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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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4-3 中断 のち 素案

「はぁ、一回仕切り直しですか?いや、俺は別に構いませんけど」


 1回目の訓練ののち、ここでお待ちくださいと言われた天幕の中でパイプ椅子に座り、“重い!”の盾をぺたぺたといじくっていた茂に告げられたのは、午後の訓練の中止であった。


「わざわざ足を運んでいただいたというのに、たった10分程度の訓練しか参加していただけないというのは非常に心苦しいのですが。……いかんせん、スタッフ側から抜本的な警備計画の練り直しを提案されていまして。今現在のプランではまるで訓練にならないのだと」

「そうですか?俺、結構楽しかったんですけど。あ、やっぱ壁ぶち抜いたりしたらまずかったですかね!?修理費は考えなくていいからって話で、調子に乗ってたからなぁ。突発的な非常時に備えるって話だったんで、搦め手みたいなのをやってみたんだけど、失敗だったな……」


 申し訳なさげに中止連絡をしに来た門倉へ、これまた申し訳なさげに答える茂。

 今はさすがに重武装の試作装備一式ではなく、ジャージ&ヘルメットVerになっている。

 少しばかり無理な挙動とかもしたため、負荷がかかり一部に破損がみられ、装備開発班へと返却されているのだ。

 破損部位の状況からもデータを取るらしいので、今は諸々すべて持ち合わせがない。


「修繕費などはこちらから言い出したことですから、ご心配なく。しかし搦め手、ですか。……興味本位の質問で恐縮ですが、真正面から突っ切るとなると今日の配備状況であればどのくらい時間がかかったと思いますか?」


 唐突な質問にヘルメットの顎に手を当てて悩む茂。

 むむむ、と少し考えて出した結論は。


「多分同じくらいだと思いますけど。ただ、俺が疲れるってだけの話です。あと皆さんに怪我させるわけにもいかないので、手加減しないといけませんし」

「手加減、ですか。ははは、それはそれは……」

「あはは。いやあ、午後からも訓練だって話でしたし、そこに影響が出たらまずいじゃないですか?」


 笑いあう茂と門倉。

 門倉の後ろで今回の警備スタッフのリーダー役を務めた男も同席していたのだが、その表情はずん、と顔に斜線が入ったかのように悪い。

 気づかずに笑う茂の声が彼のメンタルにあまりよろしくないダメージを与えていた。


「ちなみに問答無用、手加減抜きであれば?」

「……数的有利があるって言っても建物内じゃそこまで有効活用できませんし。いつぞやの駅前ロータリーの時は少しやばかったですけどね。……だから、そうだな。うーん、多分。多分ですけど?」

「はい」


 自分のごくりと唾を飲み込む音がリーダー役の男の耳に響く。


「多少撃たれても治療しながら、それでバリケードぶち抜いてってなると。さっきが最上階まで10分くらいかかってたって考えれば6分、いや5分半くらいで行けたと思いますね。それから色々やって脱出。……そうですね、8分弱、7分台っすかね。まあ、みなさん初見でしたから。ほら、初見殺しってヤツですよ。この次からはどうにでもできるはずですし」

「次までにどういう対応が可能か、熟慮させたうえでプランを出させます。……それでですね。これで本日は解散となります。宿泊先までお送りしますので、どうぞ先に車の方へお戻りください。昼食は道すがら、私の知るところで摂ることにしようと思っておりまして」

「え?みんなお弁当配ってるし、それなのかなーって思ってたんですが」


 ちらと天幕の外を見ると、それらしき弁当とペットボトルを持った一団が一様に沈んだ表情でとぼとぼと歩いている。

 外はピーカンの晴天で、風も程よく吹いてとてもすがすがしい良い天気であるというのにだ。

 今一つその理由に思い至らないというのが、茂が一般人に過ぎないということの証左でもあるのだが。

 ちなみに手に持っているのは幕の内弁当で、所謂安いコンビニのではなく仕出し業者に頼んだ少しいいお値段の幕の内である。

 偏見というか思い込みに近いのだが、その二つの違いは弁当の中にオレンジかブドウが入っているかいないかだと思う。

 いや、思い込みにしか過ぎないのだが。

 そしてちょい高の幕の内弁当は、コンビニとかにある幕の内には入っていない、“滋味なおかず”が美味い。

 いかにもというベーシックなおかずではなく、その土地土地にある少し地元に寄り添ったおかず。

 あれが、非常に美味い。

 牛蒡の炊き上げとか、サトイモの土地土地での調味バリエーションとかだ。

 地味ではなく、滋味。

 その土地土地の仕出し業者さんの謹製品。

 あれが、とても良い。

 あと、ご飯。

 決して冒険することはないのだが、少しこれにもバリエーションがある。

 シソが振られていたり、高菜を刻んであったり、薄くおかかが掛っていたり。

 正直な話、茂はそんなちょい高な幕の内弁当を楽しみにしていたのだったりもする。


(ちょっと楽しみだったのにぃ……。それに外で俺だけ飯ってのはなぁ。あんまり皆、いい顔しないんじゃないのかなぁ?)


 門倉の横のチームリーダーは何かを噛み締めるかのように、少しだけ上向きに顔をあげ、さっきより曇った表情を必死にこらえていた。

 何をこらえているのかについては茂はとんと解らない。

 そのあたりが「勇者」とかと「一般人」の違いといえよう。


「いえ、警備スタッフだけで一度心を立て直さねばなりません。おそらく、荒れるでしょうし我々は他の場所で昼食としましょう」

「?そうですか。まあ、いいですけど」


 天幕を出ると、ちちちと小さな山鳥が飛んでいく。

 ああ、気持ちのいい天気だなぁと思いながら茂は門倉の後を追って駐車場へと向かうのであった。








 がちゃ、と鍵が外される音がする。

 年月を経て錆びついた古びた扉がぎぎぎと気色の悪い音を立てて開かれる。


「今、戻った」

「お帰り」


 シンプルな帰宅の挨拶に、これまたシンプルに返答すると、返事をした側はつけっぱなしにしていたテレビに向き直る。

 帰宅した側は、手に提げていたスーパー袋を床へと降ろし、靴を脱いで年季の入った冷蔵庫へと向かう。


「マサキ、買い出しありがと。それで何を買ってきたの?」

「今日は玉ねぎが安かった。ホウレン草と後は豚コマを少し買い足したな。卵は以前の残りがまだあるから今回は止めておいた。あとは生活雑貨だな」

「……洒落っ気のあるレストランでの食事って選択肢はないのかしら?」

「ない。むしろ逃走者たる俺たちは目立たぬように生活するべきだ。このねぐらを失うリスクとなるような行為は、可能な限りさける。ここまでザルな審査で借りれる宿はそうそうない」


 ぱたんと買いだしてきた食材類を冷蔵庫に放り込む。

 昼だというのにカーテンを閉め切った部屋は薄暗い。

 その中で、しかも帰宅したというのにサングラスを外すこともせず、ジャケットだけをハンガーに引っ掛けるとマサキと呼ばれた男は畳敷きの6畳間に胡坐をかいた。

 右手には冷蔵庫から取り出したのだろう発泡酒の缶が握られている。

 左手にはペットボトルの茶をつかんでいたが、それは自分の分ではないのだろう。

 すっ、とこの部屋にいるもう一人に向けて畳に置くとそちらへと軽く押し出した。

 茶が押し出された先には、なぜかこの部屋に不釣り合いな感が否めないキャラクターものの可愛らしい座布団に座りこんだ女がいる。

 手に持ったリモコンでブラウン管の古いテレビをぴっぴぴっぴとザッピングしていた。


「ありがと」


 軽くいうと、手探りでペットボトルをつかみ、テレビを見ながらくぴくぴと飲んでいく。


「マユミ、それはさておき、だ。「騎士」の件について、これからの動きをどうするか確認しておこう」

「うーん、そうね」


 リモコンを操作し、音量を下げるとマユミと呼ばれた女がサングラス姿のマサキへと顔を向ける。

 自分の前に置かれたスナック菓子の袋をマサキと共有するのに真ん中へ置く。

 彼女は八重歯を見せてにた、と笑う。

 ご想像の通り、彼女たちは「光速の騎士」こと杉山茂のバイトがえりを強襲した2人組である。


「で?彼、動いてるのかしら?」


 首を可愛らしく傾げると、どういう内容の返答がなされるのかを理解しきった表情で尋ねる。

 マサキが缶のプルトップを押し上げアルコールをぐいっと呷り、スナック菓子を2、3個まとめて口へと放り込んだ。


「昨日の朝、駅前にいたのが確認したというところが最後だな」

「積極的に“彼ら”と敵対すると思っていたんだけど……。予想外に腰が重いわね」

「そうだな。彼はあまり表舞台に立ちたくはないのだろう。どこかそういった雰囲気を感じるからな」

「ヒーローって前評判は、期待外れ?」

「ふ……。そうかもな。どう見ても偶然担ぎ上げられてしまっただけの男に見える。だが、それでもだ」


 ぐびぐびと一気に発泡酒を飲み干すとそのままアルミ缶を握りつぶす。

 めきゃ、と音を立ててそれがぐしゃと潰れた。


「悪いが巻き込まれてもらうことにする。敵の敵は味方、ではない。だが、敵の敵であることはどうなったとしても変わらないからな。あの男が関わらざるを得ない状況を作り出す。これが、関係者リストだ」


 1冊のファイルがマユミに手渡される。

 それを受け取り、表紙を捲りながらつぶやいた。


「……若い世代が多いのね。一番上でも40代か。親族は離れて暮らしているのね?」

「ああ、距離的な問題があってさすがに手を出すには労力がかかる。現状この手札で動くしかないだろう」

「どこまでも、どこまでも罪深い、わねぇ。マサキ、あなた血脈につながる呪いって信じたりする?」


 手元の資料を見ながら天を仰ぐようにし首をそらした。

 すらりとした首元が露わになり、その白さが際立つ。


「……さあな。俺にしろお前にしろ生まれた時にはこの一族の血の螺旋には乗っかっているんだ。もし仮に、そんな呪いがあるのならば、俺たちがここで断ち切ることができるものでしかない」

「自信家よね。あなた」

「サイコロで1を出さねば生きていけない。そんな場面は何度も潜り抜けてきた。ならば今回も1を出せばいい。それだけのことだ」


 マユミが疲れたように息を吐き、手元のファイルを畳へと置く。


「そうなのよね。私たち、そうやって生きていくしかないんだから」


 天井の小さなシミを見つめながらマユミはまた大きく息を一つ吐いた。

 畳の上に無造作に置かれたファイル。

 広げられたページにはおそらくデジカメやスマホで撮影されたと思しき画像がコピー用紙にプリントされている。

 何枚かあるうちには杉山茂のバイトしている「森のカマド」の外観を撮影したものがあった。

 店長の伊藤がレジに入っているもの、バイトの制服に身を包んだ数名のバストトップの写真。

 さらに、それとは違うものもある。

 そのうち一つは学生の姿であった。

 数人の学生がファミレスと思しき座席で座って笑いあう写真。

 そしてどこかの道路で撮影された数人の女子生徒が並んで歩く写真。

 学ランの男子生徒やブレザーの女子生徒は言い方が悪いが没個性的なフォルムの学生服でどこの学校の生徒なのかはわからない。

 だが、その対面に座る男子生徒の服装は中々に特徴的であった。

 この地域ではファッショナブルな部類に入るその制服は、男女問わず人気があり、それを目当てに入学する学生もいるという。

 まあ、入学の大原則として高い学力が求められる学校ではある。

 その学校、銀嶺学院は多くの企業人・政治家などの有名人の子女が通うということでも知られている。


 そして最後。

 最後の1ページには銀嶺学院の外観写真と、航空写真、更には周辺地図がつけられていた。

 


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