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22.勇者、自重せず無双する



 季節は夏、それも盛り。


 宿に来る客が快適に過ごしやすくするため、ルーシーは【くーらぁ】と【れいぞーこ】とやらを作ることにしたらしい。


『どれも正確には本物のクーラーに冷蔵庫ではない模造品ですが、それでも大変有用だと思いますよ』


 とのこと。

 

 俺は本物も模造品も知らないので、ルーシーの言っていることはよくわからなかった。


 ただ仲間である彼女が、必要だと言ったのだ。なら俺は彼女の言葉を信じるだけだ。

 それに彼女は優秀な商人でもある。彼女の目とアイディアに間違いがあったことは1度たりとも無い。


 よって俺は彼女を信じて行動するだけだ。


 それはさておき。


 俺はルーシーに依頼され、超レアアイテム、魔導鉄オリハルコンを手に入れるために、村から離れたダンジョンへと向かっていた。


 魔導鉄は上級ダンジョンにいるモンスターからしかドロップしない。


 だから上級ダンジョンへ行く必要がある。ただひとつ問題があった。それは、上級ダンジョンへ行くためには、冒険者のランクがB級以上でないといけないのだ。


 俺は先日、SSS級の実力を持った期待の新人冒険者として、華々しくデビューを飾った。


 ……自分で言っててなんか恥ずかしいな。まあいい。


 俺にはたしかにSSSの実力がある。なにせ俺は元勇者だ。魔王という人外の化け物に匹敵する強さを持っている。


 しかし実力がSSS級だからといって、世間的にはまだ新入り冒険者。ギルド側も入ってすぐの新人に、上級ダンジョンにはいどうぞといって行かせるわけにもいかないらしい。


 魔導鉄は上級ダンジョンへ行かないと取れない。しかし単身では、俺はダンジョンへ潜れない。


 そこでルーシーが考えた策として、他の冒険者パーティに、俺(というか俺が変装したディアブロ)が入ることだ。


 さて。


 俺は冒険者パーティ【黄昏の竜】とともに、村から少し離れた場所、【コモロー】という街の近くにある、上級ダンジョンへとやってきた。


 周囲一面の草原に、ぽつんとひとつ、場違いのように高い塔が立っている。


 雲を貫くほど高くそびえ立つ塔の、地下に広がるのが、上級ダンジョンだ。


 ちなみにこの塔の上には誰もいけない。し、この塔に何が住んでいるのかもしらない。


 ダンジョンの入り口にて。


 金髪の女性が、俺たちパーティの前に立って言う。


「さてみんな聞いてくれ」


 高い身長。長い金髪を三つ編みにしている。腰にはふた振りの剣が佩いてある。


「今日から我々黄昏の竜は、新しい仲間を迎えることになった」


 剣士の女性が俺を手招きする。


「よぉリーダー。ンなもんしょうかいしなくてもしってるっつーの」


「……いましゃらでごじゃらんか?」


「そう言うな。最初にあいさつをするのはマナーだろう」


「あーそ。別にリーダーが言うならおれは従うぜ。な、アサノ?」「……そうでごじゃるな、ヒルドラ」


 さて……と剣士の女性、このパーティのリーダーが、俺を見て頷き言う。


「紹介しよう。彼はディアブロ。皆も知っているように、彼はSSS級の実力を持っている、私がしる限り最強の冒険者だ」


 胸を張ってリーダーが言う。


 ディアブロとは俺が大人に変装した姿の名前だ。


 俺は飲むと外見を変えられるポーションを使っている。ちなみに1本5000ゴールドもする超高価な薬なため、おいそれと変身できない。


「ディアブロ。改めて我々黄昏の竜のメンバーを紹介しよう」


 リーダーはまず魔術師の女を指さす。


 背は高い。180くらいある。体つきはどこの格闘家ですかというほどがっちりとしている。


 ただ身につけているのは、魔女が着るような黒いローブに三角の帽子。そして手にはごつい木の杖。


「彼女はヒルドラ。魔術師だ」


「よろしくな坊主!」


 ニカッ! とヒルドラが笑う。


「次にそっちの小柄な少女は、野伏レンジャーのアサノだ」


「……どーも。あしゃのでごじゃる」


 かみかみしながら、アサノが言う。


 大変小柄だ。ヒルドラという、巨大な女が隣にいることを差し引いても、アサノは小さい。140もないだろう。


 短い髪を後で束ねて、マフラーで口元を隠している。鎖帷子にゆったりとしたズボンにサンダル、と非常に軽装。


「そして最後に、この黄昏の竜の頭目をやっている、私はナハティガルと言う。よろしくな、ディアブロ」


 リーダー……ナハティガルが俺に手を伸ばしてくる。俺は彼女の手を握りかえす。


「ディアブロだ。みんなよろしく頼む」


 俺が頭を下げると、アサノ、ヒルドラ、ナハティガルがパチパチパチ……と手を叩いてくれる。


「ところで坊主。おまえまだか?」


 ヒルドラがにやりと笑って、俺の肩に腕を回す。


「は? まだって何だ?」


「ンだよ鈍いな。童貞かって聞いてんだよ」


 ……何を唐突に言ってるんだ、この人。


「……やめるでごじゃる」


 ちびっ子アサノが、不快そうに顔をゆがめる。


「……新入りが困ってるでごじゃる。そのてをはなしぇ筋肉だるま」


「ンだよアサノ。別に童貞かそうじゃないか聞くくらいいいじゃねーかよ」


「……しょうゆーのは、しょの、よ、よしょでやるでごじゃるっ」


 ははん、とヒルドラが言う。


「アサノおめー恥ずかしがってんのか? この程度で恥ずかしがるたぁ、さすが処女だな。ガッハッハ!」


 呵呵大笑するヒルドラに、アサノが「う、うるしゃい! うるしゃい!」と跳び蹴りを食らわす。


 だがヒルドラはがたいが良いため、アサノの蹴りを食らっても微動だにしてない。


「はっはっは」「リーダーもわりゃってないでこのセクハラだるまをだまりゃせてくだひゃい!」「まあ良いじゃないか」「もー!」


 どうやらアサノはきまじめ、ヒルドラは男勝り(ややセクハラオヤジ)、ナハティガルは寛容な性格をしているようだ。


「さてメンバーもそろったことだ。そろそろダンジョンへ行こうじゃないか」


 ナハティガルの言葉に、メンバーたちが頷く。雰囲気が一転して真剣な表情になっていた。プロって感じだ。


「ンでリーダー。今回の依頼はどーなってやがんだ?」


「今回はディアブロが魔導鉄オリハルコンが欲しいというからな。新入りの彼の意見を汲んみ、今日は魔導鉄を取りにいく」


「うげっ。マジかよ」「……ほねがおれるでごじゃるな」


 ううーん……とふたりが渋い顔になる。


「よぉリーダー。それって魔導巨人オリハルコン・ゴーレムからしかドロップしないんだろ」


「……硬さに限ってはSS級のモンスターれしゅね」


 魔導巨人は動きはとろいが、体が魔導鉄オリハルコンでできているためすさまじく固い。


 倒すのに苦労する。だからふたりとも嫌がっているのだろう。


「そう言うな。新入りが魔導鉄が欲しいというのだ。新人のわがままを聞くのも先輩の仕事だ」


 ナハティガルがそう言うと、2人とも「ま、しゃーねー」「……リーダーの言ってることはもっともれしゅからね」


 と納得してくれた。


「そう言うわけだ。魔導巨人は固い。だが皆が一丸となれば、なに、1日で10体は倒せるだろう」


 うんうん、と頷くメンバーたち。


 ……10体、か。まあ、そんなもんだよな。


 だがそれじゃあ少ないのだ。



    ☆



 ダンジョンの入り口にて、パーティのリーダー、ナハティガル先導の元、俺たちは上級ダンジョンへと入る。


 パーティとしての黄昏の竜のランクはAランク相当。だから上級ダンジョンへ入れる。


 入ってしばらく歩いていると、向こうから不思議な色をした鉄の巨人が、のそり……のそり……とゆっくりと歩いてくる。


 3mほどの大きさ。ゴリラのように両腕がぶっとく大きい。


 肌は光りの具合で七色に光って見える。それが魔導鉄オリハルコンの体でできた巨人、魔導巨人オリハルコン・ゴーレムだ。


「来たぞ。各員、戦闘準備!」


 剣士ナハティガルの号令に、魔術師ヒルドラ野伏アサノが、それぞれ杖とナイフを抜く。


 巨人は俺たちに気づくと、その巨腕を振り上げてーーーーー吹っ飛んでいった。


「は?」「へ?」「……なぬ?」


 巨人の腕は意図も容易く切断されて、どこかへと飛んでいった。


 巨人も、そしてメンバーたちも目を丸くしている。


 俺は隙を突いてすぐさま巨人の元まで移動。手に持った勇者の聖剣を「せいっ!!!」と横一線。


 魔導巨人の足が切断される。自重を支える足がなくなったので、巨人が前に倒れ込んでくる。


 俺は特に力を入れず、剣を手にかかげて、縦に振り下ろす。


 シュコンッ!


 と溶けたバターのように、魔導巨人が、縦に切られて、左右にバタリと倒れる。


 そして爆発すると、後には【魔導鉄オリハルコン】が残された。


 俺はそれを回収する。これで1個か。遅いな。もっとペースアップしないと。


「…………」「…………」「…………」


 仲間たちが言葉を失っている。


「悪い。独断専行して」


 ハッ……! とナハティガルが正気に戻る。


「い、いや別に構わないよ」


「……おい坊主。すげーじゃねえか!」


 ニカッ! と笑ってヒルドラが俺にがっ! と腕を回してくる。


「硬さSSランクのモンスターを、あんなに容易く倒しやがって!」


「……しゅごい。だれにもできるげいとうじゃないでごじゃる」


 喜色満面で黄昏の竜のメンツが、俺を褒めてくる。


「どうやったんだ? 良ければ私たちに魔導巨人の倒すコツを教えてくれないか?」


「コツっていうか……そういうのはない」


「「「は?」」」


 ぽかーん、とメンバーたちが口を開けて驚く。


「単に武器で切っただけだ。ワザもスキルも特に使ってない」


「じゅ、純粋に力のパラメーターで、硬さSSのゴーレムに上回っていたというのか?」


 ナハティガルが驚愕に声を震わせて言う。

「おいリーダー。とんでもねえやつを仲間に入れたんじゃないかおい!」


「……しゅごい。かっこいい」


 キラキラとした視線を俺に向けてくる彼女たち。


「悪い。ナハティガル。今日は目標を達成したいんだ。少しペースアップしてくれないか?」


 俺の言葉に、ナハティガルがうなづく。


「構わないが、いったいどれくらいが目標だというのだ?」


「この調子なら10……いや、20は固いんじゃあねーか?」


 俺は首を振るって言う。


「1000だ」


「「「……はぁ!?」」」


 1台あたりに魔導鉄が100必要らしい。それを手始めに10台ほど作りたいとのこと。ルーシーからい割れていた最低目標だ。


「せ、1000はちょっと」「さすがにそりゃ無理だろ……」「……いや、かれならもしや」


 驚く彼女たちをよそに、新しい魔導巨人がやってくる。


 俺は身をかがめて、びゅんっ! と一直線に飛ぶ。そのままの勢いで巨人の首を撥ねた。


 ずずん……と重低音とともに巨人が倒れて、魔導鉄が手に入る。これで2個。


「ンだよはやすぎんだろ!」


「……せっしゃたちが1にちかけて10たいたおしぇるかどうかってくらいなのに……」


 驚く彼女たちをよそに、俺はやってくる魔導巨人の首を次々に撥ねていく。


「すまない。倒してくからナハティガルたちは、俺が倒してドロップする魔導鉄を回収してくれ」


「わ、わかった」


 俺はナハティガルに言い残すと、その場から神速で離れる。


 勇者のパラメーターはオール9000オーバー。身体能力で俺に勝てるやつはこの世にはいない。


 流星のごとく超スピードで、俺はダンジョンを駆け巡る。


 出会う魔導巨人の頭を片端から切っていく。幸いにしてダンジョン内部では、モンスターはわき放題だ。


 スパッ! スパッ! ザシュッ! ザッシュッ! と疾風となって巨人の間をすり抜ける。


 風が吹き抜けると、ゴーレムは倒れてアイテムだけになる。


 俺は止まらない。し、この姿なら自重しなくていい。むしろあんなすげえやつがいるとウワサが広まることで、有名になっていき、そうすれば宿の宣伝につながる。


 そう、俺は別に名誉は自分のために欲しくない。俺がこうして頑張っているのは、すべて宿を繁盛させるためだ。


 俺は作業と化したゴーレム倒しをしながら、改めて認識する。


 俺が身分を偽って冒険者をやるのは、ディアブロという新人が大暴れして有名になり、【はなまる亭っていいところですよ】と宣伝するためだ。


 有名人が紹介した宿となれば、それだけ客の注目度も上がるだろう……とは、ルーシーの言。


 だから俺はこうして、実力を隠すことなく、持っているチカラを存分に発揮する。


 ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!


 すでに何体倒したのか、記憶してない。高速で移動し、その勢いのまま巨人の首を撥ねている。 


 辺り一面にはごろごろと、地面のあちこちに魔導鉄オリハルコンが転がっている。


 後の方で仲間たちがせっせと集めてくれている。ありがたい。助かる。


 俺はひたすらに、ダンジョンを縦横無尽に走り回り、巨人を倒しまくった。


 そして……数時間後。


 俺たちはダンジョンの出入り口まで戻ってきた。


 外に出るとすっかり日が暮れている。


 俺たちはドロップした魔導鉄を数える。


「どうだ?」


「……4156個、ありゅな」


 山となった魔導鉄を前に、呆然とアサノがつぶやく。彼女は野伏のスキル、【影分身】というスキルが使える。


 これは自分の分身をいくつも作り出すことのできるスキルだ。


 分身した彼女たちが協力して、魔導鉄の数を数えてくれたのだ。ちなみに彼女たちには魔導鉄を拾って一カ所に集めてもらい、俺がアイテムボックスの中に入れたのである。


「ありがとう。目標の1000個、回収できたよ。残りは分け前として3人でわけてくれ」


「「「いやいやいやいや!!」」」


 黄昏の竜のメンツが、勢いよく首を振るう。


「もらえねーって!」「……せっしゃたちほぼなにもしてないでごじゃる」


 謙虚にそう言ってくるヒルドラとアサノ。

「いや、ちゃんと集めてくれただろ。助かった。のこり3000個を3人でわけてくれ」


「……ディアブロ。それは無理だ」


 申し訳なさそうに、リーダーのナハティガルが首を振るう。


「魔導鉄は超レアアイテムだ。1個にすさまじい値段がつく。それを1000個も、しかも私たちはいっさい敵を倒してない。これではあまりに申し訳がなさ過ぎる」


「良いってそんなの。気にすんな。もらってくれ」


 俺は彼女たちのおかげで目標達成できた。特にアサノの影分身スキルが無かったら、こんな大量のアイテムを回収はできなかっただろう。


 ホント、自分にできないことができる仲間がいるって、いいものだな。


「……そうか。ディアブロ、君は本当に強きものなのだな」


 うんうん、と感心したように、仲間たちが頷く。


「つえーとは思ってたが、ここまでつえーとはな。さすが期待のルーキーだぜ」


「……これからもきたいしてるでごじゃる」


 すっ……と仲間たちが手をさしのべてくる。俺は彼女たちの手を握ったのだった。




お疲れ様です。


次回は手に入れたオリハルコンで色々作ります。


土日も頑張って更新しますので、よろしければ下の評価ボタンを押していただけると、やる気に繋がります。よろしくお願いします。


ではまた。

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