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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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1-裏 僻地 のち 集合

「あの、これはどういう事でしょうか?退院許可は出ているんですよね?」


 病院から検査入院を終えて、混乱を避けるため夜にこっそりと自宅のマンションへと帰宅する運びになっていた筈である。

 それが何故か自宅のある都内ではなく、都心から離れた郊外へと進んでいるのに気付いたのはつい1時間ほど前のこと。

 そして、理由を説明するといったマネージャーは固い表情のまま、ある施設へと走る車の助手席で体を固くしていた。

 そうこうするうちに着いた先は彼女も名前に聞き覚えのある国内有数の最高学府の教育機関、「東邦文化技術大学 情報管理分析集中センター」と大理石のプレートが置かれている建物前。

 都内から外れ、緑豊かな土地に広大な敷地面積を誇る国内有数の教育機関であり、日本の官・民双方のトップクラスの機密情報を取り扱うことから許可のない一般人の出入りを禁ずる進入禁止区画でもある。


「ふぅ……。順を追って説明をさせて頂きます。まずはこちらをどうぞ。出ていくときには回収させていただきますが」


 車から降りたところで、彼女へと一枚のカードが首からかけるケースと共に手渡される。

 ここまでの運転をしてくれた男で、彼女の知り合いではない。

 柔和にほほ笑んでいるのだが、目の奥が笑っていない、と彼女は見抜いていた。

 そのどうも信用ならない男から手渡されたカードを駐車場の電灯に翳してみると、GUESTSと白地に赤でデカデカと書かれたそれはどうやら入行証のようである。

 若干太目のマネージャー、間島も男から同じものを受け取ると、それを首から下げる。


「間島さん?」

「……美緒、悪いがこれはお前の将来について、非常に影響の大きい問題についての話だ。俺たちだけでなく、他の皆も集まっている。俺たちが最後だそうだ、急ごう」


 いつになく真剣な表情の間島に促され、日本屈指のトップアイドル、パラダイス・ピクシー・プリンセスの神木美緒はかぶっていたニット帽を外し、車の後部座席へと放り込むと、カードを間島と同じように首から下げた。

 髪がばらけて風になびくのを、ポケットから取り出した紐で適当に結わい、収まりがつくようにした。


「え?最後って、他に誰かいるの?」

「今回入院していた他のパピプメンバーも来ているんだ。現段階の治療結果について、病院じゃ話せない事もあるらしい。本来はこういう個人の健康状態についての話を、何人か纏めてやるってのはダメなんだが、まあ事情が事情、特殊な事例なんでな。各々の共通認識を確かにしておきたいらしい」

「そういう訳で、皆さんにお集まりいただいた次第です。……とはいうものの、駐車場で立ち話というのもなんですし。こちらへどうぞ」


 すっと手を振られた先にはどどんとビルが建っている。

 夜間にもかかわらず、全てと言っていいほどの窓からカーテンの閉められた隙間越しに光が見える。

 労働基準法クソクラエとばかりに遅くまで残業でもしているのだろうか。


「行って話を聞いて……。それから判断して欲しい。美緒、こればかりは俺がどうしろこうしろ言えることじゃあない。退院してすぐに連れてきたのは本当にすまんと思っているが、直接説明を聞いてくれ」

「良いけど……。間島さん、結構マズイことになってる?」


 覗き込んでくる美緒の目を間島は見返すことが出来なかった。

 ぎゅっと目を閉じながら、目の前にいる美緒を見ない様に、それでも彼女にわかる様に。

 間島はゆっくりとしかし、しっかり頷いた。



「ああ、神木美緒さん、だね?お待ちしていましたよ。どうぞ、お掛け下さい。」


 案内された先のドアを開くと、15畳ほどの大きさの会議室に見慣れたパピプの同僚のメンバーがテーブルに、そのマネージャーと、数人は保護者や親族と思しき人物がその後ろのパイプ椅子に座っていた。

 少し離れた壁際の机の横に男が座っており、プロジェクタと接続されたPCをかちかち動かして何か資料を調整しているところのようである。

 着座を勧められているテーブルには各々封筒が置かれており、丁度その数は5つ。

 つまり、レジェンド・オブ・クレオパトラのシージャックの被害に遭ったメンバー5名分の資料ということだろう。

 封筒の表紙には赤字のスタンプで部外秘、と押されている。


「久しぶり。ほら、座んなよ」


 ドアを開けたところで突っ立っている美緒へと、封筒から出された資料をパラパラとめくりながら、席を勧めてきた人物がいる。

 藤堂ユイ。

 今回の事件の被害者の一人であり、この場に集められたということは彼女もパピプのトップアイドルの一人ということになる。

 元々は背中まであるロングの黒髪が印象的で、中学までバレーに打ち込んでいた170を超す長身と、出る所は出て引っ込むところは引っ込むという映像や写真映えする少女であった。

 彼女はどちらかというと初対面の人とは若干口下手なきらいがあり、多くの人と関わるテレビなどの映像方面ではなく、雑誌グラビアやモデルなどの被写体としての活動が多い。

 ということから比較的男性ファンが多く、たまに出るバラエティで、口下手がさばさばとした受け答えと好意的な形で捉えられて、今回のトップ5に初めて入ったという経緯がある。

 緊張しいではあるが、根っこには熱いものがあり、真摯な仕事への取り組み、最近では馴れてきたのだろう。後輩へのアドバイスなども見られるような成長をしている。

 体育会系の上下関係のあるアイドル業界、そして芸能界でも実直で黙々と仕事をこなす彼女を推していこうとする業界関係者が多いのも頷けた。

 美緒も付き合い自体は3年程だが、その若干姉御肌なキャラクターの彼女とはグループ内でも1、2番を争うくらいの仲の良さだと思っている。


「……ユイ、髪の毛」

「ん?ああ、ここまで短いのは4年、くらいぶりかな?昔はショートばっかりだったし。いや、セットがすごい楽なのよ。……だから、そーいう顔で見ないの。ほら、座んなさいって」

「あ、うん」


 がら、とキャスター付きの椅子が引かれ、ユイの横に美緒が座ることになる。

 ユイの前の資料の封筒の横に置かれたベースボールキャップと、その髪を視線に捉えながら美緒が着席する。

 美緒からの視線に気づいているのだろうがユイは敢えて資料を読んでいる風を装っていた。


(入院中、間島さんに無理言って映像見せてもらったんだよね。ユイ、結構バッサリ斬られていたし)


 あの船の中ではっきりと覚えているのは、ショーのキャストの中から自分達5人が引きずり出され、そして別室へと移動させられたところまでだ。

 その先はどうやっても、ぼんやりとした夢と現実の混じったような光景しか思い出せない。

 映像配信を担っていたハイエンの映像ライブラリからもコンサート映像はあの事件後すぐに非公開扱いとなり、閲覧も不可となっている。

 ただ、映像として違法アップロードされているものがネットには転がっていた。

 中には字幕で英語・中国語・フランス語にそれ以外の言語でもテロップが載せられたものもあり、注目は日本だけでなく世界中に広がっていることを否応なしに理解させた。

 間島によればその中には万単位での視聴件数のカウントがあるものもあるらしい。

 実際各事務所や、ハイエンが虱潰しに閲覧できない様に手を回しているのだそうだが、焼け石に水の状況となっている。

 その当事者でありながらまるで記憶がないというのに恐怖を感じるくらいだった。

 ユイが「武者」にあのでろでろの塊から“切り出され”たところは見た。

 その後で「騎士」がうすく輝く何か纏った手をユイへと翳すところも。

 それが現代医学に真正面から喧嘩を売る、「回復魔法」的なものであるということも、入院中に説明は受けている。

 覚えてはいないが自身も救い出された際に、その「回復魔法」っぽい不思議パワーの影響を受けている可能性があるからだ。

 だが、それはあくまで肉体的なダメージを癒すもので、バッサリと切りだされた際に束になって落ちた彼女の黒髪まではフォローしきれなかったらしい。


(ユイ、大事にしてたもんね……。仕方ないとはいえ、ショックだろうなぁ)


 オフに彼女の家に泊まりに行ったこともある。

 風呂上がりに丁寧に丁寧に髪を梳く彼女を、興味もあり手伝ったりもした。

 ファン層のイメージを崩さない様に、ボディケアは勿論のこと特に髪質のキープに人一倍気を配っていたのだ。

 そんな彼女のベリーショートの髪を見ると少しばかりちくちくと心が痛む。


(でも、助けてもらったんだし感謝するしかないよね。あの状況で“髪の毛がどうたらだー”だなんて言える訳もないし)


 友人の何でも無い様に振る舞う仕草が、自分やほかのメンバーへのポーズだということは気付いている。

 だからこそこの話題はここではしないことにする。


「……もう皆も揃ったし、とっくに時間だというのに。どこに行ったんだ、あの呑兵衛共は。……アンティークの懐中時計、わざわざ用意したんだけどなぁ。文字盤の見方だって教えたはずだし。第一、彼女らが連れてくるって請け負ったんだろうに。もしかしてミイラ取りがミイラに?いや、まさか……」


 PCの準備をしていた男がぽりぽりと頭を掻きながら腕時計を見ている。

 どうやら誰かを待っているようであった。


「あの、お話ってどういう内容なんでしょうか?私、病院からここまで直行したので詳しいことは聞いていないんですけど」

「ああ、そうですね。他の方にはまず資料を読んでもらっていましたので。今からだと……。うーん、説明しながら目を通してもらった方がいいですかね?一応、この後我々側の説明にあと2人程来る予定なんですが……。少し遅れているようで。……はじめてしまいますか」

「は、はぁ」


 手元のリモコンで、少しだけ照明を暗く調整し、PCを操作しようとした時だった。


コンコンコン!


 ノックが部屋に響くと、返事も待たずにガチャリとドアが開かれる。


「全く……せっかく雲一つない月を肴にできる機会だったのだぞ?わざわざ俺の月見酒を邪魔することもあるまいに」

「昼間に外に出歩けない……。それに関しては同情を禁じ得ませんが、先日連絡したはずですが。今日は夜に先約があると」

「そうだったか?何分酒で少々覚えが悪くなっておってなぁ」

「どんなに飲んでも酔わないのが“そう”なってから一番の慶事だ、とおっしゃっていたのも聞きました」

「ふはははっ!!本山、そういじめてくれるな!これは、そう……じょーく。じょーくというやつだ!!」


 いやに上機嫌な声をあげながら入室してきた作務衣姿の“それ”とスーツ姿の男。さらにそのあとに続く長身の女性は先に入室している美緒たちへと優しげな笑みを浮かべながら会釈した。

 ただ、進行役の男を除く全員が、一番最初の作務衣の“それ”にすべての視線を持って行かれている。

 その作務衣を着込み、右手にウィスキーのボトルとクリスタルグラスを器用につまんで現れた“それ”がどしり、と着席する。


「え、えと……」


 言葉に詰まる全員を代表して、美緒がなんとか声を出す。

 ただし、それは口元から30センチもしないうちに目の前のテーブルへと落下していくほどの小さな呟きだった。

 それを受けて進行役の男が声を出す。


「遅かったねぇ、本山、スカーレット。一体全体どうしたんだい?「老翁」に話はしてあったんだろう?」

「悪いな……。「老翁」が下の部屋から酒瓶と共に消えていてな。本山と敷地内を捜索していた」


 スカーレットと呼ばれた女性と親しげに話し出した進行役。

 だが、その返事を受けてため息をついた。

 頭を抱えてテーブルに視線を落とした進行役の男がスーツ姿の男、本山に視線を戻す。


「本山さん」

「悪いな。結局のところ、現状の我々の装備では「老翁」を抑えておけないということがここ数日でわかった」

「全く、俺は犬猫ではないぞ?それでも昼に出歩かない、人目につかない。この辺りは守るべきと考えているのだ。ならばそれ以外の時間は自由に動くぞ?」

「本山さん?」

「鋭意、監視部隊の再編を進めている。しばらく時間をくれ」


 はぁと溜息を吐く進行役の男。

 彼がテーブルに着いた“それ”を紹介する。


「まずは紹介、というか知っているだろうけど……。彼が世間で噂の「骸骨武者」だ。……我々はコードネームで「老翁」と呼んでいる。まあどちらでも構わないとは思うがね」

「そうだな。このようなシャレコウベ、「骸骨武者」ならばまさにそのままであるし。別にこだわりなどないのでな。好きに呼べ」


 とん、とテーブルにウィスキーのグラスを置き、手酌で瓶から直に生のそれをとくとくと注ぐとぐいっと一気に呷る。

 アルコールに弱い者ならばそれだけで昏倒するような量を一気に空にして、目の前にいるアイドル並びにいろいろな立場の大人を睥睨した。


「船で「騎士」殿の助けた娘どもか……。ふむ、命永らえておるし、「騎士」殿も安心するだろうて。よかった、よかったではダメなのか?」

「そういうわけにいかないのでお呼びしたんです。「老翁」、もう少しお付き合いください」

「おう、ならば話を始めろ。俺は一人で飲るのでな」


 そういうと作務衣の“それ”改め黒木兼繁こと定良は手酌でウィスキーの杯を重ねる。

 確実にアル中しかやらない飲み方で、それでいて飲っているのが骸骨という大変にシュールな光景である。

 そこへ、声が掛かる。


「あのっ!」

「ぅん?」

 

 ユイがちょうど真正面の定良に声をかける。

 椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。


「船では、助けてもらって。挨拶できる状況じゃなくって……。だから、その。ありがとうございましたっ!」

「んん?……ああ、まあ、助かってよかったかは知らんがな。どちらかといえば「騎士」殿にいうべき台詞だろうな。俺は正直おぬしらがどうなろうと知らん。「騎士」殿が助けると言わねば、斬って捨ててそのままだったはずだ」

「それでも、ですっ!」


 再び頭を下げるユイ。

 煩わしそうに定良が手を振る。


「ならば、それを受け取っておこう。「騎士」殿には俺からまた会ったときにでも感謝されていると話をしておく。だから席に着け。話が進まん。俺はとっととこれを終えて月見酒の予定があるのだ」

「はいっ!」


 着座したユイのほほが若干赤い。

 それに美緒が気付いた瞬間、資料説明のために部屋の照明が薄暗く落とされた。

 美緒だけしかユイのその頬をみたものはいないだろう。

 横目で見たところ、ユイは少し嬉しそうな顔をしている気がする。


(……ああ、そういえば。ユイってそういう、ね)


 思い出すのは過去、遊びに行った彼女の部屋。

 女の子の部屋だというのは間違いないが、若干“趣味的”な物が置かれていたと思う。

 ベッドサイドの未開封の梱包されているままの大体50センチほどの直方体に、某有名アニメショップのプリントがある紙袋が冷蔵庫横にはまとめてある。

 あのサイズだと少しお高めのフィギュアとかではなかろうか。

 本棚にはファッション誌や少女マンガよりも、少年誌の連載物のマンガの幅が倍近く違って、さらには以前イベントで1話だけ出演した特撮ドラマの監督のサインが大事そうに机の一番目に付くところに鎮座しているという状況。

 彼女は何とか隠しているのだと思う。

 だが、それでも漏れ出るものはわかる人にはわかるのである。

 美緒の弟がちょうどこんな感じだった。


(この感じだと、たぶん「騎士」よりかは「武者」なんだろうなー。なんというか、恐怖を通り過ぎて好意に変わるって、あれよね。吊り橋とかストックホルムってやつかも?違うかな?)


 美緒が再度見た友人は、薄暗い中で説明が始まるその瞬間、間違いなくうれしそうにこぶしを軽く握りしめていた。



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