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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
2章

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6-了 喧騒 のち 酒席



 都内某所、駅にほど近い繁華街の中にある1件の全国展開されているチェーンの居酒屋店は今日も繁盛していた。

 夜には近くにあるビジネス街のサラリーマンやOL達だけでなく、学生たちも電車だけでなくバスの利便性という点から騒ぐために大挙して訪れているのだ。


「いらっしゃいませ!!お客様何名様でしょうか!?」


 大きな声を上げて来客した3名の男女に尋ねたのはバイトの女の子だった。

 20時前後というの忙しい時間帯に差し掛かり、てんやわんやとなりそうな状況で彼らを目にしたのは彼女しかいなかった。

 がやがやとうるさい店内には客が溢れており、席をまつ少し酔ったサラリーマンの集団も待機しているという繁盛ぶりだ。

 声が通る様に大きな声と成るのは仕方ない。


「ああ、先にツレが来ているはずなんだ。ササキイチロウで予約してある、という話なんだけど?」


 先頭に立つカジュアルな服装の若い男が微笑みながらそう答える。

 後ろには女が2名、1人の女は男と同じく私服と思しき格好をしているが、もう1名はかちっとスーツを着こみ、一分の隙もないようなキャリアウーマン然とした女性であった。

 バランス的に不思議な組み合わせではあるが、そういう事が無かったわけでもない。

 ただ、1つバイトが気になったのは各々が非常に整った造作の顔立ちをしていることだ。

 男は余り男っ気を感じさせないような中性的で爽やかな雰囲気を漂わせ、少女はにこにこと楽しそうに笑う顔が、そこに華でも咲いたかと思わせるような煌びやかさを放つ。

 キャリアウーマンは冷たく落ち着いた雰囲気のするまさにクールビューティーという言葉がぴったりな印象だ。


「はい、少しお待ちください!」


 カウンターに小走りに走り込むと、今日の座席票の一覧を見る。

 そしてそこにササキイチロウという名前での予約が有った。


「ご予約いただいた個室で、1時間ほど前からお先にお待ちになられていますね。お席までご案内しますので、履物を下駄箱へお願いします!!」

「ありがとう」


 にこりと笑う男の後に残りの2人も下駄箱へと歩を進めた。


(何だろう、あの人たち……。変な組み合わせ。あ、もしかして芸能関係の人達かな!?タレントさんとそのマネージャー!)


 そう考えれば説明がつく。

 男と女は芸能関係のタレントとかで、キャリアウーマンは問題が起こらない様に付いてきたマネージャーではないだろうか。

 そんなことを考えていた所で、声がかかる。


「じゃあ、案内して欲しいんだが。ササキさんのとこへ」

「あ、こちらです。どうぞ!!」


 うす暗い店内をトイレに向かう酔客とすれ違いながら、予約してある部屋へと客を案内する。

 奥まった位置にある個室で、少し入口からは離れているがその分、他よりも騒々しさが和らいでいた。

 少し重めの障子戸を開けると、そこにはさきに到着したササキ一行が座っていた。


「やあ、来たかい。待っていたよ」

「適当に料理を頼んでいるのでね。何か飲むなら頼めばいい」


 掘りごたつに座り、男2人が楽しそうに酒を飲んでいた。

 その横には正座をしている女性がこちらも来訪した一団の女性と同じく、かちっとしたスーツ姿で控えている。

 ただ、目鼻立ちがよくよく見ると日本人離れしており、化粧っ気が無いながらも、きちんとドレスアップでもすれば振り向く男は数知れないだろう。

 近くで見れば、髪の毛も純粋な黒髪ではなく、若干濃い茶系の髪色をしていた。

 男の1人は三白眼気味の男で薄い笑顔をしながらビールをバイトへ追加注文し、もう1人は山盛りのフライドポテトにケチャップを付けたものを摘まんでいた。

 ぱくぱくと美味そうにポテトを齧るその中年の男は、人好きするいい笑顔を浮かべ、メニューを差し出してくる。

 それを手で制し、案内してきたバイトに注文をする。


「そうですね、そしたら取りあえずビールを。後2人は何か要るかい?」

「私、カシスオレンジ!」

「ウーロンハイ1つ」


 バイトはトントンとメニューも見ずに注文されていくのを、腰のPDAに入力していく。

 失礼します、と言いながら辞去する彼女を見て改めて後から来た集団が、先着した彼らの前に丁度相対するようにして座る。


「さて、初めましてだね」

「そうですねぇ。初めまして、ササキイチロウさん、でお呼びすることにしますけど?宜しいですよね」

「そうだな、今日の所は私はササキイチロウだよ」

「こういう場所で飲み食いする人間には思えなかったんだけどな。アンタみたいな人が普段出入りする店とは全く違うだろうに」

「そうとも言えるがそうでないとも言える。出向く先で馴染みになる店はまちまちだからね。色々な店にボトルが置いてある。茶色の水にビスケットだけという店も常連だったこともある。そこに比べて日本ではこういう騒々しい店の方が、身を隠して飲み食いできる」


 首を軽く傾げてそう笑ってくる男。

 その仕草も絵になる。

 顔が良いということは、こういう時には警戒をほぐすという意味で、いい方向へと動くことが多い。


「まあ、カラオケハウスでなかった分だけ良かったよ。もしアンタ等が、マイク握って歌ってたらどう反応すればいいか困るとこだったしな」

「ふふふ!いやあ、思った通り!前任よりも君の方が面白いな!クジョー、きみはエンターティナーの才能が有る!」


 ぱちぱちと手を叩いて三白眼の男がおかしそうに声をあげて笑う。


「そういうのが好きなわけじゃないんだけどね。まあ、仕事だから仕方ないところがある」

「そういう事だ、ビジネスライクに物事を進めるのは正しい選択だよ。だからこそ、まず仕事にカタをつけてしまおう。まずは、これだ」


 ササキと呼ばれた男は無造作に置かれていたファイルを手に取り、テーブルに滑らせるようにしてクジョーへとそれを受け渡す。

 手に取ったファイルをパラパラと流し読みすると、さらに隣のスーツの女性に手渡した。


「中身の確認は良いのかい?我々を信頼しているわけでもないだろうに」

「そりゃそうさ。でもな、ササキさん?俺は前任の尻拭いをさせられているだけの小間使いだよ。これを受け取って、これから先をどうするのかは上が決める。中身の精査もそっちでやってもらうとするよ。なんせ、前任の趣味は俺の趣味に合わないもんでね」


 そういうと目線をフライドポテトの山に向ける。

 ササキが軽く頷いたのを確認し、それを摘まむ。


「ササキさんに、そっちはクラウンとでもお呼びしようか?それともピエロがいいかい?あと、御嬢さんはどう呼ぼうかな?」

「ふふふ、そうだな。僕はクラウンが良いかな。何せ今、世間じゃピエロと言えば「騎士」の別名だしね」

「私はクジョー、あなたに名乗る必要を感じてはいない。好きに呼べばいい」

「では僕が名づけよう。ジェーン、ジェーンとしよう。ジェーン・ドゥということで。ササキにジェーンそして、僕がクラウンだ。どうぞよろしく」


 各々がそう自己紹介に似た、名を騙る。


「そうか、じゃあこちらも自己紹介をしておこう。俺がクジョー。隣はハナコ。ファイルを持ってるのが山下、だっけ?こないだ名乗ったのは?あ、違うな山本だ、山本」

「ふはははっ!!本当にオモシロイな、君は!!」


 双方ともスーツ姿のジェーンと山本が冷めた目線で、笑い合うクジョーとクラウンを見つめる。

 我関せずでハナコとササキが目の前のポテトの皿を空にしていく。

 一見楽しげな飲み会にも外からは見えるかもしれない。

 いや、それを演出するのがこの道化役の2名なのだろう。


「まあ、後でゆっくりと確認するといい。私が見た限り、アレは失敗作に近い。君ら女禍黄土主体で自己技術と我々の技術のハイブリッドを目指したとのことだが。どうも東洋思想と、我々の魔術は相性が悪いようだな。君らの持ち出しだから我々の懐は痛まなかったが……。まあ今後は協力する気はない。不良在庫の処分などどうも性に合わなかったのでな」

「こちらも先日のことですが担当していた前任の“処分”があり、引継ぎをする暇がなかったもので。その面でも双方の同意を得て中止としていただけるのはありがたいことです。あと、資金についてはご心配なく。今回のシージャックで支出した分に関しては、別ルートより8割方回収できていますので。ただ、試料の回収までは本当にできませんでしたか?映像を見ていた限り、その余裕も有ったかと思いますが?」


 山本がササキへと詰問に近い声色で尋ねてくる。

 それを受けて、ふふふと含むように笑うと、一旦言葉を止める。


「失敗作、といっただろう?これ以上のコストを掛けてもあれ以上のモノは出来上がらない。まあ、1体ほど上手く適合した個体が有ったが、それも「光速の騎士」に潰されてしまったしな。アレが残っているならば違う評価も出来たのだがね?ただ、君らが本当に必要なのはこれだろう?」


 ぱちん、とテーブルの上に小さなプラスチック製のそれが置かれる。

 どこの電気店やコンビニでも売っているようなUSBメモリだった。


「中に入っているのは件の詩篇のデータだ。これを懐に入れていたのでな?万一にも紛失することになれば目も当てられない」

「確かにねぇ……。日本じゃ二兎を追うものは、ってコトワザもあるしね。まあ、本命が手に入るだけでもありがたいね」


 それを見て、クジョーが後ろに控える山本に目線をやると、すっとこちらは茶封筒を差し出してくる。

 受け取ったそれをそのままササキへと手渡し、自身はテーブルの上に置かれたUSBメモリをポケットへと滑り込ませた。


「ギブアンドテイク、ってことでこちらも出すものは出しておくよ。頼まれた調査ファイルだ。マユミ・ガルシアと、マサキ・ガルシアの両名。日本に来たのは3カ月前、最初は福岡で確認されている。そこからは少し飛び飛びになってるね。仙台、京都、新潟、横浜。本州の都市部での目撃が多いようだ。直近は名古屋の衣料品販売店でカメラに映ったのが最後だね。あまり一所に留まっている印象は薄いかな」

「3カ月……。写真を見る限りは着た切り雀という訳でもないな。資金はどうしているんだ?」


 茶封筒を開き、写真付きの調査資料を確認する。

 表にクリップ留めされているのは、目深にキャップを被り、デニムの上下に身を包んだ茶色のロングの女性と、サングラスにジャケット姿の長身の男性の姿。

 恐らく監視カメラからキャプチャーされたと思しきその荒い画質の写真の他にも、服装と場所の違うカットで数枚の添付がされている。


「さて、ね?ただ、店舗での買い物もしているし、本州を移動しているから、ある程度の現金は有るんじゃないかと思う。ただ、日本ってのは生きていくなら金がかかる。それこそ誰にも頼らないって選択肢を選ぶんならなおさらね。資金提供者がいるのか、それともどこかで用立てているか。そこまでは詳細に調べていない」

「……それは、不完全な仕事ではないのですか?」


 仮称ジェーンがそうクジョーをなじる。

 ギブアンドテイク、と言いながら片手落ちではないのかと。


「おいおい、そこから先は依頼された調査の範囲じゃない。こっちの受けた見返りとしての依頼は“最近のターゲットの動向について”だったはずだ。これだけで十分すぎる程だと思うけど? それにその2人をそちらさんが追いかける理由も聞いていない。それをリスクとして判断するのは当然のことだと思うよ?」

「それはあなたの言い分で……」

「止めておけ、ジェーン。……こういう場でいがみ合うのは好きではない。それにこれだけ情報があれば、こちらも今後の彼らの行動予測が立てることができる。ここは引いておけ」


 言いつのろうとするジェーンをササキが押しとどめる。


「であれば、アフターサービスを一つ。中部地方の地方都市に、裏で闇金に繋がるようなお行儀のよくないサラ金を経営してる企業があってね。そこの怖いお兄さんたちが、先日危ない職業に人気の個人開業の病院に入院したらしい。警察には話をしていないようだけど闇金の移動店舗が襲われたらしくて、犯人捜しをしているそうだ。それがどうも男女2人組、俺が見た限りその写真の男女に良く似ている気がする。ただし裏ドリはしていないよ?」

「そうか、それは良い情報だな」

「それで、これがそのサラ金の連絡先だ。……まあ、アフターフォローはここまでかなぁ? あとは君らでやってくれよ?」


 クジョーは小さな広告入りのよれたポケットティッシュを手渡すと、締め切られた障子戸を見る。

 そうすると、遠くから2人の足音が聞こえてくる。

 それは障子戸まで近づくと、軽く木枠部分をノックしてきた。


「失礼しまーす。ご注文のドリンク、お持ちしましたー」

「失礼しまーす」


 2人の若い男が注文された酒を持って入室してきた。それをテーブルへと持ってきて手渡していく。


「では、我々はお先に失礼する。楽しんでくれたまえ」

「おや?お帰りですか?僕らが来たばかりというのに」


 ふふとササキが笑うと立ち上がり、分厚い革の財布から万札を適当に数枚引き抜いて無造作にテーブルの端に置いた。

 残りの2人も立ち上がり、クラウンは先程店員に注文した最後のビールを一気にのどに流し込んでいる。

 美味そうに一気に飲み干し、テーブルの隅に置いた。


「我々に気兼ねなく楽しんで欲しいのでね。気が休まらんだろう?」

「ご配慮、感謝しますよ。ササキさん」


 3人が立ち上がり部屋を辞していく。

 それを見てクジョーがポケットの中に入れたUSBメモリをズボンの上からなぞる。


「さて、この取引。双方ともにウィンウィンなのか。どちらかがババを引いたのか。……それとも両方とも実は泥船に乗っているのか。……まあ、僕の知ったこっちゃあないな」

「クジョー。あたし、この特製ラーメンと北海道産ホッケのあぶり焼きが食べたい!」

「はは、良いさ、どんどん頼みなよ。ササキセンセーが小遣いを置いていってくれたからね!!」


 そう言ってクジョーは高らかに笑うと、ビールジョッキをぐい、と一気に呷った。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 発送と導入部は非常に燃える。 コミカライズを読んでから来たが、厨二心をくすぐる流れは好ましい。 [気になる点] ここまで読んできたが、展開が遅いと言うか、分かりづらいと言うか、読みづらい。…
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