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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
2章

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2-了 逗留 のち 延焼



ぴんぽーん!


 茂は猛の家のインターホンを鳴らした。

 時刻はすでに19時を回っており、猛が時間をくれと発言したタイミングからすでに3時間以上の時間が経っている。


(どうなったんだろうな?アイツ結構、掃除始めると変にマメだからなぁ)


 普段はさほど整理整頓に無頓着だが、やるぞっ、と一度火が入ると徹底的に片付けを始めるタイプの人間。

 猛は、いや今はもっとやるべき場所があるだろうに、と言ってしまうくらいの細かい片づけを始めるという類の人間だった。


どたどたっ!がちゃん!!


「あ、兄貴。ちょうど片付いたとこだったんだよ。ナイスタイミング!」

「いや、今終わったって。2時間で終わるんじゃなかったのか?」

「掃除機掛けたりとか色々やってたら収拾がつかなくなってさぁ」

「……やっぱりか」

「でっへっへ」


 照れ笑いする猛の横を通り、玄関に入るとうず高く積まれた透明なゴミ袋と、通販のロゴの印刷された段ボールの山。

 入口にある単身者用の電熱コンロの上には洗い立ての皿が置き場所をなくしたのだろう。

 直置きで置いてあった。


「すごい汚かったんだな、ということがよくわかる」

「まあ、入って入って!」


 ぐいぐいと背中を押されてドアの向こうの部屋へと入る。

 東京の単身者向けのアパートだと、まああまり広い部屋は借りられない。

 最低限の居住区域になんとかスペースを作ってくれたようで、客用布団が端に寄せられている。

 テーブルと机は何故か雑誌やゲーム・DVD等がうず高く積まれており、その用途を為していない。


「無茶苦茶大急ぎで片付けたろ。お前普段どういう生活してるのよ?」

「どうって、こういう生活だよ!?」

「嘘付け、父さんに東京行くときにゴミ屋敷にしないって約束してたはずだろうに」


 白々しい嘘を吐く弟を詰問する。

 言葉に詰まる彼を更に追い詰める。


「使った皿とかもすぐに洗ってないだろ、お前」

「いや、それはさ」

「飲食店従業員を舐めんなよ?あんな無茶な洗い方、いったいどれくらい溜めこんでるんだよ」

「いやぁ、3日くらい?」


 茂が思った以上に短かった。

 もしかして1週間とか言われるかもと思っていたくらいだ。


「ゴミの回収日は?」

「燃えるごみは一応明日かな。資源ごみは明後日」

「……はぁ。一緒に持ってやるから朝一で持っていくぞ?」

「ありがと」


 茂は床に腰を下ろし、テレビを付ける。

 猛は飲み物を買ってきたようで、2リットルのペットボトルから麦茶をカップに入れて茂に渡すのだった。

 


 そんな杉山兄弟の部屋の外。

 そこへ遠くから、救急車のサイレンがかすかに大気を震わせていた。





――――同日 深夜 都内某警察署内にて――――


「んで、先生方の話だとどうだって?」


 日本国内では肩身のすっかり狭くなった喫煙者達。

 そのため、追いやられた喫煙スペースで老いはじめた感のある男が隣りの中年の男と話をしている。

 2階ベランダという屋外に設置されたそこは、遠くから見ると、蛍火のようでどことなく寂しさを感じる。


「一応、全員検査入院ってことになりました。ただし、井上に関しては部屋の前に警備のローテーションを立たせてます。泌尿器の先生によるとパンパンに膨れ上がってるそうで」

「ぶはははっ、そりゃ気の毒に……。んで、持ってたのはやっぱり?」


 笑い飛ばした後、手元の缶コーヒーを中年の中堅刑事に手渡す。

 真剣な表情で老刑事が尋ねる。

 相手の中年の目が鋭くなる。

 タバコをくゆらせながら、缶コーヒーを一口すすり唇を湿らせた。


「最近話題の新型の薬物で間違いないみたいです。変な混ぜ物なしの"高級品"ですよ。あんなしっぽ切りクラスが捌いてるってなると、かなり本格的に流通し始めてるんじゃないですか?」

「こっちも本腰入れて潰してぇなぁ。どうにか人員増やしてさぁ」


 ふーっと紫煙をくゆらせながら老刑事がぼやく。

 今回の小物を捕まえてもあくまで尻尾、本体まではなかなかたどり着かないのがこの仕事の厄介なところだ。

 それを見た中堅刑事がにやりと笑う。


「石島さん、実は、ルートは違うんですが、人員増やして捜査範囲広げることが出来るかもしれないんですよ。今課長の所に、連絡来てるんですがね?」

「ああん?」


 老刑事、石島は吸い終わったタバコをシケモクで一杯の灰皿に押し付け、怪訝な顔をする。


「ほら、井上がだんまりだったんですけど、ほかの2人が私刑してたって話、ゲロしたでしょ」

「おお、なんか言ってたな。「光速の騎士」にやられたって」


 井上は頭は悪いが、自分の身の安全を確保するために黙秘するくらいの脳ミソは有ったらしい。

 弁護士の到着まで一切口を割らないと決めたそうで、黙秘権の関係上それはどうにもできない。

 ただ、その取り巻きまでがそうだとは言えない。

 怖くなってすぐにその時の出来事を吐いてしまったのだ。

 むしろ「光速の騎士」との圧倒的な戦力差を感じて心が折れたともいえるが。


「被害者は軽症で、脳のCT撮ってまた再診になったらしいんです。ただ、意識はもうろうとしててよく覚えてないってことでそれ以上こっちも聞けなくって。でも4人中2人が「光速の騎士」を見たってことで、上が動いたそうです」

「どのくらい上なのよ?」

「知りません。結構"上"らしいですけど。そんで大暴れした「武者」の件もあり、情報収集を兼ねて井上の薬物入手ルートの捜査、今回大々的に動くみたいですよ。民間も含めて」


 人員が増えると聞いて嬉しそうだった石島の顔が歪む。


「民間?何処の誰よ?」

「えーと、ですね。……正式発表ではないので忘れました」

「アホゥ。……課長のトコ行くぞ。まだ帰ってないんだろ?」

「はい」


 中堅刑事もタバコを押し消すと缶コーヒーを一気に飲み干し、ゴミ箱へ放り込む。

 喫煙コーナーを出て自分の課に戻ることにする。

 すると大きな荷物を持った数名の集団が課長とにこやかに話をしているのが目に入った。

 課長はそれに気づいたのか、石島を呼ぶ。


「石島、加藤!こっちへ来てくれるか!?」


 呼ばれるまま、課長席に近づくと集団が道を譲る。


「本件の民間協力団体の方々だ。「光速の騎士」が噛んでるので、こちらに協力するようにと"上"から言われている」

「そうですか。私は石島、こっちは加藤です」

「加藤です。よろしくお願いします」


 すっと出した石島の手を相手の代表が握り返してくる。

 ごつごつした石島の手を握る力は思った以上に強い。

 空手有段者の石島が興味深そうに、自分より背の高いその"女性"を見やる。

 真っ直ぐに石島を見つめ返すその瞳。

 シルバーフレームのメガネの奥で、まるで炎が滾るような熱を感じさせた。


「初めまして。犯罪心理学を専攻して………」


 茂の落としたほんの小さな火種は、思った以上の速度で大きく燃え上がろうとしていた。



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― 新着の感想 ―
事ある毎に人助けしてしまうお人好しなら、兜を被らなくてもマスク用意するか黒布で顔だけ隠せば騒ぎにならなかったのにねw しかし・・・ここら辺からがコミカライズの先になるのか。
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