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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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72/366

1-変 映像 のち 悪意

「では、これまでの時系列を振り返ってみましょう」


 夜21時より始まったニュース番組の特別枠。

 2時間の生放送をある一つの議題を基にぶち抜きでやろうというかなり豪快な企画。

 ……かと思いきや、実は昨晩の同時刻に他局が同じような内容の1時間30分の特別企画を流しており実質的には二番煎じになっている。

 そのMCであるフリーアナウンサー徳島始が言うと、アシスタントとして横に立っている女子アナウンサーが、大きいフリップをサイドテーブルの上に立てた。


「まずは最初に「光速の騎士」が確認された場所がこちらですね。赤く丸で囲ってある○○市のターミナル駅周辺の、こちらのビル屋上に設置した定点カメラが最初のものになります。駅に入ってくる電車の運行を定点で撮影していたカメラ映像に映りこんだものが今画面にある映像です。こちらは鉄道マニアの中では有名な「リアル鉄道24時」というサイト運営者から提供されたマスターテープを東邦文化技術大学院の協力によりクリーニングして見やすくしています。……視聴者の皆さんにもご確認いただいたとおり、この時点で彼の映像はこのひとつだけでした」


 画面上に「光速の騎士」と呼ばれる人物の遠映が映し出され、その右上にワイプで抜かれたコメンテーターが眉間にしわを寄せてその映像を凝視している。

 数人のゲストコメンテーターの顔を映しながら、その映像が終わる。


「次に、明けて翌午後、場所はその駅周辺から少し離れた住宅地とオフィス街の混じりあう地点になります。この場所で映像の信ぴょう性を巡り、ネット上で作り物で注目を集めようとしているのではないかという検証サイトと、そんなバカなことをするわけが無いという「リアル鉄道24時」のいざこざが起きます。このため、「騎士」の姿を探す為、双方の関係者が現地で最初の確認スポット周辺を回っているときのことです。ここから一気に「騎士」という存在が広く日本中に知られることとなりました」


 女子アナがフリップの隠しをめくり、「騎士」の初日の流れの午後の情報を視聴者へと知らせる。

 画面の映像はフリップを映し出した後、右上に「視聴者映像」とテロップの出た映像群へと移る。

 ドライブレコーダーにスマホ撮影の映像、近くの店舗の防犯カメラの映像などなど。

 角度、鮮明度、音声の有無などもあるがその全てが日本の街中に現れた鎧兜姿の男を捉えている。


「……当番組では視聴者に与える影響を考え、今流した映像には一部編集を行っております。具体的には、「騎士」がトラックと直撃する瞬間を省いてお伝えしています。その時点で道路には2人の男性が無防備に横たわり、そこへとトラックが突っ込んでくるという状況でした。私見ではありますが、彼らが事故に巻き込まれるのは不可避のタイミングではないかと思われますね」

「なるほど、えー。私も事前にその編集前の映像は確認しています。スタッフを含め審議を行い、多くの視聴者が見る可能性を考えましてそちらは削る、という判断に至りました。重傷となった人物がいないのであれば問題ない、とのご意見をいただくこと、それを覚悟の上での判断となります。ご了承ください」


 女子アナウンサーの注釈に続き、徳島が映像をフル尺で流せない事情を説明する。


「え?それってコンプライアンスとかに関わるってので、削除されたってコトですか?……僕は、ちょっとそれは過保護に過ぎると思うんですけど」


 MCが今回の映像の一部加工に言及したことを受けて、コメンテーター席にいるゲストの中年男性タレントが突っかかってきた。

 渋い顔のMCを余所にそのタレントが続ける。


「実際にこの番組を見てる人って、その時になにがあったのかっていうのは散々ワイドショーで流されてるじゃないですか。しかもネット上じゃあ、加工前の素のデータがコピーされて転がってますし。今更そんな判断しても遅いと思いますけどねぇ」

「……ですが、それでも初見の方もいらっしゃいます。テレビでそのシーンを流した局はスタッフが調べたところでは、今の所ありません。長年報道に携わってきた立場から言わせていただきますが、その瞬間に「騎士」が現れることを知った上で私は映像を見ました。その情報を知った上で、今にも事故に遭いそうな被害者から目をそむけそうになる映像です。これを一般の方向けに大々的に流す、というのは避けるべきだ。これが当番組の結論です」

「……なら、仕方ありませんね。話の腰を折りました。すみません」


 軽く頭を下げたタレントからカメラが徳島のアップ画像に戻る。


「ではその問題のシーンの後から、映像を再開します。これが現実なのかどうか。多くの人が実際に目にしたにもかかわらず、その事実を疑うほどの現実離れした「光速の騎士」の身体能力の一端が垣間見えます。CG説が再燃することにもつながる映像です。目にした方も多いとは思いますが再度どうぞご確認ください」


 テレビには縦長の恐らくスマホで撮影したと思われる映像が流れ出す。

 若干事故現場から離れた位置で撮影者がいる為、トラックの運転席を覗きこんだ「騎士」が顔を出したところを全体像として捉えている。

 まわりの音声が入っており、救急車を呼ぶ声や、野次馬に集まってきた人々の声ががやがやとうるさく感じられる。


『うわ、事故!?ヤッバ、誰か救急車呼んでねえの?……あ、呼んでる奴いるな。……ナニ、あのヘルメット?はぁ、コスプレ?』


 恐らく撮影者であろう若い男の声が入る。

手ブレした映像であるが、撮影者が少し近づこうと移動し始めた瞬間だった。


だんっ!


 アスファルトを強く踏みしめ、「騎士」が飛び上がる。


『ええっ!?』


 撮影者の驚きの声が上がる。

 ズームにしていなかったことが功を奏し、更に驚きでほんのわずか画角が空に向かってズレた。

 丁度信号機近くの電柱の上あたりにである。

 撮影ポイントはそのズレた位置を捉えているが、その位置に「光速の騎士」が手を掛けてぴたりと張り付いていた。

 結果として、この映像は最初の地面から飛び上がった「騎士」が電柱の上部までをたった一蹴りで移動したことを如実に表した映像となっているのである。

 その撮影されている「騎士」は、周りを見渡すと、同じようにしてだんっと電柱を蹴りつけ更に遠くの電柱へと飛び移って消えていった。


 そして、映像が終わりスタジオの全員を映す映像が流れる。

 その中心には先程までは無かった大きなジオラマが置かれている。

 視聴者はそれが「騎士」の現れた道路周辺のジオラマだとすぐに気付くだろう。

 トラックの模型に、カメラを構えた人形と「騎士」の人形、そしてそれぞれの位置に詳細な数字が書かれており、それが距離や時刻等の尺度を表している。


「では、ここでゲストをご紹介いたします。事故現場の検証等を当番組でも何度かお願いしています事故鑑定士の滝沢忠志さんです。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 スーツ姿の男、滝沢が徳島の横に並ぶ。


「滝沢さん、映像を見たうえでの感想をまずはお伺いしたいのですが」

「そうですね、まず私が思うに………」






「……では、居酒屋「ぐでんぐでん」の監視カメラの映像を、最初のパチンコ店「パーラーヤマモリ」の映像と並べて同時に流します。良いですか?駆けつけた警官の手元、そして「骸骨武者」の腰辺りを注目してご覧ください」


 ぱん、ぱんと銃声らしき音が響く。

 監視カメラでも感度の悪い物を使っているのか、居酒屋「ぐでんぐでん」の方は非常に画像が荒い。

 それでも暗闇の中、警官の銃から弾丸が放たれているのを確認でき、更に「パーラーヤマモリ」の映像はカメラの性能差の為か、少し鮮明になっており「骸骨武者」の体に銃弾が当たっているのを十分に確認できている。


「……どう思われますか?四ツ田さん」


 警察・軍事に詳しい警備コンサルタント、という肩書の男が徳島から話を振られて腕組みをする。

 日系のハーフで海外紛争地帯での活動もしていたという触れ込みの男、四ツ田ライナスである。


「間違いなく銃弾が当たっているでしょうね。それがこの映像で確認できますね。ただ、それが鎧で止まったのか、中にまで当たっているかまではこの映像では……」

「警察発表では対象に最低2発は間違いなく相手に当てているとなっています。あの鎧が格段に頑丈である、ということでしょうか?」

「いや、まず前段階としてあの「骸骨」が人としての形を持っているのかどうか、という問題がありますよ。人であればいくら鎧が丈夫にできていても衝撃で少しは怯むはずです。それが映像上、全く見られない。当たった位置に衝撃を伝える“肉”がないという可能性も……」

「いやいや、顔に肉が無い、イコール全身に肉が無いってことには繋がりません。第一、そんな骨だけでどうやって体を動かすんですか!?医学的にありえませんよ!!」


 四ツ田の言葉を横に座る運動生理学の権威という肩書の医師が遮る。


「では、あなたはあの「骸骨」はマスクで、その下には人の肉体が有るのだ、とでも仰るのですか?」

「その通りです。いくらなんでも骸骨がそのままの形で動くなど、生命倫理の視点からしてもあり得るわけが無い!何かしらのトリックを用いたか、皆さん集団心理に取り込まれて正常にものが考えられなくなっているんですよ!!」

「……あのとてつもない速度の刀と槍の攻防についてもですか?」

「……アレに関しては私もお手上げです。理論上、人の筋力で振り回せる速度は超えています。計算上、昆虫クラスの筋密度を人へと当てはめれば可能ではないかという仮定が出来ますが」

「ふふふ……。そうなると本当に“改造ヒーロー”の世界になってしまいますね」

「人体への人工的な筋改造など現実的、人道的にも認められませんよ。現実的に考えてそんな実験を行うよりも、外部装備の充実を行う方がコスト的にも理に適うはずです」

「そうでしょうな。個の力よりも集団での連携を重視する方が運用上は正しいでしょう。ですが、テストベッドとしてのそういう動きはないとは言い切れないでしょう?」

「……確かに。しかしそうだとしてもあのような外連味溢れる扮装……。どこかの国や機関などが関与しているというのには無理があると……」





「この瞬間、この瞬間です!いいですか!?ちょうどそのタイミングの映像を可能な限り分割したコマ送りで流しています!」


 大きな声で徳島が叫ぶ。

 今回のこれがハイライト。

 特番のド頭から引っ張るだけ引っ張ってきた今回の目玉である。

 お茶の間にも同じ映像が流れているところで、画面を一時停止した。


「ここ!ここです!!スーツ姿のピエロから、「光速の騎士」に早着替え、という言い方が正しいか解りませんが、服装が一瞬にして変わる瞬間をお送りしています!この1コマ後では「騎士」となっています。逆に現時点で画面の映像はピエロのまま。つまりこの映像の後に出ている一瞬ですが、そのどちらでもない瞬間が映っていることになりますね!?」


 若干興奮気味な徳島が視聴者に訴える。

 盛り上げるだけ盛り上げて引っ張るだけ引っ張ったこのタイミング。

 視聴率が一番高くなるとすればこの瞬間のはず。


「では、どうぞご覧ください!これがあの不可思議な瞬間的“変身”シーンの解析映像です!!」


 ぱっと映し出されたのはぼんやりと歪む人影である。

 黒一色のマント様の布が大きく広がっている。

 そのせいで「騎士」全体をカメラが捉えきれてはいない。

 ただ、その中でマントをつかむ腕から遠い脚と、右手がかろうじて映る。

 モザイクをかけたわけではなく、画像の処理も最低限にとどめたそれ。

 それでも、彼の脚と右手は布地よりも黒い“何か”に飲み込まれたようにして像を映していなかった。

 そこに無いのではない。

 確かにあることがわかるのであるが、その体全体を黒い“何か”が覆っている。

 映像的なトリックでも、後付けの加工処理でもない。

 

「……これを見てどう思われますか?四ツ田さん」


 促され、軍事・警備の日系コンサルタントである四ツ田ライナスが重い口を開く。


「……これが真実であるとすれば、彼は間違いなく“為政者にとっての脅威”となりうる存在といえます。断言しても構いません。彼、もしくは彼と同じことができる存在を恐れる権力者が彼を探すでしょうね」

「それはいったいどういうことでしょうか?」


 四ツ田はテーブルの上で手を組むと、その組んだ指を見つめながら語りだす。


「この後にも映像がありますよね?「騎士」が拳銃をどこからともなく取り出して、またどこかへと消すという映像が」

「はい、銃撃戦の映像のため今回この番組ではご用意してはいませんが」

「ですが、まあこの番組を見ている方は概要はご存じだろうと思います。そのうえで話をさせていただきますと、「騎士」のこの瞬間的な“変身”そして物品の取り寄せ。これが事実としてある以上、彼はいつでもどこでも要人の暗殺や大規模なテロが可能ということですね」

「暗殺にテロリズム、ですか?」


 いきなりの物騒な話に徳島が顔をゆがめる。


「この映像で着ているスーツ、そしてピエロのマスクについてはテロリストの持っていた物品であると、先日警察発表がありました。スーツは吊るし、マスクは大量生産のパーティーグッズとのことですね。そして「騎士」の手にしている拳銃。あれについても映像からすると日本の暴力団や反社会勢力が入手しようと思えば、難度はさほど高いものではありません。言い方はアレですが極々一般的な拳銃であるといえます」

「なるほど」

「つまり当日に入手した物を、自在に出し入れできるわけです。仮にですが日本をベースに考えれば、総理大臣が地方の選挙の応援演説のパーティー会場で、握手した瞬間に手りゅう弾を取り寄せることができる。たとえばどんなに厳重なボディーチェックをしても搭乗した飛行機の中で爆発物や銃器を瞬時に取り出してハイジャックも可能ということです。しかも彼は普通の人間など足元にも及ばない“武力”を持っている。それはなんの支障もなくコンビニに弁当を買いに行くような気軽さで実行されてしまうでしょう」

「いえいえ!「光速の騎士」がそんなことをするとは思えませんが!?逆に日本国内でのシージャック解決に協力してくれるような人物ですよ?」

「上に立つものの高潔さはいつまで続くのか。それは人類史が如実に表しています。今現在の彼はそうではないでしょう。ですが1年、5年、10年。その時の彼が今と同じ高潔さを備えているとあなたは断言できますか?」


 しん、と場が静まり返る。

 徳島の目にフロアディレクターの持つカンペが目に入る。


「……四ツ田さん、ありがとうございました。では一旦CMです。次の話題はレジェンド・オブ・クレオパトラの人質の方に協力いただいた当時の状況を再現したドラマとなっています。あの時、何が起こっていたのでしょう?」





「……受け取った前金の分は話をした。プロデューサーからひどく嫌味を言われたがね。だがわかっている奴はとっくの昔にわかっている内容だ。世論のカンジがそれを声高に言えないだけでな。わざわざ火に油を注ぐような煽り方をしなくても、そのうちじわじわと燃え上がる。俺はただ待つだけでいいと思ったがな」


 特番の生放送を終えて軍事・警備コンサルタントの四ツ田がTV局の駐車場に止めた自分の車の運転席で誰かと電話している。


「……いいさ。別に俺にしろアンタにしろ悪いことをしているわけじゃない。自分のそばにある危機をしっかりと気づいていない人間に認識させただけだ。「光速の騎士」という胡散臭いやつを、そのまま堂々とヒーローと考えるこの国の人間の平和ボケには全く、あきれるがな。だがあくまで可能性の話でしかない。「騎士」の行動理由が高潔な精神なんてもんじゃなく、ただのおせっかいだって可能性もあるんだがな。その点までたどり着かないだろうよ」

『………』

「ああ、幸いあの放送を見たほかのマスコミからもすぐに取材依頼が来たよ。……日本人は英雄も好きだが、それが堕落した姿はもっと好きだからな。栄光をつかんだ人物を徹底的に叩きのめしてこそ心が休まる。そんな、糞みたいな精神構造を持った国民性だ。実際のところあの「光速の騎士」は善人以外の何に見えるっていうんだかな。自分の手で無害な金の卵を産む鶏を"気味が悪い”って理由で殺すだけだっていうのにな。だが、せいぜい俺は稼がせてもらうよ。振込みは早めに頼む。悪巧みも程ほどにしておけよ。じゃあな」


 ぽんと助手席にスマホを放り投げ、懐から煙草を取り出す。

 1本咥え、火をつけると旨そうに吸い込み、そして大きく吐き出した。


「……「光速の騎士」、か。運がわりいな、アンタ。ネットなんぞが無い時代ならもっと自由に生きられただろうにな」


 そういうと車の灰皿に煙草を押し付け、四ツ田は車のキーを回すのだった。

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