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28.勇者、勘違いされる

お疲れ様です。この28話なのですが、昨日あげたものを削除して、新しく書き直しました。ご承知ください。



 ここまでの俺。


 村長キリコの妨害によって、客足が減ってきている今日この頃。

 

 尾行によってキリコが父さんのことが好きだったことが判明する。


 その頃俺は冒険者ディアブロとして、村近くのダンジョンでクエストをこなした。


 ダンジョン内には鋼鉄蟻というモンスターの卵が大量にあり、俺達冒険者パーティ【黄昏の竜】はそれを残らず殲滅。


 卵を産んだ女王アリが見当たらないことに多少の疑問を覚えながらも、俺達は村へと帰還する。


 そのままはなまる亭で打ち上げをしようと思っていたそのとき、俺はキリコと偶然出くわす。


 そして彼女は俺を見るなり、感極まった声で【イサミさん!】と呼びながら、俺のことを抱きしめてきたのだ。


 さて。


 話はその直後のこと。


「…………」

「イサミさん……イサミさん……」


 黒髪の乙女に、大通りでぎゅっと抱きしめられている俺。


 しかも相手は泣いている。ぐすぐすと涙を流しながら。


 まずい。これはまずい。


 俺はこの状況を把握できていない。周りの人間もだろう。


 しかし何も知らないひとが、今の俺とキリコを見たらどう思うか?


「なんだぁ? 痴情のもつれか?」「……とてつもないびじょをなかしてるでごじゃる」「ほほう、ディアブロもなかなか罪な男じゃないか」


 と、こうなってしまう。


 パーティメンバーは完全に、男女間トラブルと勘違いしていた。


「い、いや違うんだよ。これは……」


「いや! 言わなくて良いぜ坊主。皆まで言うな」


「……ディアブロしゃんは、もてるんれしゅね。ぐしゅ」


「ンだぁ? アサノ。泣いてんのか?」


「……な、ないてないでごじゃる!」


「まあまあ。私たちは退散しよう。お邪魔虫みたいだからな」


 そう言って、黄昏の竜のメンバーたちは、俺をおいて「先に宿へ行っているぞ」とその場を後にした。


 あとには俺とキリコだけが残される。


 ぐすぐす……とキリコは俺の胸で泣いていた。


 ……しかしこれはいったいどういうことだ?


 なぜ彼女は、俺を見て急にイサミさんと、父さんの名前を呼んだのか? それと同時になぜこんなにも感極まっているのか?


 俺は、言うまでもなくイサミではない。だが彼女は俺を見てイサミといった。


 俺を父さんと勘違いしてるのか? ……だとしても、なぜだ? 俺と父さんは別人……。


 と、そのときだった。


「…………っ!」


 キリコが顔を上げる。みるみるうちにその顔が真っ赤になる。


 わなわなと唇を震わせて、「す、すみましぇ! !? ……ったぁ」


 キリコが慌ててしゃべったからか、舌をかんでしまった。


 痛そうに口元を、手で押さえている。


「だ、だいじょうぶか?」

「………………ええ、平気です」


 涙目のキリコ。


 どうみても痛そうだ。


 俺は治癒魔法で彼女のけがを治す。


 勇者おれは基礎的な魔法なら全属性の魔法を使えるのだ。


 治癒魔法を使ってキリコの舌を治す。


「……ありがとうございます」


 ぺこり、とキリコが頭を下げる。


「いや、別にたいしたことしてないし」


「…………」


 キリコが俺の目をじっと見てくる。


「似てる……でも、違う。けど……声も、顔も、性格も、そっくり」


 ぶつぶつ……とキリコが何かをつぶやく。顔? 似てる? そっくり。


 ……そのとき俺の脳裏に、一つの仮説が打ち立てられた。まさかと思うが……いやでもまだ仮説の段階だ。


 そんなふうに考えていると、キリコが「先ほどは失礼いたしました」と冷静な口調で、俺に謝意を伝えてくる。


「いえいえ。……それで、その、なんで俺に抱きついてきたんですか。それにイサミって……」


 とは言いつつも、俺には答えがわかってる気がした。彼女は勘違いしている。俺と……。


「あなたが、その、昔死んだ友人に、そっくりだったんです」


 キリコの言葉に、俺はやっぱりか、と内心でつぶやく。


 キリコは俺とイサミを勘違いしていた。何故と思ったが答えは簡単だ。顔が似ているのだ。


 キリコは前からよく、俺に言っていた。父さんに似ていると。言われてみるとディアブロは父さんと顔が似ている。親子だからだろうな。


 顔が似ているから、キリコは俺と父さんを勘違いしたと。


「そんなに俺はあなたの友人と似てるのか?」


「……ええ、そっくりです。顔の形も、髪の色も。ただ……」


 キリコは俺の目を見やる。目を見て、ふるふる、と首を振る。


「目の色だけは違いますね」


「………………そうか」


 目の色が違うのは、当然だ。俺の外見はほぼ父さんと一緒だ。が、目だけは……母さんと同じ色をしている。


 母さんと同じ、茶色だ。


「本当にそっくりです。イサミさんに……。生き写しといっても良いくらいに……」


 キリコの目にいとおしさが帯びる。ただ彼女の目は俺を見ていない。俺ではなく、父さんを見ている。


 俺は、申し訳ない気持ちになった。だって彼女は俺ではなく父さんに会いたがっている。だが俺はどうやったって、たとえ外見が似ているとしても、俺は俺だ。


 俺は父さんにはなれないし、父さんでは……ない。


「すまない。仲間を待たせてるんだ。これで失礼して良いか?」


 俺はすぐにこの場を立ち去ろうとした。彼女にこれ以上妙な期待を持たせたくない。

 かわいそうだ。


 俺は、別人なのだから。


「あの……待って!」


 ガシッ! とキリコが俺の手を握ってくる。俺は「なんだ?」と問い返す。


「名前、を。あなたの名前を、教えてくれない?」


 彼女は何を思って、そんなことを聞いてくるのだろう。ここでイサミと答えることを期待してるのだろうか。


 でも、ごめん。違うんだ。俺は、父さんじゃ、ないんだ。


 そういう意味を込めて、俺はきちんと言った。


「ディアブロ。俺は、冒険者ディアブロだ」


 それだけ言って、俺はその場を後にする。


 キリコはその場から動いてる気配はない。ただ……じいっと、俺のことを後ろから見ているのだった。



    ☆



 数十分後。はなまる亭の食堂にて。


 黄昏の竜のメンバーたちが、丸テーブルを囲んでいる。


 そして俺への質問攻めが続いていた。


 あの女は誰なのか? なぜ抱きついてきたのか?


 などなど、俺は彼女たちの格好の話題の種にされた。


 それをかわすのにだいぶ苦労している。


「だから、さっきの人は俺を違うやつと勘違いしてたんだって。死んだやつと顔がそっくりなんだってさ」


「という、作り話なんだろぉ?」


「だから……作り話じゃないって」


 特に魔術師ヒルドラは俺に質問しまくり、根掘り葉掘りと聞いてくる。


「…………」


 常識人のアサノは、さっきから黙っている。聞き耳を立ててるようだ。彼女もなんだかんだで恋愛ごとには興味があるのだろう。


「なー言えって。別におれは坊主を責めてるんじゃねーって。話題を提供してくれっつってんだよ。なあアサノ、おめーも気になるんだろ?」


「……………………。………………………………。…………………………べつに」


「がっはっは! なんだぁその興味ありませんよー、みたいなポーズ。へたすぎねぇか? おいおいアサノさんよぉ」


 ぐりぐり、とヒルドラがにやにや笑いながら、アサノの頭をなでる。


「……うるしゃい」


 とぺしっ、と手でヒルドラの手を払いのけて言う。


 と、そのときだった。


「やあみんなおまたせ」


 といって、リーダーのナハティガルが、俺達の元へと帰ってきた。


「よぉリーダー。ギルドへの報告は済ませたのか?」


「ああ。フクロウ便を使ってね」


 この世界ではフクロウに手紙を運ばせるのが、一般的な郵便手段だ。


 ナハティガルはフクロウに手紙をわたして、ギルドにクエスト達成の報告を送っていたのだ。


「そうしたらギルドから、新しい依頼が送られてきたよ」


「ほー、どんなん?」


 リーダーが席に着く。


「村近くのダンジョンで、鋼鉄蟻の女王アリの捜索をしてこい、だそうだ」


 リーダーの言葉に、ヒルドラとアサノは「ふーん」と無感動にあいづちをうつ。


「具体的にどういうことだ?」と俺。


「さっきの卵殲滅クエストなのだが、やはり産卵を行う女王アリがいないことが気になったんだ。そこでギルドに問い合わせたところ、ギルド側も私と同様の疑念を抱いたらしい」


「……ぎねんとは?」


 深刻な顔でナハティガル。


「女王アリが生存していて、あのダンジョンの中で卵を産卵しまくっているのではないか、とね」


 言われて、確かにその可能性はなくはなかった。


 あの洞窟内で発見した大量の卵。しかし産卵したはずの女王アリはいなかった。


 誰かによって倒されたのか? と思ったのだが、誰かが討伐すればギルドへ報告が行く。


 ギルドが俺達に捜索を依頼してきてる時点で、女王アリは討伐されてないだろうことは明らかだ。


 つまり、女王アリは生きている。となると、また卵をあちこちで産んでいるかもしれない。


 放置すれば、卵は孵り、大量のモンスターがダンジョンの中をうじゃうじゃと徘徊することになるだろう。


 最悪、ダンジョンの外へ出て、モンスターの大進行が始まる危険性だってあった。


 それを未然に防ぐため、捜索隊として、俺達黄昏の竜が選ばれたのだそうだ。


「すでに他の冒険者たちにも捜索の依頼を出しているらしい。今の段階で一番ダンジョンに近くにいるのが私たちだから、まっさきに私たちに依頼が来たそうだ」


「ふーん。んで、リーダー。そのクエスト、うけるのか?」


「当然だ」


 力強くナハティガルがうなづく。


「いずれ人々の生活を脅かす存在へとなるものを放置はできない。我々は冒険者だ。自由と平和を愛するものだ。平和を乱すやからは許せない」


 その目にははっきりとした意思が感じられた。堅く、強い、人を守るという意思だ。

「ま、おれも同意見だ」「……せっしゃもだ」


 三人が、俺を見てくる。


「俺もだ」


 放置すればアリがダンジョンを出て、村の脅威になる可能性だってある。


 母さんや、仲間たち、大切な人たちのいるこの村の平和を、俺は守りたい。その気持ちに偽りはない。


 ……だが。


「よしでは決定だ。ダンジョン探索は時間がかかるだろう。ゆえに私たち黄昏の竜は、数日間、ここに宿を取ることとする。異論は?」


「「ない」」



 ない、と俺はすぐに言えなかった。


 ここに宿を取る。ここがダンジョンから一番近いから。理にかなった意見だ。


 ……しかしそうなると、まずいことになる。


 なぜなら、大人の姿のディアブロが、長くこの宿に留まらないといけないことになるからだ。


 それのどこに不具合があるかというと……。


 この姿のまま、村に長く留まらないといけなくなるわけだ。そうなると……自然と、キリコとの接触の機会が増えてしまうことになる。


 キリコは父さんに会いたがっている。けど父さんは死んだ。


 俺は別人だが、キリコはディアブロに父さんの面影を見いだしている。


 それは……彼女にとってつらいことだ。亡くなった故人を、思い出させてしまうからだ。


 メンバーたちはここに宿を取る。ディアブロは元々、ここを拠点として活動している。


 そんな俺が、急に自分だけ別の宿へ行く、というのは明らかに不自然だ。


 ……結局、ディアブロはメンバーたちの提案に了承。しばらくこの姿のまま、村に留まることになったのだった。


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ではまた。

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