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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
2章

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4-13 弱音 のち 突入

 扉が開く。

 これから誰もが通る扉だ。


“君”は言った。


“さてさて、種は蒔いた!乾杯しよう、乾杯しようよ!!!僕と君とが世界の頚木を砕く、この輝かしくも呪わしき日に!”


 扉が開く。

 だが、“私”も“君”もそれを望んだのは本心からだったか?

 

“私”にはもうわからない。

 だから、“君”は……。






「……俺、もしかしてもういらないんじゃなかろうか?」


 早苗の前から一目散に逃げ出した「光速の騎士」こと、杉山茂。

 誰も聞こえない大きさの声でポツリと呟く。

 都合3カ所目の人質を解放し、周りの人々に少しばかり距離を置かれている現状を思う。


(火嶋教授は助けたし、人質の大半がいる3カ所も一応OK。救助隊も来てるし。……定良さんがいるのがまるで意味わからんけど。……危なそうな奴ら片付けたらバックれていいかも!)


 おお、と思いつく。

 どうして何もかも自分一人でやろうと思ったのだろうか。

 そう、こういう時はチームプレー。

 チームプレーだ。

 何故、テロリスト全員をぶっ飛ばして船を解放し、その身柄を引き渡すことまでやらないといけないと考えていたのだろうか。

 よくよく考えれば、あのホテルでの一件で茂は警察に追われている身分であった。

 そこから思い切り逃げ出した手前、法律的にどうなのかは知らないが未だ逃亡犯的なポジションに位置しているのではなかろうか。


(素人が現場を引っ掻き回すと、きっと後で警察の人とかが困るだろうし。うん、そうだよ!俺、早めに消えた方がいいはずじゃん!)


 思い付いた名案(迷案?)がすとんと心に落ち着く。

 わざわざ危険に向かって突っ込んでいく必要は無いのだ。

 こういう事は本職のテロ対策部隊とか、そういう人たちに任せるのが筋ではなかろうか、と。


(帰ろうかな……。うん、部屋に帰ろう!こっそり外壁伝って部屋に戻って、そんで籠城してる感じになれば何も問題ないじゃん!おお、万事解決!!)


 よし、と軽く握り拳を握る。

 ならば、後は最後の大仕事。

 残りの人が捕まっているファッションショーのステージだけである。

 あの豪華なイベントの演者連中を助け出せば、残りは深雪を残すだけ。

 こういう面倒事はさっさと終わらせるに限る。

 そう考えて最後の3カ所目のホールを出ながら、ぱらりと懐から船内の通路図を取り出す。

 一番この部屋から近い、ショーの会場までのルートを確認する。

 ただ、一つだけ考えてほしい。

 警備を解放し、3カ所のホールの人質を解放した。

 そしてこの後のショーステージの人質と深雪がいるであろうVIPフロアを解放するとなると、さて残る人質はどれくらいいるだろうか。

 きっとほぼほぼすべての人質が解放される計算となるはずだ。

 ぶっちゃけて言えば、ほとんど最後まで関わることになるのだという事実に茂は気付いていない。


(まず階段で2フロア昇って、そっからメインの通路を直進。そんで脇の関係者のみの通路に入って……)


 そこまでの通路にいる敵っぽい反応を確認する。

 合計2体。


「敵か……。ヤダな、どっか行かねぇかな」


 何か話によるとヘドロっぽい変なのが船内にうろうろしているらしい。

 「気配察知:小」からするとその反応があるのは確実で、多分ヘドロが茂の進行方向にうろうろしているようだ。


「遠くからみてみてどうにかできそうなら、どうにかしよう。無理なら別ルートだ」


 うむ、と頷いててくてくと目的の階段を探して歩き出した。




「ふむ、ここか?その催しの会場とやらは?」


 ぴったりと閉じられた重厚な扉の前で、定良がどこか疲れた様子の面々に尋ねる。

 結局、この場所に来るまでの間に都合3度の襲撃を受けたわけであるが、非常にスムーズに移動が進んだ。

 一回目のヘドロ瞬殺の顛末から完全にフォワードを定良に任せ、普通の人々は後方からの奇襲に備えるという分業が成立していた。

 結果、テロリストの襲撃、ヘドロとの再戦も完勝という形でこの残るステージ前の扉へとたどり着いたわけである。


「そのはずだが、すこし待て。……もうすぐ分隊が合流予定だ」


 耳元の無線連絡を受けて、青柳が合流する部隊を待つことを進言した。

 少しだけ考える風に顎に手をやる翁面の武者の姿は、どことなく薄暗い照明に照らされて神秘的な雰囲気を醸し出している。

 能、狂言の一流の演者がふるまう仕草のようでもあった。

 どこか抗弁しがたい魅力ともいえるだろうか。


「……まあ、好きにしろ。どちらにしろ俺は、何ぞ面白いものを斬れれば、それでいい。しかし俺はてっきり、あの「騎士」のような傑物と斬り合うような場を想像していたのに、雑魚と腑抜けばかり……。つまらん」


 一歩二歩と定良が歩きだし、背を大きな柱へと靠れかかせる。

 どん、と太刀を鞘にしまうと腕組みをして黙り込む。

 面の下がどうなっているのか見えないので詳細は判らないが、思索にふけっているようにも見える。


(……本当に、本当にコイツは敵対しないのか?やらかしてる内容は特級の呪霊と変わらないぞ!?いや、なまじ周囲の状況を把握して対応している分、無駄も容赦もない!一度でも暴れ出してみろ。どうやったって制圧までに3桁の被害が出るぞ!?)


 青柳の本心が一筋の冷や汗となり、首筋を流れていく。

 危険なレベルの呪霊が協力するというトンデモ発表からすぐのこの連携。

 敢えて言おう。

 本部の馬鹿ども、クソ喰らえ、と。

 言い換えるなら、危ないモン押しつけんじゃねえよ、だ。


「……ああ、酒が飲みたい。こうもつまらんと、口寂しいのだがな。そうだなこういうときは冷酒だ。冷酒がよい。薄く柚子の皮を削いで、硝子の器に注いでから浮かべるのだ。柚子の香がふわりと香る瞬間に一息に呷る。……アレが良い」


 しかも、酔わないくせにどうしようもないレベルのアル中である。

 肝臓もない骸骨のくせに、ぱかぱかと酒を飲むという悪癖に目覚めているらしい。

 どうも聞いたところ、その趣味は非常によろしいようで、目玉の飛び出る額の酒がかなりの本数、空になった様である。


「どぶろくもよい。あれは、こう、懐かしいのでなぁ。しかもあの頃より、段違いに美味い……。良い時代だ、うむ」


 定良は顎をさすりさすり少しだけ空を見上げた。

 どうやら彼は彼で現世を十二分に楽しんでいるようでもある。

 そこへ、命知らずの隊員が話しかける。


「本当に酒、好きなんですね」

「うむ、飯も女もこの体では興味が失せたが、酒だけは受け付けるのでな。これしか楽しみがない、ともいえるが」

「ウチの地元、結構マイナーな知る人ぞ知る的な酒蔵、あるんです。一本取り寄せましょうか?味も良いですが、香り重視で仕込んでる樽があるんです」

「ほぉ!良いな、それは良い!今度でも届けてくれ!いやあ、楽しみが増えた、増えた!!」


 かかかっ、と歯を鳴らして定良が笑う。

 どうにもこうにも俗っぽい風情の「骸骨武者」様であった。




 かかかっと機嫌よく笑う翁の面の鎧武者。

 その姿を銃を構えながら接近する早苗たち別行動をしていた班が視線にとらえる。

 周辺を警戒しながら合流のため近づくと、早苗はあることに気付いた。

 定良の太刀が、ほんの少しだけであるが抜かれていることに。


「おお、ようやく来たか。ならば、入るとしようか。とっとと帰って月見酒でもしたいのでな」


 かすかにちき、と太刀が鞘に戻る音がした。

 早苗以外は気付かなかったかもしれないが、定良が隠れて接近する彼女たちを警戒していたのは間違いないだろう。

 常在戦場。

 そんな言葉が早苗の脳裏によぎった。

 そのさなか、あることに気付く。


「……これで、全員なのか?「騎士」が先行したはずだが?」

「こちらには来ていない。他の隊にも見かけた奴はいないはずだ。合流すると“彼”が言ったのか?」

「そうではないが……」


 そうではないが、あの「光速の騎士」が思うとおりの人物であれば、今ここにいないというのはおかしいのだが。


「……もう、待たずともいいのではないか?さっさと、この中の外道を片付けて、質を取り返さば、帰れるのだぞ?」

「“老翁”……。そういうわけにも」

「いえ、それもそうね。さっさと片付けてしまいましょう。時は金なりというしね」


 ショットガンを構えなおし、早苗は扉を見る。

 その先にはファッションショーの会場がある。


 そして、このシージャックの全容を知った奴がいるのだから。


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― 新着の感想 ―
骸骨様は酒を飲んだあと、下から出てくるのでしょうか? オムツ必要ですか?
[気になる点] 何で主人公が、白石家の人間の安否確認すらせずに帰ろうとし始めてるのか意味わかんないです。何しにここに来てるのか忘れてるの?しかも殺されそうになってた子供助けた直後に。 唐突に場にそぐわ…
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