっげなぁおい! 神業じゃねーかよぉなぁおい!」


 魔術師ヒルドラが、俺にガシッ……! と腕を回すと、ばんばんばん! と背中を叩いてくる。


「……しゅごいれしゅ。まさに神速」


 アサノがキラキラとした目を向けてきた。

「君の動きは相変わらず人間を超越してるね。さすがだよディアブロ」


 ナハティガルがうんうんとうなずいている。気恥ずかしいぜ。


「けど別の俺の動きをまねる必要は無いぞ。たとえばヒルドラが魔法を打って、相手が魔法を反射してる間に、アサノやナハティガルが物理攻撃を加えるとかな」


「なるほど……そういう攻撃法もあるんだね。さすがディアブロ。その強さに見合うだけの経験も積んでるということか」


 まあ、これでも20年間、勇者やってたからな。戦闘経験はそこそこあるのである。


「けどこの攻撃方法は、上位互換スキルの【絶対防御アブソリュート・ディフェンス】には効かないから注意が必要だ。こいつは攻撃をはじき返すんじゃなく、受けた攻撃そのものを全部無効化する」


「はぁー……。おっそろしースキルもあったもんだな」

「……絶対にそんにゃスキルもってりゅ魔物とは、戦いたくないれしゅ」


 うんうんうん、と強くうなずく仲間たち。

「まあでも【絶対防御】にも穴がないわけじゃないんだ」

「ほう? そうなのかい?」


「ああ……実はこのスキルはな」


 そう言って、俺たちは雑談しながら、残りの卵を処理するのだった。



    ☆



 地下での今日の仕事を終えた後、俺たちはダンジョンを出て、村へと向かっていた。

「っかー! 今日も女王アリ見つかんなかったぜー……」


 ヒルドラがぐいっと背伸びしながら言う。

 元々俺たちの仕事は、このダンジョンに救っている、鋼鉄蟻たちの親玉、【女王アリ】を討伐することだ。


 しかし何日も潜っているのに、女王アリは見つかる気配を感じない。女王は生きてる限り、卵を産み続ける。


 そして産卵して、さっきの鋼鉄蟻を何匹……何十……何百匹と作り続けるのだ。


 女王アリを殺さない限り、俺たちの仕事は終わらないのだ。


「なぁリーダー。これいつまで続くんだ?」

「長引いたがまあそれも数日の我慢だろう。周りをみたまえ」


 俺はナハティガルの言うとおり、周囲を見渡す。


 ガヤガヤガヤガヤ……。

 

「あーだりぃ~」「腹減ったー」「つかこんだけ探しても見つからねえとかマジあり得ねえ」「だっる……。まじだっる……」

「早くナナさんに会いに行くぞやろうども!」「「「おー!」」」


 ガヤガヤガヤガヤ……。

 

 周囲には普段よりも数多くの、冒険者たちが見受けられた。


「……なんか、人がおおいれしゅね」


 びくびくしながら、アサノがスッ……とヒルドラの背後に隠れた。


「んだよチンチクリンのアサノちゃんは、人混みが怖いんか?」

「……うっしゃい筋肉ダルマ」


 そう言っても、アサノはヒルドラの影から出ようとしない。結構人見知りするタイプのようだ。


 ヒルドラはよしよしとアサノの頭を撫でながら言う。


「こいつらみんな、ギルドから依頼を受けてやってきた【捜索隊】のやつらかよ?」


「そうだ。我々と同じ内容のクエストを受けている」


 つまり、女王の捜索と殺害。卵の掃除。鋼鉄蟻の駆除。その依頼をギルド側から受けて、ここへと派遣されてきたのだろう。


「どうやらようやく、ギルド側も本腰を入れたようだ」

「確かにあの卵のやばい量みたら、早く手を打たないといけねえって思うわな」


 卵状態なら、たやすく倒せる。しかし一度ふ化すると、鋼鉄蟻たちは【完全反射】のスキルを持っているのだ。倒すのに時間がかかる。


 それにくわえて女王アリの繁殖力も無視できない。もしもあの大量の卵が、いっせいにふかしたとしたらと思うとゾッとする。


 まあ今は、女王の産卵→卵のふ化よりも、冒険者たちが卵を駆除する速度の方が早い(あと純粋に冒険者の数が多い)こともあり、なんとかなっているがな。


「何はともあれだ。ギルドが大量の人員を投入してきたのだ。じき女王アリは発見される」


「そしたら女王アリぶっ殺して、ダンジョンの中のありんこどもを掃除すればクエスト達成っつーわけだな。んだよこっからは楽勝っぽいな」


「…………」


「ん? どうしたんだい、ディアブロ?」

「いや……なんでもない」


 のどの奥に引っかかりのような物を覚える。だがそれを上手く言葉にできない。


「みんな、気を引き締めよう。勝ったと思ってるときほど、足下をすくわれやすい」


 俺は仲間たちに注意を呼びかける。


「そうだな。ディアブロの言うとおりだ」

「わーってるっつの。ったく、固えなディアブロよ~。こっちの方も固えのか? え?」


 ヒルドラがニヤニヤと笑いながら、俺の下半身をスリスリと触ってくる。


「やめてくれ」

「良いじゃんかよぉ~。なあおいディアブロ。おめー童貞なんだろ~? おれに食わせてくれって」

「……この破廉恥ダルマ-!」


 そんな風にふざけながら、一行は村の入り口まで到着。


「つーかよぉ、これだけたくさん冒険者たちが来てるんだ。ナナさんのとこ、さぞ繁盛してるんじゃあねえか?」


 確かに今回のクエストの影響で、ダンジョンを利用する冒険者の数は格段に多くなっている。


 普通に考えれば、ダンジョンに一番近い、この村にある宿を、みな利用するだろう。


「いや、それは難しいな」

「んだよディアブロ。どういうこった?」

「見りゃわかるよ」


 そのとき目の前に、冒険者のパーティが、村に入るかどうかで悩んでいる現場を目撃した。


「どうする? この村で泊まるか?」

「あーパスパス。おれここダメ」


「なんでよ?」

「ここの村人めっちゃ冷たくってさ。全員不親切でまじムカつくし」

「そうそう。ちょっと遠いけど、カミィーナまで行こうぜ」


 そう言って、冒険者の一団は、その場を離れる。遠くの街、カミィーナへと向かっていった。


「……ということだ」


 俺が言うと、ヒルドラは「そぉかぁ?」と首をかしげる。


「ここの村人ってそんなに評判わりーの? キリコ姐さんはそんな悪いやつには思えなかったんだがよぉ」


 ヒルドラたちとキリコは、以前面識がある。キリコが俺を父さんだと見間違えて、そのまま抱きついてきたことがあった。


 そこを痴情のもつれと勘違いしたヒルドラたちは、あるとき宿を訪れたキリコに、根掘り葉掘りと事情を聞き出そうとしてたのだ。


「私もヒルドラの意見に賛成だ。しかし村人の全てを我々は知ってるわけじゃないのもまた事実だよ」


「そりゃあそーだがよぉ……。あんな飯のうめえ、しかも風呂まである、しかもコスパ最強の宿に泊まらないなんてよぉ。もったいないったらありゃしないぜ」


 そう言って貰えて、俺は嬉しかった。外は冒険者ディアブロだが、中身は宿屋の息子ユートだからな。宿を褒めて貰えると嬉しい。


「まあ立ち話も何だ。我々は早く宿へ戻って、美味い飯を食い、英気を養おうじゃないか」

「「おー!」」


 ナハティガルの言葉に、メンバーたちが同意する。俺たちはこの村唯一の宿屋、【はなまる亭】へと向かう。


「そう言えば……」


 と俺はわざとらしくならないよう、さりげなく言う。


「か…………宿の主人が、新しいサービスを始めるって言ってたぞ?」


 一瞬母さんと言いかけた。あぶねえ。


「「「新しいサービス!」」」


 ぱあっ! と黄昏の竜たちが、表情を明るくする。


「なんだろぉなあ! 楽しみだぜ!」

「ああ。あの宿は我々の予想を何段階も上回り、期待には十二分に答えてくれる」

「……いまからとっても、わくわくれしゅ」


 喜んでくれるなかまたちを見て、用意したかいがあったと嬉しくなる。


 そんなふうに仲間たちを連れて、俺ははなまる亭へと到着。そこには……。

後編は明日投稿の予定です!


それと「元勇者」、予約注文が開始しました!

Amazonその他で予約できます!


よろしければぜひ!書籍版頑張って書いたので、手にとっていただけると嬉しいです!


ではまた!

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