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2-変 日曜 昼の 特番

ちょっとだけ蛇足気味になってるもの。

あまり期待しないで欲しい。



「…では、あの「騎士」と「武者」に関して、ガウチョさんは大掛かりな何らかの政治的意図を持ったパフォーマンスではないかと仰るんですか?」


 ハの字型に置かれたテーブルの真ん中で、MCである年配のアナウンサーがそう尋ねる。

 コメンテーターとして座るお笑い芸人ガウチョ轟は、少しだけ口元に笑みを浮かべながら、その問いに答える。


「いえいえ、パフォーマンスという表現では流石に被害が生じていますし、それに法を犯し逮捕されているとはいえ、怪我人も出ています。今日の新幹線のダイヤにも一部乱れが出ていると、先程ニュースでも流れましたよね?今日は日曜日とはいえ、明日から通常の勤務も始まります。おそらく経済活動にも影響が出るでしょう。実質的には人命の被害が出ていないとはいえ、大規模なテロと然程代わり有りません。テロの本質は恐怖を持って行う政治的・宗教的な宣伝活動です。多少はその可能性も考えるべきではないか、と思うのですが」


 派手派手しいピンクのジャケットに、同色の山高帽のガウチョはそう言って自分の意見を締める。

 それを見て、ガウチョとは逆のサイドに座る男が、反論を始める。


「ガウチョさんが言ったことはある程度筋が通っている。ですが……」

「ある程度とは?」


 自分の言葉を半笑いのガウチョに遮られた発言者は少しむっとした表情で自分の言葉を再度紡ぐ。

 彼はこの特番の出演者の中では王道のコメンテーターである。

 通常の事件事故政治芸能スポーツにと広く浅く見識を求められるが、それに見合うだけの意見を準備できる努力を買われて使われている自信がある。

 当然ガウチョが場を騒がしくすることであるということは充分わかってはいるがそれでも多少腹立たしい。


「今回、こちらのTV局が独占放送した「騎士」「武者」の決闘シーン。あれは、パフォーマンスとして判断しても良い物でしょうか?報道各社が検証を行っていますが、あの「騎士」の槍の一撃は……映像出ますか?…お願いします」


 メインの画面が「光速の騎士」の槍が、「骸骨武者」へと向かっていくシーンに切り替わり、スローモーションで映し出される。

 右下にはスローモーションの倍率が表示されている。

 今まで討論していた人物がワイプでその横に表示された。


「……この速度、ご覧いただいたと思いますが、スローモーションでこの速度です。あの槍がたとえイミテーションであったとしても直撃すれば大けが、もしくは死に至らしめるだけの威力があったであろうことが推測できます。同様に、「武者」の方は、……そう、そのバス停で映像を止めてください!」


 今度は静止画が映し出される。

 「骸骨武者」が「光速の騎士」に蹴り飛ばされた先でめり込んでいたあのバス停。

 先程までの中継映像では規制線が張られ、青ビニールのシートで覆われた先に奇妙なオブジェと化していたそれ。

 映像の中ではそうなる前の破壊されたバス停がひん曲がって、今にも倒れそうな無残な姿をさらしている。


「このバスの時刻表示版。粉々になっていますが、同様の構造の物がこの周辺駅にも存在します。材質は金属製で、地面には万が一の強風や事故に備え、深さ90センチまで支柱が埋められています。それが、見てください。抉り取られるようにしてコンクリートの地面が浮き上がり、土が露出しているんです。トラックでも突っ込んでこない限りあのような壊れ方をする造りではないと、当時の施工関係者からも情報を得ています」


 映像を見ていた全員が頷く。

 それをみた彼は言葉を続ける。


「官房長官の会見や公の機関では、“当該人物”と呼称されていますが、アレは本当に人なのでしょうか?家族や国家、人種、宗教というカテゴリーに所属している我々“人間”と同じ扱いで、論じても良い物なのか。それに伴い、政治的な意図が“当該人物”に存在していたのか否か。まずはそれを考えるべきではないか、と思うのです」


 ここで手を挙げる者がいる。


「巷では“超人”と呼称されています。人の域を超えた“人”故に超人。ですが、双方共に身にまとうものは、どう見ても人が作り出したものであるとの見解です。つまり、知性を持たないわけではない。だからこそ、まずは会話をというプランを考えるべきではないですか?あなたの言う人であるか否かは、それが為されてからの問題だと思いますわ」


 スーツ姿の40半ばの女性がそう意見を述べる。

 元はどこぞの1期限りの市長経験者で、そこそこのルックスと強気な意見がウケて最近はテレビに引っ張りだこになっている人物だ。


「そうはおっしゃいますが、アレと会話ですか?「騎士」はトラック事故から人を救ったことからして、その可能性もありえますが、「武者」は論外ではないですか?なにせ警察に襲い掛かったあげく、銃撃されていますよ?彼が人であれば、銃刀法違反に公務執行妨害、不法侵入に、テロ未遂、いやテロの実行犯で捕まりますが?」


 恐らく画面に華を持たせたかったのだろうか、その彼女の逆サイドには女性タレントが座っており、その意見に真っ向から反論した。

 彼女も知性派として売り出している高学歴のタレントだ。

 元々はグラビアモデルであったが、いまはその活動も下火になり、女優に転向。

 しかしながらそんな道をたどる芸能人は思いつく限り、両手の指では足りないほどだ。

 だからこそ彼女はここで成果を出す必要がある。

 いつまでも事務所は自分を推してくれるわけではない。

 それは先輩諸氏の成れの果てを散々見てきた彼女自身が一番よくわかっていた。




「では、堂本さん。実際にその目で「光速の騎士」そして「骸骨武者」を見たあなたの印象を視聴者に伝えていただきたいのですが」


 喧々諤々の議論がなされた。

 やれ、誰がこの件で一番得をした、損をした。被害にあった企業や個人への保障はどうする。その前に彼らは「仲間」「敵対者」「同族」そのどれでもないのか。誰が責任を取る。取らない?

 結局、推論から築き上げることが出来るのは推論の上積みでしかないのである。

 真実など、本人以外には判りようがない。

 だが、人は何らかの答えを欲する。

 間違っているかもしれない、仮定にしかならないかもしれない。

 それでもなんらかの形の答えがいるのである。


「はい、私個人の印象では……」


 テレビの中の彼らにはきっと真実は遠いままである。


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