4-急 大人の現実 のち 幼子の憧憬
『騎士、でたぁぁぁぁっ!』
このワードがあっという間に日本中を掛け巡った。
すでに21時近くの夜間であるというのに、多くの人々がその一言に飛びつく。
どこで、どのように、何をしていようがその波に皆が飲みこまれていく。
ネットの検索ワードはシージャックの関連項目の間に「光速の騎士」が埋まり、テレビ各局は人気ナンバーワン女優を前面に出した豪華な連続ドラマの一番いいクライマックスを中断し、クイズバラエティを差し替え、ニュースを流していた所はその後の深夜バラエティの中止と、ニュースの延長をアナウンサーが謝罪する事態となっている。
そんななか一番真っ先に駆け出すのは誰か。
それは当然、第一報を報じることに心血を注ぐ各テレビの中継班であった。
「……くそ、こんな時間だってのに、道が混んでるってどういうことだ?」
ぎりぎりと歯ぎしりをしながら、遅々として進まない車列に呪詛の言葉をぶつける。
一分一秒でも早く現着し、中継の準備を整え、テレビ前の視聴者に現状をお伝えするのが今彼らのやるべき仕事の全てである。
「ディレクター!帰港予定の港の画像、いくつかアップされてます!……現地、もう警察が来てますよ!?コレ、規制線張って、道路封鎖してる感じです!!」
「何ぃ!?早すぎだろう!?いくらなんでも早すぎるぞ!貸してくれ!」
ひったくるようにして隣でネットに上がる情報を確認しているADのタブレットを奪い取る。
そこには笑顔でピースサインをする投稿者の後ろで、重装備の警察と思しき面々が、侵入禁止のテープで道路を封鎖し、港へと入ってこれない様に立ち番をしてる様子がアップされている。
実の所、こういった事態で一番最初に情報が飛ぶのはこういった一般の人のスマホ画像だったりする。
その画像を含め、数枚がアップされているが、どうみても完全封鎖されているようだ。
「どういう事だ?警察の奴らはどのルートから情報を?こっちだってシージャックの第一報とほとんどノータイムで局を出たんだぞ?警察が先行するのは判るが、封鎖済みってのは動きが速すぎる」
「……ディレクター、警察に詰めてる奴らから情報です。どうも今日の夕方に秘密裏に召集掛けられたトコがあるみたいです。緊急車両が出てったのを確認してるようで。場所はどこかまでは判らないみたいですが」
「事前にこの事、警察内部では察知してたってことか?」
「今すぐに情報の裏付けはできません。他の局も同様の情報は得てると思いますが、速報出してるとこは今の所無いですね」
タブレットで情報収集する以外にも、すし詰めの車内では忙しなく関係各所に連絡を取ろうとしていた。
玉石混交。
クズから、金、中にはプラチナ級の情報もあるのだが、それをどう生かすかはテレビ局ディレクターの腕一つである。
(あの野郎。アイツくたびれて腐っちまったと思ったが、あのスクープ。……やりやがったからなぁ。見てて涙流したぜ。あんなの一生に1度あるかないか。いや、普通はねぇよ。でも、ビビッて怯まねえ。あんな根性入った映像、うらやましいったらないな)
ここ数日、仕事の飲みの場は必ずどこかのタイミングで、あのパピプの大イベントをブッチぎって流された映像が話題に上がる。
それはそうだろう。
彼らは全員がテレビマン。
お茶の間の視聴者に映像を届けることを至上命題とした集団だ。
丁度、局内のスタッフルームでかなり遅い夕食にカップ麺を啜っていた所、飛び込んできたADが、騒ぎながらチャンネルを合わせたのを覚えている。
テレビ欄ではパピプのイベントを放送しているはずのその局は、「光速の騎士」が「骸骨武者」と切り合う鉄火場が映し出され、それを生放送の中継実況で全国に流すという。
唖然とすると同時に、羨望すら覚えた。
報道というものの本質をぶつけてきた映像だった。
むやみやたらに騒ぎ立て、ぎらぎらと飾り立てるのではなく、真実をそのままダイレクトに放送したのだ。
その現場ディレクターが旧知の男と知った時にも驚いた。
あの場、あの時、あの状況で。
俺は、あの映像を流せるのか。
同年代や少し上の若手幹部、新入りのスタッフを交えて各々が自分の意見を述べ、幾夜も同じ討論をした。
至極青臭いもの、堅実堅調なつまらないもの、現行の体制に阿るもの。
ただ、ここ数年で一番の熱のある飲みの席だったと思う。
それだけは間違いない。
そして、きっとそれは彼らの局だけではないはずだ。
すべての局の彼と同じような立場の人間が、同じような議論を酒を飲みながら叫びあっていただろう。
「……情報の整理は局に任せる。俺たちはとにかく、港だ。港で情報集めに全力疾走すりゃいい!とにかく急げ!!」
赤信号で止まっていた中継車が、信号が青になった瞬間、ロケットスタートよろしく排気口から煙を上げた。
となりのマサシおにいちゃんもケンくんもウソツキだった。
ぼくは、きのうヒーローなんていないんだって、ともだちのケンくんにいわれた。
あれはテレビのつくりもので、あのへんしんスーツのなかはおじさんがはいっているんだって。
レッドのリュウはへんしんなんてしていない、ヒーローなんてこのよにはいないんだって。
それで、くやしくって、となりのものしりなマサシおにいちゃんにきいたんだ。
ヒーローはいるんだよねって。
そしたら、こまったかおでマサシおにいちゃんがぼくにいったんだ。
じつはあのヒーローたちは"やくしゃ"だから、ほんとうにたたかってたりはしないんだよって。
あくのそしきも、だいしゅりょうも、ほんとうはいないんだよって。
うそだっていったぼくは、マサシおにいちゃんとけんかしたんだ。
ヒーローはぜったいにいるんだもん。
だって、ほら!!ほら!!!!
「よし、大丈夫だからな。もう、安心していいから」
あたまをぐしゃぐしゃって、してくれた。
「ったく、ガキ泣かしてナニ偉そうにしてんだ?」
ほら!ぶんってやりをふって、マントのヒーローが、わるいやつらにむかっていくじゃんか!
ね?
やっぱり、ヒーローはいるんだよ!!!
2章の中でこれが一番、書きたかったのだ。
うん、なんか蛇足なんだけどこういうのが好きだなー。




