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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
2章

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3-了-裏 蠕動 のち 焦燥

「搬入の目途は?」

「現時点ではまだ完了していません。最短で明日の朝一番がラインだと」

「そうか……」


 暗闇の中、吐息が漏れる。

 うっすらと香るそれはアルコールの匂い。


「ままならない、ということだ。この国では」

「はい。可能な限り急がせていますが、如何せん入港の遅れが痛かった。あと1日、いえ半日早ければもう少し余裕のある“取引”だったのですが……」

「いくつかリストに線が引かれているが。……足りるのか?」


 カーテンが閉められた窓は外の光を持ち込まない。

 夜だというのに電気もつけず話し込む2人の人物。

 一人は男、もう一人は女。

 男は年を重ねた貫禄を放ち、女は若くは無いが老いてもいないながら、その男に傅くような口調である。


「十分とは言えません。ただ、最低限目的を果たす程度には」

「個人で持ち込みが可能ならば、それも考慮にいれてくれ。あとは数を捻出するように再策定を。無論、練り直されたプランは出来るだけ早く見せて欲しい」

「承知しました」


 ぱたんと何かが閉じられた音。

 恐らくはファイル類のそれを“暗闇の中で”確認した彼。

 その時、月が雲から現れる。

 一瞬だけ強く月が輝くと、遮光ではないカーテン越しに部屋がぼんやりと浮かび上がる。

 テーブルに乗せられたファイルを、月の光すら厭うようにして避ける女性が引き取ると、ゆっくりと礼をとり、部屋から辞去した。

 

「全く……楽しい船旅で終わるはずだったのだがな。「女禍黄土」め。面倒なことにならねばいいが……」


 テーブルの上に置かれているワイングラスに手酌で注ぐと、男はぐぃっとそれを喉へと流し込むのだった。




「君ねぇ。いい加減に家に帰った方がいいと思うよ?」

「何だよ、何か俺がアンタらに迷惑かけたってのか?」


 盛大に唾を飛ばしながら、少年が目の前の男に叫ぶ。

 暗闇の中に立っているのは3名の男で、積極的に話しているのは2人だった。

 片方は、懐中電灯を持った警備服姿の中年男で、そのすぐ後ろにはもう少し年の若い同じく警備服姿の男が困ったような表情で立っている。

 そしてもう一人はもう深夜だというのに外を出歩いているという少年で、バイクに靠れかかるようにして警備服の男に怒鳴り散らす。


「昼の警備からも申し送りを受けているんだ!君、朝からずっとここにいるよね?何がしたいんだい?従業員の人からも君に睨み付けられて怖いって苦情が来ているんだよ」

「……別に、そういう人に興味はねぇし。喧嘩売ろうってわけじゃないんだ。公園で突っ立ってるのが悪いっていうのかよ?ここはアンタらの職場の“外”だぜ?そんな権利ありゃしないと思うけど?」

「そうかもしれないが、君の態度は目に余るよ?ずっと門を見て1日中立ってるなんて普通変だと思うだろう?あくまで忠告だけど、もし明日も理由も言わずにここにいるのであれば警察に通報することも考えないといけない。常識的に考えてくれ、我々はそういう対応を取らざるを得ないんだ」

「……人を探してる。恩人なんだと思う」


 不精不精でようやく出た一言。

 なにか理由があるとは思ったが、そういう事情だとは。


「……会社に問い合わせたりしたわけじゃないんだよね?」

「顔、しらねぇし。どうすりゃいいかわかんねぇし。とりあえずココに来るんじゃねえかと思ったからさ」

「それは、どうにも出来ないんじゃないかい?どんな顔の人かもわからないんじゃあさ」

「……いや、顔はわかってるんだ。でも、これだぜ?」


 ずいと出されたスマホに映るそれは、どこかのサイトから取ってきた画像がそのまま貼り付けられていた。

 真正面から写されたその画像は、確かに顔が写っていた。


「これ、本当に?」

「たぶんだけど」


 怪訝そうな警備の男に示されたその画像には、「光速の騎士」の顔が写し出されていた。


「ふむ……だがな?もう遅い。今日のところは帰りなさい」

「……わかったよ。わりいな、おっさんたち」


 バイクのキーを革ジャンから取り出し、エンジンをかける少年。

 警備の者たちは自分の所属する職場のゲートへと戻っていった。

 そのときには、轟音を立ててバイクが走り去って行くのが見えた。

 この深夜にそんな音を立てるのは近所迷惑だが、周りは試験所と公園だけ。


「はた迷惑な餓鬼だな」

「まったく、その通り」


 警備所で待っていたもう一人が、トクトクとコーヒーを注いでいる。

 差し出されたカップを受け取ると、苦笑いを浮かべる。


「で、何だって?」

「……気にする必要はないさ」

「俺もそう思います。むしろ関わると逆に面倒なことになるかもしれないですし。最悪突っかかってきたら、ソッコーで警察通報でいいんじゃないですか?」


 コーヒーを受け取った今まで少年と話していた中年の警備が一緒に後ろで様子を見ていた若い警備と笑いあう。

 言葉にせず、2人で同時に口をその形に形作っていた。

 “イカレてる”と。


次話までちょっとばかし、お時間頂きます。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] すみません 女禍黄土 なんて読むんでしたっけ……
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