表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/72

29.勇者、村長と酒を飲む(前編)

いつもお世話になってます。



 黄昏の竜が、村近くのダンジョンにて、鋼鉄蟻の女王アリ捜索のクエストを受けた……翌日のこと。


 その日、俺はクエストを終えて、黄昏の竜のメンバーとともに村へ戻ってきた。


「しっかしみつからなかったなー」


 魔術師ヒルドラが不満そうにつぶやく。


「朝から潜って夕方まで探してみつからねーとか、そもそもいねーんじゃね?」


 うーんと腕を組む魔術師。


 がたいのいい彼女を見ながら、俺は口を開く。


「それはないだろう。確実にいる。おまえもあの大量のアリの卵を見なかったわけじゃないだろ」


 俺の言葉に、ヒルドラが「まーなぁ」と同意を示す。


 前方を歩いている野伏レンジャーの少女、アサノも、こくりとうなづく。


「……しかし女王の繁殖力はんちょくりょくすしゃまじいでごじゃるな」


 舌っ足らずな感じでしゃべる小柄な少女に、ヒルドラが「ぷっ」と吹き出す。


「はんちょくりょくだってよぉ。あいっかわらず噛みっ噛みだなぁアサノ」

「う、うるしゃい筋肉だるまっ!」


 アサノが飛び上がってヒルドラの顔を蹴る。魔術師は蹴りを受けても特に動じてなかった。


「はっはっは」「リーダー! わりゃってないでなんとかしてほしいでごじゃる!」「仲が良くて大変結構」「もー!」


 このパーティのリーダーであるナハティガルが、余裕のある笑みを浮かべる。


 金髪の剣士は顎に手をやると、


「ふむ、しかしアサノの言うとおりだな」と同意する。


「昨日あれだけ卵を殲滅したというのに、別の場所でまた大量の卵を産んでいるのだからな」

 

 さすがに昨日と同じ場所には、卵はなかった。だがそこから数キロも離れてない場所に、先日同様、壁や床にびっしりと、鋼鉄蟻の卵が植え付けられていたのである。


「ヒルドラと、そしてディアブロ、君たちがいなかったらと思うとゾッとするよ」

「…………」


「よぉナハティガルよぉ。アサノちゃんが拗ねちまってるぜぇ」

「べ、べべ別に拗ねてなどいないでごじゃる!」


 またも跳び蹴りをかますアサノを、今度はヒルドラが抱き留めて、お姫様だっこする。


「あほっ、あほっ、離せこのあほだるまっ!」

「あいっかわらず軽りぃなおめー」

「おろせっ、おーろーーしぇー!」


 わいわいやっている魔術師と野伏に、リーダーが「すまんすまん。アサノがいないと的の接近に気づけないからな。君がいないと困る」


 リーダーのフォローに「しょ、しょうれしゅか……」と嬉しそうにハニカんでいるアサノ。


「そうだな。俺もアサノには助かっているよ」

「でぃ、ディアブロどのは、索敵スキルを持ってないのれしゅか?」

「ああ」


 俺の持つ聖弓ホークアイを使えば、索敵のまねごとはできる。


 しかしあれは、上空から見下ろすような視点を持てるようになるだけだ。屋内、しかも入り組んだ構造のダンジョンの中では、ではその効果は半減される。


「だからアサノがいるおかげで、自分の仕事に集中できる。ありがとう」

「…………」


 アサノが顔を真っ赤にしてうつむいてもじもじと身をよじる。


 ヒルドラの腕の中で、縮こまる彼女に、「…………」「…………」「ふたりともしょの顔やめろー!」


 と、リーダーと魔術師に、アサノが吠える。


「青春してるなぁ」「おいアサノ。今日素っ裸でディアブロの部屋いきな。抱いてくれって」「あほー!」


 そうこうしていると、俺たちは拠点である村へとたどり着いていた。


 あいかわらず村人は、俺たちに、冷たい視線を向けてくる。


「ちっ。あいっかわらず感じわりいなぁ」


 不愉快そうに顔をしかめるヒルドラに、俺は言う。


「そう言ってくれるなヒルドラ。あの人たちもいろいろ事情があるんだよ」

「ほーん……」


 ヒルドラが俺をじっと見やる。


「なんだ?」

「んー、まっ、なんでもねえ」


 ヒルドラがニカッと、いつものように明るく笑う。


「……ヒルドラ。ましゃかおぬしも?」


 おろおろ、と腕の中のアサノが不安げに尋ねる。おぬしもってなんだ?


「おっ? なーんだアサノ」


 にやにや、とヒルドラが意地の悪い笑みを浮かべる。


「だーいじょうぶだよ。おめーさんの愛しいディアブロくんは取らねーって」

「んなっ……! ばかっ! ばかー! おまえ余計なこと言うなぁ!」


 アサノはヒルドラから降りると、俺をバッ! と見やる。


 その顔は耳まで真っ赤で、目が潤んでいた。


「でぃ、ディアブロどのっ!」「え、ああ……なに?」「ち、違うからっ! 違うからにゃっ!」


 そう言うと、アサノは瞬く間にいなくなってしまった。


 ヒルドラはにやっと笑って、俺の肩をたたく。


「モテ男」「なんだそれ?」「なんでもねーさ。ほら、行こうぜ」


 俺たちパーティは、宿屋【はなまる亭】へと帰ってきたのだった。



    ☆



 俺たち黄昏の竜がはなまる亭へ帰ってくると、時刻は19時。


 俺はヒルドラたちとともに、食堂で夕食を取ることになった。


 本当は宿を手伝おうとしたのだが、商人のルーシーに【ここはいいので、仲間との交流は大事にしてください】といわれ、ディアブロのままでいることにした。ありがとうルーシー。


「はいみなさ~ん。おつかれさま~」


 そう言って、俺たちのテーブルに料理を持ってきたのは、母さんだ。


 フィオナの作った料理を母さんが運んできて、テーブルに肉料理や酒を置いていく。

「ナナさん! こっちにもー!」「ばかやろう! 俺たちの方が先だ!」「ナナさーん! 好きだぁあああ!」「よしそいつをつまみ出せ!」


 テーブルのあちこちから、母さんを呼ぶ声がする。相変わらず母さんは大人気だった。


「盛況だなぁここはよぉ」

 

 ぐびぐび、と酒を飲んでヒルドラがつぶやく。


 彼女が言うとおり、食堂は人でごった返している。


 めいめいが楽しそうに食事をしていた。


「そりゃそうだろう!」


 そう言ってからんできたのは、見知った顔だった。


 近くのテーブルに座っていた冒険者パーティ、【若き暴牛】のリーダーだった。


「飯は美味いし酒もある! 風呂もあって部屋が清潔! そして安い! 俺たち駆け出し冒険者にとって、こんなにありがてえ店はねえよ!」


 喜色満面のリーダーに、俺は内心でほほえむ。宿のことを褒められると、やっぱり嬉しくなる。


「そして何より!」


 リーダーがでれでれとした表情になり、食堂端のカウンターを見やる。


「ナナさん。これ5番テーブルへ」

「はーい。了解よ~フィオナちゃん~」


 母さんが料理を持って、うんしょうんしょと運んでいく。


 今日は暑いからか、髪をポニーテールにしていた。普段見えないうなじが見えてるからだろう、リーダーの鼻の下が伸びている。


「若くて美人で未亡人の店主がいる! これで決まりだ! なぁおまえらぁ!」

「そうだぜリーダー!」「もちろんだぁ!」「ナナさん結婚してくれぇええ!」


 酔っ払っているのか、ゲラゲラと暴牛のメンバーたちが笑う。


「みんな~。飲み過ぎちゃだめよ~?」

 

 母さんの忠告に、暴牛たちが「「「はーい!」」」と答えて、「「「おかわりー!」」」と酒の注文をしていた。おい。


 そんなふうに、客たちは楽しそうに騒いでいた。こんな時間がずっと続けばうちも繁盛するのだが……。


 と思っていた、そのときだった。


 ……がちゃっ。


 と食堂のドアが開いて、新しい客がやってきた。


 だれだと思ってそこを見やると……村長のキリコが立っていた。


「キリコ……」


 長身の黒髪美女の到来に、あたりがしんと静まりかえる。


「あのおっかねえ村長さんだ……」「何かようだろうか」「いつもみたいにしかりに来たんだろ」「いやでもいつもより来るのが早くないか……?」


 楽しそうに騒いでいた冒険者たちが、ひそひそと、やってきたキリコに向かって声を潜めてささやきあう。


 キリコは食堂の入り口で、きょろきょろ、と何かを探すように首を動かしている。


「お客さまぁ、何か用ですかぁ?」


 キリコにいちはやく声をかけたのは、我らが商人、エルフのルーシーだ。


 子供のようなみために、水色の鮮やかな髪が特徴的な彼女。


 据わった目つきでキリコをにらみながら、ルーシーが彼女へ近づく。


「また騒がしいって注意ですか?」


 ぎろりとルーシーがにらんだあと、はんっ! と鼻で笑う。


「大丈夫なはずですよね。なにせ壁には防音材を取り付けましたもの!」


 そう……。


 キリコから騒音のクレームが入った後。


 俺とルーシーは協力して、音を吸収する素材の板を作った。

 

 創造の絨毯という、材料さえあれば何でも作れる絨毯を使って、俺たちは工事をした。


 昨晩はそのせいで寝不足になったが、おかげで騒がしさは軽減したはず。

 

「…………」

「防音材は100パーセント音を遮断する物ではありませんが、それでも前のようにうるさいってことはないと思いますけど?」


 ガンを飛ばしながら言うルーシーを、キリコは半ば無視していた。


「お客様?」

 

 さすがに不審に思ったルーシーが、首をかしげて尋ねる。


「失礼。聞いてなかったわ」


 我に返ったキリコが、エルフ少女を見下ろして言う。ルーシーの額に「あ゛?」と怒りマークがついて、一発触発の雰囲気になった。


 そのときだった。


「あら~。キリコちゃんこんばんわ~」


 ぽわぽわと笑いながら、母さんがキリコに近づく。


「……こんばんは」


 キリコが低い声で返事する。


「ご飯食べにきてくれたの~?」

「……違います。今日は別件です」

「別件~?」


 はてな、と母さんが首をかしげる。


 そわそわ、とキリコが身体を揺する。首を伸ばして、食堂の中を見渡してる。


「……おいなんか今日は変だぞ」「……だな。いつもみたいに叱ってこない」「……どうしちまったんだ?」


 と冒険者たちがひそひそ声で言う。


 確かに。飯を食いに来たわけでも、クレームを言いに来たわけでもない。


 ならキリコは、何故ここへ来たのだろうか……。


 と思ってキリコを凝視していたそのときだ。


「あっ……!」


 キリコと、俺の目が合う。


「ディアブロ……さん」


 キリコは母さんの元を離れて、すすす、と俺の元へやってくる。


「キリコ……」


 俺の真横までやってきたキリコ。彼女は以前俺と最初にあったとき、名前を明かしている。


「その……こんばんは」

「えっと……こんばんは」


 キリコは俺に挨拶をした後、もごもご、と口ごもっている。長い髪をせわしなくすいている。


 俺に声をかけた後、キリコは黙ってしまった。……いったい何をしにここへ来たのだ?


 俺に会いに来たのだとしたら……何のために?


 ……と思って、俺は自分の顔を触る。そうか、と直感的に理解して、申し訳なくなった。


 たぶん、彼女は俺というか……。


 とそのときだった。


「よぉなんだぁディアブロ!」


 俺の隣にやってきて、ヒルドラが腕を回してくる。


「なんだよおいこの美人!」


 にやにや笑いながら、ヒルドラが絡んでくる。


「いや……彼女はここの村長で」

「ンなこと聞いてるんじゃねーよ。どういう関係かって聞いてんだよ。なあなあおいおい」


 ぐりぐり、とヒルドラが俺の頭を指でつついてくる。


「ふむ……それは確かに気になるな」


 とリーダー・ナハティガルが同意する。


「……せ、せしゃもっ」


 アサノまで乗っかってきていた。


「いや……だから俺と彼女は別に……」


「別に? おいおい嘘はいけねえなぁ!」


 ヒルドラはすっごい良い笑顔で、にやつきながら言う。


「美人さん、おめえーを探してたじゃねーか。つーことは、おいおい、ひょっとして?」

「ましゃか……」「まさかまさか?」


 興味津々のヒルドラとナハティガル。アサノも食いついてくる。


「いやだからなぁ……」


 返答に困っていると、ヒルドラが「なぁ姉ちゃん!」とキリコに言う。


「……私?」

「そうだよ姉ちゃん。ちょっとここっ、ここ座りなっ!」


 ヒルドラがイスを引いて、ばしばしとたたく。


「ちょぉっとアタシらと飲もうぜ。酒はおごってちゃる!」

「私は……」


 ちら、とキリコが俺を見やる。


 ややあって、「……そうね。じゃあ、相伴に預かろうかしら」


 といって、俺の隣に座る。

 

 イスの位置を正す。心なしか、俺の近くに移動させた。


「こりゃ……楽しそうなことになりそうだぜ! なあリーダー!」

「ああ」「うぬぐぅ……」


 かくして、黄昏の竜と俺、そしてキリコと飲むことになったのだった。

お疲れ様です。


投稿が遅れて大変申し訳ございませんでした。もう一作の方の書籍化の作業があって、更新にまで手が回りませんでした。


作業もひと段落しましたので、今日から更新再開します。遅れて本当にすみませんでした。


また近々、このお話のことで、皆様にご報告することができました。


週明けくらいの更新時に、お知らせできるかなと思ってます。少しお待ちください。


次回更新ですが、日曜日に、もう一度更新します。お昼か夕方くらいには投稿できたらと思ってます。


以上です。

ではまた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ