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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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5-了 さあ、あの山鳥を射よ

本日2本目です。ご注意を。

 目の前に広がる悩ましい問題に対して茂は動揺と困惑を抑えることができなかった。


「そうだよな……そういう場所だったよなぁ」


 てんやわんやになりながらも電源を復旧し、再度建物内の電気が戻ったところで気付いたのだ。

 ああ、そういえばここは「学生食堂」だったな、と。


「明日の仕込中だったんだろうな、きっと。調理途中で移動させられたんだと思うが」


 ごくりと生唾を飲む茂。

 この場所は「気配察知:小」によりすでに確認済み。

 誰もここには残っていないことは知っていたのであるが、何か使えるものはないかと探しに来たわけで。

 そこで気づいてしまったのである。

 うわ、飯食えんじゃねえか、と。


「このタイミングで、そういうこと考えちゃだめだよなぁ……っ!!」


 学生向けということもあり、メインの厨房は既に火が落とされて調理員の方々は明日の仕込みにかかっていたのだろうと思うが、軽食に関してはカレーやソバ・うどん等は出せるスタイルだったようである。

 すると、厨房の中はどうなっているかと言えば。


「うわ、まだカレーあったかいし。……炊飯器、保温できてるよな、多分」


 諸々温くなったり、冷めたりして少しばかり二の足を踏む調理前の食材群の中で、未だ“カレーライスを作れる土台”が整っている。

 皿も、スプーンも、寸胴の中で若干冷めてはいても十分な温かさのカレーも、電源が落ちても幾分保温できているであろう業務用の炊飯ジャーのライスも。

 ふと周りを見渡せば、きれいな赤い色をした業務用福神漬けを補充しようとしていた痕跡もあるではないか。


(……でもなぁ。そうなると無銭飲食。無銭飲食だもんなぁ。しかもこの状況下で何飯食ってんのって話だし)


 こう、なんといえばいいかわからないが、小心者のなけなしの倫理観が彼を辛うじて押しとどめていた。

 ロッカーから物資を回収するのは緊急事態としてセーフの範囲内である気がするが、誰もいない食堂で勝手にカレーを貪るのは普通にアウトではなかろうか、と。

 しかもこの状況下。

 危機感が足りないと言われればそれまでの話だ。


「……茂さん、どうしたんですか?腕組みなんかして?なにか、トラブルですか!?」


 小さく鋭く隼翔が駆け寄り尋ねる。

 その胴には、厨房の奥の更衣室にあった、不審者対策用の防刃ベストが身に着けられている。

 数年前より県内教育施設において、教職員並びに関連する団体を集めた非常時のさすまたなどを使った講習が順次実施されており、その一環として各所に置かれたものの一つだった。

 ちなみにさすまたも有るにはあったが、如何せんどう使っていいものか隼翔には感覚的にわからないこともあり、結局更衣室のロッカーに留置したままとなっている。


「いや、うん。……なんでもない、なんでもない」

「?そうですか」


 ちょっとばかり残念だが、人の目もある。

 先程のチョコ菓子一つで凌ぐしかなかろう。


「そんで、外部への連絡はできそうか?どう考えてもバレたと思うしな。さっさと外に連絡して隠れないとな?」

「それが良いですね。外の様子ってどんな感じですか?」

「……新しく近づいてくる奴は今のところゼロ。まあ半径50メートル程度の範囲内でって条件は付くけど。ただ、この建物と近くにいたはずの奴らが退いていったのが気になるな。まあ、再編するのに戻したって感じだろうけど……」


 この事務管理棟の突入から強襲、制圧と一気に片付けた後に、再度奪還を目指すことなく後詰も出さず、すぐに周囲から駒を引いたところに何かしらの意図を感じる。

 だからこそ食堂の入り口を警戒して、何かあれば隼翔を回収し、即座に撤退をできる準備だけは完璧にしていたのであるが。


(踊らされてる?いや、向こうも二の足を踏んでいるってことかもしれん。ただ、あのマサキとかいう奴の感じだと、もう一つ二つ何かありそうな気がするんだけどな)


 ふとここに来ることになった最初のきっかけを思い出す。

 あのサングラスの男のことを。

 そんな瞬間だった。


……タタタッ……!

……ぅぅゎゎぁぁ……!!


 遠く、遠くから確かに何かがか細く聞こえた。


「おいおいおい!!なに始めたんだよ!?」

「向こうは、中高の第一共用グラウンドです!」


 聞いた瞬間、食堂から廊下に駆け出すと同時に、廊下の照明が点灯する。

 今まで遮断されていた電力が、「勇者」「騎士」側の思惑とは別の形で復旧する。


……ぅぅゎゎぁぁ……!!

……ゃぁぁぁ……!!


 まっすぐに伸びた廊下の先、先程よりもしっかりはっきり、声が聞こえる。

 これは、悲鳴だ。


「茂さんッ!!」

「隼翔、外に連絡したら隠れてろ!どう考えてみても、絶対にこの感じはヤバイ!!いいか、絶対に来るなよ!!」


 ど、と地面を蹴りつけ隼翔を置き去りに廊下を駆ける茂。

 その最中も「気配察知:小」を使う。

 一気にその声がする場所まで駆けるには、校舎の構造が邪魔をする。

 教室や廊下を抜け、目的地を「気配察知:小」でも捉えられる位置まで接近した瞬間。

 今までと探知範囲に確認できる数が一気に跳ね上がった。


(10や20じゃない!?まさか捕まえていた人質、全員なのか!?)


 優に3ケタ近い生体反応がある。

 それが一斉にてんでバラバラな方向に動き出していた。


タァァァン!!


 そこに鳴り響くのは間違いなく、銃声。

 そして、恐慌に近い感情を孕んだ悲鳴が続く。


(……くっそ!そういうことか!そういうことを考え付くのかよ!お前らっ!!)


 曲がり角を直角に曲がる。

 どんっという音と共にその急制動を掛けるのに犠牲となったコンクリートの壁に、拳の跡がくっきりと残る。

 そして、最後のストレート。

 駆け抜ける先は共用グラウンドを見渡すことのできる窓である。


「頼むから、下に来るんじゃねえぞっ!!!」


 安全確認もそこそこに、再度加速した「光速の騎士」が窓へと突っ込んでいく。

 窓までの距離が2メートルまで近付いたタイミングで、床を蹴る。


バシャァァァァン!!!


 盾で細かなガラス片を防ぎながら、地上3階の窓からノンストップで外へと「騎士」が飛び出していく。

 ごろごろと転がる彼を見た逃げ惑うパニックを起こした生徒や教職員、そして空に向け銃を撃ち放つ黒装束の不審者たち。

 その混沌とする場へと「騎士」が飛び込んでいく。

 行かざるを得ない場を演出されて。




『……餌に食いついた、今だ。続けざまに、撃て』


タタァァァン!!!


 端的に下された命令のもと、3つの大きな銃声が鳴り響いた。

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