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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
2章

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4-6 接触 のち 雌伏

「……銃持ってるじゃん。……本気のテロリストなんだよなー。嫌だなー」


 テロリストに本気も嘘気もないとは思うが、言いたいことは何となくでいいので理解してほしい。

 茂としてはあんなに簡単にぶっ放すとは思っていなかったのである。

 流石に銃を構えている覆面の怪しい男が、人質っぽいアロハのおっさんを脅してるところだったので、もし少しでも殺気が漏れ出る様なら槍を投擲して腕を貫くという解決を図ろうとしていたのだが。

 あの覆面にとっては幸運なことに、真横の資材置き場に撃つだけだったので見逃されたわけである。

 ただし、その会話は茂に聞かれていた。

 途切れ途切れであるが、どうやら時間制限を決めて、要求が受け入れられなければ、人質を害するということだ。

 つまり、その時刻までに何かしら対策を取る必要があるのではないか。


「と、思い付いたんだけど……。俺一人でって難しいし。協力者探すべきだよな」


 よじ登ってよじ登って、船部上層のVIP用のプールに常設されたバーカウンターの陰に隠れて一息ついたところだがあまり時間がない。

 カウンターの中に在る冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して、ぐびぐびと喉を潤す。

 よく考えるとドロボーであるが、緊急事態である。勘弁してほしい。

 プールわきの時計を見ると20時30分を回っていた。


「45分がデッドか。うーん……。保安部門、セキュリティを管轄してるのって何処だろ?」


 懐から船内の案内図を取り出し確認。

 拾得物とか迷子案内とかは書かれているが、それ以外にセキュリティの文言は案内図には書かれていない。

 こういう時の保安上の対策であることは解っているが、逆にそれが面倒なことになっている。


(船首部分に人が集められて、「気配察知:小」で反応があるのは3カ所。1つは余りにも大人数だから、イベントの出席者だろうから違う。他の2カ所、ここの上と、船内の奥。……この上は、外を見れるから操舵関係かな?映画とかでも操舵する所から氷山にぶつかったり、街に入り込んだり、タンカー真っ二つにするのを見たりしてたのってやっぱ上の方からだったよな。……だとすりゃ、船内の奥、こっちが本命か?……自信ないけど)


 案内図と「気配察知:小」の反応を照らし合わせると、パンフに描かれていないスタッフオンリーの区画のようだ。

 こっそり移動するつもりではいるが、そういうところには間違いなく監視カメラが設置しているだろうし、この状況下でその映像を確認する人員が配置されていないことはまずありえない。

 しかもそういう重要拠点であるなら鍵はきっと厳重に掛けられているはずだ。

 つまり、動きだせば間違いなく「光速の騎士」のコスプレをしたイカれた奴がいると船内中に知られることになるわけで。


(弱った。純粋にマンパワーが足らない。目的地まで全力で駆けぬけても確実に数秒は掛かるし)


 運良く誰にも見つからず、セキュリティを統括している保安部門にたどり着き、ドアのカギを破って侵入。連絡を他のテロリストにされるまでに制圧する。


(……無理だ。そんな神業と等しい技術は持ち合わせて無い。どうやったって時間はかかるだろうし、入口でガチャガチャしてたらカメラにも映る。一人で動くにはこの船、デカ過ぎる……)


 むむむっと唸るが、いい考えが出ない。

 そうこうしている間にも時間は過ぎていくわけで、出たとこ勝負のギャンブルをするしかないか、と思った時である。


…………ララララッ!


 遠く、遠く、船以外には月明かり程度しか周りにないこの大海原で何かが近づいてくる音が聞こえてきた。

 しかもそれは徐々に大きくなっていく。

 それでわかることがある。


(音としてはヘリ!?東京湾のど真ん中で夜間飛行って!?しかも複数、だよな?)


 バラララと何かが空から接近してくる。

 ライトを点けているものを数えると都合3機だと思われる。


「や、やった。助けが来たのか。……でも、どこから?」


 小躍りしそうな自分を押さえつつ、頼もしい味方の到着に茂は喜ぶ。

 正直、海保だろうが警察だろうが自衛隊だろうが、特殊な部隊だろうがどこでもいい。

 今ならば、動ける。


『~~~!!』


 何語なのか判らない言葉で大声を上げながら、プールと繋がっているドアから男が飛び出してくる。

 茂が隠れていたのはこれが理由だった。

 VIP用のプールサイドのバーカウンターからすぐそばの客室へと続く扉に、明らかにテロリストでござい、と言わんばかりのピエロのマスクをかぶったスーツ姿の男が立っていたのである。

 しかも、ちょっとばかりゴツイ見た目の得物を手にして。

 先程下のステージで見たのは覆面に、目出し帽であり、どうも統一感が無いのであるが、まあ手には自動小銃らしきものを両手で構えて近づいてくるヘリを睥睨している。

 近くまで来たならばぶっ放すつもりなのだろう。

 しっかりと物陰に隠れて様子を見ているようだ。


(「気配察知:小」だとこの近くにはアイツだけ。後はまだこの近くにはいない!)


 覚悟を決める。

 ピエロの注意が空を駆ける3機のヘリコプターに向いた瞬間、茂がバーカウンターを飛び出す。

 爆音とともに、ヘリが船上を通過したことで、物陰から急にあらわれた"それ"にピエロは気付くのが遅れた。


『……オッ!?』


 銃口を"それ"に向けた瞬間には、すでに懐近くまで踏み込まれていた。

 だが指がトリガーに掛かっており、誰もいない空間に目掛けて自然と引き金が引かれる。

 ……かと思われた。


ゴキィッ!!


『ガッ!!!!?』


 踏み込んだ瞬間に掴んだ引き金に指が掛かった側のピエロの白手袋を付けた手首を、一瞬の躊躇いも見せずに握り、砕く。

 その激痛に悲鳴を上げようとしたマスクの下の顎へとかちあげる様にして掌底を放つ。


ミシィ……


 手首を掴まれているため、首から上がスイカの様に爆ぜるのではという衝撃が一度にピエロを襲う。

 当然体ごと吹き飛ばされそうになるが、手首を握られているため、それも防がれる。

 極めて静粛に、且つ迅速にピエロを無力化すると、その体を抱えたまま再度バーカウンターへと戻る。


「さて、どんな顔してるのかな、と」


 失神しているピエロマスクを剥ぎ取ると、その下から出てきたのは日本人ではなかった。

 まあ、先程何語か判らない言葉を発していたのだから当然だろうが。

 取りあえずわかるのは英語っぽくない言葉をはなす白人系のナイスミドル、というくらいか。

 年齢とかは正直よくわからない。

 若くも見えるし、実は年いってるという可能性もある。

 ただ、少しばかり歯が見事なくらいに紛失されている上に、血まみれになっているので、そこは仕方ないだろう。

 ただ、トランシーバとは別に、ピエロマスクの下にイヤモニが付いていた。

 あとは何かないかとスーツの上着の中をまさぐってみる。


「拳銃、弾薬、ミントタブレット、タバコにライター。……財布とか、身分証はなし、か。通信機器はトランシーバーと、もう一つトランシーバー?二つ持ち?」


 先程から手に持っていた方のトランシーバーにガンガン音が入ってきているが、何を言っているのか解らない。

 そしてもう一つのトランシーバーからイヤモニへ音声を飛ばしているのだろう。

 うるさくて仕方ないが、恐らく先程のヘリコプターの件で話しているのだろうとは思う。

 "ヘリ〇〇+なんちゃら+かんちゃら"という音が聞こえてきているので。

 多分、ヘリコプターに関する何かを話しているのだろう。

 ただし、下で脅迫していた男は流暢に日本語を話していたように思う。

 その辺りがいまいちしっくりこないのであるが。


「うーん、まあ船内へ進むか。後10分くらいしかないみたいだし」


 ピエロの砕いていない側の手首の腕時計を見ると35分となっている。

 立ち上がり、失神したピエロをバーカウンターに隠すと、茂は船内へと向かおうとした。


「……あ、そっか」


 あることに気付いた茂は一度、ピエロの男を隠したバーカウンターへと戻るのだった。





(来たか、思った以上に早かったな)


 火嶋早苗は囚われの身となりながらも、周りでおろおろとしているセレブリティな方々と比較して落ち着いた様子であった。

 コンサートには興味がなく、レセプション会場で酒を軽く嗜んでいる所に、顔を隠した男たちが闖入してきて、天井に向け発砲。

 そのまま全員が拘束され、船内の一室へとまとめて放り込まれ、その際には通信機器も取り上げられていた。

 だが、取り上げられる寸前に、先程まで連絡を取っていた相手にはGOとだけ通信できたのである。

 そこからおよそ20分で船外からヘリの音が聞こえたわけで、恐らくではあるが部隊が到着したということであろうと、推測された。


「た、助けが来たのか?」

「ヘリコプターの音よね?そうよね?」


 ざわつく室内を嫌ったのか、出入口に立った男が大声を上げた。


「静かに!先程も言ったが騒ぐ者は力ずくで黙らせるぞ!何度も言わせるな!!」


 途端、ざわめきがトーンダウンする。

 その時、男のトランシーバーが連絡を入れてくる。


『……こちら操舵室。ヘリコプターが3機編隊を組んで一時接近したが、船上を通過しただけだ。船体後方を一定距離を保って追跡している。所属については不明。計画通り、航行ルートは維持しつつ周辺の監視を続ける』

『了解。セキュリティルームの制圧部隊は念のため、船室の全ドアの電子ロックを掛けてくれ。隠れた客人の捜索と捕獲はここまでとする。やけを起こして騒がれない様に客室への電源の供給をカットしておけ』

『こちらセキュリティルーム。了解した。通常の電源系統をオフ、船内照明は非常灯以外は全部落とした』


 この場の全員が人質を見張る男のトランシーバーの音声を聞こうとしていた。

 ただ、その言語が分からずぽかんとする大半と早苗の様に聞き取り、理解できる少数へと分かれたが。

 トランシーバーから漏れ出る音声は、スペイン語だった。

 流石にこういった豪華客船の利用者。

 早苗以外にも幾人かがスペイン語を理解できる学がある人物はいる。

 その数名が、周りにいる人質へとその内容を伝えている。

 その内容がさざ波のように周りへと伝播していく。

 あえて情報を完全に遮断するのではなく一部をわざと人質側へと提供しているのだろう。

 結果として、人質に伝わったのは助けのヘリは通り過ぎた、セキュリティは掌握されている、船内をくまなくテロリストが捜索している、という3点だけだ。


(伝えてもいいような大まかな通信はあのトランシーバーで行っている。恐らく重要な事項については、別の通信手段があるんだろうな)


 時折、覆面の口元へ手を持っていったり、耳を押さえたりする仕草が目に入る。

 恐らくその行動から類推するに、もう一台、別のバンド帯で通信手段を確保して連絡しているのではないか。

 人質への意識操作と、情報管理をかねた方法である。

 しかも、何も考えずにテロリスト側のスピーカーになっている人質は、その情報が正しいのかどうかを判断していないのだ。

 その中に虚偽が混じっていたとしても取捨選択を出来る状況でないということも含めて。


(しかし、"彼"はどう動く?動かない、ということは無いと思うのだけど……)


 早苗の放り込まれたこの部屋の中に、"彼"はいない。

 そしてその横にいた「但馬アミューズメント」の社長も。

 当然、早苗はこのパーティーに出席する主要な著名人のリストには一通り目を通している。

 このレジェンド・オブ・クレオパトラの薬物取引の検挙に至る案件にほんの少しだけ、「光速の騎士」と書き込まれていた事実がある。

 そして、「光速の騎士」の出現した地方都市に本社があり、その辺り一帯の経済界で知られる傑物で、更に前日になって急に出席を決めた人物ということであれば、顔と名前くらいは脳に刻まれる。

 その但馬真一社長もこの場にはいない。

 コンサート会場で捕まり、レセプションの出席者とは別室に分けられているという可能性もないわけでは無い。

 ただ、そうであっても「光速の騎士」は動くだろう。


「我慢、我慢の時間だな。今は無駄に体力を使わないことが大切だ」


 床に座らされて疲れ始めている者もいる。早苗は彼らと同じように、疲れたふりをする。

 擬態だ。草原の真ん中で体を休める草食獣の様に。

 人質を見張る覆面の男は気付かない。

 羊を見張る羊飼いを任命されたのだと思っていたのに、羊の中に1匹、虎が混じっているということに。


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