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19.勇者、クズどもに制裁を加える



 俺たちの【はなまる亭】の危機を救ってくれたのは、かつての仲間、勇者パーティのめんめんだった。


 意気消沈していたフィオナも、仲間たちの存在に気づいて復活。


 ソフィ両親の穴を埋めてなおあまりある戦力のもと、俺たちは一丸となってピンチに立ち向かった。


 そして……。


 繁忙期は大盛況で、乗り越えることができた。


 超優秀な人材を召喚したことによって、6日目、7日目も余裕で客を捌くことができた。


 お客さんはみんな満足してくれて、また来るよと笑って客が帰ってくのを見て……俺はとてつもない満足感と達成感を感じた。


 そして、最終日から、二日が経過した、夜のこと。


 その日の夜。食堂には、従業員+勇者パーティのめんめんが集まっていた。


「それじゃ~みんな~」


 食堂の中央、母さんが飲み物のグラスを持っている。


「飲み物は行き渡ってる~?」


 母さんが従業員とパーティメンバーを見回す。


「大丈夫です、ナナさん。始めてください」


 ワイングラスを持ったルーシーそう言う。中にはなみなみと葡萄色の液体がつがれている。


 ……酒、飲めるのか? いや、飲めるか。ルーシーは子供のような見た目に反して、中身は大人なのだ。


 きっとあのワイングラスの中身は、葡萄酒に違いない。


「それじゃ~みんな~。忙しい中、ごくろうさまでした~。かんぱーい」


「「「かんぱーい!!」」」


 その場にいたみんなが、喜色満面でグラスを付き合わせる。そしてごくごくとグラスの中身を飲み干す。


「ぷはー! うっめーす! さすが創造の絨毯で作った葡萄酒っす!」


 とクック。


「フンッ! 当然じゃ。ドワーフ秘伝の酒がうまくないわけがないだろう」


 絨毯の中に葡萄ぶどうをつっこんだだけで酒ができたのだ。ルーシーはこの使い方を知らなかった(俺もだが)。


 それを聞いて【これはお金になりますよー!】と目を$にして喜んでいた。


 乾杯のあとに、テーブルには大量の料理が運び込まれてくる。フィオナとクックの料理人コンビが作った飯だ。


 ぷりっぷりのエビがたっぷりと入った海鮮ピラフ。家事のソースのかかったローストビーフ。


 シチューのパイ包み。てらてらとバターのやけ目が美味そうなリンゴパイ。ジュウジュウと鉄板の上で美味そうなにおいを立てているサイコロステーキ。


 これら全て俺がダンジョンで取ってきたものだ。動物系モンスターを倒して肉がでるように、サハギンといった魚人モンスターを倒せば、エビや魚を落とすのである。



「今日の食事は宿からのサービスよ~。みんな~。じゃんじゃんたべて~」


「「「はーい!!」」」


 子供かよ……と素直に返事をするパーティメンバーたちを見て苦笑する。


「はぐはぐ! ばくばく! うう……クックの料理は最高ですぅ~……♡ ひさしぶりに……ぐす、まともな食事にありつけました~……ふぇええ~……」


 ほおをネズミのように膨らませるのは、エルフのえるるだ。


「おうおう! えるる姐さん。じゃんじゃんくってくれ!」


「ふぁぁ~……い♡ 言われなくても~……♡」


 料理人クックが運んできたお代わりのピラフをみて、えるるが目を♡にする。秒で皿をからにした。


「えるる姐さんはあいかわらず食いしん坊だなぁ!」


「え、えへへ~……。わたしほら、家を追いだされて根無し草だから。ご飯にまともにありつけてなくって……」


 さらりととんでもないことを言うえるる。あとで事情を聞いておこう。


 別のテーブルではフィオナと森呪術師ドルイドのルイが談笑している。


「なに結婚だと?」


 フィオナが目を丸くして言う。


「はい♡ 入籍しました」

「なんと……相手は誰なんだ?」

「そこで料理作ってるひとです♡」


 今調理場に立っているのは、料理人のクックしかいない。新しいピラフを持って食堂にやってきて、テーブルに置く前に「いただきまーす♡」と暴食えるるに食われていた。


「まさか……クックとか?」

「ええ、そうですわ♡」


 にこやかに笑うルイに、フィオナが微笑んで「おめでとう」と言う。


 俺もルイのそばへ行って、お祝いの言葉をつげる。


「いつ頃結婚したんだ?」


「魔王討伐が終わって2ヶ月くらいでしょうか。つまり三年前ですね」


 フィオナが首をかしげる。


「まだそんなに経ってないだろう?」


「いやフィオナ。たぶん二周目の世界と一周目の世界では、時間の流れが異なるんだろう」


 思えばフィオナも、俺が二周目の世界に来て数日後にやってきて、【数か月ぶり】といっていた。


 フィオナが来てから二週間ほどが経過している。だから向こうでは、三年が経過しているのだ。


「なるほど……」


「この三年でだいぶ仲間たちも変わったんですよ」

 

 ルイがまず錬金術師のエドワードを見やる。


「エドワードさんは国立魔法大学で教授に就任しました。そして助手の女の子とご結婚なさったそうです」


 俺とフィオナが大きく目を剥く。研究一筋の彼が、まさか結婚するとは……。


「次に山じいさんは商工ギルドのギルドマスターになられました。今では五〇〇人の大工・技術者たちをまとめ上げる立派な頭領です」


 また俺とフィオナが目を剥いて驚く。山じいは結構頑固一徹なところがあった。他人の指導なんてするようなひとじゃなかったのだが……。


「クックは宮廷料理人になりました。わたしは家庭に入って子供たちの面倒を見ています」


 へぇ……と俺とフィオナ。一瞬遅れて「ええ!?!?!?」と驚く。


「あら? どうしました」


「いや……ルイ。おまえ子供までいるのか?」


 俺が聞くと、ルイは「ええ♡」と頷く。


「双子の女の子です。今は実家にあずけてきました」


 そうか……。まあ結婚しているのだ。子供がいてもおかしくないか。


「…………」


 フィオナが指をくわえて、ルイを見やる。

「ソフィさんもすぐに元気な赤ちゃんうめますよ♡」


「そ、そうかっ? ま、まあ別に欲しくはないが、しかしまあ、ユートがどうしても欲しいというのなら、生んでやってもやぶさかでもないぞっ」


「いやいやまだ無理だから。俺10歳だから」


「大丈夫ですユートさん。10歳でも精通が済めば子作りは」「それ以上はやめてくれ!」


 フィオナの眼光が鋭くなる。ほおを赤らめてモジモジしだした。まだ早いって。


「ルイ、からかわないでくれよ……」


「あらごめんあそばせ♡」


 全然悪いと思ってない顔で、ルイが言う。

 それはさておき。


「しかしそうか……みんな見ないうちに、立派になってたんだな」


 家庭を持ったもの、出世したもの、子供を産んだもの。


 みんなそれぞれが、自分自身の道を歩いているようだった。そしてその道のりは、順風満帆のようだ。


「ふぁ~♡ 食後のケーキだァ~♡ えへへ、わたし甘いものだ~~いすき♡」


 えるるがだらしのない笑みで、顔中をクリームまみれにしながら、ケーキをほおばる。


「…………」「…………」「……ルイ、えるるは?」


 フィオナに言われて、ルイが「えっとぉ」と困った顔になる。


 するとえるるがこっちに近づいてくる。


「みなさーん! なぁんの話しをしてるんですか~?」


 にぱーっと笑ってえるるがやってくる。


「いや……えっと」「その……」「えるる。貴様は今どこで何をやっているんだ?」


 フィオナが聞いてはいけないことを聞いてしまう。

 

 ぴし……! とえるるの表情が固まる。


 そしてその場にしゃがみ込んで、自嘲的に笑いながら、


「もともと家を放り出されて……ぷらぷらたところをユートさんに拾われました。魔王退治を終わったあとも、職に就けずぷらぷらと……」


 つまり他のメンバーと違って、えるるだけは、定職に就けずにいるみたいだった。


「ふえええ……つらいことを思い出してしまいました~……」


 目を><にしてえるるが泣く。


「おさきまっくらですよう。ふぇええ……」


 なんだかかわいそうになってきた。


「どこかに就職先が転がってないかなぁ……。できれば知り合いのつとめてる職場で、ぬるまゆ社会人生活が送りたいですぅ~……」


 だ、だめなひとだこいつ……。


 しかし……そうか。就職先を探してるのか。ふむ……。


 と、そのときだった。


「ユートくんちょっと」


 そう言ってルーシーが、俺に近づいてくる。


 手にグラスを持っているルーシー。よく見ると酒じゃなくて、葡萄ジュースだった。


「何をジロジロと見てるんですか。もう、ユートくんはえっちですね」


「ジュース見てただけだろうが……」


 それで、とルーシーに聞く。


「ワタシの読みでは、今夜あたりだと思います」


 声を潜めて、ルーシーが言った。


「出て行ってから四日目。彼らの所得を考えると、そろそろ泣きついてくるでしょう」


「……そうか」


 もとより彼らの収入は低い。家賃を滞納しまくってもカツカツの生活をしていたのだ。


 この宿での生活ですらいっぱいいっぱいだったのだ。よそでやっていけるわけがない。


「ユートくん。ワタシがいって追い返してきます」


 葡萄ジュースを俺に手渡して、ルーシーが食堂を出て行こうとする。


「いや、いい」


 俺は彼女の手を引いた。


 ルーシーが振り返る。


「俺がやる」


「しかし……」


「おまえは商人だ。その手は多くの人に利益と笑顔を生み出すためだけの手だ」


 俺はルーシーの小さな手を握って言う。


「おまえは、手を汚しちゃだめだ」


 俺はルーシーから手を離す。


「しかしユートくんも……」


「俺はいいよ。気にすんな」


 俺はそう言って、ルーシーの肩を叩いて、その場を後にする。


 騒がしい仲間たちの声を聞きながら、俺はひとり、こっそりとその場を後にしたのだった。



    ☆



 ユート、ナナミの宿を出たソフィの両親は、その後すぐに、自分たちのしてしまったミスの大きさに気づいた。


「くそ……ちくしょう! なんで宿はこんなにも高いんだ!!!」


 ソフィ父が街の宿から出て、悪態をつく。


 ここはカミィーナ。初級中級ダンジョン(ユートたちの村近くのダンジョン)から1番近い街。


 ソフィ父と母は、ユートたちのもとを出て行ったあとも、このダンジョンで日銭を稼いでいた。


 自分たちのレベルでは、他のダンジョンでやっていけない。だからこそ、このダンジョンを離れるわけには行かなかった。


 しかし宿は、ユートたちの宿を使うわけにはいかない。自分たちは仕事をバックレたのだ。使えるはずがない。


 となると必然的に、ダンジョンから次ぎに近い、カミィーナの街の宿屋を使う必要があった。


 しかし問題がある。


 宿代が、圧倒的に高いのだ。


 しかも食事はまずい、たべてもHPMP回復と言った追加効果はない。ベッドの寝心地も最悪だし、何より風呂がない。


 一日の疲れを癒やし、汚れを落としてくれる風呂。それのある生活に慣れ親しんだソフィ両親にとって、元の風呂のない生活には戻れなかった。


 だが風呂完備の宿など、それこそ王都に行かないとない。


 カミィーナの宿は、どこも風呂なんて上等なものはない。せいぜいが桶にお湯を入れて、それで体を拭くくらいだ。


 まったくさっぱりしないし、何より疲れが全然取れない。


 そのくせ、ユートたちの宿と比べて、遙かに高い料金をせしめてくる。


 宿屋の店主、ナナミはお金がないと支払いを待ってくれた。だがカミィーナの街の宿は、どこへ行っても、その日の宿泊費はその日のうちに払う必要があった。


 払いを待ってくれ……なんて甘い言葉が通じるところは、どこもなかった。


 最初の二日くらいはなんとか、安い宿で、無い金を絞り出して生活をした。だが三日目には払えなくなり、追いだされた。


 冒険者としてやってくためには、必要最低限の装備というものがある。ポーション、武器の手入れといった細々とした支出は、常にある。


 さらに毎日ダンジョンへ行っているからと言って、収入があるとは限らない。げんにユートたちの宿を出て行ってから、ソフィ両親の稼ぎはこの4日で0。


 なぜか知らないが、体に力が入らないのだ。ユートたちの宿で暮らしていたときは体調は万全に、それどころか気力にみちみちていた。


 それが彼の宿を出て行ったあとは、体調も悪いし、気力も沸いてこない。


「くそ……どうなってんだよ!!」


「知らないわよ!!」


 ふたりは汚くののしり合いながら、夜の森を歩いている。


「あそこの宿を出て行ってから……災難続きだ。金はなくなる。金が入ってこなくなる。くそ……!」


 ソフィ両親が不調なのは、ユートたちの作るステータスアップの料理が食えなくなったこと、そして疲れを完全に癒やしてくれる風呂がなくなったこと、そして熟睡できるベッドがなくなったこと。


 ようするに、あの宿を出て行ってしまったこと。それにつきた。


「金がない。このままじゃのたれ死ぬ……。もうこうなったら頭下げてでもあその宿を使わせてもらうしかないな」


「そうね。あそこにはソフィがいるもの。あの子をだしにしてナナミさんにつけいれば、またあそこで暮らせるわ……」


 邪悪な笑みを浮かべるソフィの両親。


 そう、金がなくなった今、頼りになるのは、あの宿しかない。


 家賃を待ってくれて、安く、そして諸々の特典がついてくる、最高の宿。


 しかもダンジョンからものすごく近い。出て行ってわかった。あそこの宿が、どれだけ最高だったかを。


 バックレてしまったが、あれから数日経っている。怒られるかも知れないが、しかしこちらにはソフィというカードがあった。


 あの子をだしにして、情に訴えれば、またあそこで甘い汁を啜ることができる……。


 村が近づいてきた。あと数分で村に到着する……と、そのときだった。


 ビュンッ!


 と何か光るものが、高速でこちらに近づいてきた。


 それはソフィ父の肩にぶち当たった。


「ギャッ!!!」


「あなたっ!!!」


 高速で飛来した物体によって、ソフィ父は吹っ飛ぶ。


 森の大樹にぶつかり、ずるずる……とソフィ父はその場に倒れ込む。


「うう……痛ぇ……いてぇよぉ……」


 何かがぶつかった。そこを見やるが、別段血が流れてはいない。ただ、肩は脱臼しているのか、だらりとして動かない。


「あなた大丈夫!?」


 ソフィ母が夫に近づいて、気遣わしげに言う。


「ああ……ちくしょう。腕が動かねえ……いったいなんだよ……」


 ソフィ父が立ちあがろうとする。あたりを警戒する。周りを見やるが……しかしそこには、夜の闇しか広がっていない。


「いったいどうなってやがる……」


 動く方の手で腰の剣を抜こうとするが、ビュンッ! とまた高速でやってきた光る何かがやってくる。


 今度は剣にぶち当たり、剣が粉々に砕け散る。


「お、俺の剣が! 1本しかない俺の剣がぁああ!!!」


 悲痛な叫びが響く。


 低レベルの冒険者であるソフィ父にとって、剣はおいそれと買えるものではなかった。


 買い替える金がないので、1本の剣を大事に大事に使っていたのだ。


 その1本しかない剣が、光る何かによって砕け散った。とんでもない事態だ。なにせ剣がなければモンスターを倒せない。


 そうしなければタダでさえ低い収入が、もっと減る。それどころか剣を買う金すらないので、絶望はさらに深まる。


「おい誰だぁ! 誰が」【黙れ】


 ビュンッ! とまた光る何かがやってきて、ソフィ父がもたれている木にぶつかる。


 光る何かは、さっきと違って威力がこもっていた。木の幹をぶち抜いていった。


 木がぎぎぎぎ……と倒れていく。


「ひぃいい!!!」


 ソフィ父は無様に横に転がって、事なきを得た。


「なんだよ……いったいなんなんだよ!!」


 夜の森にソフィ父の叫び声が響く。


 闇の中には誰もいない。……と思ったのだが、闇の中から、ざっざっざ……と誰かがやってくる。


「誰だ……?」


「小さいわ。子供……?」


 すると闇の中から出てきたのは、見知った顔だった。


「あなた……ナナミさんの息子さんの」


「ユートくん……ユートくんじゃないか!」


 ソフィ父はパァッ! と喜色満面になって彼に近づく。しめた。彼に口利きしてもらって、ナナミの宿に転がり込もう。


 あそこの宿の風呂ならば、こんな脱臼はなおるだろう。それに剣が壊れたから金を貸してくれ、と言えば、あのお人好しの宿主なら金を貸してくれる!


 そういう浅ましい気持ちを抱いていた……そのときだった。


 ザシュッ……!


 …………ぼと。


「…………あ?」


 鋭い何かが切れる音と、にぶく何かが落ちる音が同時にした。そして間抜けな自分の声が。


「………………へぇあ?」


 さっき打撲して動かなかった、腕が。腕が。腕が「腕がぁああああああああああああああああああああ!!!!」


 ソフィ父の目の前に、腕が転がっているではないか。焼けるような痛みを感じて、ようやく理解する。


 腕を、切られたのだと。


「ひぃいいいいい!!! 腕がぁああああああ!!! 俺の腕がぁあああああ!!」


 転げ回るソフィ父。


 ユートの右手には、いつの間にか立派なこしらえの剣が握られていた。


「騒ぐなよ」


 ユートは剣を地面に突き刺して、切断された腕を手に取る。


 そしてソフィ父のもとへやってくる。切断された腕を、取れた部分に押し当てる。


 ユートは左手でぽけっとをあさり、中から植物の種を取り出す。


 種を腕におしあてて、「K$P<$$P<#……」と歌のような、不思議な呪文を唱える。

 

 すると植物がズブ……っと肉に埋まり、「いだいいだいだいいだいいだいいいいいいいいい!!!!」骨をまるで砕かれたような、激しい痛みの後に、


「動かしてみろ」


「へぇ……?」


 間抜けた声を出しながら、ソフィ父が腕を動かしてみる。切られたのだ。動くはずがない。


 そう思っていたのだが……。


「あ、あれ……動く。動くぞ」


 なんと腕が自在に動くではないか。しかも脱臼も治っているようだ。


「それは森呪術師の【回生治癒の種】っていう、ちぎれた四肢を元通りにする種だ」


 低い声でユートが説明する。


 その声は普段聞いたことのないくらいの、冷たさと、そして何より【死】を感じさせた。


「よく聞け」


 ソフィ父も、母も黙る。


「もう2度と、この村に近寄るな」


 ユートが剣を抜いて構えながら言う。


「2度と俺たちに近寄るな。あの宿に顔を出すな。やってきたら最後、さっきみたいに四肢を吹き飛ばす。今度は情けをかけてやらん」


 ユートは剣を軽々と持ち上げて、切っ先をソフィ父ののど元に突きつける。


「ひぃいいい!!!!」


 一歩でも動けば、のど元に突きつけられている剣が、喉を貫いてしまうだろう。


「た、たすけて! 命だけは!」


「ああ、助けてやるよ。約束するならな」


「約束……?」


 ソフィ母が青い顔をして言う。


「さっき言っただろ。もう俺たちに近づくな。そしてソフィの前にも、現れるな」


「け、けどあの子は私たちの!!」


 ヒュッ……!


 ぴしゅ……っと何かが切れる音と、ぷしゃぁああああ…………と何かが吹き出る音がした。


「ひぎいいいい!!! 首がぁああ! 切られたぁ!!!」


 首から勢いよく吹き出る血に、ソフィ父は恐怖で大声を出す。


「小さい血管を切っただけだ。それくらいじゃ死なない」


 だが……とユートが続ける。


「次ぎ何か口答えしてみろ。確実におまえの夫を殺す。それでおまえも殺す」


 射殺すとばかりににらみつけられて、ソフィ母はへたり……とその場にしゃがみ込む。


 ユートは剣を持ったまま告げる。


「ソフィは俺たちが育てる。あの子は俺たちが幸せにする。だからおまえらはもう2度とあの子に近寄るな。あの子の幸せの邪魔をするな」


「…………」


 別に邪魔をするつもりは、といいかけて、やめた。さっきユートに脅された言葉を思い出したからだ。


「ソフィをダシにして母さんからたかろうって魂胆だろ? そんなもん、とっくに見抜いてる」


 ヒュッ! と剣をしまうと、今度は弓矢を取り出す。


 魔法の弓なのか、光り輝いていた。さっき見えた光る何かと、同じ色をしていた。


「この弓は相手を監視する能力のある弓だ。俺はさっきおまえらに矢を打ち込んだ。あとはわかるな……?」


 首を振るうソフィ夫婦。


「矢を打ち込んだ相手の居場所は、俺にわかるんだよ。つまりおまえらがどこにいたって、おまえらの場所は俺に筒抜けだ」


 そんなまさか……と言いたかったが、しかし魔法の弓矢のなかには、そう言った効果を持つ弓があることを、ソフィ両親は知っている。


「おまえが俺たちに近寄ろうとしたら、俺にはそれがすぐに伝わる。その瞬間俺はこの矢でおまえらの喉を打ち抜く」


 ユートが矢をつがえてしぼる。


「ひぃいいい!!!!」


 夫が無様にさけび、股間からじょわ……っと尿を漏らす。


「俺が子供だからと舐めるな。俺にとっては手足を切り飛ばすことくらい、造作も無い。おまえもわかるだろ?」


 さっきユートに腕を切り飛ばされたソフィ父は、彼の言葉が冗談でも誇張でもないことを、すぐに理解した。


「消え失せろ。2度とその汚えつらを俺たちに見せるな。近づくな。俺の忠告を無視して近づいたら……そのときは命が無いと思え」


 ユートが弓を打つ。


 バゴンッ! とまた近くの大木を打ち抜く。体を貫かれたら……と思ったら、恐怖が体を動かしていた。


「ごめんなさいごめんなさいいいいいい!!!」


「もう2度とちかづきませええええええええええええん!!!」


 ソフィ両親は、泣きわめきながら、その場から逃げる。あとのことなど知らない。今はこの場を一刻も早く逃げることが先決だ。


 剣を失い、金も無い。この先やっていけるかわからない。


 けどひとつ確かなことは、自分たちがとんでもないことをしでかしてしまった、ということ。


 激しい後悔が襲う。4日前、娘を捨てて宿を出て行かなければ……。


 あのままあの宿に寄生できて、やっていけたのに……。


 ソフィ両親は、己の浅ましさをのろいながら、惨めな気持ちで、その場を後にしたのだった。 

お疲れ様です。


次回で1章完結です。仲間たちが来れた伏線回収と、仲間たちの別れと、新しい出会いとスタートを書いて2章へと続きます。


次回も頑張りますので、よろしければ下の評価ボタンを押していただけると嬉しいです。いつも皆様のおかげで頑張れてます。


ではまた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 物語の中だけでみれば、両親は性根が腐っていただけでしたね。 無計画に子供を作って、考えなしに行動していたことになりました。 主人公からすれば、わずかにあったかもしれない情がつきたため切り捨て…
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