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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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2-了 会合 のち 暴走

「……と、いう感じで一発かまされて、そのまま逃げられたという感じなんだが」


 頭から濡れた髪をバスタオルでごしごしと拭いながら、テーブルの席に座る茂が一連の経緯を話し終えた。

 どことなくぶすっとした表情で、くすぶる苛立ちが腹の奥に留めきれず表層へと出てきてしまっているのだ。


『どう考えても相手がフツーじゃないってのだけはわかりましたけど。襲われたのって街中ですよね。しかも完璧「光速の騎士」を狙って襲ってきてるってことですし……。しかも帰り道に待ち構えてたってことは生活圏ばれてるってことだしヤバいですよ?』

「でもなー。問答無用で誰彼かまわずに襲ってくる通り魔ってんじゃないっぽいんだよ。だから警察には言わないでいいかなって。狙いは俺っぽいし」

「名指しされたからね。「光速の騎士」が目的ってことは例のポラン・ワイって奴等かな?」

「……勘ですけど違うんじゃないかと思うんですよね」


 シャワーを借りて血まみれの不審者状態を脱した茂は、博人から借りた服を着てさっぱりとした湯上がりの赤ら顔で、隣に座る但馬真一にそう答えた。

 テーブルの上に置かれたスマホに映る、こちらも風呂上がりと思しきラフな部屋着の由美が画面の向こうでペットボトルからコップへカフェラテを移し替えている。


「取り敢えず、インスタントですがコーヒーです。うちの家、家族全員ブラック派なもんで、すぐにはミルクも砂糖も見つかんないんですよ。お二人とも悪いんですがブラックでいいですか?どうしてもってんなら一応キッチン探せば砂糖位は出て来るとは思うんですけど」

「ああ、ありがと。俺元々ブラックだし大丈夫。悪いね、急に押しかけてる立場なのにさ」

「いえいえ、真一さんは?」

「僕もブラックで大丈夫。お気遣いありがとう」


 キッチンから盆にブラックコーヒーを乗せて戻ってきた博人から各々にマグカップを手渡し茂の横に由美の姿が映るように座る。

 テーブル上には由美と通話状態になったスマホ以外に、里奈が映るスマホと、深雪の映るタブレットが置かれている。

 一応夜間ということもあり、未成年は自宅待機という形だ。

 真一は職場から自宅へと帰る支度中に襲撃事件を聞き、そのまま車で博人の家に合流したということになる。

 ちなみにここに顔を出していない隼翔は自宅で妹ちゃんに捕まって勉強を教えさせられているらしい。

 兄妹仲がいいのは良いことではあるとは思うのだが。

 まあ、代わりに真一がいるのだから別に問題ないと言えば問題ない。


『杉山さん。そういうことは勘というような不確かなものに頼るべきではないと思いますよ。もっと真剣に考えるべきでしょう』

「……厳しいなぁ。里奈、久しぶりに会ってまともに交わした会話の一発目がそれなのかよ?もう少しけが人を労わる様な……」

『あなたがいつもいつも、へらへらとしているからです。……博人から連絡があって驚いてテレビ電話をつないでみれば、今シャワー浴びてますって……。しかも昨日の今日で人気の無い公園を通ろうだなんて。怪我自体は「ヒール」で治したって連絡もありましたし。今回は大事には至りませんでしたけど、もっと危機感を持ちなさい!!』

「……いや、うん。ごめん」

『しかも相手は拳銃を所持している……。明らかに真っ当な素性の連中ではないんですよ!』


 ばん、とテーブルをたたいた音が画面越しに茂へと届く。

 画面いっぱいにズームされた里奈の表情はすこしばかり怒りに満ちている。

 おそらくもう休もうかというタイミングで、いつもはアップにしているつややかな黒髪をひとまとめにして肩に流していた。

 キツめの印象を与える顔立ちに、少し太めの眉がきりりとしているため、男っぽい印象を与えている。

 隼翔や深雪とは幼馴染の少女であり、3人連れだって歩いていると中々華があるため、ひとまとめに“おーじの一団”とされることもあるらしい。

 銀嶺学院では文武両道を地でいく女傑として知られており、全国模試でもトップクラスの成績に、女子剣道部主将として部を主導する立場でもある。

 そのような状況で、“おーじ”の横にいるものだから“クイーン”との呼び名が下級生の間では広まっているようだ。

 まあ、本人は非常に不本意ではあるらしいが。


「だけどさ……。あんまり相手も本気っぽくなかったし。もし向こうが本気なら、最初にスタンガンなんてまどろっこしい手を使わずに、大ぶりのナイフでも準備する方がよっぽど簡単だろ?完璧に隙をついて接敵できるんなら電流ばちばちってのより、内臓までぶっすりが一番簡単だ。最後に顔見世って言ってどっかに消えたしさ。なんかすごい試された感があるんだよね」

『……茂さんってどうもそういう物事を楽観的に考えるとこあるんですよね……。いや、怒り狂えっていうわけじゃないですけど、少しは怒っていいんじゃないかと』

『私もそう思いますよ。杉山さんって詐欺にあっても、仕方ないって泣き寝入りするタイプの人にしか思えなくって』

「ええぇ、なんだよそれ」

「俺もそう思いますよ。茂さん、そういう自分の中だけで抱え込んで外に出さないし。……少しは気を休めないとどっかで弾けちゃいますよ?」

「そうかなぁ……。あんまり自覚したことないんだけどなぁ」


 はぁ、と画面の向こうで女性陣3名が同時にため息をつく。

 外から見た評価と、自分の感覚がずれているということはままある。

 ただ、ここまで外から心配されるほどでも本人に自覚が少ないというのは問題ではなかろうか。

 茂の行状を突き詰めれば、働きすぎて過労死するタイプの典型例なのであるが。


「まあ、杉山君の行動はさておくとして、問題は2人の襲撃者だ。……ポラン・ワイの関係でないというのはどういう理由で?」

「まず、さっきの本気っぽくないってのが1点。時間が空けば俺が対策するのは確実なのにわざわざ次の機会まで間を空けたってトコ。その次に、俺の知る“魔法”とかは使ってないんじゃないかなぁ、というとこですかね」

「そうなのかい?一気に距離を詰めたのはてっきり魔法の類かと思ってたんだけど」


 不思議がる真一に横に座る魔法関連の専門家、「魔王」である博人が解説する。


「この世界、基本的には魔法の行使ってのは廃れきってるんだと思います。まあ完璧ゼロってわけじゃなく、細々としたものはあるんでしょうけど。みんなが集まるまでに話を聞いた感じだと、茂さんが“何も”感じる間もなく女が現れた、ってとこがポイントです。多かれ少なかれ魔法ってのは理に我を通す術をいうんですね。そこから考えるに、2人目の女が急に現れたとき、茂さんを攻撃した不思議な一撃、そこから2人そろって消えたとき。都合3回の物理的に不可解なことが起きた瞬間全てで、茂さんが魔力の発動に関しては“何も”感じていない。そうなると、茂さんを含めた俺たち全員の埒外の理で動く何かが使われたってことです」

『あたしも博人の意見に賛成かなー。自分の知ってる知識体系が、最も優れているものであるとは限らないし。この世界で独自に作られた技術体系のナニカじゃない?魔法で言えば「アポーツ」とかになるけど、あれはモロ魔力光も出るし、何より距離に比例して消費魔力も跳ね上がるしねー』

「俺の全盛期でも、マックスで精々200メートル程度の移動が限度だった。しかも単身で。2人でしかも連続でってことになると更に難度は跳ね上がるだろうな」

「……見た感じそんな消耗してる感はなかったと思う。間に挟んだあの物を無理矢理捩じり切るような攻撃も魔力光は出ていなかったし」


 ううむと皆が黙り込んでしまう。


「しかも相性、絶望的に悪いしな。実質、物理一択の俺と、距離とって戦えるあいつ等とじゃ一方的に俺がなぶられる。しかも素の状態でってなると、もうどうにもできなかったし」

「運が悪いっていうので済ませていいのかどうか……。よりにもよって“装備一式持ってない時に”襲われるなんてねぇ……」

「そこまで理解して襲ってきたのかどうかは解んないですけどね。まあ、盾も鎧もないってんじゃ、死地に飛び込む根性は無いんで。二の足は踏みますよ」


 湿った髪の毛をわしわしとバスタオルで拭いながら、湯気の立つコーヒーをすする。

 インスタントといえど、ちりりと感じる苦みと、香ばしい香りが心を静めてくれた。


「どうしてばれたのか、ってとこが一番気になる点ではあるんですが。それはそれとして、もしあいつらがポラン・ワイの一派なら、普通俺じゃなくて白石家にちょっかい掛けるでしょう。わざわざ藪蛇して俺を襲ってわざと見逃して、もし白石家と俺が繋がってたらって思い至らないほど頭、悪いとも思えませんし。無駄に警戒度跳ね上げさせるような行動って道理に合わないですから」


 真一も出されたコーヒーに口をつける。

 一口湯気の立つコーヒーを飲み、ことんとテーブルへとそれを置く。

 話が少し堂々巡りになりつつあるのを察したのか、画面の向こうの深雪が提案する。


『では、杉山さん。父には連絡を入れますか?』

「……仕方ないだろ。お話、お受けしますって伝えてくれ。連絡先登録したばっかりで、俺のケータイ、こうなっちゃったし……」

『わかりました。少し外します』


 茂はポケットからガラケーを取り出し、テーブルの上に皆に見えるように置いた。

 画面に手を伸ばす深雪の画像が映ると、通信が途絶える。


『うっわ、ちょっと溶けてるんじゃないですか?ヤバイですねそれ』

『充電ケーブルにつないだ瞬間に火花が出そうな状態ですね……。過電流ってやつですか?』

「いや、そこらへんは知らんけど。まあ、もうオシャカだよね……。どうしよう、もう」


 由美と里奈が茂のガラケーを見て感想を述べる。

 ガラケーを平らなテーブルの上に置いたのだから、普通はぴったりとテーブルの天板に接地するのが普通である。

 だが、茂のそれは完全に天板に接地してはおらず、ちょうど通話口がある側が浮いているような形になっている。

 電池パックのある位置が大きく膨らんで、外装を押し上げているのだ。

 なんというかつついたら、ぱぁんとはじけそうな膨らみ方をしている。


『電源入れる度胸は私にはないわね……。電池パックのところ、パンパンじゃないですか』

「だよなぁ……スタンガンなんて使うなよぅ……。こんなハイペースでケータイ死んでったら、物理的に俺が死ぬじゃん……」

「保障プランに入ってたとしても、説明できないしねぇ。暴漢にスタンガンで襲われましたって、警察沙汰だもんなぁ」

「今月、どうやって外部と連絡取っていこうか……。憂鬱だ……」


 テーブルの天板にごん、と額をつけて突っ伏す茂。

 まさかの最後のガラケーすら破壊されてしまうとは思わなかったのだ。

 これ以上の予備機など彼は所有していない。

 電池パックだけではなく、液晶の画面も虹色の不思議な歪み方をしていて、指で押すと大きく中身が動く感触がする。

 これは中身も完全に逝ったと思われる。


「そんなにきついんなら、色々あったし、僕が一台用立ててあげてもいいよ?」

「いや、有り難いんですけどそこまでお世話になるってのは悪いかなっって」

「そう言わずにさ。プラン検討とかで安いもので準備するのもできると思うし」

「うぅぅ……ありがとうございます。ちょっと検討します。でもまずこのガラケーからデータが引き抜けるかって問題が……」

「そういう問題もあるか……。でも無理せずに頼ってくれていいんだけどね。まあ、その気になったら言ってくれよ」


 真一の有り難い提案をうけて茂はちょっと考える。

 この緊急時、お世話になってもいいのではなかろうか、いや最安で準備できるんであればお世話になっていいのでは、と。

 だが、今回の件からするとまた同様のことが起こる可能性もある。

 諸々片付いてからの方がいいかもしれない。


「茂さんがシャワー行ってる間にネットで調べたんですけど」

「うん?」


 そんなことを茂が悩む中、博人がぴら、とA4で印刷された紙をつかんでいた。

 それを辛うじて顎を天板に乗せるまで頭を起こした茂が受け取る。


「拾ったスタンガン。メーカー名とかから見て、日本製じゃなくて外国製ですね。それはアメイジングのショップから印刷した奴とメーカーの日本語サイトです。多分このメーカーのシリーズっぽいんですけど。……現地で使われた奴にかなりの後遺症が出て生産中止になった品番らしいですね。一番下の列の真ん中のあたり、番号が飛んで欠番になってるでしょ?それが多分これですね」

『……本当に手加減考えたのかしら?それって?』

「あの女ァ……。人のこといったいなんだと思ってんだよ!?わざわざそんな高出力のもの使わなくていいだろうに!!?」

「うわぁ……暴漢対策には過剰だよねぇ。そりゃあ販売中止にもなるだろうさ」


 ネット注文大手「アメイジング」のサイトからハードコピーしたそれを見て茂と真一が唸る。

 アメイジングの商品紹介ページには「日本国内での使用は法的責任が発生するのではないか?販売の是非を問う」と低評価とそのコメントが載っている。

 しかもそれは販売中止になったものの1グレード出力が低い機種で、そのような状況となっているのだ。

 つまり茂の使われたそれは、どういうレベルのものか考えるとぞっとするわけで。


「茂さん、マジな話。気持ち悪いとか、頭痛いとか大丈夫ですか?結構スタンガン食らった後、そういう状態でゲロ吐いて飯食えなくなる奴多いって話ですけど」

「至って平気なんだよね。いや、まあ「ヒール」とか使ったってのもあるけど。まあ、最近もレベル上がってるし多少は耐性も出てんのかと思う」

『私たちがいうのもなんですけど、超人って感じですよねぇ』


 渡されたコピー用紙をしわが出るくらいぎゅっと睨みつける。

 やり過ぎという言葉を知らないのだろうか。


てろりろてろりろ……。


 ブラックアウトしていた深雪の映っていたタブレットが着信を告げる。

 博人がタブレットを手に取り、通信状態へと持っていく。


『もしもし、聞こえる?』

「オッケーです。深雪さん。お父さんには繋がったんですか?」


 テーブルに深雪が全員から見えるように位置を調整してタブレットを置く。


『父には繋がらなくてね。門倉さんには連絡が付いたわ。事情は分かったので、明日車を準備しますって。朝9時に駅前の北口駐車場に来るそうよ』

「……はぁ、結局こうなんのか。なんか、がっくりきたなぁ。面倒事なんて御免だってのに」

「でも、杉山君。こんな機会はそうそうないぞ。もし僕が君の立場なら即答でイエスというのになぁ!」

「いや、真一さん……」


 茂は思った。

 やはりあの時思ったことは正しかった、と。

 但馬真一。

 このオッチャンは、優秀ではあるがイタい大人であると。


「だって考えても見なさい!対特異能力戦闘用強化装甲及び特殊武装の実証試験並びに運用訓練への参加。しかも白石物産のグループの最新技術を使って、だよ!!」

「いや、真一さん?」

「成果物はすべて無償で提供されるうえ、補修も行うって約束もしていたじゃないか!事前に「光速の騎士」の武具一式を参加するしないに拘らず、研究資材として渡したのは失敗だったかもしれないけど、結果、出来上がるんだよ!!」

「おい、真一さん、大丈夫か?」

『私、暴走してるみたいに見えるけどー』


 博人と由美のあきれるような声を無視してついに真一が立ち上がる。


「君も男ならわかるだろう!!?出来上がるんだよ!?長々ともったいぶって言っているけど要するに「光速の騎士」の、「専用装備」を作ってくれるんだ!!!」


 茂はこめかみを強く、強く押さえた。

 ものすごく頭が痛くなったからだ。

 スタンガンの後遺症ではないとはっきりと断言できる。

 理由は明白である。


「ああ、どういう形になるのかなぁ……。やっぱり「騎士」の意匠は残して作るんだろうか。それともいっそ現代風にして完全にリファインするっていうのも……。ああ、楽しみだなぁ!!」


 この目の前の但馬真一のようなイタい大人。

 今まではネットやテレビ、新聞などの一枚壁を隔てた側にいたアツい、イタい大人たち。

 それがいつの間にか自身のすぐそばにまで迫っているというその事実のせいである。


「杉山君、出来上がったら一度見せてくれるかい!?いや、部外秘って扱いなのだったら、当然テレビで君の活躍を見るまでは我慢するんだけれども!」


 ……そういうことである。

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「光速の騎士」の武具一式を参加するしないに拘らず研究資材として貸しちゃったの? それはダメでしょう 武具が無い間は無防備すぎるよ
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