2-2 鑑賞 のち 天罰
感想でご指摘頂いたパチスロの仕様について、すこしばかりこのままでは難しいかと思いました。
この部分を一度書き直します。
問題ない部分まで残して、再度投稿しなおすので、ここまで読んだ方は申し訳ありません。
→修正しました。この内容で次回に続きます。
「ありがとうございましたー」
自動ドアが開くと同時に掛けられる定型文の挨拶。
茂はそれを職員全員分背中に受けながらレンタカー屋を後にした。
今、茂は東京にたどり着き、住んでいる場所と違う空を見上げる。
いや、ビルの谷間に隠れてあまり空は見えなかったが。
「さてとー。時間潰せって言われてもなー」
当初の予定通りまずマツを家に帰し、そして杉山兄弟が猛宅へと到着したのだが、そこで衝撃の一言。
“ちょっと片付けるので、2時間。いや1時間半時間を潰して欲しい”と猛がのたまったのである。
決して片付くまでは中に入れるわけにいかない、といわれたわけで。
ちょっとした押し問答の後、茂が折れてこうなったわけである。
結局、車をレンタカー屋へ返却する必要があったのだから良いのであるが、さすがに1時間半は長い。
(昔からアイツ。部屋きたなかったしなぁ……)
実家の部屋の片付けがあまりされていない彼の部屋を思い出す。
そこから考えることは一つ。
本当に1時間半で片付くのだろうか、ということだけである。
(……どこに行こうかなぁ。暇なんだけど……)
くぅっ!と苦渋の決断をする表情を茂が見せる。
これは仕方のないことなのだが、先日のコンビニエンスストアでの一件で、若者の時間つぶしの一つである漫画雑誌の立ち読みという選択肢は無くなっている。
だがしかし、時間が出来てしまった。
1時間半、いや猛のあの様子では2時間は確実にかかるはずだ。
茂とて流石に寝床となる床に必要なもの、不必要なもの、さらにはゴミが転がっている状態での休息は避けたいのだ。
悩む茂の目線の先にパチンコスロット優良店、と染め抜かれたのぼりが道沿いに店までの道のりを照らし出していた。
「いや、駄目だろ。借りた金でギャンブルだなんて、どんな罰が当たるかわからんし」
金がないなら増やせばいい。
そんな考えの奴はきっと罰が当たる。
それは、きっと絶対、間違いなくだ。
「さて、そうするとなぁ……。やることがない。なにか面白いものでもないもんかねぇ?」
きょろきょろと周りを見渡すと、茂の目に“それ”が映った。
「あ!そうか、金曜日から始まってたんだっけ。うわ、ならそうしようかな」
茂は今、レンタカー屋の前にいる。
基本、こういったレンタカー屋というのは、人通りの多いところや旅行者の利便性の高い場所に存在する。
当然それは、空港・港湾周辺。そして駅前にあるものだ。
そして駅前は人が通る。
ということは客が入る場所であるということで。
全ての駅前にそんなものが出来ているわけではないが、ここは東京。
茂の目的地となったモノもあるような駅も中にはある。
猛の家のある最寄り駅はそんな駅の一つだった。
「久しぶりだなぁ!映画なんて3年ぶりだもんなぁ!」
茂の視線の先には駅ビルの外壁一面に大きく引き伸ばされた映画の宣伝ポスターが掛かっている。
題名は「決死の狩人たち~都庁クライシス~」。
茂の記憶が確かならば日本の若手実力俳優が総出演する今年一番の話題作だったはず。
前作・原作のあるものではなく映画独自の完全オリジナル脚本のアクション物というのもまた良い。
好きなジャンルのアクション物で、オリジナル脚本であるなら、ここ最近の情報に疎くとも楽しめるはずだ。
「よし、映画だ、映画だ」
茂はメールを1本猛に送る。
“映画見てくる。その間に片づけを”と。
すぐに返信がある。“どうぞ、ごゆっくり”と。
「うん、明日から忙しいし今日まではゆっくりしよう!」
さて、言うまでもなく茂には金がない。
弟に金を借りようとするくらいに金がない。
高校生に旅費を借りるほどに金がないのである。
だというのに、そのお金を遊興費に当てようという暴挙。
……茂はこの後キツイ天罰が自らに下ることになるとは思いもしていなかった。
「ち、ちくしょぉぉぉっ……」
茂は必死に自らの過ちと戦っていた。
いや、当然の報いと戦っていたのである。
(く、くそぉ……。ば、罰があたったぁ……)
茂以外の映画館より出てくるほかの客の顔は総じて満足そうである。
それは当然といえた。
金曜に公開された「決死の狩人たち~都庁クライシス~」は僅か2日間で本年度公開された映画の中でトップのスタートダッシュを切ることが出来た。
洋画に押されていたここ数ヶ月のランキングを久々のヒットで1位を邦画が奪い返し、映画関係者も大喜び。
主演俳優の葉山剣のアクションシーンが見事であり、それを再度見に来るリピーターもいるくらいである。
SNSを主体とした口コミもどんどん広がっていて、どこまで興行収入が増えるのかを楽しみにしている大人たちがすでに続編の製作を決定したとの未確認のニュースまでネットでは流れていた。
(こんな、こんなひどいことがまだ有ったのか!……ちくしょう)
ふらふらとした足取りで映画館を出て駅前を歩いていく。
猛の家までの15分の帰路を歩む足が非常に重い。
時たますれ違う人からは奇異の目で見られていたりもする。
(……マジでここまで影響が出るとは思わなかった。つ、つらい)
「……超、つまんなかった。アクション物、もう見れないかもしれん……」
ポップコーンとMサイズのコーラを手にわくわくと映画を見た。
最初の15分はドキドキ。次の15分は困惑。そして30分は諦観。最後の1時間は灰になったように、ただ画面を見つめていただけであった。
内容は確かに会心の出来で、脚本も演者も最高だったというのにである。
さて、この頭を抱えてとぼとぼと歩く茂。
3年の異世界での過酷な生活は彼を“異世界で”普通の兵士に鍛え上げた。
もうお分かりだろう。
つい先ほどまで見ていたアクションシーンが“異世界の普通の兵士基準で”温いのだ。
極限まで引き上げられた身体能力が、間断なく襲う騒音と目をつぶらんばかりの光の乱舞の映画作品を、芝居なのだと解らせてしまった。
最初はさほどでもなかったのだが、差し込まれるアクションシーン。
それが流れるたびに、“あれ、避けれる?”“え?何でそのキック当たるの?”“いや、そこは追撃じゃん?”となった。
“異世界の普通の兵士基準で”ツッコミの嵐。
ちりも積もれば山となる。
15分が過ぎ、困惑の時間帯に館内トイレにまっしぐら。
顔を洗い、席に戻るもそれ以降のアクションの勢いはまったく変わらず。
恐らく高校生から借りた金で映画を見ようなど思わなければ、そのうちTVで流れるアクション映画でそのことに気付いただろう。
だが、期待度100%で向かった映画でこの事実を突きつけられるとかなり精神的につらいものがある。
はっきり言おう。
正しく天罰を受けたといえる。
(お、俺。なにを楽しみにすればいいのだろうか……)
「う、あ。アカン。これはアカン……」
頭を押さえて周りを見渡す。
こみ上げる動揺がひどく精神を消耗させていた。
それを押さえ込むのは限界に近い。
猛の家までに一度、休みが必要だ。
すると近くに運良く公園が見える。
ベンチに、煌々と灯る自動販売機の明かりも。
(や、やった!ちょ、ちょっと水を!!)
ゆっくりとその自販機に向かい歩いて行く。
自販機の前に立ち、一番安いミネラルウォーターを買おうとポケットの小銭を漁ろうとしたところだった。
「なんじゃ、コラァ!!?」
少し離れた公園の公衆トイレの中から怒声が聞こえてきたのである。