31.勇者、村人と共存する道を模索する【4/4】
俺とルーシーはベッドの上で、向き合い、あぐらをかく。
ルーシーはスカートなので、太ももちらりと見えた。
それに気付いて、ルーシーがいそいそと、正座する。
「ようするに村人と宿に泊まりに来る冒険者が、もっと交流できる場を作れば良いということですよね」
「ああ。できれば村人に宿の食堂を利用してくれないかと思っている」
食堂に来れば、宿を利用している冒険者たちがいるからな。
そこで交流を持てるだろう。昨日、キリコがそうしたように。
「しかし敷居は高いと思います」
「というと?」
「見知らぬ建物の中に、人は何の目的もなく入ってくるでしょうか?」
「あー……。そもそも宿屋に来てもらうのが難しいって話か?」
「そういうことです。それにウチは宿屋。食堂だけ開放している事実も、おそらく村人は知らないでしょうし」
「宣伝するのはどうだ?」
「口での説明だけでは、人の心を動かして、足を運ばせるのは難しいと思います」
「そう……だな」
いくら口で美味いよ、と宣伝したところで、結局のところ実際にどう美味いのか、伝わらなければ人は動かないだろう。
ルーシーはふむ、と腕を組んで言う。
「でも料理というアプローチ自体は間違ってないと思います。人は美味しいものに常に飢えてますからね」
「けどどうするんだよ。食堂に来てもらわないと、そもそも飯は出せないぞ」
ルーシーが俺を見る。
「ワタシに妙案があります」
自信満々にルーシーがうなずく。
「ようは食堂に足を運ばなくても、村人たちが気軽に食事を楽しめるようにすればいいのです。そこに冒険者たちもいれば、自然と交流もできます」
「んー……。いやそうだろうけど、じゃあ実際にどうするんだ? 屋台でも出すのか?」
「それでは交流の【場】になりません。屋台で飯を買って、自分の家で食事を取ってもらったのでは、意味がありませんので」
それはそうだ。
主目的は宿の客である冒険者たちと、村人たちが交流できる場所を提供すること。
そして村人たちに、外の人間が悪いやつらばかりではないと、わかってもらうことだからな。
必要なのは【場】なのだ。
「屋台という発想は惜しいです」
「惜しい……?」
「ええ。外で食事を取ってもらいます。ですが、その場で食事を食べれるようにします」
「? ?? ルーシー、おまえのやりたいことが見えてこないんだが?」
ルーシーは立ち上がる。
部屋の中を歩き、窓の側に立つ。
がら……っと窓を開ける。
……ミーンミーン。
……しゃわしゃわしゃわしゃわ。
外からは蝉の声がする。
むわり、と熱気が入り込んできた。
日差しがぎらぎらと照りつけており、いっきに部屋の中が熱くなる。
「今は夏ですよね」
「ああ。それがどうした?」
ルーシーがくるり、と俺を見やる。
「夏の夜。蒸し暑い中、ワタシのもといた世界では、仕事終わりの人たちは、冷たいビールを飲みたいと思うものです」
言いたいことはわかる。
労働後の酒は格別だからな。それが夏で熱いとなると、冷たい酒が欲しくなる。
「となると彼らはどこへ行くでしょう」
「酒が飲みたいなら酒場へ行くんじゃないか? おまえの元の世界がどうだったかしらないけど」
「ええ。正解です。みな居酒屋へ行って酒を酌み交わします。しかし夏になると、居酒屋の他にも、酒や料理が楽しめる場所ができるんですよ。夏限定ですが」
「そんなのがあるのか?」
ルーシーは微笑んでうなずく。
「それを開けばたぶん人は集まります。お祭りのように大がかりな準備も必要ないですし。まあ多少下準備と練習は必要となりますが」
「かまわない」
それでキリコのように、他の村人たちが、外の人間たちを悪いやつではないと思ってくれるのなら。
それが、究極的には、宿の利益に繋がり、宿の繁栄につながるのなら。
それが、母さんを楽させることに、繋がるのなら。
「では、さっそく動きましょう。ユートくんにはディアブロとしての仕事と平行して、それの準備にも参加してもらいます」
ルーシーが真剣な表情で俺を見やる。
「忙しくなります」
「わかってる。全部こなす。だから教えてくれ、俺たちが打つべき、次の一手のことを」
ルーシーは俺を見て、そして言った。
「ビアガーデンを、開きます」
お疲れ様です。
投稿が遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした。
連絡が遅くなりましたが、このお話、実は書籍化が決定しました。
その作業があり、投稿が遅れてしまっていました。投稿と連絡が遅れて、すみません。
詳しい情報はまだ言えませんが、いちおう来月頭には詳細を連絡できると思います。
とりあえず今回は書籍化が決まった旨のみ、ご報告しました。
皆様のおかげで2作目を出すことができました。読んでくださってる皆様に、ほんとうに感謝してます。
これからも頑張って更新していきます。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
以上です。
ではまた。




