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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
2章

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5-1 寸断 のち 奪還

「ハッ!!」


 床へと飛び降りた「騎士」が、全員の視線が集まった瞬間の虚を突き、その手に握る斧を真横へと勢いよく振り抜く。

 その先にいるバケモノは、銃弾を受けて防御陣形を取っていたのであるが、流体部を壁の様に蠢かし、その盾とした。


べちゃっ!


 雨でぬかるんだ地面に勢いよく足を踏み出した時にするような、粘っこい不快な音がする。

 勢い自体はかなりのものであるが、それを突き抜ける程の威力、例えば狙撃銃での一発以上の貫通力はその斧にはなかった。

 “今までは”だが。


「スイングッ!!」


 恐らく、「光速の騎士」が声を無理に変えることなく、素で声をお茶の間へと発した最初の一言である。

 汎用スキル「スイング」。

 効果は、瞬間的に横へと振りぬく攻撃の際、膂力を増加するというもの。

 その効果を発揮する対象となるのは棒術そして斧。

「騎士」の持つ棒術・斧術汎用スキルであった。

 その力強い言霊に引かれるように、静止していたマスターキーがバケモノの壁という障害物を、名前の通り一気に開け放った。


ビシャビシャッ!!


 はじけ飛んだ流体部が、斧で斬り飛ばされた喪失部のその穴を埋めようと、そのボディを移動していく。

 その隙。

 そのわずかな隙間を「光速の騎士」は見逃さない。


「カッ!!」


 鋭く呼気を発し、右手の斧を手放し、アイテムボックスへと放り込むと一気にバケモノとの距離を詰める。

 その速度と、恐らくオートで蠢いていた流動部分の補修動作が邪魔をしてバケモノの挙動が止まる、いや止まらされた。

 盾を握る左手を手刀状にして突きこむ。

 当然のことながら、そこへと更にスキルを上乗せ。

 追撃の手を弛めない。


「ハイ・センスッ!!」


 左手一本、ド頭のこのタイミングでしかできない不意を狙った一撃。

 次からは確実に警戒されること間違いなしのこの最初の一手。

 狙うは当然、一カ所のみ。


メリッ……。


 胸の柔らかな皮下脂肪と、ブローチのように見える如何にもな呪物。

 その間にダメ押しの「ハイ・センス」で強化した知覚を利用し、的確に「騎士」の指先がめり込んでいた。

 そして、ブローチ部を指でしっかりと握る。

 本気の「光速の騎士」の指のピンチ力は、そこらの万力の比ではない。

 掴んだ、イコール外れない、クラスの力である。

 そのブローチを手で力ずくで引きちぎる。


ぶちぃっ!


 引きちぎられたブローチから、中に真っ赤な鮮血が迸るのが、カメラにもありありと映し出された。

 そしてその光景が日本全国へと映し出された瞬間。


「あ、ああああああああっ!!」


 今まで焦点の合っていない目が大きく見開かれ、天を仰いで大きく開けた口から苦悶の絶叫が木霊する。

 その痛々しく悲痛な声を聞きながらも「光速の騎士」は次の行動に遷っていた。

 左手に握ったブローチを握り、めき、という音と共に砕く。

 その動作と同時に、斧を放り込んで空けた右腕を、バケモノ本体とアイドルの間に滑り込ませ、腰を抱く。


「悪い、痛いぞっ!」


 聞こえているかどうかわからないが、そうアイドルだけに聞こえる様に囁くと、バケモノから浸食されている部分を強引に引きちぎる。


「アアアアァガガガッ!?」


ぶちぶちぶちっ!!


 強引に引きちぎった体の各所から、こちらも赤い血が周囲に飛び散る。

 当然最も近い「騎士」の体にもそれは振りかかるが、全く気にする素振りすら見せずに、引きちぎったアイドルを乱暴に、お姫様抱っこの形に抱きかかえ、大きく後ろへと飛んだ。


ずざざざっ!


 慣性の法則と血でぬれた床で少し滑るが、強引に「騎士」は残るバケモノ1体から距離を取って足を止める。


「あう、ああっ……」


 あまりの痛みに目から滂沱の涙を流すアイドル。

 霧がかかったような状態から一気に覚醒状態にされたせいで、まるで言葉にならない。

 涙やあぶら汗でメイクもでろでろに崩れてしまった彼女は、それでもトップアイドルのはしくれ。

 少しばかりテレビに映るよりも幼げになり、そんな若い女の子のつらい顔を見る趣味は「騎士」にはない。


「大丈夫、大丈夫。痛かった、痛かったわな、うん。落ち着け、落ち着けぇぇ」


 ポンポンと軽く頭を撫でる手に「ヒール」を込める。

 その穏やかな声色と、しっかりと抱きとめられる安心感、ゆっくりと体を癒す心地よさに、消耗しきった心が耐えきれず、目の前がブラックアウトしていく。

 そんな彼女が最後に見たのは、ゴツゴツした兜の向こうにある優しそうな目であった。





(えーと。結局、どうなってんのかな?なんか女の子を無理やり繋いだキメラっぽいのがいるっちゅう状況なんだけど?)


 迷子の中の迷子、キングオブ迷子になってしまった茂は、もうあきらめてしまった。

 銃声が聞こえてきて、どうやら鉄火場が始まったようだと気付いたので、真っ当なルートで行くことを、あきらめたのだ。

 幸いなことに、スタッフフロアをうろうろしている間に、デカいパイプの横に、これまた馬鹿でかい斧が壁に掛けられているのを見つけることが出来た。

 よく映画の中で豪華客船とか軍事基地とかで唐突に現れる、アレだ。

 俗称マスターキー。

 由来はどんなにがたついた扉でも、フリーズしてトラブルを起こしている電子機器でも、これさえあれば一発で解決。

 無理やりぶっ壊して、がんじがらめの問題をごり押しで切り開く、まさに万能の鍵となる一品。

 それこそが、この凶悪なマスターキーである。

 本当かどうかは知らないが、一応そういう理由があるとかないとか。

 まあ、そんなわけで見つけたこの如何にも非常用と言わんばかりの真っ赤な持ち手の斧を使い、近くの部屋へと駆け込み、壁一枚向こうの目的地までの最短距離の“ドア”を無理やり作りだしたというわけだ。

 この修繕費とかがどうなるかは考えないことにする。

 そう、やっぱり大切なのは“いのちだいじに”だと思うのだ。


(んで、この子をどっかに取りあえず寝かして……)


 ぐったりとして落ちるように軽い寝息を立てるアイドルの女の子を、お姫様抱っこのまま近くの壁へ持っていく。

 ちなみに茂は自分が抱き上げている女の子がパピプのトップアイドルの一人だと気付いていない。


(よし、さぁてと。どうすっかな?なんか敵以外考えられないから思い切りド突いたんだけど)


 早苗とか定良とかが闘っている以上、この女の子入りキメラはテロリストの側なのだろう。


(日本っていうか、地球って俺が知らなかっただけで、結構頭のオカシイヤバめな奴らがいるんだなぁ。こないだのリーマン死霊術師といい、今回のテロリスト錬金術師たちといい……。怖いわぁ)


 ということを考えながら、アイテムボックスから再度マスターキーを取り出す。

 少しばかり血まみれになった「光速の騎士」が真っ赤な柄の大斧を持っていると、どう好意的に見ても猟奇殺人の犯人以外には見えることは無い。

 間違いなく見た目のインパクトでいえば、ホッケーマスクの何某に勝るとも劣らない。


(しかもまだ奥の部屋に人質がいるし。このキメラ共、片付けないとそこへ助けにはいけないよなぁ……。はぁ、疲れた、もう疲れた。テロリストってマジでクソじゃん。こういうのは自分の頭ン中だけでやってろよな!)


 肩に担いだ斧がちょっと重いのと、そんなムカツキから勢いよく床に斧を叩きつける。

 がんっ!と大きく音がしてほんの少し床に振動が伝わる。

 見たところ、寄生型のキメラタイプのようである。

 術式やその形状に大きく違いはあるようだが、これならばどうにかできるはずだと「騎士」は判断した。

 月に1、2度のペースで街の古物店や武器防具店などで大戦期の“呪いの品”を知らず知らず手に取る運の悪い奴がいるのだ。

 憑依型、寄生型、精神支配型と様々なタイプがある中で、解呪に神官や“聖女”の真摯なる祈りの奇跡を必要とする憑依型、精神支配型の場合は「騎士」にはどうすることも出来ない。

 ただし、寄生型の場合はそれらとは違い、単純に対象を被害者から引きはがせばいいのである。

 もちろん、捕縛して神官に祈りを捧げてもらうのが一番効果的で間違いなのだが、寄生型は侵食初期であれば物理的な脳筋処理も可能である。

 思い返すのは、寄生型の呪いの兜を被った同僚の兵士のこと。

 茂が仲間の兵士たちと一緒に、その兜を引きはがしたのでよく覚えている。

 兜の裏地に呪が隠しで刻まれたものを高額で手に入れて、そのまま被った訳だ。

 ハンサムフェイスと呼ばれた彼は、神官から治療を受けしばらくのちに復帰したが、引きはがす際に抜けた頭髪は、一度は綺麗に治ったものの、過度のストレス等により若干寂しくなってしまった。

 結果、スキンヘッドになったのである。

 まあ、そのつるつる頭でも顔は良いので、治療院の女の子と結果いい感じになったから、ゴールインしたと一人さびしい遺跡の警備をしている茂へと手紙を送ってきたわけで。

 悩んだ挙句、祝福と呪詛をたっぷりと込めたお手紙と、少し高めの酒を行商人に配送依頼として頼んだこともあった。

 あの手紙と酒は楽しんでもらえただろうか。


(まあ、結構しっかり食い込んでるから、引きちぎる時は痛いだろうしなぁ。女の子だし痕になると可哀想だもんな。えーと、あと何本あったっけ?)


 頭の中でポーションの残数を確認。

 ポーションは2つ、マナポーションは1。

 この場で3体に寄生された被害者を引きはがすとすると、都合最低3度の回復を必要とする。

 その上で自身の体に巡る魔力残量はどうかと言えば。


(「ヒール」は多分確実にできるのは、後2回だな。3回目は、色々と使いすぎてるしちょい発動できるか微妙か……。となるとやっぱノーマルかマナかどっちかは使うよな。在庫これでラストなんだけど。……人助けだし、仕方ないよなぁ。でもなあ、美味しくないんだよなぁ、ポーション……)


 正直飲みこんだ後、しばらくげんなりする味なのである。

 


「うし、行くか」


 ぼそり、と誰にも聞こえない程度の声でつぶやくと、定良側へと駆け出す。

 兎にも角にもキメラの無力化をしない事には絵に描いた餅、捕らぬ皮のなんちゃらでしかない。

 それに加え、


(定良さん、ちょい気分が乗りすぎてるわぁ。アレ、放っておくとバサバサ斬り倒してく勢いだし。むしろ女の子を守りに行かないと)


 ずぞぞぞっと大太刀に黒い靄が纏わりついている。

 それを振るうたびに、キメラが防御態勢を取っている箇所がぼろぼろと崩れて床に落ち、塵となっている。

 大きく動いていた先程までと違い、その動きが鈍い。

 キメラの足元どころか全体の3分の1は瘴気に包み込まれ始めている。

 腐食、という表現が近しいかもしれない。

 キメラ本体と接続できている分に関しては、それを保持できているが一度切り離され、瘴気に汚染された部位はキメラ本体に戻ることなく朽ち果てていく。

 なにせ健常者であっても強く己を持たなければ、あっという間に恐慌状態になるレベルの瘴気だ。

 むしろキメラに侵食されている女の子の精神が持つのかどうか、と心配すら必要な濃度になりつつあるわけで。


「暫くぶりで」

「ふははっ!来たか来たかっ!!「騎士」よ、やはり来たかっ!」


 定良に聞こえる程度に抑えたぼそぼそ声を掛けると、喜色一杯の声色で定良が叫ぶ。

 狂ったように笑う定良は、猟奇殺人犯っぽい茂と比べ、一見まともにも見えるが細かくその鎧に飛び散った赤黒い血潮が乾き始めており、それが翁面の穏やかな笑い顔で乗算されて、底冷えのする悪寒をモニタ向こうのお茶の間に伝播させている。

 要するに洋物の分かり易い激しいスプラッターホラーと、和物の精神に訴えるジャパニーズホラーが夢の競演を果たす結果となったわけだ。

 ちなみにこれが関係したとは断言できないながらも、画面向こうの数多くの視聴者の中には軽い引き付けを起こした者が数名、このタイミングで119の出動要請をした旨をここに記しておこう。


「胸元の装身具。あれを引きちぎってくれ。人を剥がしたら後は、俺に」

「ふむ……。ばっさりと斬り捨ててはいかんか?幾分、面倒でな」

「……人死には出来るだけ避けるほうが、良いと思う」


 面倒なことは嫌いなのだろうか、定良がとんでもないことを言い放ってくれる。

 流石にネット配信の真っ最中に真っ二つになるうら若い女性をお茶の間に披露するわけにはいかないだろう。


(……いや、頼りになるんだけど。すげー頼りになるんだけど、危険物レベルマックスじゃん。定良さんの手綱、誰が持ってんだよ?まさかのフリーハンドじゃあるまいな!?)


 残念なことに、そのまさかである。

 血に飢えた狼をそのまま解き放ったような状況だというのに、誰一人そこにつかないということは無いだろう、という茂の予想は見事に外れた。


「では、そちらの1匹は任せる。俺はこちらを削ぎ落すことにする」

「……ああ、よろしく?」


 削ぎ落とすってナニ?という疑問が浮かんだが、問いかける前に定良が目の前の1匹に突っ込んでいく。

 茂が片付けた側に残る早苗たちの最後の1匹にも、銃弾が撃ち込まれはじめた。


「まあ、いいか。行こうかねぇ?」


 自分の担当を見据えると、斧を握る手に力を込める。

 ぎしぃ、と握られた斧が軽く軋む音が聞こえた。

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