32.勇者、ビアガーデンを開く準備する【後編】
そういうと、【ソース】とやらを持って、ルーシーが厨房へと移動する。
俺とフィオナはその後についていく。
ルーシーがエプロンを着けて、調理場の前に立つ。
ガスコンロ(この間ルーシーが創造の絨毯で作った)をひねって、火をつける。
フライパンをその上に置いて、油を垂らす。
その間にルーシーは、まな板の上に野菜や豚肉を取り出して、一口大に切っていく。
豚肉をフライパンの上にのせると……じゅぅうう…………と肉の焼ける音が。
フライパンの上に豚肉の脂がにじみでたあと、切った野菜を入れて、手早く炒めていく。
「野菜炒めか?」とフィオナ。
「ここまでは。しかしここからが違いますよ」
ルーシーはいったん火を止めると、棚から妙なものを取り出す。
「それは……ヌードルか?」
小麦を固めて細く練った麺を、ルーシーが取り出した。
「ええ。創造の絨毯ってすごいですね。原料を入れただけで、作りたいものを瞬時に作ってくれるのですから」
勇者パーティのドワーフ、山じいからもらったチートアイテム、【創造の絨毯】。
絨毯に原料をおくと、加工の手間をスキップして、作りたいものが作れる。
ゼロから何でも作れるわけではないが、それでも、十分に強力な道具だ。
「麺とソースは原料をぶちこんで作りました。まずはこの野菜炒めの上に麺を入れて」
コンロの火をつけ、ルーシーが麺を炒める。
「そこにこのおたふく的なソース的なあれを、垂らす!」
ルーシーが、手に持った小瓶を、いっきにフライパンの中身にかける。
すると……。
じゅうぉおおおおおおおお…………………………
と、水分が蒸発するこぎ見よい音ともに、なにやら、とても香ばしいにおいが、ただよってきた。
ぐぅううう………………。
と、俺とフィオナの腹の虫が、いっせいになる。
「な、なんだこの……食欲をそそる音とにおいは……?」
「ああ。自然と口の中で唾液がもれてくるな……」
ソースとやらが焼ける音、そしてにおいが、食欲を促進させる。
と、そのときだ。
「ふぁああ~…………。なにか、とってもいいにおいなの……」
と、食堂に、ソフィがふらふらと現れた。
寝ぼけ眼だったのだが、くんくん、と鼻を動かして、こちらにやってくる。
「なるほど、このにおいは人を呼びよせるわけだな……」
ふむ、とフィオナが考え込む。
確かにこの独特のにおいは、この世界ではかいだことない。
外でこれを作れば……人がふらふらと、よってくるだろう。
というか俺も早く食べたかった。
「あとは一気に炒めれば……ソース焼きそばの完成です!」
皿の上にルーシーが、ソース焼きそばを盛り付ける。
大皿に載っている、こげた茶色い麺を見ていると、
「…………」「おいしそ~……」「だな……」
だばだば、とよだれが垂れてくるではないか。
無愛想なフィオナも、隣のソフィといっしょに、キラキラとした期待のまなざしを、皿に向けていた。
「お熱いうちに、お上がりください」
食堂のテーブルへと移動。
ルーシーはフォークを人数分出してくれた。
「いっただきまーす!」「……いただこう」
ソフィとフィオナがイスに座り、フォークでくるくると、スパゲッティのようりょうで、麺を巻き取る。
そして口の中に入れると……。
「「うっまーーーーーーーい!!!」」
と。
ふたりとも、まったく同じリアクションを、取った。
まあ同一人物だからな。
フィオナはハッ……! と正気に戻ると、「んんっ!」と咳払いする。
「ソフィ。貴様はしたないぞ」
「がつがつがつがつ! え、なにー?」
「こいつ……! ひとりで大量に! 私やユートのぶんがなくなるだろうが!」
かーっ、と犬歯を向くフィオナ。
だがソフィはそれを無視して、がつがつがつ! とソース焼きそばを食べる。
俺はなくなる前に麺をフォークで取り、食べる。
口の中に広がる甘塩っぱい味わいと、スパイシーな味に、俺は衝撃を受けた。
「う、うめえ……」
「ふふ、でしょう。それがこのソースの魔力ですよ」
ルーシーの取り出したおたふく的なソース的なそれを、見て俺たちは驚く。
「これなら確かに……外で実演すれば人がにおいでよってくるな」
「ですです。なのでビアガーデンを開くときは、コンロを外に持って行って、外で焼きそば等を作ってもらうんです」
なにせソースのにおいは犯罪的だ。
これにつられて、村人たち、そして外から帰ってきた冒険者たちは、寄ってくるだろう。
「焼きそばの他にもソースを作った料理はあります。これがレシピです」
ルーシーがレシピの書かれた紙を、フィオナに渡す。
「ソース料理に、冷たいビール。そのほかビールに合うものをできる限り用意しましょう。そして数日中にビアガーデンをオープンさせるのです」
グッ……! とルーシーが拳を固めて言う。
「早くないか?」
「善は急げと言いますし。それに今は、鋼鉄蟻捜索のため、多くの冒険者が、村の隣のダンジョンに訪れています。この機を逃すわけにはいきません」
先日、村の近くの初級・中級ダンジョンにて、鋼鉄蟻の卵が大量に発見された。
ギルドの見解によると、女王アリがダンジョン内部に住み着いていて、凄まじい速度で、卵を植え付けているのだそうだ。
俺を含めた冒険者パーティ・黄昏の竜は、女王アリ捜索のクエストの最中にいる。
だがいくらさがしても、女王アリは見つからない。
ダンジョンの中が広すぎるからな。
「だからギルド側は、捜索隊を数日中にダンジョンへ送り込むらしいのです」
「なんでそれ知っているんだ?」
「商人の情報網をなめないでいただきたいです」
ふふん、と得意げなルーシー。
「ともあれ、捜索隊がダンジョンに大量に来ると言うことは、村に立ち寄る数も増えると言うことです。これは商売のチャンスですよ」
目を$にして、ルーシーが言う。
「違った。村人にたくさんの外の人間とふれあうチャンスです。このチャンス、逃してなるものか!」
儲け話にノリノリのルーシーである。
まあともあれ、今後の方針は固まった。
あとはビアガーデンに向けて、諸々の調整をしていくだけだ。
「がんばりましょう、フィオナさん、ユートくん」
「ああ」「うむ」
かくして俺たちは、次なる目標に向けて、動き出したのだった。
お疲れ様です。
前回告知しましたが、このお話、書籍化します。
今現在作業しており、来月には作業が終わって、諸々をアナウンスできる……といいなという状況です。
前回も言いましたが、皆さまが読んで応援してくださったおかげで、書籍化のお話が来ました。
本当にありがとうございました。
次回も頑張って更新します。書籍化作業も頑張って、なるべく早く皆さまに書籍版を読んでもらえるよう、頑張ります!
ではまた!




