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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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3-2-裏 収支 のち 贔屓

「うわぁ、これ。本格的にまずいんじゃないですか?前回に比べて数字ダダ下がりってのが目に見えてわかりますよ。部長のトコ、説明しに行くの怖いなぁ」

「だろうな。これは、本格的にヤバイ流れだぞ。どうすっかな、マジな話でさ」


 各々のテーブル上に置かれたのは左上で留められた資料と、詳細なグラフデータである。

 時刻は夜の10時をすでに過ぎ、室内には気怠い雰囲気が漂っていた。

 最初の発言は、グラフデータをささっと一通り見終わった若手の男のセリフだ。


「総合格闘技とボクシング、特にこの2コンテンツの視聴率が下げ止まらない。昨日のボクシングの放送はこれから売り出していこうって有力選手の世界戦。CMもバンバン打ったってのに完全に爆死領域になってる。ゴールデンタイムの2時間特番でマックス4.5%だぞ?3か月前の世界戦、そこまで注目されてない選手で10%も稼いだのにだ!」

「他の局の似たコンテンツの視聴率も同じ感じで下がってるので、ウチだけってわけじゃないのが不幸中の幸いですけど。スポンサーへ言い訳する材料としては使えそうですが。それでも、今後のことを考えるだけで頭が痛いですよ……」


 頭を抱えるのはその場の全員である。

 彼らはテレビ局のスポーツ担当班で、そのなかでも格闘技関連のコンテンツ事業部に配属された者たちだ。

 昨日の自らの局で放送したボクシングの世界戦が、近年ないほどの低視聴率をたたき出したことを受け、緊急会議の名目で集合した、ということになっている。

 横には消音状態にしたテレビが件のボクシングの放送を録画したものが流れている。


「いや、もう理由がなんなのか、なんてみんなわかってるでしょ?完璧にあの日から、ですよ。「光速の騎士」がレジェンド・オブ・クレオパトラで大暴れした。あの日の動画が流れてから。あれを見ちゃうと、ね……」

「影響はなかったとは言えない、ではなくて。恥知らずに「騎士」が強すぎて、“普通の”人間の格闘技にみんなが魅力を感じなくなったからです、と言えればいいんだけどな。そんなこと外で言えるわけがない。どの競技のどんな選手だって頑張っているのを見てる側の俺たちからするとさ」

「でも有料のプロレスチャンネルの契約数はそこまで減ってないらしいです。視聴率も総合とかボクシングの激減に比べると微減ってトコらしくて。興業も問題なく行われて、チケットも好調って言っていいくらいにハケてるみたいです」

「プロレスの本質って、格闘技にエンタメが加わった、自分達の人生乗せるロングスパンのドキュメンタリーでもあるしな。リアルファイト系の総合とかに比べて見なくなる理由が少なかったんだろ。純粋にあの日から強制的にみんなの目が肥えちまったからな」

「そこなんですよ。スポンサーに話に行く営業が死にそうになって帰ってくるのは。プロレスは視聴率も興行も問題ないみたいなのに、自分たちが金を出してる総合系のイベントの集客がガタ落ちになってるのはおかしいだろって。どっちも大の大人が“ケンカしてるだけの格闘技”で何の違いがあるんだよって言われてくるんですよ」


 その場の全員がはぁぁぁ、と大きく同じタイミングでため息を吐く。


「わかってねえなぁ。わかってない。そんな単純な話じゃないんだがなぁ。だが興味がない人に説明するっていうのは……」

「とんでもなく難しいんですよねぇ……。営業先の担当者がそこらへんわかってる人ならまだいいんですが」

「“ケンカしてるだけの格闘技”って感覚の人だと、プロレス、総合、キック、ボクシング、空手とかも含まれるか。ここら辺は全部一緒くたに“ケンカしてるだけの格闘技”になってるもんなぁ」

「番組スポンサーの企業担当がオールマイティーにどんな種類の番組でも興味あるわけもないだろうし」


 当然、そういう企業の窓口はあるのだろうが、50代の年輩男性に、人気のSNSの人気者の企画を持って行っても“?”を浮かべるだろうし、20代女性に懐かしの昭和歌謡曲を持って行って響くかどうかは賭けに近いはずだ。

 その隙間を埋めるようにして、企業の窓口を複数人で準備するのだろうが、それでもそこまで詳しくない分野はどうしても存在する。


「次の放送予定のイベントの状況は?」


 上座に座るまとめ役の男が、横のチーフディレクターに尋ねる。

 スケジュール帳をめくって直近のイベントを見つける。


「20日後に総合のイベント、1か月後にボクシング、なんですけど。チケットの予約、あの日以降伸びてないみたいです。それまでの売り上げがあるからガラガラってことにはならないとは思うんですけど、それでもこのままの売れゆきだと空席がちらほら見えるんじゃないかと」

「テレビ映り、悪くなるよなぁ……。はぁ、なんで「光速の騎士」も「骸骨武者」もこんな大がかりなイベントが重なる時期に出てくんだよ……」


 言っても仕方ない愚痴を述べる上座の男。


「えげつないくらいの赤字になりそうですね……」

「放映予定は組んでるからな。今更地上波は中止しますなんて言えんだろ?」


 はぁぁぁ、と大きくため息を吐く男たち。

 日本中が「光速の騎士」に沸き立つ中、こういう割を食った者たちも中にはいるのであった。






「ほら、スギ!肉来たよ!肉!!」


 ばしばしと背中を叩かれるうなだれた男。

 乱暴に背中を叩いているのは活発そうな印象の女で、まだ若い。

 背中を叩かれた男が、幽鬼が如くゆっくりとうなだれていた頭を持ちあげる。

 憔悴し、少しばかり無精ひげも生えている。


「……肉、か。そうだな少しは食べないとなぁ」


 がくっ、とまたもうなだれる男。


「お前、人生をパピプに賭けすぎてるぞ?ほら、スギ。肉焼いてやるから、飯食えって」

「あんがと、タケ。お前は本当に良い奴だなー」


 焼き肉店の個室席に座り、ロースターで届いたばかりの肉を焼くのは、竹林ことタケ。

 そしてその前で背中をばしばし叩いていた女、梅戸ことウメ。

 さらに、ちょっと元気のない男、杉山茂の弟杉山猛ことスギの3名が焼肉店「ウシアブラ」で飲み会を開いていた。


「レモンサワーと、ウーロンハイ2お持ちしましたー」

「あ、レモン私!2人ともウーロンハイだっけ?」

「おう。あ、テーブルの上置いといてください。あと追加で特撰キムチ、2皿」

「かしこまりました」


 ドリンクを持ってきた店員に追加注文しながらタケが焼けた肉を手早く自分とスギの皿へと動かす。

 ウメは自分の分の肉は既に皿へとちゃっかり移動済みである。


「よし、じゃあ。今回のこの飲みは、前に約束していたウメの仮免合格のお祝いと、スギを励ます会と、あと色々含めてということで、……乾杯ッ!!」

「かんぱーい!」

「乾杯!」


 がちゃんとジョッキを鳴らすタケとウメ、そして小さく重ねるスギ。

 ウメの仮免許の合格祝いということで本来はタケとスギが飲み代を折半する予定だったのだが、先般発生したとある事由により、タケ7スギ3の割合となっていた。

 ただ、そのはずであればこんな個室でじゅうじゅうと高級な肉を焼ける資本はないのである。

 そこに予想外の資金提供者が現れたため、急遽格安チェーン店から、この個室席のある「ウシアブラ」に場所が変更となった。

 乾杯が終わり、ぐびぐびとジョッキを呷る3名。


「くはぁっ……!」

「おお、いい飲みっぷりだなスギ。ちょっとは気が晴れたか?」

「そうそう、毎度毎度そうやってヘロヘロになってたら人生やってけないよ?」

「うるへー。俺の心はもうひびの入ったガラス玉だよ?もうちょっと優しく労われー」


 うはははっと笑いあいながら、焼けた肉をひょいひょいと口へと運ぶ。

 タン塩の上に乗っかったネギがしゃくしゃくと音を立てた。


「でもさー、仕方ないじゃん。テロだよテロ!そんなのに巻き込まれたらフツー、精神的にダメージ受けるって。ミオミオの気持ちになって考えても見なさいよ」

「そうだぞ、スギ。いくら芸能界って荒波に揉まれてると言っても実際のところ俺らと同年代なんだぜ?お前の周りにそんな図太い神経の持ち主がいるか?いや、いない。少なくとも俺の周りにはいないぞ」

「なんで逆説表現使ったのか知らんが、まあそうなんだけどさ。……でも、速攻で引退ってー。事務所が心身のサポートしたりとかして、引退公演してくれないのかなー。俺、どんだけでも待つつもりなのにー」


 テーブルの下でばたばたと足を鳴らすスギ。


「療養中の人間に無理言うなよ。でも、今ミオロスって言葉が流行ってるみたいだしな」

「え、それってアレ?いわゆる好きなタレントがいなくなって仕事も勉強も手につきません、的な?」

「そうそう、それだ。今のこのスギみてえな状態のことな」

「うっわ、人として残念。働けよ、学べよ、日本人って感じなんですけど」

「もう一度いう。うるへー。俺は深く傷ついているんだい」


 若干レアっぽい色味のカルビを2枚重ねてロースターから強奪して口に放り込む。

 甘めのタレを感じながら、横に置いてあるライス(大)を手に取り、一気に掻きこむ。

 もしゃもしゃとしながら飲み込むと、次の肉を焼こうと皿に手を伸ばす。


「実際、マジな話だけど。ホントに学校とか会社休んだ奴もいるんだってさ」

「そういう時ってどういう説明で会社とか学校に連絡するの?“好きなアイドルが引退したんで休みます”って言ったら馬鹿かお前って言われそうなんですけど。と、いうか私なら言う。間違いなく言う」

「多分だけど、体調不良で、とかじゃね?知らんけど」

「そんな簡単に休んでいいもんかねー。知らんけど」


 そういったタケ・ウメがじっとスギを見つめる。


「そこで、俺に目線だけで意見を求めるなよ。一応傷つきながらも、ゼミには出てきただろ!」

「駄目駄目の駄目駄目人間だったじゃん。上の空って言葉にぴったり当てはまった人、初めて見たもん」

「だから教授が飯おごってくれることになったんだし、不幸中の幸いって思ってくれよ」

「それは教授の財布に迷惑をかけているのではないか?なあ、わが友スギよ」


 ぽん、と肩を叩かれたスギはすごく嫌そうな顔をしながら、ウーロンハイの残りをぐい、と呷る。


「そりゃ、そうだけど……」

「それにお前去年もおんなじようにパピプの推しが卒業して、突っ伏してただろ。なんだ、スギの推したメンバーってのはやめていくジンクスでもあるのか」

「それがホントだったらもう呪いだよね、呪い!」

「アホウ、俺の愛を呪いと呼ぶな!!俺の身体には只々純粋なミオミオへの愛だけがあふれてんだよ!!」


 大仰に両手を翼のように広げて無実と無償の愛をアピールするスギ。

 それを見て残りの2人が笑う。


コンコンコン!


 廊下との間を仕切る襖がノックされる。


「はぁーい!」

「梅戸、開けるぞ」


 がらりと開いた襖から、長身の女性が顔を出す。

 シルバーフレームのメガネがきらりと光る、妙齢の美人教授、火嶋早苗である。

 そしてその奥に2人ほど連れがいるように見える。


「あ、教授。言われたとおりお先にはじめてます。昼に話にでてたお連れさんですよね?」

「そうだ。まあ、自己紹介の前にまずは座ってからだな」


 早苗の後を連れ立ってくるのは2人とも女性である。

 両名ともキャップを被り、食事に来ているのにマスクをしている。

 最後に入ってきた人物が襖を閉める。

 その横顔になぜかスギはどこかで見覚えがあった気がした。


(?なんだろ、どっかで会ったか?)


 マスクをしているので表情は見えないのだが、なぜか気になるのだ。

 ものすごく、よく知っている。

 そんな気がしてたまらない。


「色々回るところがあってな。少し遅れた。それで?杉山の身体はパピプのアイドル神木美緒への深い深い愛情があふれてるんだな?」

「うお、教授。聞いてたんですか?恥ずかしいな、もう」

「聞かれたくないならもう少し声のボリュームを下げるんだな。杉山、お前も社会人になればTPOというものを考えなくてはならないんだ。……そこがしっかりしていないから今から恥を掻くことになるんだぞ、お前?」

「へ?」


 早苗はポカンとした彼の横を通りすぎ、空いている席に座るとその横へと並んで連れの女性たちが座る。

 片方は女性としては長身でスタイルのいい女性で、キャップの下から見える髪はベリーショートにしているようである。

 もう一人の女性は逆に長い黒髪をポニーテールにしてキャップから垂らしている。

 彼女はなぜか、焦ったようにしてベリーショートへと身を寄せて何かを必死に訴えている。

 それに対しどこかおかしそうにベリーショートがじゃれている。

 その様子から2人が非常に親しい間柄であることだけは理解できた。


「まあ、食事処で帽子とマスクは失礼だしな。ほら、2人ともそれを外して挨拶を」

「うえ、あ、早苗さんっ……!」


 ポニーテールから漏れ出た声が焦りを伝えてくる。

 どうしたのだろうと不思議がるウメ・タケとは別で、スギは非常に焦りを感じていた。

 何故ならば、そのたった一言漏れ出た声。

 それに非常に聞き覚えがあったからである。

 聞き間違えるはずもない。

 何度も何度も聞いた声。

 それもここ数日はかなりのヘビーローテーションで聞き込んだ声だ。


(う、ウソだろっ!?きょ、教授!?)


 柔らかな慈母のような笑みを浮かべた火嶋早苗。

 だがその顔に若干のいたずらめいた色を感じたのは気のせいではないだろう。

 ぎぎ、と錆びついたような挙動で早苗の連れ二人に視線を向ける。

 ベリーショートに肘で小突かれたポニーテールが覚悟を決めてキャップとマスクに手を掛ける。

 次の瞬間、少し薄暗い焼き肉店の照明の元に早苗の連れ二人の素顔がさらけ出される。


「初めまして。藤堂ユイといいます。パピプってアイドルグループでテレビとか、少し出させてもらってました」

「は、初めまして。神木、美緒です。あの、大きな声で話をしてたみたいなので、多分ご存じなんだろうなぁ、とは思うんだけど……」


 2人目の神木美緒が少し頬を染めながら、自己紹介をした瞬間、杉山猛は天に向かい叫ぶ。


「のぉぉぉぉぉっ!!」


 そして瞬時に美緒たちと逆を向き、頭を抱えて小さく小さく体を抱え込む。

 まるで小さく小さくなれば自分の存在が消えてなくなってくれるのではないか、という幻想に取りつかれて。


「す、スギ。大丈夫か?」

「き、消えて無くなりたいっ。今すぐ、今すぐミジンコでもミドリムシでもいいっ!むしろ、素粒子以下に変えてくれ!!神サマっ、一生のお願いだっ!!」

「スギ、本当に残念……。これ以上ないってくらいついてないわね……」


 うずくまって岩のようになった彼をタケが労わる様にして肩に手を回してきた。


「本当は喜ばせるつもりで来てもらったんだが……。本当にタイミングの悪い」

「あ、ははははは。いや、すごいファンなんだなーって、うれしいのはうれしいんですけど」


 早苗の声に少しだけ引きつった笑みを浮かべる美緒。

 往々にして何事もいいタイミングで物事が進むことなど、あまりないのが現実というものである。

さて、いつもの裏話です。

ストーリーが進まなくて申し訳ない。

そこらへん指摘されてはいるんだが、こーゆーのが好きなのです。うん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 後追い勢の一気読みだからいいけど、リアタイ勢だとストーリー進まないのはキツい
[良い点] 楽しく読ませていただいてます。 [気になる点] フィクションなので、あんまり細かいことは言いたくないんですが、格闘技系の視聴率が落ちるのは、ありえないんじゃないかなぁと思います。 騎士と武…
[一言] 裏話が好きなのはわかりますがストーリーに関わりが無いなら文頭に一言あれば嬉しいです
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