1-13-1.5 天を征く
短いですよ。
あと、これは本日2本目なのでご注意ください。
ほぼ同刻、某所
『下が無理だというなら上』
「よろしいので? 彼らは……レ…ュ…」
『……いいか、使えと言ったぞ。異論はナシ、最悪ケツはこちらで拭く』
「了解です。……お気をつけて」
ぶつ、と通話が切れた。
ふう、とため息を吐いて首をだらんと下げる。
耳から離して手に持ったケータイの画面を、コツコツと爪先ではじく小さくて神経質な音が響く。
時間にして1、2秒が過ぎたときに、顔を上げる。
眉間にはくっきりはっきりしっかりと皺が寄っている。
「あー、サブプランもゴーが出ましたので。準備が完了次第、彼女を上げてください」
その皺を指でもみほぐしつつ、電話中の為少し離れた位置にいた作業着姿の男に伝える。
「電話を受けてらっしゃった段階でこちら側の技術的な準備はすでに完了しています。……あとは最終意思確認のみとなっていますが?」
そう言って小脇に抱えたタブレットを差し出す。
「警備部、エレーナ門倉が代行者として承認します。即時実行を」
受け取ると同時にタブレットにつながっているペンをとって画面にさらさらとサインを書く。
書き終わると戻されたタブレット画面を見て、男はうなづく。
「了解しました」
難しい顔のエレーナの横で、隠しきれない笑みを口元ににじませた「裏鍛冶師」の作業着姿の男が、腰のトランシーバーを取って「行け、行け、行け。ゴーが出たっ!」と短く連絡を入れている。
少しばかり熱が入っているのはどうなんだろうか、と思わなくもない。
「……それで、現状に関してはどんな状況です?」
腰にトランシーバーを戻した作業着の男に話しかける。
その少し醒めた雰囲気すら感じる口調に、男はタブレットをまた小脇に挟んで居住まいを正す。
「こほんっ……。市内各所で交通渋滞が発生しています。本来そこまでの規模になるはずのない学校近くの廃工場と高速道付近の草むらの火災。消防だけでなく雨も降っているのに一向に鎮火する気配もない。おそらくは意図的なものでしょう。それにより市内からの幹線道路の一斉渋滞。完全に一般道での移動は困難な状況です。スノマタを出動前に中断する判断をしたのは正解でした」
「単独で先行させたマユミは、どのあたり?」
作業着の男はタブレットを操作して、市内の地図を表示するとエレーナに差し出す。
「マユミの現在地が、ここ。『騎士』の携帯電波の最終確認地点が、こちらです」
「……あと残り15、いや12キロってところね。うまく裏道を進むことは出来なさそう?」
タブレットの画面の地図に光ったマユミの位置と「騎士」の最終確認ポイントを確認しておおよその距離を確認する。
「ロシナンテはバイクはバイクではありますが、大型の範疇です。道が車で埋まれば横をすり抜けるより、迂回する選択肢が多くなります。今回に関しては『騎士』の装備も積んだために更に体積は増しています」
「雨も降っている、ってのがツイテない。やはりまっとうな方法で援護をするのは難しいか」
「サブプラン、彼女を上げる、それが現状で最善手でしょう」
「あなた、くーちーもーと。……ニヤついてるわよ」
結論ありきでの確認作業であるが、ニヤケ面の男にジト目を向ける。
常識人である彼女としては、あまり気が進まない、いや、ヒジョーに不本意極まりないのであるが他に策が見つからない。
「おっと、失礼」
おざなりな謝罪をした作業着の男のトランシーバーが音を拾う。
『準備完了、上げますよ』
「了解、頼む」
ごごごご………。
作業着の男が返事すると同時に、小さく地面が揺れる。
「あーあ。この場所はもう使えなくなっちゃったわねぇ。ご近所さんにモロバレしたわよ?」
肩をすくめてエレーナが立ち上がり窓際に移動する。
「撤収準備もサブプランと同時並行で実施中です。……1時間以内には完了します。私も近くに美味い惣菜の店、見つけたとこだったんですが」
あわせるように男もそのそばに寄って窓から外を眺める。
「しばらくの間この辺りに近づくのも難しくなっちゃうものね」
その間も小さく地面の揺れは続いていた。
いや、わずかながらその振動は徐々に強くなっていき……。
どどどどどどどっ!!!
窓ガラスを貫通してくる爆音が響く。
そして窓ガラス、いやそのフレームがきしきしと音を立てて激しく揺れている。
窓ガラスの向こうには建物があってなにがあったのかは詳細には分からない。
だが、エレーナと男の興味は建物ではなく、雨の降りしきる空。
窓を開けて首だけを出して空を見る。
「……さーて、行った行った。……じゃ、撤収。この臨時指揮所からはサヨウナラってことで」
エレーナはぽつりとぼやいて見せた。
そこに一筋くっきりと線が、現在進行形で雲間を切りさいていくのを見上げながら。




