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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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5-4-裏 圧力 のち ごくごく普通の一般家庭におけるはるか遠い場所での事件について(同時刻の光景より)

―――20:13 銀嶺学院前 県警指揮車内より―――

「いいから今回の件がわかる責任者がどっかにいるはずだ!!俺たちが周囲を封鎖してる中になんなんだ!?あのヘリは!!?」


 外に音が漏れない警察車両の中で大声を張り上げているのは、今回の銀嶺学院の学生・教職員を人質にとった籠城事件の担当責任者である。

 もちろん、この激昂ぶりは致し方ないこともあるだろう。

 いきなり何の前触れもなくヘリが襲来したかと思えば、そこから特大の厄介ごとを放り込んでいきやがったのだから。


「あのヘリが落としてった奴が、ホンモノなのかニセモノなのかによって、こっちの対応も変わってくるんだよ!あのわけのわからんバリアなのか結界なのかの上でギンギラの丸焦げになったコスプレ死体でも残っててみろ!?ようやく夜間で迷惑だって説得して、事件現場から一旦マスコミのヘリにご退場いただいたってのに、すぐにでも上空へ飛ばしたいって矢の催促だ!!全国のお茶の間にそんな死体が報道されてみろ!クレームどころの騒ぎじゃないんだぞ!!」


 防音設備のしっかりした警察の指揮車の中であるので外には音が漏れることはない。

 だが、他に働く者たちにとっては横でがなり立てられるというのはなかなかストレスになるわけで。

 周囲の迷惑そうな視線を感じ、責任者がトーンを落として通話先に話をする。


「……ここまで言ってもどうしても詳細については情報公開すんなって?もしかしてお宅、どっかから圧力かかってんの?」

『……!……!』

「……県警トップへ警察庁が。……外務省経由で、米軍から?……なんで、そんなわけのわからんルートから?ああ?……アジア方面学術調査団警備部?なんだそりゃ、どこの所属、いや。お宅がわからんものは俺にもわからんよ」

『……!……』

「落ち着け、あんたがパニくったら収拾がつかん。とにかくうちのヤマにアメリカさんが横やり突っ込んできたってことでいいのか?……違う?……どう違うんだよ。……その学術団は米軍の管理下にない……あくまで非営利団体の外部組織?いや、なんだそれ。指揮系統を管轄してんのは米軍じゃ……。……そうか違う“っぽい”のか。いや、ホントになんだそれ?」

『………?』

「こっちが聞いてるんだがね?……報道規制もそいつらが?そっちは総務大臣経由で?はぁ!?白石!?白石グループが絡んでんのか!?……こっちに説明できる人間をよこすって。……ほぉ……、そりゃまたご丁寧に」


 青筋を立てたまま、しっかりと力を込めて親指でスマホの通話画面を閉じると、吐き捨てるように言う。


「誰一人、状況がわかる奴がいねえってのだけがわかった。忙しいってのにさらにごっっっちゃごちゃにしやがって……!」


 いらだたしげにスマホを握る責任者の肩をトントンとたたく者がいる。


「なんだ?」

「外にいる警官から“白石総合物産の者です。面会のお約束が来ているはずですが”、と」

「いやに仕事が早いな」

「外のテントに案内させますが」

「わかった。オハナシを聞かせていただこうじゃないか?」


 淹れて暫く経ったブラックコーヒーを口に含む。

 すでに温く、香りも薄まった感のあるそれを一気に飲み干すと、説明者の来訪を告げた男に尋ねる。


「んで?そいつ何て名前なんだ?」

「ああ、白石総合物産秘書課兼警備部所属の門倉氏、だそうです」







―――20:13 銀嶺学院より直線距離にて500キロ遠方の家庭にて―――

「え、何か動きあったの?」


 わしわしと風呂上がりの髪をタオルで拭きながらリビングに戻って来た10代前半の少年が、ソファに座っている姉に尋ねた。


「んー?残念だねー、今すっごいいい瞬間を逃したよアンタ」


 こちらへと視線を合わせず、にへら、と笑うパジャマ姿のこちらはハイティーンの姉。

 その表情を見慣れている弟は察する。

 この姉は、多分だが自分へ教えるのを忘れていたんだろうということに。


「姉ちゃん!ひでえよ!風呂の間になんか起きたら、教えてってあんだけ言ったじゃんか!!」


 がばっとリビングにおいてあった自分のスマホを手に取り、急上昇の検索ワードを調べ始める弟。


「だって、アンタどっちにしろ生で見逃してんじゃん?それなら、まあどっちにしてもおんなじかなーって」

「え、ていうか何起きたんだよ!!検索ワードに「光速の騎士」入ってきてるし!うっわ、マジでヤバイの見逃したの、俺!?」


 そんな悲鳴を上げる弟を少しだけ申し訳なさそうに見つめる姉。

 ソファに座って必死にスマホを検索する彼を残し、冷蔵庫までトコトコ歩いていく。

 冷凍庫を開くと、よく冷えた抹茶アイスが転がっている。


「ゴメンって!ほら、あたしのアイス分けたげるから!」

「姉ちゃぁぁん……」


 恨みがましい声を上げる弟にカップアイスを押し付けて、ソファに戻る姉。

 しぶしぶではあるが心を落ち着かせて、アイスのふたを外し、小さな匙で一掬い抹茶アイスを口に含む。

 火照った体に程よい冷たさと苦みが広がり、爽やかさが若干心を安らげてくれた。


「……ほら、テレビ、テレビ!!多分すぐにさっきの放送流すからさ!」

「さっきの?」

「そ!ホントついさっきなんだって。呼びに行く暇もなかったくらいなんだし!!」


 姉がテーブルの上のリモコンを手に取ってボリュームを上げる。

 そこに母親ががらりとリビングの扉を開けて入ってきた。


「あ、さっきの続き?まだやってんの?」

「おかーさん!姉ちゃん、俺よんでくんなかったんだぞ!」

「ああ、そりゃあユーコに頼むあんたが悪い。ユーコがどういう性格か知ってるでしょ?」

「そーよ、アタシがどんな女か12年も生きてきてわかってないアンタが悪い」


 女二人がかりで攻め立てられる純情な少年は、ぶすっとふくれっ面になった。


「おかーさんだって聞いてたじゃん。教えてくれても良かったじゃんかぁ」


 そこにガチャリと扉の開く音がする。


「ただいまー。なあ、テレビやってるかテレビ!帰りの車、ラジオでは聞いたんだけどさ!」

「お父さん、お帰りー」

「お帰りなさい」


 40後半のくたびれたスーツ姿の男がネクタイを外しながら、リビングに入ってくる。

 家族の声を聞きながらその視線はつけっぱなしのテレビに釘付けだ。


「あ、始まった!これだろ、さっきのラジオで言ってたやつ!」


 テレビのコメンテーターやアナウンサーがやんややんや言いながら引っ張っていた映像が、どうやら少しばかり編集されて流れ始める。

 ヘリコプターが遠くから薄く光る膜へと接近するそのシーンから。




 結局のところ、「光速の騎士」が現れたこの日本の中で、徐々にではあるが人々の危機に対する意識は変容し始めていた。

 恐ろしくゆっくりと、メディアリテラシー、その言葉の意味を理解しないままに。

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