3-了 豪華 のち 貧相
金持ちは大きく分けて3つに分類できると思う。
まず1つ目は、自身の才能や運、コネ、環境などを最大限利用して金を稼ぎ、金持ちになったというグループ。
良い言い方をすれば、成功者。悪い言い方なら成り上がり、だろうか。
当然本人が自らの力で稼いだものであり、真っ当に働いて得たのであれば、これに恥じ入るべきことなど無いはずだ。
2つ目は、生まれ落ちた家が金持ちだったという部類。
良い言い方をすれば名家、歴史ある家の生まれ、ノブレスオブなんちゃらを体現するような家系。これの悪い言い方であれば、苦労知らずのボンボン、親の七光りがあてはまるだろうか。
生まれ落ちる家を自分で選べない以上、これにも恥じ入るべきことは無いはずだ。
勿論その家が法を順守する限りであるが。
そして3つ目。
良い言い方、悪い言い方。
そんなものは無い。
金持ちの3つ目の部類。
それはただ一言で済む。
金を持った「悪人」だ。
夜、もうすぐ翌日になろうかという時間帯にも拘らず、必死に作業をしている男たちがいる。
ヘルメットをかぶる筋肉隆々の男たちが、肩に担いだ鉄の棒を一生懸命に運んでいた。
「よーし。ここ、固定してー!!」
「ういーっす」
ギシギシとスパナやら番線やらで地面に置かれた足場が固定されていく。
今は全体の7割といったところであるが、これを明日の昼までには9割9分まで完成に持っていかねばならない。
昨日の昼から必死に組み立てを行っているが、未だ完成に至らず、ローテーションで休息を取りながらこの会場設営の完成を目指していた。
「よし、確認して!」
「うす!固定具確認、緩みもない大丈夫です!!」
「じゃあ、次、運ぶぞ」
ダブルチェックをして、次の部材をはめ込みにかかる。
イベント用の大道具関係が多く、運び込んだ素材やモニタ、配線に音声確認と同時進行で進んでいるようなものも数多い。
大道具などを設置するニッカポッカ姿の男たちの横で、高級そうなスーツにヘルメットをかぶる若い女性やら、アロハを着た男や、この会場の責任者と思しき男も現れている。
「……すごい作業ですね。別のフロアにまで少しですが一部音が漏れています。もう少し騒音を低くすることはできませんか?」
「なるべく配慮はしていると思っています。もしかして、苦情が出てますか?」
この会場の責任者、いや会場のある船の責任者である船長が、ヘルメットをして隣のイベントスタッフに話しかけていた。
汗を拭き拭き答える彼は、今回この豪華客船レジェンド・オブ・クレオパトラの船内で行われるファッション関連イベントの総責任者であった。
当初の予定では、入港は5日前の予定だったのだが、昨今の異常気象の影響なのか季節外れの荒天の余波を受け、湾内への入港が若干遅れてしまったのだ。
結果3日前に入港したレジェンド・オブ・クレオパトラに一斉に運び込んだ器材類を準備可能な日程ギリギリで完成させることとなった。
大慌てで関係各所に発破をかけてようやく明日の夜に行われるイベントがどうにか可能であろうというところまで来ている。
「いえいえ。船内の騒音対策は厳重にしております。音漏れというのもほんのわずか。ただ、それでも快適な滞在を用意するのに手を惜しまないのが船長の役目ですので」
「夜間に音を出しているのは申し訳ないと思っています。こういう超豪華客船でのイベント、ファッション関連の大物もいらっしゃるとのことでウチの会社も社運を賭けて取り組んでいますから」
「わかっています。私ども「白石・グランド・ホワイト海運」も協力を惜しまない様にトップから言われていますので。グループ本社のCEOもお越し頂きますからね。他にも船内のスイートフロアのお客様方も楽しみにされているようで」
「……責任重大ですね。万一にも失敗などしない様に、もう一度確認をしてきます」
そういうと、軽く頭を下げてイベント監督がスマホ片手に駆け出していく。
その様子を見ながら船長は一人ごこちる。
「私たちも、お招きする方々の準備を始めますか」
こつこつと床を革の高級靴で鳴らしながら、レジェンド・オブ・クレオパトラの船長は会場を後にしたのだった。
「へー。すっごいな、超豪華客船じゃん。一生に一回でもいいからああいうのに乗って地中海クルーズとかしてみたいなー」
スーパーで買ってきた特売の税込78円一家族さま3個までの、カップ麺と茶碗一杯のご飯に、パック入りのホウレン草とベーコンの炒め物を食卓に乗せながら、茂が叶わない妄想を垂れ流す。
うらやましいことに宿泊者には美味しそうなローストビーフやら高級寿司やらフレンチの巨匠の3つ星店の料理やらが、提供されるとのことだ。
宿泊費に含まれるサービス料で賄われるそうだが、そのサービスを享受するためには目玉の飛び出る金額が必要だと、テロップでデカデカと表示されて茂はげんなりした。
しかももっとも安い料金プランでである。
ああいう豪快な金の使い方は理解に苦しむ。
テレビのニュース番組で流れているそのレジェンド・オブ・クレオパトラを所有する「白石・グランド・ホワイト海運」が全面協力の元、明日の夜に船内でとある有名ファッションブランドのパーティーを行うのだそうである。
そのオープニングアクトとして、いくつかの歌手によるコンサートが開催されるとの内容であった。
中にはトップアイドルグループのパピプのトップチームが出演するとのことだった。
件の「光速の騎士」により一時延期しているプリンセス・オブ・プリンセスの発表がされるのかどうか、あのイベント中断よりトップ5揃っての声明発表が未だされておらず、あれ以降で一同に揃うこの機会に芸能関係者の注目が集まっているようである。
ちなみに、ネットテレビがこの内容を独占で生配信する予定らしく、その加入者が増えていると、PCのニュースサイトでは盛り上がっていた。
「でもなぁ、俺的には超高級ローストビーフ食うのもうらやましいけど、きっとカップ麺にネギ刻んでいれることが出来るか出来ないかの方が切実なんだよな……」
ずずっとすする麺には刻んだばかりの長ネギが入っている。
カップ麺をそのままで食べるのもいいが、チョットだけ豪華にして食べるのもまた良い。
刻みネギをドカンと突っ込んで、テーブルコショウをばさばさと振りかけると、それだけで豪華な食事になった気分がするのだ。
ただし、気分がするだけなのは悲しいほど事実なのだが。
「ごちそうさまでした。もう少ししたら、シャワー浴びて寝ようかな」
がつがつと夕飯を食うと、シンクに洗い物を放り込み、明日の朝にゴミ捨て場に持っていく物を玄関先に移動させる。
大きなゴミ袋に3袋の陣容で、どれだけ溜めこんだのかと弟に詰問したくなるような量である。
「明日は、目覚ましかけておくから、起きてすぐにゴミ出しをして。……さすがに往復50キロ。遠かったし、疲れたー」
行きは良かったが、帰りは若干疲れてしまった。
しかもチャリは50キロの行程に耐えられず、帰り着いたころには空気が抜けかけている始末。
猛の家にたどり着いてそこから空気入れで空気を補充すると、もうぐったりだった。
座り込んだ茂がケータイを開くと、メールが届いている。
読んでみると結局里奈には連絡が付かず、隼翔は父親を説得中で、博人と由美が来ることまでが確定。
ただし、隼翔は来る気満々だそうだ。
東京到着のタイミングで又連絡するとのことである。
しかも少しばかり“お土産”もあるそうだ。
“食い物?”と送ったところ、“内緒”とのことで詳しくは判らないのであるが。
「……すごいな、根性入ってるぜ隼翔。どうする気なんだろ?」
どうも崩れた心は茂の前で晒した醜態以降、立ち直った様子である。
というか、まず立ち直ってから来い、とも茂は思うのだが。
「まあ、合流まではゆっくりしようかね。面白いバラエティとかやってないかなー?」
勝手知ったる弟の部屋。
適当な漫画雑誌を手に、リモコンをザッピングしながらぐでっと茂は寝転がるのだった。
豪華客船、想像で書いてるので、きっといろいろとおかしなことになりそうです。
まあ、フィクションなので、大目に見てほしいかな、と。




