1-了 聴取 のち 夕餉
警察とかマスコミについては、基本想像で書いてます。
なので、本当はこんなではない感じが否めない。
そこはご容赦ください。
「ご協力ありがとうございました。では我々はこれで失礼します」
「遅くまでご苦労様です」
病院の非常用出入口で守衛に声を掛け、制服の警察官が小脇にファイルやバインダーを抱えて外に出てくる。
それをみて、病院外で待機していたジャンパーコート姿の男がすかさず数名駆け寄ってくる。
ご苦労さんってのはあいつらの事だな、と内心苦笑しながら彼らから距離を取ろうとする警察官。
だが、それを許すマスコミではない。
「すいません。週刊○○の○○といいますが、配送トラックの運転手から聞き取りされたんですよね?何か新しくわかったこと、有りませんか?」
わざわざ大声でそう言い放つ記者と称する男。
それに気付き、一斉に周りが明るくなる。
恐らく週刊誌などの媒体でなく、テレビなどのマスメディアだろう。
がちゃがちゃと撮影を始めた雰囲気がある。
こういう暗黙の連係プレーがあるのだろうか。
一気に警察官への密度が増え、歩いて警察車両に向かうまでの進路が数名の記者やカメラマンで軽く塞がれる。
「申し訳ない。まだこうだ、と言えることは有りません。発表された以上の事はお伝えできませんので」
「ですが、入院中のドライバーには話を聞けたのでは?」
「申し訳ありません。道を通してください!」
パシャパシャとフラッシュがたかれる。
きっとどこかでこの画が使われるのだろうなと、思いながら人を掻き分け車へと戻るのだった。
「……先輩、この話マジだと思います?」
「俺にそんなこと聞くなよ。署に戻ったら絶対主任にも聞かれるんだから。お前、代わりに報告してくれるか?」
「いやぁ、荷が重いですわ」
40代と思われる先輩に、30そこそこの後輩。
病院からパトカーを運転する後輩に、先輩が言う。
「俺もお前も一応ゲームとかわりかし親しみのある世代だからなぁ。判るだろ?困ってるやつがいてヒーローが出てきて最終的に世界を救うってのは散々やってきてるテンプレートだろ?」
「そうですねぇ。ただ最近はバッドエンドっぽいゲームも多いっすよ。洋ゲーとか海の向こう人たちって、なんでそういうの好きなんでしょうね」
「そこらへんはセミリタイアしてる俺に言うなよ。最近のゲームは息子のほうが詳しいんだよ」
ふうとため息をついて手元の資料を眺める。
この奇想天外な内容の供述の数々をどうまとめようかと悩みは尽きない。
「昨日までなら、それをそのまんま書いたら病院に行けって皆に言われそうですしね」
「あとは尿検査にアルコールの呼気検査も一緒にな。とんでもないことになったよ」
朝にそり上げてきた顎の下にうっすらと生えた無精ひげをつまんで引き抜く。
運転中の後輩が嫌そうにしているのを横目に、話を変える。
「ところで、“もう一つ”はどうなってるんだ?なんか聞いてるか?」
「もう一つって、高校生の失踪の方っすよね?いや、小耳にはさんだくらいっす。この「光速の騎士」に人を割く余裕なんて本当は無いくらいなんですけどね」
「だよなぁ。学業優秀、品行方正、金も有る家の立派な御子息たちがそろっていなくなったって話だろ?自分たちで家出するって感じじゃなさそうだし、金目当てとか事件性が高そうじゃないか。捜査本部とか立ち上げることになるのかねぇ」
「身代金とかは未だに言ってきてないし、まだ2日目ですしね。大企業のご家族っていろいろ世間体とか大変なんじゃないです?」
「金持ちの気持ちは判らん。俺ならガキがいなくなったら即、警察に泣きつくがね」
「俺もそれが普通だと思いますよ。でも、人の家のことなんてわかりはしないもんですし」
どさりと助手席の背もたれに先輩が体を沈める。
「本当にこの「光速の騎士」がヒーローなら、その行方不明事件も解決してくれないかねぇ」
「警察の威信にかけて俺たちが先に解決するんだ!って課長とかは言いそうですけど」
「あのひと、ヒーローとかゲームとか嫌いそうだからなぁ」
パトカーの中で、少々不謹慎な笑いが巻き起こった。
「へぇ、ぶしっ!!」
鼻がむずむずとしたと思ったらくしゃみが勢いよく出た。
茂は鼻をこすりながら神社で体を冷やしたせいかな、と給湯ポットからカップ麺へとお湯を注ぐ。
とぽとぽと注がれたカップ麺の上に箸を置き、3分を待つ間テレビ画面に意識を戻した。
ちなみに画面は深夜に入り、各局一斉に今日の出来事を伝えるニュースタイムになっている。
どの局に合わせてもニュースの流れるあの時間帯だ。
「うう、不謹慎だけど誰か大御所俳優が不倫の果ての泥沼離婚とか、人気のトップアイドル妊娠・結婚・引退へ、とか流れないかなぁ……」
画面には科学的見地から見た「光速の騎士」の実在の妥当性を検証するVTRが流れている。
その前には、人体力学・運動工学の権威が、いかに「光速の騎士」が異端であるかを長々と説明していた。
はっきり言ってもうお祭り騒ぎである。
茂の言った内容もいつもであれば各スポーツ紙一面打ち抜きのインパクトは有るが、恐らくそれらが発表されても「光速の騎士」の方が強いコンテンツであろう。
実際茂は知らないが、このお祭り騒ぎに隠れて何人かの人気アイドルと若手女優の結婚やら、おしどり夫婦で知られる有名歌手の離婚やらを報じてしまおうと、各芸能事務所が動いていたりする。
このタイミングならあまり騒がれないと、世間の動向を常に注視しているプロたちが太鼓判を押した形だ。
あの「光速の騎士」がしばらくはトップニュースを飾るだろうと。
そんなことを知らない茂ががっくり来ている間に、3分が経った。
カップ麺のフィルムをはがし、卓上コショウをぱっぱっとかけて、取り敢えず遅い夕飯にする。
ずずっとカップ麺を啜り、もちゃもちゃ音をさせる夕飯はどことなく味気ない。
気が抜けた表情のままテレビのニュースが次に変わらないかな、とそのまま見続けることにした。
「では、明日この時間にお会いしましょう」
ニュースが終わる。
結局特集を組んで全体の7割が「光速の騎士」を取り上げたその番組編成。
見始めてからずっと自分の姿を見せられるのは結構な苦痛でしかない。
間違いなく「聖騎士」「軍師」辺りはこちらに帰ってきた瞬間にイジってくるはずだ。
あの2人は外面は御綺麗であるのに、茂に対してはものすごく絡んでくるのだ。
ほかの3人はその辺りは少々大人な対応をしてくれるだろうが、如何せん高校生である。
きっとみんなで集まった時には茂をネタに笑いあったりするのだ。
(帰ってきてほしい、が。帰ってきてほしくない、かもしれない……)
もう少しばかり「光速の騎士」が落ち着いてから帰ってきてくれると嬉しい。
ただ、親御さんも心配しているだろうし、それは不謹慎だなと思いいたる。
そんなもやもやと考えていると、考えてもどうにもならないことだということに気がついた。
もういいやという気持ちになる。
机に投げ出されたリモコンを取ってテレビの電源を落とす。
今日一日の出来事は間違いなく日本で生きていた出来事の中で、ぶっちぎり1位を飾る赤面の出来事だ。
温くなりつつあるカップ麺に浮いている残りの具材を箸でかき集め口に放り込む。
最後にカップに口を付けてスープまで一気に飲み干す。
いつもなら健康のために、とか思って残すのだがなんかもう今日はいろんなことに配慮する気力がわいてこない。
げっぷをして、カップ麺をゴミ箱に叩きこむと取りあえず一息ついた。
「明日、っていうかもう今日か。ケータイだけでもどうにかしないと。連絡付けれないしな。ショップで一番安いの手に入れて、それで買出しだな。おとなしく日常を過ごそう。大丈夫、人のうわさも七十五日っていうし、大丈夫、大丈夫……」
最後は自分に言い聞かせているのだ。
自己暗示というやつである。
「……歯、磨いてとっとと寝よう。風呂はいって、ご飯朝に炊き上がる様に予約して……。あ、ゴミ出しも忘れないようにしないと!」
日常を思い出す。
結構やるべきことがあることに気づき、茂は動き出した。
一般人、杉山茂。
彼の異世界帰還1日目はこうして終了した。
とりあえず、一区切り。
息抜きのつもりだったので、続きは反応しだいって感じですね。
思いついたら書いていくかもしれません。