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31.勇者、村人と共存する道を模索する【3/4】



 俺はルーシーの部屋へとやってきた。


「どうしました、ユートくん。こんな……ふぁ……朝っぱらから」


 ルーシーがパジャマ姿のまま、ベッドの縁に腰掛けている。


 頭に載っている三角のナイトキャップが、この幼児体型のエルフに、妙に似合っていた。


「ルーシー。聞いてくれ。わかったことがあるんだ」


「……それは、ふぁあ……宿に関することですか?」


「ああ」


 すると眠たげだったルーシーの目が、きりっ、と見開かれる。


「話を聞きましょう」


 どうやらルーシーは、聞く体勢になってくれたようだ。


 俺たちはベッドに座る。


 そして、昨晩のキリコのこと、そして村長の家で聞いたことを、ルーシーに伝えた。

 ややあって話し終えて、俺は言う。


「それでさ……俺、思ったんだ。結局のところ問題は、相互不理解が原因じゃないかって」


「……おっしゃりたいことはわかります」


 ルーシーは立ち上がる。


 そして「着替えます。こっち見たらいけませんよ」と釘を刺す。


 俺はルーシーに背を向ける。


「村人が外の人間を排除しようとするのも、いじわるしてくるのも、結局は防衛手段だ……ということでしょう?」


 ぱさ……っとシャツの落ちる音がする。


「ああ。村人は外のことをまるで知らないんだ。どんな人がいるのかわからない。だから外の人は全部ひっくるめて悪いやつらだ。関わったらひどいことされる。だから排除しようって」


 ぱさ……ぱさ……と布が次々と落ちていく。背後に裸身の女性がいるが、俺は動揺しなかった。そこまでガキじゃない。


「相手を理解してないから、そんなふうに勝手に壁を作ってしまい、結果的に軋轢を生んでいる……。そうおっしゃりたいからこそ、相互不理解、と言ったのですね」


「ああ」


 さすがルーシーだ。


 俺の言いたいことが一発で伝わっていた。

 ルーシーはごそごそと服を漁っているようだ。「紫と水色、どちらが良いですかね」「知らん」


 何の色かは尋ねない。


 俺は続ける。


「俺、今のスタンスのままじゃダメだと思うんだ」


「冒険者だけを相手にしているスタンスを……ということですよね」


 す……ぱちっ、と何かを止める音。


「ああ。現状、村長だけじゃなくて、村人たちも、よそ者に冷たい。そのせいでうちにくる客の数が減っている」


「ですね。内を拡充させるのも大事ですが、そろそろ、外からもっと人が入ってくるようにした方が良いとは思ってました」


 ごそごそ……と布のこすれる音がし、「もう振り返って良いですよ」と。


 いつもの商人の服をまとったルーシーがいた。


「相互不理解……なるほど。よそ者に冷たくされていた歴史があるから、村人全員が人間嫌いなのかと思っていました」


「たぶんそれは、ずっと昔のことなんだと思う。もちろん今も村人は外の人間を拒んでいる。……けど、それは単に知らないだけなんだ」


 と、キリコを見ていて思っていた。


 人間嫌いなのではなく、そもそも外のことを知らないから、外の人間を近づけないようにしているのだろう。


「外の人間のことを、もっと村人たちが知ってくれれば、現状は改善されると思うんだ」


「確かに冒険者に対しての理解を得られれば、村人たちの意識が変わり、外の人間への冷たい態度を改めるかも知れない……と」


「それは結果的に宿にやってくる人間を増やすことに繋がると思う。どうだ?」


 と言っても俺には、具体的な案を持っているわけではない。


 そこはこの商人エルフの知恵をかりるしかない。


 ただルーシーはリアリストだ。


 利益に繋がらないことを、率先してやるやつではない。


 情に訴えてもダメなので、俺は利を説明した……というわけだ。


「……そうですね。良い考えだと思います」


 ルーシーは淡く微笑む。


「ワタシの方こそ、よそのことを知ろうとしてませんでした。勝手に村人は冷たい人間なのだとレッテルを貼っていました。遠ざけてました。村人たちとワタシは、同じですね」


 ルーシーはキリコと、何度かやりあっている。


 それでルーシーは村長、ひいては村人のことをどこかで敵対視していたのだと思う。

 感情的になっていたのだ。でなければ、彼女もすぐに、解決すべき問題を見抜いていたと思う。


「ルーシーって意外と子供っぽいとこあるもんな」


「う……。すみません」


 しゅん……とエルフ耳がぺちょんと垂れる。


「しかしユートくんのおかげで、次にすべきことが見えてきました。ありがとう、ユートくん」


 ルーシーは微笑むと、俺に近づいて、俺の額にキスをする。


 みずみずしい唇が、肌に触れる。んちゅ……っと生々しい音と、近づいたことで花のような香りが鼻をついた。


 間近にルーシーの顔がある。


 少し離れて、くすっと微笑む。


「これでも子供っぽいですか?」


 お茶目にウインクするルーシーは、確かに大人のお姉さんみたいな感じだった。


「からかうのはやめてくれ……。中身30のおっさんだぞ、俺」


「そんなことないですよ。ワタシも……げふんげふん。とにかく30はまだまだ若いです。若者範疇です。いいですねっ!」


 なんだか知らないが、ルーシーからは鬼気迫る圧を感じた。


 俺はうなずく。


「よしっ。では具体的な方策について考えていきましょう」

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