表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/72

32.勇者、ビアガーデンを開く準備する【後編】




 そういうと、【ソース】とやらを持って、ルーシーが厨房へと移動する。


 俺とフィオナはその後についていく。


 ルーシーがエプロンを着けて、調理場の前に立つ。


 ガスコンロ(この間ルーシーが創造の絨毯で作った)をひねって、火をつける。


 フライパンをその上に置いて、油を垂らす。


 その間にルーシーは、まな板の上に野菜や豚肉を取り出して、一口大に切っていく。

 豚肉をフライパンの上にのせると……じゅぅうう…………と肉の焼ける音が。


 フライパンの上に豚肉の脂がにじみでたあと、切った野菜を入れて、手早く炒めていく。


「野菜炒めか?」とフィオナ。

「ここまでは。しかしここからが違いますよ」


 ルーシーはいったん火を止めると、棚から妙なものを取り出す。


「それは……ヌードルか?」


 小麦を固めて細く練ったヌードルを、ルーシーが取り出した。


「ええ。創造の絨毯ってすごいですね。原料を入れただけで、作りたいものを瞬時に作ってくれるのですから」


 勇者パーティのドワーフ、山じいからもらったチートアイテム、【創造の絨毯】。


 絨毯に原料をおくと、加工の手間をスキップして、作りたいものが作れる。


 ゼロから何でも作れるわけではないが、それでも、十分に強力な道具だ。


「麺とソースは原料をぶちこんで作りました。まずはこの野菜炒めの上に麺を入れて」


 コンロの火をつけ、ルーシーが麺を炒める。


「そこにこのおたふく的なソース的なあれを、垂らす!」


 ルーシーが、手に持った小瓶を、いっきにフライパンの中身にかける。


 すると……。


 じゅうぉおおおおおおおお…………………………


 と、水分が蒸発するこぎ見よい音ともに、なにやら、とても香ばしいにおいが、ただよってきた。


 ぐぅううう………………。


 と、俺とフィオナの腹の虫が、いっせいになる。


「な、なんだこの……食欲をそそる音とにおいは……?」


「ああ。自然と口の中で唾液がもれてくるな……」


 ソースとやらが焼ける音、そしてにおいが、食欲を促進させる。


 と、そのときだ。


「ふぁああ~…………。なにか、とってもいいにおいなの……」


 と、食堂に、ソフィがふらふらと現れた。

 寝ぼけ眼だったのだが、くんくん、と鼻を動かして、こちらにやってくる。


「なるほど、このにおいは人を呼びよせるわけだな……」


 ふむ、とフィオナが考え込む。


 確かにこの独特のにおいは、この世界ではかいだことない。


 外でこれを作れば……人がふらふらと、よってくるだろう。


 というか俺も早く食べたかった。


「あとは一気に炒めれば……ソース焼きそばの完成です!」


 皿の上にルーシーが、ソース焼きそばを盛り付ける。


 大皿に載っている、こげた茶色いヌードルを見ていると、


「…………」「おいしそ~……」「だな……」 


 だばだば、とよだれが垂れてくるではないか。


 無愛想なフィオナも、隣のソフィといっしょに、キラキラとした期待のまなざしを、皿に向けていた。


「お熱いうちに、お上がりください」


 食堂のテーブルへと移動。


 ルーシーはフォークを人数分出してくれた。


「いっただきまーす!」「……いただこう」


 ソフィとフィオナがイスに座り、フォークでくるくると、スパゲッティのようりょうで、ヌードルを巻き取る。


 そして口の中に入れると……。


「「うっまーーーーーーーい!!!」」


 と。


 ふたりとも、まったく同じリアクションを、取った。


 まあ同一人物だからな。


 フィオナはハッ……! と正気に戻ると、「んんっ!」と咳払いする。


「ソフィ。貴様はしたないぞ」

「がつがつがつがつ! え、なにー?」

「こいつ……! ひとりで大量に! 私やユートのぶんがなくなるだろうが!」


 かーっ、と犬歯を向くフィオナ。


 だがソフィはそれを無視して、がつがつがつ! とソース焼きそばを食べる。


 俺はなくなる前に麺をフォークで取り、食べる。


 口の中に広がる甘塩っぱい味わいと、スパイシーな味に、俺は衝撃を受けた。


「う、うめえ……」


「ふふ、でしょう。それがこのソースの魔力ですよ」


 ルーシーの取り出したおたふく的なソース的なそれを、見て俺たちは驚く。


「これなら確かに……外で実演すれば人がにおいでよってくるな」


「ですです。なのでビアガーデンを開くときは、コンロを外に持って行って、外で焼きそば等を作ってもらうんです」


 なにせソースのにおいは犯罪的だ。


 これにつられて、村人たち、そして外から帰ってきた冒険者たちは、寄ってくるだろう。


「焼きそばの他にもソースを作った料理はあります。これがレシピです」


 ルーシーがレシピの書かれた紙を、フィオナに渡す。


「ソース料理に、冷たいビール。そのほかビールに合うものをできる限り用意しましょう。そして数日中にビアガーデンをオープンさせるのです」


 グッ……! とルーシーが拳を固めて言う。


「早くないか?」


「善は急げと言いますし。それに今は、鋼鉄蟻捜索のため、多くの冒険者が、村の隣のダンジョンに訪れています。この機を逃すわけにはいきません」


 先日、村の近くの初級・中級ダンジョンにて、鋼鉄蟻の卵が大量に発見された。


 ギルドの見解によると、女王アリがダンジョン内部に住み着いていて、凄まじい速度で、卵を植え付けているのだそうだ。


 ディアブロを含めた冒険者パーティ・黄昏の竜は、女王アリ捜索のクエストの最中にいる。


 だがいくらさがしても、女王アリは見つからない。


 ダンジョンの中が広すぎるからな。


「だからギルド側は、捜索隊を数日中にダンジョンへ送り込むらしいのです」


「なんでそれ知っているんだ?」


「商人の情報網をなめないでいただきたいです」


 ふふん、と得意げなルーシー。

 

「ともあれ、捜索隊がダンジョンに大量に来ると言うことは、村に立ち寄る数も増えると言うことです。これは商売のチャンスですよ」


 目を$にして、ルーシーが言う。


「違った。村人にたくさんの外の人間とふれあうチャンスです。このチャンス、逃してなるものか!」


 儲け話にノリノリのルーシーである。


 まあともあれ、今後の方針は固まった。


 あとはビアガーデンに向けて、諸々の調整をしていくだけだ。


「がんばりましょう、フィオナさん、ユートくん」


「ああ」「うむ」


 かくして俺たちは、次なる目標に向けて、動き出したのだった。

お疲れ様です。


前回告知しましたが、このお話、書籍化します。


今現在作業しており、来月には作業が終わって、諸々をアナウンスできる……といいなという状況です。


前回も言いましたが、皆さまが読んで応援してくださったおかげで、書籍化のお話が来ました。


本当にありがとうございました。


次回も頑張って更新します。書籍化作業も頑張って、なるべく早く皆さまに書籍版を読んでもらえるよう、頑張ります!


ではまた!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ