31.勇者、村人と共存する道を模索する【1/4】
お世話になっております。長くなったので4話に分割してます。
キリコがうちにやってきて、冒険者たちと交流した、翌日。
朝。
俺は子供の姿のまま、村長の家へと向かっていた。
「キリコ、昨日あんだけ酒飲んでたけど、大丈夫だろうか……?」
はなまる亭に顔を出してきた、キリコ。
目的は俺……というか、父さんそっくりの顔をした冒険者・ディアブロに会いに来たのだ。
そこで俺の所属する冒険者パーティ・黄昏の竜のメンバーに見つかってしまう。
以前彼女たちには、キリコがディアブロ(変装した俺)に抱きついて泣いてる現場を目撃されていた。
ふたりはどんな関係なのか……と問い詰められた、という次第。
そのときにキリコは、酒をだいぶ飲まされていた。
帰り際、ふらふらだったので、俺は家まで送り届けた。
……その後の様子が、やはり気になる。
大丈夫だろうか……と俺は【とあるもの】を手に、キリコの家へと向かった次第だ。
この村で一番立派な建物。
そこがキリコの住む家だ。
村人の家はだいたい一階建てだが、キリコの家だけは二階建て。
俺はキリコの家の前に行くと、ドアを叩く。
「キリコ……その、大丈夫か?」
ノックをしても返事はなかった。
「寝てるのか……?」
と思ったそのときだった。
「ユート君?」
と、背後から声がした。
振り返ると長身の女性、キリコが立っていた。
「おはようございます、キリコ」
「おはようユート君。……私に何か用事かしら?」
黒髪の美女は、耳にかかった髪をかきあげて尋ねてくる。
「あ、いや……。なんか昨日、うちでお酒飲みすぎていたじゃない。だから、これ、母さんが渡してこいって」
俺は作ってきたものを、キリコに手渡す。
それは小瓶に入った水薬。
「酔い覚ましのポーションだってさ」
と伝聞形式で言ったが、実はこれ、俺が作ったものだ。
勇者パーティの仲間、森呪術師のルイから教えてもらった、二日酔いにきく薬草。
それを森で摘んできて、同じく勇者パーティの錬金術師、エドワードからもらった【万能水薬】に混ぜて、酔い覚ましを作ってきたのである。
「……あの女の施しは受けたくないのだけど」
じっ、とキリコが、普段通りの険しい表情で、瓶を見やる。
「でも、受け取って欲しい」
「……まあ、ユート君がそう言うのなら」
キリコは瓶を受け取り、蓋を開けると、中身を飲む。
こくり……とのどを鳴らすと、
「…………」
顔色がすぅ……っと良くなった。
「どうだ?」
「……そうね。不服だけど、効果はあったわ。あの女に感謝の言葉を伝えておいてもらえるかしら?」
キリコが俺を見下ろして言う。
「自分で言った方が、母さん喜ぶと思うぞ」
「結構。私、あの女が嫌いなの」
キリコはしゃがみ込んで、俺の頭を撫でてくる。
「ありがとう。薬、とっても効いたわ」
「いやだから俺にじゃなくて……」
だがキリコは、話を聞いてくれそうになかった。
仕方ない。
キリコは、父さんに惚れていたのだ。
そして父さんと結婚した、母さんのことを、恨んでいる。横取りしたと思っているらしい。
ふたりには仲良くしてもらいたい、と思う俺がいる。
母さんは恩人だし、キリコも父さんの友人と言うことで、俺も古くから知っている。
ふたりとも父さんを、そしてその息子である俺を、大事に思ってくれている。
だからこそ、2人には仲良くなってもらいたいのだが……。
人間の感情がそれを邪魔をするのだろう。難しいな。
と考えていると、キリコが俺に尋ねる。
「ユート君。朝ご飯まだでしょう? うちで食べていかない?」
確かに朝食はまだだったが、
「いや、悪いよ」
「不要。子供なのだから、遠慮なんてしなくていいわ。おいで」
キリコは立ち上がると、細く長い手を俺に向けてくる。
……気になっていたこともあるし、ちょうど良いか。
俺は朝食をごちそうになることになった。




