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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
6章

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1-13-1 我 思う 君は 誰

本日もう一本短いサブ話を投稿予定なので、予約設定したのですが予約投稿順を間違えて一回投稿してしまいました。

いろいろやり直した結果、そちらはこの後に投稿される予定です。

 目の前のクジョーに見せつけるようにして肩を回す。

 隙にも見えるその素振りに、目の前のクジョーは、何一つ表情を変えることなく「光速の騎士」を見ていた。


(あーあ、マジでド畜生ッ)


 いまの隙にしか見えない素振りが見せかけの餌と容易に看破されていた。

 ここまでの状況と双方のスペックを考えるに、「騎士」側は攻めてもらった方がいい。

 明らかに「騎士」が攻めに転じた際の、クジョーから食らうカウンターが効き過ぎている。

 それなりに手札をさらしている「騎士」に比べ、まだ伏せた札の多いクジョーの方が対応するプランに余裕が感じられる。

 第一、急遽戦闘に巻き込まれている「騎士」と、襲撃を想定しているクジョーとでは準備にも差が出ているのは当然。

 土壇場で何か思いついて劣勢の状況をひっくり返すなどというのは、オハナシとしては面白いだろうが、なぜ面白いのかわかるだろうか。

 そんなことは「ほとんど起こらない(フィクションだ)」からだ。

 弱い奴はきっちり負ける。

 才能の無い奴は普通に負ける。

 準備の足りない奴はそれはそれは目も当てられないくらいに無様に負ける。


(そらぁ、見え見えの誘いにわざわざ突っ込んでくる道理はねぇしな)


 オッズの低い馬に賭けるのは臆病ではなく、普通に勝てるからだ。

 確度の高い未来を予測した結果がオッズなのである。

 そうなると、それを覆すための無理をする必要が出てきてしまう。


「……ふぅぅ」


 息を吸う。

 呼吸と共に両手をうっすらと黒い靄が覆う。

 ぶわり、と広がり消えた時に手元にあるのは長さ2.5mの棒であった。もともと「騎士」の使う槍と同じように長物としての長さと、ステンレス製だろう輝きを持っている。

 ただ、棒ではあるにはあるが。


「ははは、ジョークが過ぎるな! 笑わせる、笑わせる!!」


 クジョーがケタケタと笑う。


「うるせえな」


 憮然として言葉を返すが、「騎士」が返せるのは致し方ない感が混じった声。

 何せ、手元にあるのは棒である、という一点のみのただの鉄管、分かりやすく形状を伝えるなら鉄パイプである。

 パクれるものでいい感じに槍代わりに使えそうなのはこれくらいだったのだ。

 候補で思いつく高枝切りバサミは軽量化で本体はアルミ製。つまりは脆い。

 次点のバールは頑丈さではオーケーかもしれないが、気持ち長さが足りない感がある。

 恐らく長物と「騎士」が判断できない、つまりはスキルの発動に難が生じる可能性が高い。


 ひゅおんっ!!


 くるり、と軽く鉄パイプを回して見せる。

 空気を切る音が鳴る。

 ぴたり、とクジョーのこちらを嘲るような笑みが口元から消えた。

 イケる。


「へぇぇ?」


 これなら、辛うじて。


「ようやく踏ん切りがついたか? 俺を焦らすなよ」


 かたん、と首をかしげて見せるクジョー。


「いくぞッ、コラァッ!!」


 だんっ、と「騎士」が気合と共に床を蹴る。

 側面を棚に挟まれた状態であるならば二択。

 正面からの突き、上から振り下ろし。

 左右を含む払いは一切が除外され、下から振り上げるとするなら“まずはその下に”突き込む必要がある。


 キュッ!


 磨かれた床が小さく鳴る。

 選んだのは正面から、真っすぐ突く。

 シンプルかつスタンダードなそれだ。

 ただし勢いよく床を蹴りだした力、それに常人を超えた膂力を複合させた突きは、シンプルに基本をなぞろうとも尋常ではない。


 ゴッ!!


 暗闇の中、空気を裂いてパイプがクジョーに迫る。


「ははっ!」


 短くクジョーは笑うと、自身を覆う人型を動かす。

 ずんぐりとした見かけによらず、鋭い突きに一切遅れることなくその打突点をつかむようにして手が動いた。


 ぎしぃっ!


 固いはずのステンレス鋼の管がしなり、そして軋む。

 だが、その衝撃全てを抑え込むまではいかない。


 ずりっ……!


 後退。

 わずかに、受け手であるクジョーの側が、「騎士」の打突に対し床を擦りながら後ろに押された。


「ハッ!」


 クジョーの最初の想定では掴んで、弾く。若しくは掴んだまま、「騎士」の手から鉄管をもぎ取ることを考えていた。

 だが、想像よりもわずかに「騎士」の打突が鋭く、そして力強かった。片手だけでは抑え込むには幾分ではあるが、足らない。

 それを受けて、ほんの僅か後方に跳ぶ。

 大きく数メートルというのではなく、一歩、二歩という程度の後退。

 だが、引かせたという事実が大きい。

 クジョーが驕りも様子見の手抜きもない状態で、真正面からぶつかったときに単純に力だけであれば、押し込めるということ。

 全力でぶつかれば、スカして見せることはクジョーでもできないのだということ。

 弾くも掴むも出来ず、跳ばされた。

 それを、「光速の騎士」が視認(・・・・・・・・)する。


 ずんっ!


 クジョーが跳んだその間隙で、パイプ管を手元へと引きつつ、追う。

 踏み込んで、引ききったパイプを勢いのままにさらに突く。


「『スラスト』ォォォッッ!!」


 ぎゅぉ!!


 只の突きではなく、汎用攻撃スキル「スラスト」を載せた、今日一番の突きこみ。

 それはつまり、先ほどの弾くも掴むも出来なかった一閃を超える速度、そして威力がある一撃であるということ。


「くッ!」


 苦悶の声にも聞こえるクジョーの声。

 だが、その口元にはどこか楽しそうな笑みがまだ残っている。


 パシィィッ!


 ステンレス製のパイプの横っ面を強く(はた)いた音が響き渡った。

 ここ一番の力で放たれた「スラスト」の一撃。その先端部はクジョーの左肩を狙っていたはずだった。

 しかしながらその肩に突き刺さることはなく、あともう5センチほどの隙間を残して静止している。


「ははは、残念っ!」


 クジョーが大口を開けて笑ってみせる。

 今日一の「騎士」の攻撃が、ぴたりと止められた。先ほど弾くしかなかった攻撃よりもさらに精度の高い一撃だったというのに。

 ぎしり、とステンレス製のパイプが軋む。

 何故ならクジョーから延びる黒い巨人の両腕が、そのパイプを掴んでいるからだ。

 片手では無理だった。

 ならば次は当然。


「両手っ」

「そういうことだ」


 苦し気に一言発した「騎士」に対してクジョーは喜色を載せた声で答える。

 クジョーから生えた巨人の両手がしっかりと握られた鉄管を「騎士」と引き合う形で静止した状態となっていた。

 一気呵成に飛び込んだ一撃を喰いとめられた側と喰いとめた側。

 その結果を受けてのつばぜり合いの状況。

 分が悪いのはどちらなのか、というのは誰にでもわかる。

 ぐ、と「騎士」がパイプを掴んだまま、後ろに体重を掛ける。


「ははははっ!」


 笑いながらクジョーはパイプを掴んだままの巨人の腕で力任せにそれを奪い取ろうとする。

 最初の一手の焼き直し。

 今度は片手ではなくしっかりと両手で把持しているのだ。

 この状況でパイプを双方が奪い取ろうとするなら、軍配はクジョーの側にあがるだろう。


 ずずっ……!!


 パイプを握っていた「騎士」の手が滑る。

 一気に主導権がクジョーに傾いた。

 ここで武器であるパイプを失えば「騎士」の側の勝率はダダ下がりだろう。


 ずずっ…ずざっ……!!


 力任せの綱引きは、「騎士」が持ち手のポジションを大きく失う形でさらに進む。

 そして、端の端。

 先っぽだけを掴んだような状態になったところで、ひと際大きなにんまりとした笑みをクジョーが浮かべてみせた。


 ずざっ……!!


 ついに「騎士」の右手がパイプから引き抜かれた。



 右手が宙に浮かんだが、その手はまたパイプに向かう。

 クジョーはそれをみて、ああ外れた手をパイプに伸ばしたのだ、と思う。

 悪あがきにパイプを掴みに行ったのだ、と。

 だが、純粋な力比べで負けているのだ、再度パイプを掴んだところで結果は変わるものか。


(……自分の出来がイイ(は上等でございます)ってヤツ、だからひっ掛かるッ!)


 クジョーの思った通りに「騎士」は手を振りかぶるようにしてパイプにのばした。

 だが、今まで掴んでいた柄となる本体ではない。

 伸ばした右手の行先はパイプの径に当たる部分。

 まあるく円状になったそこに手を持っていく。

 軋みを挙げても歪みを生じさせなかった安心安全の工事作業にピッタリな規格品。「騎士」の持った側から、その向こう側までまっすぐな直線の穴の開いた管である。

 つまりはクジョーの左肩から5センチの間隔を空けてまっすぐに繋がった一筋の線。


「いっちょ、食らェェッ!!」


 ぶわり、と右手が黒い靄に包まれる。


「!?」


 それを見てクジョーが驚きの表情をその顔に浮かべる。

 黒靄に包まれた右手は、今綱引きをしているパイプよりも一回り口径の小さなパイプだった。

 その先っぽが最初のパイプの端っこに挿入される。

 ず、と音がした。


 ここでクジョーが気づく。

 綱引きをするためにしっかりと地面に足をつけ、そして巨人の両手はパイプを掴んだまま。

 回避も、両手を使っての防御も。


(避け……っ! ……糞ッ!)


 射的の的(左肩)にはぴったりと照準が合っている。


 ずぉっ!!

 めぎぃっ!!


 太パイプの中を疾った細パイプが、狙い違わずクジョーの肩を抉る。


 どんっ!!

 がしゃぁぁんっ!!


 交通事故の時のような大きな音を響かせて、クジョーが店内を吹き飛んでいく。

 吹き飛んだ先の棚にぶつかって様々な物品が崩れていく音がそれに続く。


「ッシャァァッ! どうだ、ボッケェェ!」


 直撃した瞬間に、ごきり、というなにかをしっかりと捉えた感触があった。

 少なくてもこれで一発カマしてやったという高揚感で、いささか口が悪くなっているのは自覚しているが、口から飛び出してくる魂の声は止められなかった。

 ふううっ、と大きく息を吐き短時間であるが緊張を解く。

 ビンビンに張ったままの緊張が緩んだ瞬間に、足元がわずかに揺らぐ。

 身体的なものだけでなくどうやらメンタル面でもかなり無理をしたようである。


「……やってくれる」


 がらがら、と瓦礫の山になった棚の成れの果てからクジョーが体を起こした。

 起き上がった彼の左肩がぶらんと下がり、その手にはあの短刀がない。

 何時の間にか彼の体を覆う黒い巨人の四肢はどこにも見えなかった。

 どうやら短刀を取り落としたようだ。


(……最低でも重度の打撲、もしくは折り砕くところまでいけたか?)


 あの気色の悪い闇のしみ込んだ短刀を取り落としている位だ。

 わざわざ武器を手放して、ダメージをうけています、とばかりのブラフをするとは思えない。


「なるほど、これはこれは……舐めていたな」


 クジョーは自嘲気味につぶやいて右手で地面に落とした短刀を拾う。

 短刀を掴んだまま、手の甲で乱れた前髪を雑にかき上げた。


(ちょっとくらい、痛そうな顔をしてほしいねぇ、マジで)


 不機嫌そうではあるが、痛みをこらえているような雰囲気がない。

 体を起こしてからの少しの時間だが、引きつりを起こしているようでもない。

 停滞している場をどうにかこうにか動かそうとしているわけで、大きなダメージを与えてもこの状況、となると苦しい。

 メットの下で苦虫を噛んだような顔をしている「騎士」を前に、ぱんぱんと右手で軽く埃を払って見せるクジョーがふと何かに気づいたようにして、ホームセンターの入り口に目線をやった。


「……はは、お客のようだぞ」


 クジョーの視線の先には、確かに誰かがいる。

 停電で暗いうえに、さらに雨で非常に見えにくい。

 入り口付近に立っている人影は、5?


(……誰、だ?)


 店員や客はクジョーが追い出していた。

 ここに突っ込んだ時の襲撃者達かとも思ったが、酷い交通事故を食らった後だ。立ったままで居られるような状況ではないだろう。


 ……ぴかっ!

 ……どぉぉぉん!!


 雷光が遠くに一筋、落ちる。

 一瞬であるが、それに照らされ姿が見えた。

 上から下まできちんとしたスーツを着こんだ、長身の人影が一つ。

 周りには四つの猫背気味の同じようなスーツの人影。

 あの数の味方が来るとは思えない。

 タイミングはともかく、数が多すぎる。その様子に、どこか剣呑な友好的とは思えない雰囲気を感じ取り、「騎士」は「気配察知:中」のスキルを無意識に使う。

 スキルは問題なく発動し、「騎士」を中心にして円状に気配のある者を全て詳らかにした。

 最も近い現時点で敵対しているクジョー・T・シズマ。

 そして、入り口にたたずむ不審な人影5つの存在を「騎士」に伝える。


「……は?」


 自分の口から呆けた声が出た。

 自身の使ったスキル「気配察知:中」は、使用者を中心にして周囲の敵対・中立・友好的な存在を教えてくれるスキルである。

 そしてスキルによって以前に認識したことのある存在については、誰某を伝えてくれる。

 つまり「騎士」の知り得る限りの者が周囲にいればそれを認識できるのである。

 わかりやすく言おう。

 知り合いなら誰かがわかる、ということだ。


「なんで、ここに……」


 …ぴかっ!

 …どぉぉぉん!!


 稲光は先ほどよりもここに近い位置に落ちた。

 あの時にも、雷がなっていた、と思い出す。

 雷に浮かび上がる一番近いすらりとスーツの男。

 よく見れば黒いフェドーラ帽をかぶって少し顔を俯けていた。


「……なんで、ここに!? ……定良さんっ(・・・・・)!?」


 叫ぶようにして「光速の騎士」、いや杉山茂は声を張り上げる。

 その声にこたえるようにして、男はフェドーラ帽に手をやり、それを脱いだ。


 ぴかっ、ぴか、ぴかっ!!

 …ど、ど、どぉぉぉん!!


 本当に近い位置に雷が続けて3つ、連続して落ちる。

 周囲が真っ昼間のような輝きに包まれる中、男はフェドーラ帽を床に投げ捨てた。


「初対面の男に(あざな)を気安く呼ばれる覚えはない。身の程を知れ、無作法者が」


 彫りの深い顔(・・・・・・・)のひげ面の男は杉山茂に不愉快そうな声でこう伝えた。


 稲光はその男の顔をしっかりと茂の眼に映し出すことになった。


「……顔……顔ッ!?」


 そこにいるのは、「気配察知:中」の結果も、本人の自己認識も「黒木定良兼繁」であると示している。

 肉のある顔を顰め、非常に不快な様子を隠すことなく立っている、「黒木定良兼繁」。

 だが、彼は100%間違いなく「黒木定良兼繁」でありながら杉山茂の知る「黒木定良兼繁」と全く違っている男だったのである。


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